住宅ローンの審査を申し込んだあとに、様々な事情でやむを得ず転職した、あるいはこれから転職を予定しているという人もいるはずです。
そうした状況でまず気になるのは「住宅ローンの審査中に転職しても問題ないの?」という点ではないでしょうか。
そこで当記事では、住宅ローン審査を申し込んだ後に、転職をするとどのような影響があるのか、審査に通るための具体的な対策、申し込む際のベストなタイミングなどを詳しく解説します。
転職直後は住宅ローンの審査に影響する?
結論からお伝えすると、転職直後は住宅ローンの審査に大きな影響を与える可能性があります。
なぜなら、住宅ローンの審査で最も重視されるのは「これからも安定して収入を得ることはできるか」だからです。
住宅ローンの審査を通過して、マイホームを購入したら終わりではありません。それから20〜35年と長期間にわたって返済を続けなければいけません。
住宅ローンを借りた本人の収入が減ったり、収入源を失ってしまうと返済を続けられなくなります。そのようなリスクを避けるために、金融機関は慎重に審査をするのです。
金融機関は勤続年数を重視する理由
申込者の収入を図るうえで、ひとつの目安にしているのが勤続年数です。
金融機関の多くでは「最低1年以上の勤務が必要」「正社員として3年以上が望ましい」といった独自のルールを設けているほど、勤続年数の長さを重要視しています。
同じ会社で長く働いている人は「この先も辞める可能性が低い=返済能力が高い」と判断される傾向にあります。
一方で、転職したばかりの人は、次のような理由で収入が減るのではと判断されがちです。
- 成果報酬や歩合制などで収入が上下する
- ボーナスが減ったり支給されない
- 昇給の有無や時期がはっきりしていない
- 雇用形態が変わって収入が減った
- 転職先が合わず短期間で辞めるかもしれない
転職直後は収入が安定しづらいという理由から、金融機関も審査に慎重になります。
転職後は返済負担率も高くなる
転職が住宅ローンの審査に不利になる理由として「返済負担率が高くなるから」も挙げられます。
転職直後は給与形態が変わったり、ボーナスが支給されないなどの理由で前職よりも収入が減少するケースは少なくありません。
収入は減っているのに転職前と同じ借入額で住宅ローンを申し込むと、結果的に返済負担率が高くなってしまいます。
返済負担率とは、住宅ローンの年間返済額が年収に対してどれくらいの割合を占めているかを示す数値です。
返済負担率は以下の計算式で求められます。
例えば、年収500万円で年間返済額が100万円なら、返済負担率は20%。つまり、年収500万円のうち20%がローンの返済にあてられていることを意味しています。
多くの金融機関では、返済負担率の上限を30〜35%以内に設定しています。この割合が低いほど、家計に余裕があり返済リスクも低いと判断されるため、審査での評価は高くなります。
つまり、住宅ローンの審査を通過するためには、無理のない範囲で借入額を設定し、返済負担率を低めに抑えることが重要です。
しかし、転職直後は収入が減少する傾向があるため、同じ借入額でも返済負担率が高くなりやすくなります。結果として、金融機関から返済に無理があると判断され、審査で不利になる可能性が高まるのです。
転職後でも住宅ローン審査に通りやすい条件
転職直後は住宅ローンの審査で少なからず不利になるのは事実です。だからといって、すべてのケースで審査が厳しくなるわけではありません。
転職後でも条件次第では、金融機関に「安定した収入がある」「返済能力に問題がない」と判断されて審査に通過できることがあります。
以下では、転職直後でも住宅ローンの審査に通りやすい条件をいくつか紹介します。
同業種・同職種に転職する
転職したばかりだったとしても、転職前と同じ業種・職種であれば、金融機関から高い評価を得られる可能性があります。
例えば、前職と同じ営業職や技術職、専門職などに転職した場合、仕事内容や求められるスキルに大きな変化はありません。
新しい職場でも、これまで培ってきた経験や実績などを活かして働けるため「すぐに収入も安定するだろう」と金融機関に判断してもらえるのです。
逆に、前職と異なる業種・職種に転職した場合、安定した収入が得られるかが不透明だとみなされる恐れがあります。
新しい業種や職種では、ゼロの状態から技術や知識を身に付けなければいけません。もしかすると仕事が合わず、すぐにまた転職する可能性も考えられます。
こういった不確定な要素が多いほど、審査のハードルは高くなりがちです。
転職後に住宅ローンを申し込む予定がある場合は、同業種・同職種を選ぶことで審査を有利に進めることができるでしょう。
転職先が上場企業や大手企業
転職したばかりで勤続年数が短くても、転職先が上場企業や大手企業であれば、住宅ローンを組める可能性は十分にあ ります。
なぜなら、大手企業は収益が安定しており、倒産のリスクが低いと金融機関に評価されやすいからです。
