住宅ローンを契約する際に、ほとんどの金融機関で加入が義務付けられている団信(団体信用生命保険)ですが、金融機関によってはさまざまな特約をつけることができます。
また、団信の特約にはいくつかの種類があり、どの特約を選べばよいか分からないという方もいらっしゃるでしょう。
もちろん、特約はできるだけ保障を手厚くしたいものですが、特約をつけるには費用がかかります。
本記事では、住宅ローンの団信でつけられる特約の種類とそれぞれの保障内容やメリット・デメリットをご紹介します。
団信の特約で追加できる保障の種類
団信の特約にはさまざまな種類がありますが、代表的なものとして以下の5つが挙げられます。
- がん保障特約
- 三大疾病特約
- 八大疾病特約
- 十一疾病特約
- 全疾病特約
特約をつけない一般的な団信の場合、「契約者の死亡」や「高度障害状態」になった場合、住宅ローンの残債の一括返済分の保険金を受け取ることができます。
特約をつけると、上記、死亡時の保障に加えて、がんになったときや三大疾病になったときにも保障を受けることができるのです。
以下で、それぞれの内容やメリット・デメリットを解説していきます。
がん保障特約
がん保障特約は、契約者が所定のがんと診断された場合に、住宅ローン残高の全額または一部が一括返済され、その後の支払いが免除される特約です。
厚生労働省のデータによると、令和6年の日本人の死因第一位はがんで、全体の23.9%を占めます1。
なお、がんは昭和56年から日本人の死因第一位です。
また、国立がん研究センターのデータによると日本人が生涯でがんになる確率は男女ともに2人に1人を超えています。
このように、多くの日本人がかかる可能性が高いといえるがんですが、がん特約をつけることで万が一、将来がんになってしまったときの備えとすることができるでしょう。
保障の内容
団信のがん保障特約は、一般の団信の内容に加え、住宅ローンの契約者が医師に所定のがん(悪性新生物)と診断された場合に、住宅ローン残高の全額または一部が一括返済される特約です。
ただし、上皮内がんや皮膚がんなど一部のがんは保障対象外となるケースが一般的です。
また、多くの金融機関で契約から90日間の免責期間が設けられています。
免責期間が設定されていると、契約後、設定した期間内に所定の状態になっても保障を受けることができません 。
がん特約をつける場合、住宅ローン金利に+0.1%~0.2%など上乗せされることが多いです。
保障の内容や免責期間の有無、特約をつけることによる金利上乗せの幅などは金融機関によって異なるため事前に確認しておきましょう。
特約で追加するメリット
がん団信を特約で追加するメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
- 死亡率第1位のがんのリスクに備えられる
- がんから回復しても保障を受けられる
- 金利0.1~0.2%の上乗せで保障を受けられる
がんは昭和56年から現在まで、日本人の死因第1位をキープし続けています。
がん団信に加入しておくことで、がんと診断された後の闘病期間中における本人や家族の負担を和らげることができるでしょう。
また、がんと診断された後に、完治した場合でも保険を受けることが可能です。
国立がん研究所のデータによると、がんと診断された人が生存している確率を示す純生存率における10年生存率は54.0%となっています。
その他、がん団信は一般団信に加えて+0.1%~0.2%程度の上乗せで保障を受けられる点も大きなポイントだといえます。
例えば、金利1%・借入期間35年で3,000万円の住宅ローンを借りる場合、金利が0.1%上がったときの毎月負担額は2,000円~3,000円程度です。
毎月かかる負担として大きいと感じるかどうかは人それぞれですが、将来の大きなリスクに備える保障の負担としては魅力に感じる方も多いのではないでしょうか。
特約で追加するデメリット
一方、がん特約には以下のようなデメリットがあります。
- 金利負担が重く感じる方もいる
- がん以外の病気やケガは対象外
- 途中解約できない
まず、がん団信に加入するのに金利に+0.1%~0.2%上乗せとなる場合、この金利負担分が思いと感じる方もいらっしゃるでしょう。
また、当然ではありますが、がん団信で保障を増やしたものの、他の病気やけがになってしまった場合は、保障の対象外となっていまいます。
その他、がん団信特約をつけて団信に加入したものの、後で不要になったからといって、がん団信だけ外すといったことはできません。
ただし、住宅ローンの借り換えをする場合は、再度、どのような内容の団信に加入するかを選ぶことができます。
