外国人の配偶者とペアローンを組む計画をしても、「永住権がないと無理」「頭金は相当いる」など、真偽のあいまいな情報があふれて不安ばかりが残るばかりです。
この記事では、ペアローンの仕組みを整理し、永住権の有無で変わる現実的なハードル、審査で見られるポイント、通過率を上げる準備の手順までを解説します。
「外国籍のパートナーとペアローンを組んで住宅を購入したい」と考えている方は、ぜひご覧ください。
住宅ローンにおける「ペアローン」とは
ペアローンとは、同一物件について二人がそれぞれ主債務者として別々に住宅ローンを契約し、互いに連帯保証する仕組みです(事実婚・同性パートナーの取扱いは金融機関によります)。
契約は2本、団体信用生命保険(団信)も原則それぞれ加入し、登記は各人の借入・資金拠出に対応する持分で共有します。なお、「登記持分=資金拠出=各人の借入額」を一致させるのが原則です。
ペアローンの利点と注意点
ペアローンの利点として、次の二点が挙げられます。
- 各人の与信を最大限活用できるため借入余力が伸びやすい
- 各人が要件を満たす限り住宅ローン控除をそれぞれで使える可能性がある
一方で、契約・諸費用・事務手続が2倍になり、どちらかが返済不能になれば相手の保証責任が直ちに立ち上がります。離婚・相続・海外転居といった出口対応も複雑化しやすい点に注意が必要です。
連帯債務・収入合算との違い
ペアローンによく似た方式に「連帯債務」「収入合算(連帯保証)」があります。それぞれの違いを説明していきましょう。
連帯債務
連帯債務は、1本のローンを二人で共同の主債務者として負う方式です。契約が1本にまとまるため管理は簡素化され、商品によっては夫婦連生団信(どちらか一方の死亡で残債全額弁済)を選べる場合があります。
税制は各人の持分と年末残高の按分に応じて控除が可能です。ただし、取扱商品が限定されがちで設計の自由度はペアローンより狭いことがあります。
収入合算(連帯保証)
収入合算は、主債務者を1人に定め、相手は連帯保証人として収入のみを合算する方式です。通しやすく簡便ですが、団信は通常主債務者のみが対象です。配偶者に持分を付ける場合は、資金拠出との整合を厳密に保つ必要があります。
方式選択の目安
与信最大化と双方の控除を狙うならペアローン、保険一体設計と管理の容易さを重視するなら連帯債務、通過率や簡便さを優先するなら収入合算が選びやすい、という整理が実務的です。いずれも「持分=資金拠出=借入」の一致が鍵となります。
外国人配偶者が関わるときの審査の着眼点とは
日本籍同士と比べて審査項目が増えるわけではありませんが、
- 在留・収入・居住の継続性
- 本人確認(KYC)の確実性
- 提出書類の言語整備
という3点で確認の密度が上がります。ここを事前に可視化できれば、通過率とスピードは大きく改善します。
在留資格と在留期間
在留資格の違いは銀行の取扱いに直結します。永住者や「日本人の配偶者等」は可否判断の予見性が高く、就労系では在留の残存期間や勤務実績について詳しく説明が求められます。実務上は在留カードの残存1年以上を一つの目安とし、更新予定があるなら在籍証明や更新スケジュールで継続性を裏付けます。
ただし、在留カード「残存1年以上」は目安であり銀行差が大きいので注意が必要です。一般的にネット銀行は明確条件のことが多く、地銀・信金は裁量があります。
居住実態の証明と本人確認
住民票の継続、賃貸契約の名義、公共料金の支払人、世帯構成の記載などで国内定着を示します。在留カード(表裏)・住民票(本籍省略)・マイナンバー通知書(番号は伏せ)を同時提出できる体制を整えると、本人確認に関するやりとりが大幅に減ります。
雇用と収入の安定性
評価は一般に、正社員>契約・派遣>自営の順で安定します。正社員は勤続1〜2年で評価が落ち着き、転職直後でも同業・同職種の連続性が説明できれば不利は和らぎます。契約・派遣は更新実績と勤務先規模が鍵となります。
自営業の場合は過去3期の確定申告と納税証明で継続性を強調できるでしょう。ただし3期はひとつの目安であり、2期で可とする金融機関もあります。
返済負担率(DTI)は家計ベースで20〜25%であれば安全域と見なされやすく、商品上限の35〜40%に寄せない範囲が望ましいでしょう。また、ボーナス返済比率は抑制するのが無難です。