そうした企業に勤めている場合「この先も安定して給与が支払われる可能性が高い」と見なされるため、審査でも有利に働きます。
ただし、申込者本人の収入や抱えている負債、返済負担率に問題があれば、大手企業に勤務していたとしても審査に落とされるでしょう。
とはいえ、転職先が広く知られている大企業であれば、転職直後であっても住宅ローン審査を通過できるチャンスは十分にあります。
転職によって年収が上がっている
住宅ローンの審査では、申込者の返済能力が主な焦点になります。つまり、転職前よりも年収が上がっていれば、転職直後であっても審査に通過できる可能性はあるのです。
仮に、転職前の年収が400万円で、転職後は500万円に増えたとしましょう。年収は転職前よりも上がっているため、返済負担率は下がることになります。
金融機関に「家計に余裕がある」と判断されれば、審査でも有利に働くでしょう。また、年収が高くなれば借入可能額そのものも増やせるので、物件選びの幅が広がるといったメリットもあります。
安定した収入があることを証明できる
転職後に収入が上がったのであれば、勤続年数が短くても住宅ローンを借りられる可能性は十分にあります。
ただし、金融機関から信用を得るには、安定した収入があることを証明できなければいけません。そのための方法として、次のような書類や資料を用意する必要があります。
- 内定通知書
- 雇用契約書
- 給与明細
- 銀行口座の入金記録
これらを提出することで、転職後の雇用形態や収入を証明することができます。安定した収入があることを金融機関に示すことができれば、住宅ローンの審査でもプラスの評価を得られるでしょう。
勤続年数を問わないローンを選ぶ
転職後に収入が上がったり、転職先が大手企業という人はほんの少数のはずです。大抵の場合は転職すると収入が減ってしまうのが一般的。
転職直後で勤続年数が少ないと、住宅ローンの審査に申し込むこと自体が難しくなる恐れもあります。
そんな時に選択肢の一つになるのが、勤続年数を問わないローン商品です。
代表的なものに、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して提供する「フラット35」があります。
フラット35には勤続年数が条件として設定されていないのが大きな特徴。審査では主に返済負担率や安定した収入、購入物件の条件が重視されています。
転職直後で勤続年数が足りない人でも利用しやすいローン商品といえます。
ただし、フラット35にも注意点があります。例えば、購入予定の物件が住宅金融支援機構の定める基準を満たしている必要があるなど、全ての物件で利用できるわけではありません。
それでも勤続年数が条件に設定されていないフラット35のようなローンは、転職直後の人にとってとても重宝するローン商品といえるでしょう。
▼関連記事:フラット35が使えない物件とは?
住宅ローンの審査で必要になる書類
住宅ローンの審査を受ける際、金融機関から様々な書類の提出を求められます。これらの書類は申込者の収入が安定しているのか、返済能力の有無を判断するための判断材料となります。
また、転職直後に住宅ローンを申し込む場合、通常よりも必要な書類が増える点に注意しましょう。なぜなら、金融機関側が「転職後の収入や雇用状況が本当に安定しているのか」をより慎重に確認するためです。
以下では、住宅ローンの事前審査(仮審査)と本審査で必要になる書類を解説します。審査をスムーズに進めるためにも、忘れずに準備しましょう。
事前審査で必要になる書類
住宅ローンの審査には、事前審査(仮審査)と本審査の2種類があります。
事前審査(仮審査)は、申込者の収入状況や信用力を簡易的に確認する段階です。この時に提出を求められる主な書類は次のとおりです。
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど)
- 収入証明書類(源泉徴収票、給与明細、確定申告書など)
- 勤務先情報(会社名、所在地、勤続年数)
- 他の借入状況がわかる資料(カードローン、マイカーローンなど)
- 物件情報(購入予定の物件が決まっている場合)
基本的に事前審査(仮審査)は、購入したい物件が決まっていなくても受けることが可能です。
自分がいくらまで借り入れできるかを知ることもできるため、マイホームの購入を検討し始めた早い段階で受けておくと良いでしょう。
本審査で必要になる書類
本審査では、申込者の収入、信用情報、購入物件、保証の内容などを、事前審査(仮審査)よりも厳しく審査されます。この時に提出が必要になるのは以下の書類です。
- 本人確認書類(事前審査と同様)
- 収入証明書類(源泉徴収票、給与明細、確定申告書、課税証明書)
- 勤務先情報に関する資料(在籍証明書、健康保険証など)
- 購入物件に関する資料(売買契約書、重要事項説明書、登記事項証明書など)
- 諸費用の支払い能力を示す資料(預金通帳の写しなど)
- 団体信用生命保険の告知書(加入が必要な場合)