▼関連記事:住宅ローンの借り換え時は団信も再審査・再加入が必要!借り換えのデメリットや注意点を事前確認しよう
三大疾病特約
三大疾病特約とは、一般の団信の内容に加えて、がん、急性心筋梗塞、脳卒中を対象として、所定の状態に該当した場合に住宅ローンの全額または一部が免除される特約です。
三大疾病は、日本の死因率順位の上位を占めています2。
1位 | がん(悪性新生物<腫瘍>) | 23.9% |
2位 | 心疾患(高血圧性を除く) | 14.1% |
3位 | 老衰 | 12.9% |
4位 | 脳血管疾患 | 6.4% |
上の表の三大疾病の死因率を合計すると44.8%で、半数近くになることがわかります。
つまり、団信に三大疾病特約を追加することにより、日本の死因率の半数近いリスクをカバーすることができると考えられます。
家族に三大疾病にかかった人がいる、三大疾病に繋がりそうな生活習慣病の既往歴があるなど、かかる可能性が高い場合には特に三大疾病特約をつけておくと安心です。
保障の内容
団信の三大疾病特約は、一般の団信+がん団信に加え「急性心筋梗塞、脳卒中と診断された後に60日以上の就業不能や所定の状態になった場合」に、住宅ローン残高 の全額または一部が一括返済される特約です。
ただし、がん団信と同じく、上皮内がんや皮膚がんなど一部のがんは保障対象外となるケースが一般的です。
こちらも、多くの金融機関で契約から90日間の免責期間が設けられています。
がん保障特約よりも保障できる範囲が広がるため、住宅ローン金利に+0.2%~0.3%など少し割増になるのが一般的です。
保障の内容や免責期間の有無、特約をつけることによる金利上乗せの幅などは金融機関によって異なります。
特約で追加するメリット
三大疾病特約を追加するメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
- 主要な病気のリスクに備えられる
- 経済的な安心を得られる
- 比較的明確な条件で保障が受けられる
先述のとおり、日本の死因の半数弱を占めているのが三大疾病(がん、急性心筋梗塞、脳卒中)です。
そして、三大疾病は治療費が高額になる可能性があります。
長期療養や就業不能状態のリスクに備えて三大疾病特約をつけておくと、いざというときに住宅ローンの負担が軽減され、治療に専念しやすくなります。
また、死亡や高度障害になった場合だけでなく、就業不能状態が続いた場合にも保障が適用されるため、契約者本人や家族が経済的な安心を得られます。
急性心筋梗塞と脳卒中は、がんのように「診断されたらすぐ保障される」わけではありませんが、就業不能や所定の状態が60日以上続くと住宅ローンが免除になるということで、比較的わかりやすく明確な条件と言えます。
特約で追加するデメリット
三大疾病特約を 追加するデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 住宅ローンの金利上乗せ
- 軽度の場合は保障対象外になる(がん以外)
- 途中解約ができない
三大疾病特約は、がん特約よりも保障の範囲が広がる分、住宅ローンの金利も少し割増になることが多いです。
一般的に、+0.2~0.3%前後の金利上乗せになります。
また、急性心筋梗塞や脳卒中は、診断後60日未満の就業不能など軽度の場合には保障適用外となります。
がん保障特約と同じく、不要になったからといって途中で解約することはできません。
八大疾病特約
八大疾病特約とは、一般の団信と三大疾病特約の内容に加え、高血圧症、糖尿病、慢性腎不全、肝硬変、慢性膵炎の重度慢性疾患の保障をプラスした特約です。
金融機関によっては、生活習慣病団信という名称の場合もあります。
三大疾病だけでなく、重度の生活習慣病もカバーできるため、安心度が上がります。
保障の内容
八大疾病特約は、一般の団信と三大疾病特約の内容に加え、「高血圧症、糖尿病、慢性腎不全、肝硬変、慢性膵炎の重度慢性疾患で所定の状態になった場合」に、住宅ローンが免除される特約です。
「就業不能状態が13か月以上継続した場合」や、「入院が180日以上続いた場合」に住宅ローンが免除されるのが一般的です。
その他の保障例としては、以下のようなものがあります。
- 就業不能が1か月以上続いたら住宅ローンの月々返済相当額を12ヶ月まで保障される
- 配偶者ががんと診断されたら100万円支払われる
- 病気で5日以上入院したら一時金10万円支払われる
- がんと診断されて1年以内に先進医療を受けたら2,000万円支払われる
