「道路に面していない土地に建っている家から、道路に出る」ときなど、自分の土地のために他人の土地を通らざるを得ないことがあります。
こうした場合には「地役権」という権利を設定して、他人の土地を利用する必要があります。
土地によっては地役権が設定されているケースがあるので、トラブルを避けるために地役権について理解しておく必要があります。
この記事では、地役権の基本や種類、登記のポイントなどを詳しく解説します。
地役権とは?
地役権とは、自分の土地の利便性を向上させるために他人の土地を利用する権利です。
民法では以下のように定義されています。
(地役権の内容)
第二百八十条 地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。
たとえば、敷地が道路に接していない場合、公道に出るには周囲の他人の土地を通る必要があります。
あるいは、道路には接しているけど駅に出るには他人の土地を通った方が早いというケースもあるでしょう。
このような場合に、他人の土地を通行するために地役権が設定されます。
地役権は、利便性を向上したい土地と、そのために利用したい土地の所有者との契約によって設定されるものです。
一般的には地役権の設定時に通行料などが発生しますが、当事者の話し合いによっては無償というケースもあります。
なお、地役権と似たような権利に地上権があります。
地上権とは借地権の1つで、建物を建てるために他人の土地を利用する権利です。
地役権では、自分の土地の利便性を上げるための手段として他人の土地を借ります。
一方、地上権は他人の土地の利用に直接の目的があるという違いがある点を覚えておきましょう。
代表的な地役権の種類
地役権には土地を利用する目的に応じていくつか種類があります。
ここでは、代表的な地役権の種類である以下の4つをみていきましょう。
- 通行地役権
- 送電線路敷設地役権
- 引水地役権
- 眺望地役権
それぞれ見ていきましょう。
通行地役権
地役権の中でも多く設定されるのが通行地役権です。
通行地役権とは、他人の土地を通行する際に設定する権利を言います。
先述したように、他人の土地を通らないと公道に出られない、他人の土地を通った方が便利というケースで通行地役権が設定されます。
通行地役権は、利用する土地と自分の土地が隣接していることが前提です。
なお、土地の周囲を他人の土地に囲まれている袋地(無道路地)では、地役権を設定しなくても囲繞地通行権が発生します。
囲繞地通行権とは、他人の土地を通らないと公道に出られない土地で他人の土地を通る権利で、隣地の所有者の合意に関わらず当然に発生します。
しかし、囲繞地通行権では通行できる範囲が最小限など、制限が生じやすい点には注意しましょう。
一方、通行地役権は当事者同士の話し合いで設定される権利です。
話し合いによっては通行の範囲を自由に設定でき、利便性を向上しやすい点が異なります。
送電線路敷設地役権
送電線路敷設地役権とは、高圧電流を流す送電線や鉄塔を設置する際に設定する地役権です。
土地の所有権は土地上空にも及ぶため、土地の上に高圧線を通過させることに対して地役権が必要になるケースがあります。
また、土地の上に高圧線が通ると安全上、高圧線から建物の距離を取るなどの制限が生じます。
そのため、電力会社などの事業者と土地の所有者とで、土地の利用に関する話し合いを行い送電線路敷設地役権が設定されるのです。
引水地役権
引水地役権とは、他人の土地から自分の土地に水を引き入れるための権利です。
たとえば、他人の土地に水路を設けて農業用水を引き入れるといったケースで設定されます。
また、生活インフラが整備されていない場合で、自分の土地だけでは本管に接続できないケースで本管からの導管を設置する際に設定されるケースもあります。
眺望地役権
眺望地役権とは、眺望や陽当たりの確保のために設定する権利です。
眺望地役権では、他人の土地に建つ建物の高さを制限できます。
制限の内容は当事者間の話し合いで決めるので、柔軟に制限を設定可能です。
地役権に登記に関するポイント
ここでは、地役権の登記をみていきましょう。
地役権は登記できる
地役権は登記が可能です。
地役権を登記することで、土地を利用する権利を第三者に主張できるようになります。
仮に、地役権を登記しない場合、利用する土地の所有者が変わると利用できなくなる恐れがあります。
反対に、利用される土地の所有者としても通行料が支払われなくなったなどのリスクもあるでしょう。
その点、地役権を登記すれば所有者が変わっても設定時の内容の主張が可能です。
地役権の登記自体は義務ではありませんが、後々のトラブルを避けるためにも契約後は速やかに登記することをおすすめします。
地役権は土地につく権利のため権利者の情報は登記上に記載されない
地役権は人につく権利ではなく、土地に対して設定される権利です。
登記簿法では地役権が設定されても、権利を有する人の氏名や住所などの情報は記載されません。
そのため、地役権だけ切り離して売却などはできません。
ただし、利用する土地が売買や相続されて所有者が変わっても登記した地役権は自動的に移行されるので、新たな所有者に承諾を得る必要もありません。
地役権は承役地に対して登記する
承役地とは、利用される側の土地です。
それに対して、利用する側の土地は要役地と呼ばれます。
たとえば、Aの土地のためにBの土地を通行する場合、Bが承役地、Aが要 役地です。