本審査では書類の記入漏れや提出忘れなどの不備があると、審査に大きな影響を与えてしまいます。不明な点はそのままにせず、不動産会社や金融機関に確認して万全の準備を整えましょう。
転職後の審査で提出を求められる書類
転職後はどうしても収入が減ったり、雇用形態が変更されている可能性があります。転職直後に住宅ローンの申し込みを行うと、次のような書類を追加で求められることがあるため準備しておきましょう。
- 内定通知書・雇用契約書(雇用条件が記載されたもの)
- 最新の給与明細(可能なら複数か月分)
- 給与振込口座の入出金記録(給与の支払いが行われているかの確認のため)
- 前職の源泉徴収票(直近の年収の参考として求められる場合あり)
これはあくまで一例であり、各金融機関によって必要な書類は異なります。書類の提出漏れがないよう に、住宅ローンを申し込む際に担当者に確認しましょう。
転職直後の住宅ローン審査で注意したいポイント
転職直後に住宅ローンの申し込みをする場合、通常の申し込みよりも注意すべき点がいくつかあります。
以下では、転職直後の住宅ローン審査をスムーズに進めるために、押さえておきたいポイントを解説します。
転職後すぐに申し込まない
転職後してすぐに住宅ローンの審査に申し込むのはお勧めできません。なぜなら、審査の条件に勤続年数が1~3年以上と設定している金融機関が多いからです。
勤続年数が足りないと、審査の申し込み自体を断られるケースも少なくありません。そのような場合は、まず新しい職場で1年以上働いて、勤続年数の条件を満たしましょう。
もしくはフラット35のように、勤務実績が審査の条件に含まれていない住宅ローンを利用することをお勧めします。
年収や雇用条件を過大に申告しない
住宅ローンの審査では、提出書類がきちんとそろっているかどうかが重要なポイントになります。いくら収入や勤務先が安定していても、書類に不備があればスムーズに進むはずの審査が止まってしまいます。
「必要な書類は後で揃えればいいだろう」「多少の記入漏れなら問題ないだろう」と考えるのは絶対にNG。
金融機関は提出された書類の内容を一つひとつ丁寧に確認します。もし不足やミスが見つかれば、修正や追加提出を求められ、場合によっては審査の印象を悪くしてしまうこともあります。
特に転職直後は提出が必要な書類が増えるため、提出前に担当者と一緒に確認し、不備がないかをしっかりチェックしておくことが大切です。準備不足で評価を下げないよう、書類は必ず完璧な状態で提出しましょう。
必要書類は不備なく提出する
住宅ローンの審査では、多くの書類を提出する必要があります。しかし、これらの書類に不備や記入ミスがあると、金融機関から再提出や修正を求められることになってしまいます。
その場合、本来であれば1〜3週間程度で完了するはずの審査が、書類のやり直しによって大幅に遅延するかもしれません。
特に転職直後に申し込む場合は、提出書類の量が通常より増えがちです。審査をスムーズに進めるためにも、書類を一つひとつ丁寧に確認し、不備がない状態で提出するよう心がけましょう。
審査中に転職や条件変更をしない
住宅ローンの審査中は、できるだけ申し込み時点の状況を変えないように注意してください。
なぜなら、審査の途中で転職や雇用形態の変更があると、金融機関から再審査を求められてしまうからです。
事前審査と本審査の間で転職すると、これまで確認されてきた内容がすべて白紙に戻り、最初からやり直しになることがあります。
その場合、書類を一から揃えて再提出しなければならないため、審査にかかる期間が大幅に延びてしまいます。
さらに、場合によっては金融機関からの信用を失い、融資そのものが取り消される可能性もあります。
確実に融資を受けるためにも、審査が完全に終わって正式に契約が締結されるまでは、できるだけ現状を維持することが理想的です。
ただし、やむを得ず転職や雇用条件の変更が必要な場合は、早めに担当者へ連絡して状況を説明したうえで、今後の対処法を相談するようにしましょう。
▼関連記事:住宅ローンの審査期間の平均は?
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。今回は、転職が住宅ローンの審査にどのような影響を与えるかを解説しました。
金融機関では、住宅ローンの申込者に安定した収入や返済能力があるかを判断する材料として、勤続年数を参考にしています。
勤続年数が短いと住宅ローンの審査では不利になるため、収入が減ってしまう転職は審査に悪影響を及ぼしがちです。
融資の実行まで現状を変えないことが理想的。しかし、やむを得ず転職をしなければならない場合でも、以下のようなケースでは審査に通る可能性は十分にあります。
- 同業種・同職種の転職
- 転職先が大手企業や上場企業
- 転職前よりも年収がアップする
- 勤続年数を問わないローンを選ぶ
転職を理由に住宅ローンを諦める必要はありません。今回紹介したポイントを参考にして、入念に準備を整えてから審査に臨みましょう。