三為とは第三者のための契約のことをいい、不動産売買の契約形態の1つです。
三為契約に違法性はなくメリットもりますが、売主・買主にとってのリスクも潜んでいるので、利用するかは慎重に検討する必要があります。
この記事では、三為契約の概要やメリット・デメリット、リスク対策について分かりやすく解説します。
不動産の三為契約とは
不動産売買には、三為(さんため)契約と呼ばれる形態があります。
聞きなれない言葉ですが、不動産取引においてはそこまで珍しいものではありません。
不動産取引で用いられるケースもあるので、概要を押さえておくことが重要です。
第三者の為の契約のこと
三為契約とは、「第三者の為の契約」を略した言葉です。
通常の不動産売買契約は、売主と買主が締結します。
一方、三為契約では売主と買主の間に三為業者が入って不動産取引が行われるのです。
具体的には、まず売主と三為業者が売買契約を結び、次に三為業者と買主が売買契約を結ぶことで、不動産は売主から買主に渡ります。
いわば三為業者による不動産の転売です。
不動産は所有者以外の売買契約は原則禁止されていますが、例外として三為契約は認められています。
三為契約のお金の流れ
通常の不動産売買であれば、買主から売主にお金が支払われるというシンプルな流れですが、三為契約は業者が介在するのでやや複雑になります。
大まかな三為契約の、契約とお金の流れは以下のとおりです。
- 売主と三為業者が「第三者の為の不動産売買契約」を締結
- 三為業者と買主が売主の物件について売買契約を締結
- 買主が三為業者に代金を支払う
- 三為業者が売主に代金を支払う
- 売主から買主への所有権移転登記を行う
三為業者は、売主との契約時に手付金を支払うことになりますが、物件の代金自体は買主から業者に支払われ、その後業者から売主に支払われるので、業者が資金を用意する必要はないのです。
ただし、売主と買主の決済日が大きく異なる場合は、業者が代金を建て替えて売主に支払うケースもあります。
仲介との違い
売主と買主を不動産会社・三為業者がつなぐという点は、仲介契約と三為契約で共通しています。
しかし、仲介と三為契約は異なる契約なので、その違いを理解しておく必要があります。
仲介は、売主と買主の間に不動産会社が入り、売買契約を成立させる方法です。
この際、売主・買主と不動産会社が締結するのは媒介契約であり、売買契約ではありません。
一方、三為契約では、売主・買主と三為業者が結ぶ契約は売買契約となる点が異なります。
また、仲介で売買契約が成立した際には、不動産会社に対して仲介手数料が発生しますが、三為契約では仲介手数料は発生しません。
ただし、三為 業者は売主から購入した物件価格に上乗せした価格で買主に売却することで、利益を得るのです。
なお、仲介手数料は法律によって上限が決められていますが、三為契約での売却額に制限はなく、業者の利益がいくらになるかは不透明という点には注意しましょう。
三為契約は違法?
三為契約は怪しいように感じますが、違法性はないのでしょうか。
違法ではない
三為契約は違法ではなく、民法537条で定められた契約形態です。
(第三者のためにする契約)
第五百三十七条 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
そのため、法のルールに則って取引される限り、三為契約でも問題はないのです。
主にワンルームマンションでよく用いられており、不動産投資の世界ではそれほど珍しい契約ではありません。
また、一般の不動産会社が三為契約を用いるケースもあります。
三為契約を利用する三為業者のメリット
三為契約を行う業者の主な目的は、転売時のコスト削減です。
不動産売買で不動産を取得すると、取得者には所有権移転の登録免許税や不動産取得税が課されます。
たとえば、A→B→Cという流れで不動産取引をすれば、Bが取得したときとCが取得したときの2回、税金が発生するのです。
所有権移転の登録免許税は「不動産 評価額×2%」、不動産取得税は「不動産評価額×4%」なので、合計6%の税負担が発生します。
仮に、3,000万円の不動産を購入した場合、3,000万円×6%=180万円の税負担がかかります。
しかし、三為契約ではA→B→Cという流れであっても、所有権移転はA→Cの1回でいいというルールがあり、Bには税金の負担が発生しません。
これは「新・中間省略登記」と呼ばれる合法的なルールに則っており、違法性はありません。
2005年の不動産登記法改正以前は、A→B→Cの取引においてBの登記を省く「中間省略登記」が認められていました。