三大疾病特約よりも保障できる範囲が広がるため、住宅ローン金利に+0.2%~0.4%などさらに割増になるのが一般的です。
保障の内容や免責期間の有無、特約をつけることによる金利上乗せの幅などは金融機関によって異なるため、事前に確認しましょう。
特約で追加するメリット
八大疾病特約を追加するメリットとしては、以下のようなものがあります。
- 三大疾病に加えて、重度の生活習慣病でも 保障が受けられる
- 幅広い保障で万が一に備えて経済的に安心できる
- 1か月以上の就業不能で月々の住宅ローン返済相当額が保障される
- 一時金や見舞金など、保障が充実している
八大疾病に含まれる高血圧症、糖尿病、慢性腎不全、肝硬変、慢性膵炎は、食事、運動、休養、飲酒、喫煙などの「生活習慣」が原因の病気です。
三大疾病だけでは保障が物足りないという方は、八大疾病でより広い範囲のリスクに備えておくと安心できるのではないでしょうか。
生活習慣病の人口は年々増え続けており、運動不足や栄養の偏り、飲酒・喫煙など、不安要素を抱えている方も少なくありません。
「13ヶ月以上の就業不能」「180日以上の入院」だけでなく、1ヶ月以上の就業不能で月々の住宅ローン返済相当額が保障されるのも魅力かと思います。
金利上乗せが割増な分、一時金や見舞金なども充実していることが多いです。
特約で追加するデメリット
八大疾病特約を追加するデメリットは、以下のようなものが挙げられます。
- 住宅ローンの金利上乗せ
- 長期の就業不能が条件となるケースが多い
一般的に、住宅ローンの金利が+0.2~0.4%前後上乗せされることが多いです。
がん保障特約や三大疾病と比べると、金利上乗せが高いと感じる方もいるかもしれませんが、将来の安心を備えられると考えると一概に高いとは言えないでしょう。
また、三大疾病以外の疾病は、13ヶ月以上の就業不能など、1年以上の長期に渡り働けない状態になって住宅ローンが免除されるケースが一般的です。
重度 の生活習慣病でも、働けている場合には保障対象外となります。
ただし、1ヶ月以上の就業不能で住宅ローン返済相当額が支払われる、一時金や見舞金が支払われる、などの保障内容が付いているものもあるため、追加金利と保障内容のバランスを見て検討するとよいでしょう。
十一疾病特約
十一疾病特約は、一般の団信と八大疾病特約の内容に加え、「脳血管疾患、心疾患、大動脈瘤解離、上皮新生物、皮膚がん(悪性黒色腫以外)」などを追加したものです。
リウマチ、肝炎、結核などが入るケースもあり、金融機関によって保障される疾病や保障内容は異なります。
生活習慣病に対する保障が手厚いのが魅力です。
八大疾病特約では物足りない、十一疾病特約に含まれる疾病への不安も大きいという方は加入を検討するとよいでしょう。
保障の内容
十一疾病特約は、八大疾病に加えて、脳血管疾患、心疾患、大動脈瘤解離、上皮新生物、皮膚がん(悪性黒色腫以外)、リウマチ、肝炎、結核などで所定の状態になった場合に保障される特約です。
疾病の種類は金融機関によって異なります。
八大疾病よりもさらに保障の範囲が広がり、より安心して将来に備えられる内容となっています。
十一疾病特約は、がん保障特約、三大疾病特約、八大疾病特約などと比べると、取り扱っている金融機関が少ない傾向にあります。
住宅ローンが免除になる条件は、基本的に八大疾病と同じですが、八大疾病以外の病気の場合は、就業不能状態が21ヶ月必要なものもあります。
その他の保障例としては、八大疾病と同じく以下のような内容が挙げられます。
- 就業不能が1か月以上続いたら住宅ローンの月々返済相当額を12ヶ月まで保障される
- 配偶者ががんと診断されたら100万円支払われる
- 病気で5日以上入院したら一時金10万円支払われる
- がんと診断されて1年以内に先進医療を受けたら2,000万円支払われる
金利が割増になる分保障内容が充実しています。
金利の上乗せは0.2~0.4%ほどで、免責期間が90日設けられています。
特約で追加するメリット
十一大疾病特約を追加するメリットは、以下のとおりです。
- 八大疾病に加えて、幅広いリスクに備えた保障がつけられる
- 万が一に備えることで経済的に安心できる
- 1か月以上の就業不能で月々の住宅ローン返済相当額が保障される
- 一時金や見舞金など、保障が充実している
八大疾病特約よりも幅広いリスクに備えられるため、安心感が増します。
十一疾病といっても決して多くはなく、脳血管疾患、心疾患、大動脈瘤解離、上皮新生物、皮膚がん(悪性黒色腫以外)、リウマチ、肝炎、結核などは誰もがかかる可能性があり、なおかつ就業不能になるリスクの高い病気です。