収入の種類と事実証明
基本給を中心とすることで評価が安定します。歩合や外貨・海外送金を含む場合は、過去12〜24か月の入金一覧、換算レート、契約書・発注書など継続根拠を添付します。英語原本しかない証明書は銀行所定様式への転記と適切な翻訳で整え、訳語の揺れを残さないことが大切です。
日本での信用・居住履歴
国籍問わず、クレジットカード、携帯端末割賦、家賃の支払いといった信用情報に問題がないことは、審査通過を目指す上での大前提です。新規来日者は少額枠のカードで公共料金・サブスクの自動引落を3〜6か月積み上げるのが有効です。
給与振込や税・社会保険料の国内支払い、定期預金の保有も安定の根拠になります。転居が多い場合は、更新・手狭・通勤など合 理的な理由を短く添え、疑問を先回りして解消します。
自己資金・頭金と資金の出所
就労系在留では頭金20〜30%を求められる場面があり、諸費用を自己資金で賄えれば好印象です。国内貯蓄は残高証明と入出金の推移で説明し、海外資金はSWIFT明細、送金人との関係、原資(給与・売却・贈与)の説明を組み合わせます。親族贈与は贈与契約書と税務の扱いを明確にします。
反社・マネロン対策の観点から「いつ・誰から・何のために・いくら」を1枚にまとめると滞留が減ります。
持分と拠出・借入の整合
登記持分は資金拠出割合が原則です。ペアローンでは各人の借入額・頭金・持分を一表で突き合わせ、乖離による贈与認定リスクを未然に防ぎます。
団信の加入と医療告知
ペアローンは各人が団信に加入するのが基本です。
既往症や治療中の場合はワイド団信や部位不担保など引受条件と金利上乗せの有無を事前に確認します。告知書・診断書は日本語様式が基本で、英語診断書しかない場合は銀行が認める翻訳を付し、医学用語の訳語を統一して齟齬を防ぎます。
配偶者が一時帰国中ならWeb面談・電子署名・原本郵送の要否を早めに確認し、帰国・帰任時の健診結果を告知の裏付けに使います。
永住権の有無で何が変わる?
住宅ローン審査の骨格は「返済能力×信用×物件」ですが、在留の安定性に直結する永住権の有無は、同じ年収・同じ物件でも取扱金融機関の幅、求められる条件、審査の予見性に影響します。
結論として、永住権ありは商品選択・期間・金額・手間で有利、一方永住権なしは在留・ 雇用の継続性と頭金でカバーする工夫が要ります。
永住権ありの場合の一般的傾向
永住権ありの場合の一般的傾向を具体的に挙げていきましょう。
対象商品の幅が広がる
都市銀・地銀・ネット銀行まで対象が広がり、日本人と近い運用になりやすく、ペアローン/連帯債務/収入合算の方式選択の自由度も高まります。
借入期間・限度額で有利
在留更新リスクが低いため、最長35年の期間を含め通しやすく、年収倍率(借入可能額)の伸びも安定します。
頭金・在留残存要件の緩和
永住権なしで求められがちな「頭金多め」「在留残存1年以上」などの条件が緩和または不要となるケースが多い傾向です。
審査プロセスがスムーズ
本人確認や資金源確認は通常どおり必要ですが、更新見込みの補足書類が省力化しやすく、実務の手間が減ります。
税務・持分設計の自由度
夫婦それぞれで控除を狙う設計が現実的になりやすく、持分=資金拠出=借入比率の整合も取りやすくなります。
以上のことから、永住権ありは、「商品選択・期間・金額・手間」の4点で有利といえます。
永住権なしの場合に見られる追加条件
次に永住権なしの場合に見られる追加条件について、項目別にみていきましょう。
在留残存期間の明示
事前審査時点で1年以上などの目安を設ける銀行がありますので、更新予定なら在籍証明・就労継続見込み・更新スケジュールで裏付けます。
頭金比率の引き上げ
物件価格の20〜30%の頭金を求められるケースがあり、諸費用は自己資金で賄うと評価が安定します。
勤続・ 雇用の強化要件
転職直後や契約社員・自営は慎重に見られがちです。同業・同職種の連続性や通算就業年数で補強し、自営は確定申告3期が実務上の目安です。
主債務者の指定
一部に「主債務者は日本国籍または永住権」という内規があり、ペアローン希望でも収入合算(主債務者が日本籍側)を推奨されることがあります。
金融機関の選び方
ネット銀行で明確な内規により断られても、地銀・信金は地域・勤務先・社内評価で柔軟な場合があります。相性の良い金融機関を見つけるスクリーニングが成否を分けます。
