離婚にあたって財産分与の話し合いが必要になった。家は売らずにどちらかが住み続ける予定だけれど、「家の価値がいくらなのか」を示す査定書がないと話が進まない。
そんな状況に直面している方は少なくありません。
ところが、不動産会社に「売るつもりはないけど査定だけしてほしい」と伝えると、断られてしまうことがあります。かといって、不動産鑑定士に正式な鑑定を依頼すれば20〜30万円の費用がかかり、離婚前後の家計には大きな負担です。
この記事では、家を売却する予定がない方が、財産分与のために家の価値を把握するにはどうすればよいかを整理します。
一般的な「売却を前提とした査定」とは異なる視点で、現実的に取れる選択肢とその注意点を確認していきましょう。
そもそも財産分与で「家の査定」はなぜ必要なのか
財産分与は、婚姻期間中に夫婦で築いた財産を、離婚の際に分け合う制度です(民法768条)。原則として2分の1ずつ分けるのが基本的な考え方とされています。
家を売却する場合は、売却代金から諸費用やローン残債を差し引いた金額を分ければ済むため、計算はシンプルです。
しかし家を売らない場合は、話が変わります。住み続ける側がもう一方に「代償金」を支払う、あるいは預貯金など他の財産で調整する必要が出てきます。
そして代償金を計算するには、家の現在の価値を金額で示さなければなりません。
つまり、家を売る予定がなくても、「家の価値がいくらか」を把握することは財産分与の前提条件なのです。ここが曖昧なまま協議を進めようとすると、お互いの認識にズレが生じ、話し合いが進まなくなるリスクがあります。
財産分与で使える「家の価値」の基準は何か
家の価値を示す方法には、固定資産税評価額、不動産会社の査定額、不動産鑑定士の鑑定額など複数の基準があります。「どの基準を使うべきか」で迷う方も多いでしょう。
ここで押さえておきたい重要なポイントがあります。
当事者双方が合意すれば、どの基準を使っても問題ありません。
固定資産税評価額でもAI査定の結果でも、お互いが「この金額で納得できる」と合意できれば、それを財産分与の基準にして進めることができます。
ただし、合意ができず調停や審判に進んだ場合、裁判所は原則として「市場価格」を基準にするのが一般的です。ここでいう市場価格とは、仲介によって第三者に売却した場合の想定価格を指します。
つまり、協議段階では柔軟に考えてよいものの、「もし揉めて調停になったらどうなるか」を見据えるなら、市場価格に近い根拠を手元に持っておくほうが安心です。
家を売らない場合に使える査定方法を比較
①自分で調べる方法(コストゼロ)
費用をかけずに家のおおよその価値を把握する方法は、いくつかあります。
固定資産税評価額を確認する
毎年届く固定資産税の納税通知書などで確認できる「固定資産税評価額」を家の価格を示す指標として用います。手元に資料があればすぐに確認できるため、最も手軽な方法です。
ただし、固定資産税評価額は公示地価の約70%を目安に算定されるものであり、実際の売買で成立する市場価格とは異なります。
双方がこの金額で合意すれば使えますが、相手方から「市場価格とは違う」と指摘された場合には根拠として弱い点は理解しておく必要があります。
公示地価・基準地価から推計する
国土交通省が運営する「不動産情報ライブラリ」では、公示地価や近隣の実際の取引事例を確認できます。土地部分のおおよその相場を把握する手がかりにはなりますが、建物の価値は反映されないため、土地と建物を合わせた家全体の評価には不十分です。
AI査定を利用する
近年は、物件情報を入力するだけでAIが推定価格を算出するサービスも増えてきました。
特にマンションの場合は、同一マンション内や近隣の取引事例データを用いることで、高い精度で査定額を確認できる場合があります。
当サイト「イエウリ」でも、個人情報の登録なしで利用できるAI査定を提供しています。
一方、戸建ては1棟ごとの個別性が高く、AI査定だけでは精度が落ちる傾向があります。参考値として捉えるのがよいでしょう。
▼関連記事:不動産のAI査定はどれぐらい正確?
自分で金額を確認する方法のまとめ
上記の方法は、いずれも「査定書」という正式な書面が手に入るわけではありません。しかし、協議のたたき台として使うには十分なケースもあります。
特に、オーバーローンかどうかを確認したいだけであれば、AI査定とローン残高の比較で判断できることが多いです。
②不動産会社に査定を依頼する
不動産会社に依頼すれば、書面の形式で査定書を受け取ることができます。ただし、この方法には「売らないのに依頼していいのか」という現実的な問題があります。
前提:不動産会社の査定が無料なのは営業の一環だから
不動産会社が無料で査定を行うのは、売却の媒介契約を結んでもらうための営業活動の一環です。
査定にも人件費や調査コストがかかっていますが、物件が成約して初めて仲介手数料が得られるビジネスモデルである以上、「売る予定がない案件」に時間を割くことが難しい会社が多いことは理解しておくべきです。
「売るつもりはないけど査定だけほしい」と伝えた場合の現実
大手不動産会社は断るケースが比較的多い傾向があります。
一方で、地場の中小不動産会社や、離婚に伴う不動産の相談経験がある会社であれば、事情を説明すれば対応してくれることがあります。
「今すぐではないが、将来的には売却の可能性もある」と伝えると、応じてもらいやすいのも事実です。
しかし、まったく売る気がないのにそう伝えるのは、不動産会社の業務を不必要に発生させることになるため、当サイトとしては推奨しません。
一括査定サイトの利用は推奨できない
一括査定サイトを使えば複数社から一度に査定を受けられますが、注意が必要です。
一括査定サイトを経由すると、不動産会社はサイト側に1件あたり1〜2万円程度の紹介手数料を支払う仕組みになっています。
売る気のない方が複数社に申し込んだ場合、その費用はすべて不動産会社の持ち出しです。
「価格を知りたいだけでも気軽に申し込める」と表現されることもありますが、これは不動産会社に売主の情報を提供すれば手数料を得られる一括査定サイト側の宣伝文句であり、送客を受ける不動産会 社からすると「売るつもりのない査定」は正直なところ迷惑なものとも言えます。
この仕組みを理解した上で、利用を判断してください。
▼関連記事:マンションなどの不動産を査定だけ依頼しても良い?無料査定の使い方・注意点を解説
「お金を払うから査定書だけ作ってほしい」は通用するか
「無料でやってもらうのが申し訳ないなら、いくらか手数料を払って査定書を作ってもらえばいいのでは」と考える方もいるかもしれません。しかし、これは簡単な話ではありません。
そもそも、不動産の経済的な価値を判定し、その対価として報酬を受け取ることは、法律上、不動産鑑定士にしか認められていない業務です(不動産の鑑定評価に関する法律)。
不動産会社が「査定書の作成料」のような名目で費用を受け取ることは、この規定に抵触するおそれがあります。
「コンサルティング料」や「調査費用」といった名目で対応してくれる会社がまったくないとは言い切れませんが、法的にグレーな領域であり、積極的に引き受ける不動産会社はまずいないでしょう。
また、「大まかな相場価格を出すだけなら簡単でしょう」と思われがちですが、実際の査定作業はそう単純ではありません。周辺の取引事例の収集・分析、物件固有の条件の補正、市場動向の反映など、根拠のある査定書を1通作成するには相応の時間と専門的な判断が必要です。
不動産会社がこれを無料で行っているのは、あくまで売却の媒介契約につながることを前提にしたサービスだから