しかし、中間省略登記では所有権の移転が明確にならないというトラブルから、2005年の法改正により現在は禁止されています。
その代わりに登場したのが、新・中間省略登記なのです。
新・中間省略登記では、第三者の為にする契約であれば、A→Cへの直接の所有権移転登記が認められ、Bへの登録免許税や不動産取得税が合法的に免除されます。
この新・中間省略登記を用いるために生まれたのが、三為契約です。
三為契約を使ってはいけない理由
三為契約であっても、法に則っていれば問題はありません。
しかし、三為契約は売主・買主への価格の透明性が低いことから、「使ってはいけない」と言われることがあります。
前述したように、仲介手数料であれば上限が決められていますが、三為業者の売却金額には上限はありません。
たとえば、売主から3,000万円で購入した物件を、買主に6,000万円で売却しても問題ないのです。
この際、売主に対して6,000万円で売る旨や、買主に対して3,000万円で仕入れている旨を伝える必要もありません。
売主と買主はいくらで取引された物件なのかをお互いに知ることがなく、売主・買主共に損している恐れもあるのです。
もちろん、三為契約であっても適正価格で取引されていれば問題ありません。
そのため、売主・買主ともに相場を押さえて、価格を判断できるようになっておくことが重要です。
不動産の三為契約のメリット
三為契約は何も悪いことばかりではありません。
以下のようなメリットもあるので押さえておきましょう。
【買主】フルローンやオーバーローンを利用しやすくなる可能性がある
三為契約では、買主は個人ではなく三為業者から物件を購入するため、金融機関からの信用が得られやすく、ローンを組みやすいケースがあります。
また、三為業者が買主への売却価格を設定する際、借入限度額などを考慮して価格設定をしているケースも少なくありません。
そのため、諸費用込みで住宅ローンを組むフルローンや、物件価格以上に借り入れるオーバーローンが利用しやすくなり、手持ち資金が少なくても物件を購入できる可能性があるのです。
【売主】契約不適合責任は三為業者が負う
通常の不動産売買の場合、売主は売却時に買主に対して「契約不適合責任」を負います。
契約不適合責任とは、契約書に記載されていない不具合が発覚したときに、売主が責任を問われるものです。
たとえば、告知していなかったシロアリ被害や雨漏りなどが原因で、補修費用の負担や代金の減額に応じるだけでなく、損害賠償請求や契約解除を求められる可能性もあります。
しかし、三為契約では売主と売買契約を結ぶのは三為業者であるため、売主が契約不適合責任を負うことは通常ありません。
買主に対する契約不適合責任は三為業者が負うので、売主が売却後に責任を追及されるリスクがなくなるのです。
また、契約不適合責任については買主にもメリットがあります。
個人が売主の場合、一般的には契約不適合責任を求められる期間は3ヵ月程度と定めて売買契約を結ぶ場合が多いですが、宅建業者が売主となる場合は追及期間を2年より短く設定することができません。
そのため、業者が売主となることで、買主はより長期間にわたり保証を受けられ、安心して購入しやすくなります。
【売主・買主】仲介手数料がかからない
三為契約では、三為業者に対する仲介手数料が発生しないので、購入・売却時のコストカットが可能です。
仲介で売買した際の仲介手数料の上限は以下のようになります。
売買代金 | 計算式 |
200万円以下 | 売買代金×5%+消費税 |
200万円超400万円以下 | 売買代金×4%+2万円+消費税 |
400万円超 | 売買代金×3%+6万円+消費税 |
たとえば、3,000万円で売買した場合の仲介手数料の上限は96万円(税抜)となり、売主・買主がそれぞれ支払います。
仲介手数料は、売買時のコストの中でも高額になりがちなので、発生しないのは大きなメリットといえるでしょう。
ただし、三為契約では仲介手数料以上の損失が発生する恐れがある点には注意が必要です。
不動産の三為契約のデメリット
三為契約のデメリットについてみていきましょう。
【売主・買主】三為業者の利益分損をする可能性がある
三為業者は、安く仕入れて高く売ることで利益を得ます。
たとえば、3,000万円で物件を購入し4,000万円で売却できれば、1,000万円が利益となります。
この利益をいくらに設定するかは業者次第であり、売主・買主はそれぞれの取引価格を知ることはありません。
仮に、売主と買主が通常の不動産売買をしていれば、3,500万円で取引できたかもしれません。