書類の追加・翻訳
在留・雇用・収入・資金源の英語原本に対し、所定書式への転記や翻訳を求められやすく、団信の医学用語の訳語統一にも注意が必要です。
出口(帰国・離婚)説明
居住要件、共有解消の方法、持分買取の手順など「もしも」の計画を覚書・公正証書で合意しておくと評価にプラスです。
以上のことから、永住権なしは、総じて「頭金多め」「在留・雇用継続の証憑厚め」「方式の柔軟化」がキーワードになります。
▼関連記事:住宅ローンの「ペアローン」と「収入合算」の違いと選び方を解説します
審査通過のポイント
審査は、年収や物件の良し悪しだけでは決まりません。外国人配偶者が関わる場合は、継続性・整合性・可視化の3軸が肝心です。
今後も日本で生活・就労を継続できること、設計に矛盾がないこと、それを一次資料と数字で明確に示すこと——この3点を最初の提出で出し切る発想が近道です。
継続性を示す
在留カードの残存期間と更新見込みを中心に、会社の在籍証明や更新予定日を明記した1枚資料を添えます。
雇用は、正社員なら勤続1〜2年を目安に安定、転職直後でも同業・同職種の連続性が説明できれば不利と見なされにくいでしょう。契約・派遣は更新実績や勤務先規模、自営は確定申告3期と納税証明に、主要取引の契約・請求の流れを添えると効果的です。
住民票の継続、給与振込・社会保険料・公共料金の国内実績は時系列で提示します。
整合性を崩さない
登記持分、実際の資金拠出、各人の借入額は一致させます。ズレた分は贈与認定される可能性があり、ローン控除額や将来の清算時にも影響します。
たとえば、次のような内容を記載した整合表を添付すると伝わりやすくなります。
- Aさん……借入2,800万円・頭金200万円・持分56%
- Bさん……借入2,200万円・頭金150万円・持分44%
指標は安全域に
返済負担率(DTI)は年収の20〜25%に収めることを目標、上限35〜40%に寄せない設計が望ましいでしょう。ただし、DTI「20〜25%」は安定して返済を続けられる目安の割合です。借入上限額は金融機関により35〜40%で設定していることもあります。
不動産の評価額に対する借入金額(LTV)は永住権なし・就労系で80%以下だと安定し、諸費用は自己資金で賄う前提が無難です。ボーナス返済は将来変動するリスクがあると判断されることもあるため、多くても20%程度に抑えるのがよいでしょう。
事前審査〜本審査は一般に1〜3週間、金消契約〜実行は1〜2週間が目安です。翻訳や追加証憑の手配に時間がかかることもあるため、売買契約の融資特約期日は余裕をもって設定しましょう。
万一の否決時は、在留残存・勤続・DTI・資金源のどこで詰まったかを1枚のメモに整理し、頭金+期間調整や方式の切替(ペア→収入合算等)を考慮して再申込へ進むのが近道です。
銀行選びは順番と相性
永住権がある場合は、都市銀行やネット銀行など、選べる金融機関の幅が広がります。一方、永住権がない場合は、個別事情を考慮して柔軟に審査してくれる地方銀行や信用金庫を選ぶのがおすすめです。
同時申込は信用情報の照会履歴が重なるため最大2行にとどめ、①相性の良い地銀・信金→②都市・ネットの順が効率的です。否決時は在留・勤続・DTI・資金源など審査にマイナスになったと考えられる要素をリストアップし、再挑戦する前の参考にしましょう。
▼関連記事:住宅ローンの仮審査は複数の金融機関に申し込み可能!複数審査時の注意点も解説
まとめ
ペアローンは、二人それぞれの与信を活かして予算を広げつつ、設計次第で税制面のメリットも得られる選択肢です。
ただし成功のカギは、在留・雇用・居住の「継続性」を一次資料で示すこと、登記の「持分=資金拠出=借入」を崩さないこと、そして数字と言葉で計画を「可視化」すること。この三点が整っていれば、外国人配偶者が関わるケースでも審査はぐっと前に進みます。
永住権があれば、使える商品や期間・金額の自由度が広がり、審査のブレは小さくなります。
一方、PRがない場合でも、在留更新の見込みや勤続の連続性をきちんと説明し、頭金や期間の設計で返済比率を安全域に収めれば、現実的な着地は十分に望めます。
大切なのは、方式(ペア/連帯債務/収入合算)に固執せず、状況に応じて柔軟に切り替える姿勢です。