地役権を設定する場合、設定されるのは利用される側の土地である承役地になります。
要役地についても地役権があることが分かるように登記する必要がありますが、承役地に登記した際に要役地にも登記されるので別途申請は不要です。
ただし、地役権の設定は承役地、要役地両方の所有者が共同で行う必要があります。
申請時には必要書類が複雑になりやすいので、司法書士など専門家に相談することをおすすめします。
地役権のメリット・デメリット
ここでは、地役権を設定するメリット・デメリットを要役地、承役地側の所有者の視点でそれぞれみていきましょう。
要役地所有者のメリット
要役地(利用する側の土地)の所有者のメリットとしては、以下が挙げられます。
- 土地の利便性を上げられる
- 登記すれば承役地の所有者が変わっても権利を主張できる
地役権を設定することで、他人の土地を通行できる、眺望を確保できるなど自分の土地の利便性が向上します。
利便性が向上することで、資産価値も高まり売却などでも有利に進めやすくなるでしょう。
また、地役権は登記すれば承役地の所有者が変わっても権利の主張が可能です。
所有者が変わるたびに話し合いが必要、権利を認めてもらえないなどのトラブルを防げるので必ず登記するようにしましょう。
要役地所有者のデメリット
要役地所有者のデメリットとしては、以下が挙げられます。
- 使用料が発生する可能性がある
- 話し合いや登記に時間や手間がかかる
地役権では原則通行料などの使用料は発生しませんが、話し合いで使用料を設定することが可能です。
一般的には使用料が設定されるケースが多いでしょう。
そのため、地役権が設定されている間は使用料の負担が続くことになります。
また、地役権は承役地の所有者との話し合いで設定するものです。
所有者同士の関係性によっては話し合いがうまくいかないなど、手間や時間がかかる点にも注意しましょう。
承役地所有者のメリット
承役地(利用される土地)の所有者のメリットとしては、以下が挙げられます。
- 使用料を得られる
- 節税につながる可能性がある
契約内容によっては地役権の設定で使用料などの対価を受け取ることが可能です。
とくに、送電線路敷設地役権のように業者が相手となる地役権であれば使用料を受け取れるケースが多いでしょう。
また、地役権の設定されている土地は制限が生じることから土地の資産価値が下がります。
そのため、固定資産税が減額されるなど節税効果が生じるケースもあります。
承役地所有者のデメリット
承役地所有者のデメリットとしては、以下が挙げられます。
- 土地の利用に制限がかかるケースがある
- 自分の土地を他人が利用することになる
地役権が設定されると内容によっては土地の利用に制限がかかります。
たとえば、通行地役権なら相手が通る部分に建物を建てられない、送電線路敷設地役権なら高圧線下の一定範囲が利用でいないなどです。
自分の土地であっても自分の都合で自由 に利用できないため、希望の活用ができない可能性がある点に注意しましょう。
また、通行地役権を設定すると日常的に第三者が自分の土地を通ることになります。
利用されることがストレスになるだけでなく、利用方法を巡ってトラブルになるケースもあるので、設定時にはしっかり内容を話し合うことが大切です。
地役権に関するよくある質問
最後に、地役権に関するよくある質問をみていきましょう。
通行地役権と囲繞地通行権の違いは?
通行地役権は、承役地と要役地の所有者が話し合って設定する権利です。
一方、囲繞地通行権は袋地(道路に接していない土地)であれば、隣地の所有者の合意なく通行できる権利という点が異なります。
また、囲繞地通行権は通行できる範囲が最小限に設定されますが、通行地役権は話し合いで柔軟に設定することが可能です。
地役権は時効取得できる?
地役権は時効取得が可能です。
継続的かつ目に見える形で一定期間行使することで時効取得できます。
なお、一定期間とは善意無過失なら10年、悪意または有過失なら20年です。
たとえば、隣地の所有者が自分の土地に舗装した通路開通し20年間使用している場合は、時効で地役権を所得している可能性があります。
なお、反対に20年間地役権を行使しない場合は時効により消滅します。
地役権と地上権の違いとは?
地上権とは、他人の土地を使用する権利です。
他人の土地に建物を建てる借地権の一種で、地上権では土地所有者の承諾なしに建物の売却や増改築、貸 し出しなどができる強い権利を有しています。
また、地上権は地役権同様に登記して第三者に主張することも可能です。
地上権は他人の土地で目的が完結するのに対し、地役権は他人の土地を利用することで自分の土地での目的を達成できるという違いがあります。
ただし、地上権は借地人の権利が非常に強いことから、一般的な賃貸借契約では設定されないケースがほとんどです。
▼関連記事:地上権とはどんな権利?借地権や地役権との違いを解説します
まとめ
地役権とは、自分の土地の利便性を向上させるために他人の土地を利用する権利です。
代表的な地役権に他人の土地を通行する権利である通行地役権があります。
地役権は登記することで第三者に主張できるだけでなく、利用する土地の所有者が変わっても権利を継続することが可能です。
しかし、地役権を設定する際には使用料などが発生する、使用方法などを巡ってトラブルになるなどの恐れもあります。
地役権が設定されている土地の売買を検討する際には、不動産会社に相談しながら慎重に進めるようにしましょう。