八大疾病特約だけではリスクをカバーしきれないと感じる方にとって、経済的、精神的に安心できる内容になっています。
八大疾病と同じく、1ヶ月以上の就業不能で月々の住宅ローン返済相当額が支払われる点や、一時金や見舞金などが充実している点も魅力です。
特約で追加するデメリット
十一大疾病を特約で追加するデメリットは以下の通りです。
- 住宅ローンの金利上乗せ
- 長期の就業不能状態でないと住宅ローン免除にならない
一般的に、住宅ローンの金利に0.2~0.4%ほどの上乗せです。
八大疾病よりも保障内容が充実している分、金利も割増されます。
また、八大疾病特約と同じく、三大疾病以外の疾病は、13ヶ 月以上の就業不能など、1年以上の長期に渡り働けない状態になって住宅ローンが免除されるケースが一般的です。
治療中であっても働けている場合には保障対象外となるため、注意が必要です。
ただし、1ヶ月以上の就業不能で住宅ローン返済相当額が支払われる、一時金や見舞金が支払われる、などの保障内容が付いているものもあります。
全疾病特約
全疾病特約は、疾病に限らず、あらゆる病気やけがで就業不能状態が続いた場合に、住宅ローンが免除される特約です。
疾病を限定しない分、一般的に金利の上乗せは一番高くなりがちですが、その分保障も充実しています。
また、病気だけでなくけがも保障されるため、さまざまな場面で役立ちます。
保障の内容
全疾病特約の保障の内容は、あらゆる病気やけがで180日以上の入院または就業不能状態が12ヶ月継続した場合に、住宅ローンが免除されます。
金融機関によっては、八大疾病以外の病気やけがの場合は、就業不能状態が21ヶ月必要なものもあります。
その他の保障例としては、八大疾病特約や十一疾病特約と同じく、以下のような内容が挙げられます。
- 就業不能が1か月以上続いたら住宅ローンの月々返済相当額を12ヶ月まで保障される
- 配偶者ががんと診断されたら100万円支払われる
- 病気やけがで5日以上入院したら一時金10万円支払われる
- がんと診断されて1年以内に先進医療を受けたら2,000万円支払われる
金利の上乗せは+0.2~0.5%前後とさらに割増になります。
ほかの特約と同じく、免責期間が90日設けられています。
特約で追加するメリット
全疾病特約を追加するメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- あらゆる病気やけがが保障されるため、特約の中でも一番安心感が高い
- 万が一に備えることで経済的に安心できる
- 1か月以上の就業不能で月々の住宅ローン返済相当額が保障される
- 一時金や見 舞金など、保障が充実している
あらゆる病気やけがで重度の状態になった場合に保障されるため、どの特約よりも安心できる保障内容となっています。
病気やけがで就業不能状態が長く続いた時に、住宅ローンが免除されます。
十一代疾病以外にも就業不能になるリスクが高い病気はたくさん存在しますので、それだけでは物足りないと感じる場合にすべてを網羅できる特約になります。
八大疾病特約や十一大疾病特約と同じく、1ヶ月以上の就業不能で月々の住宅ローン返済相当額が支払われる点や、一時金や見舞金などが充実している点も魅力です。
特約で追加するデメリット
全疾病特約を追加するデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 住宅ローンの金利上乗せ
- 保障内容が限定される病気やけがもある
- 健康状態によっては加入できないこともある
保障範囲が広い分、住宅ローンの金利上乗せが一番高く、0.2~0.5%ほどです。
全疾病特約といっても、保障対象となる条件が限定的な場合があります。
また、既往歴で心配な点がある場合など、告知内容によっては加入できない場合があります。
その場合は、十一代疾病や八大疾病を検討するとよいでしょう。
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まとめ
住宅ローンの団信には特約をつけることができ、特約の対象となる病気で所定の状態になると住宅ローンの残債が免除になることがあります。
特約選びは、将来の安心と家計のバランスを考える重要な機会です。代表的な特約の種類としてはがん保障特約、三大疾病特約、八大疾病特約、十一大疾病特約、全疾病特約があり、保障できる範囲が広がると、住宅ローンの金利が上乗せされることが多いです。
しかし、実際にその病気にかかるリスクを考えると割安であることもあります。自分と家族の既往歴やライフプランなど、さまざまな要素を分析して最適な特約を選ぶことが大切です。