つまり、売主は高く売る機会、買主は安く買う機会を逃すことにもなるのです。
【買主】金利の高いローンを勧められる可能性がある
三為業者では、提携する金融機関のローンを勧められるケースがあります。
しかし、紹介されるローンの中には、金利の高いフルローンやオーバーローンが含まれることも多いため、注意しましょう。
三為業者としては、購入後できるだけ早く買主に売却したいと考えます。
そのため、自己資金が少ないなどの条件が厳しい人でも利用しやすいように、諸費用込みのローンを紹介するケースが少なくありません。
また、提携ローンであれば、比較的審査に通りやすい可能性もあります。
ただし、金利の高いローンやフルローン・オーバーローンを利用すると、返済の負担が大きくなるだけでなく、将来的に売却しようにも、ローンを完済できずに売却が難しくなるリスクもあります。
そのため、紹介されたローンが本当に自分にとって適切かどうか、無理なく返済できるかをしっかりと計画を立てて判断することが重要です。
▼関連記事:不動産会社提携の金融機関で住宅ローンを利用するメリット・デメリットを解説します
【買主】買い急がされる可能性がある
少しでも早く売りたいことから、買主が購入を急 かされるケースもあります。
たとえば、「他の人が検討している」「条件がいいからすぐに買い手がついてしまう」などの営業トークで買主を焦らせ、購入を迫ってくるのです。
さらに、悪質なケースでは、相場よりも高値での購入や不利な条件での契約を避けられないよう、買主に調べて判断する時間を与えずに契約を急がせるケースもあります。
もちろん、条件がよい物件では本当に急がないと他の人に買われてしまうケースもあります。
しかし、買主にしっかり購入の判断をさせない営業には注意し、慎重に判断することをおすすめします。
不動産の三為契約でリスクを負わないための対策
不動産の三為契約は売主・買主ともにリスクがあるので、慎重に判断する必要があります。
リスクを負わないためには、まずは取引相手が三為業者かどうかを把握することが大切です。
ここでは、リスクを負わないための対策として以下の3つを紹介します。
- 【買主】物件の所有者を確認する
- 【売主・買主】売買契約書の特約事項で三為契約でないことを確認する
- 【売主・買主】不動産会社に直接確認する
それぞれ見ていきましょう。
【買主】物件の所有者を確認する
三為業者かどうかを買主が見分ける方法の1つとして、登記簿上の所有者を確認する方法があります。
通常、不動産会社が売主の土地や買取再販住宅であれば、所有者欄には不動産会社の名前が記載されています。
一方、三為契約では買主が購入する時点での物件の所有者は個人の売主です。
あらかじめ三為契約であること を明示しているのであれば問題ありませんが、三為契約であることを隠して売却しようとしている業者は避けた方が無難でしょう。
【売主・買主】売買契約書の特約事項で三為契約でないことを確認する
三為契約時には、その旨が特約として記載されるので、三為契約かどうか契約書をしっかりと確認することが大切です。
契約内容によって記載は異なりますが、例えば以下のような内容が記載されます。
(売主)は(業者)が指定する者に、所有権を直接移転する。
特約に三為契約の旨が記載されている場合、不正な転売を行う業者である可能性もあるので、契約書の内容はしっかりと確認し、納得してからサインすることが大切です。
できれば、事前に契約書のコピーをもらい、熟読しておくことをおすすめします。
そもそも、契約書の内容を十分に確認させようとしない業者は、信頼性に欠けるため注意が必要です。
ただし、一般的な不動産売買(不動産会社による買取)でも三為契約の旨が特約として設けられていることもあります。
また、仮に特約が設けられていても、必ずしも悪質な業者であるとは限らない点は気を付けましょう。
【売主・買主】不動産会社に直接確認する
業者に対して、ストレートに三為契約なのかを確認するのも一つの方法です。
誠実な業者であれば、三為契約である場合、正直に答えてくれるはずです。
もし回答を曖昧に濁すような場 合は、三為契約である可能性は高いでしょう。
まとめ
三為契約は、違法ではなく合法な不動産売買です。
しかし、業者が売主と買主の間に入ることで価格が不透明になりやすく、売主・買主ともに損してしまうリスクがあります。
三為契約や三為業者が一概に悪いわけではありません。
しかし、リスクがあることは十分理解し、業者の見極めや相場の把握など、売主・買主自身も対策しておくことが重要です。