「会社を立ち上げて数年、事業も軌道に乗ってきたし、そろそろ家族のためにマイホームを…」
そう考え始めた経営者の中には、こんなウワサを耳にして不安に感じている人もいるかもしれません。
「経営者は住宅ローンに通らないらしい」
でも、ちょっと待ってください。このウワサ、実は半分正しくて半分は誤解です。
確かに、経営者は会社員と異なる審査のポイントがあるため「通りにくい」と感じるシーンがあるのは事実。
しかし、その理由と対策をしっかり理解していれば、経営者でも住宅ローンを組むことは十分に可能です。
当記事では、なぜ経営者は住宅ローンに通らないと言われるのか、審査されるポイントや審査を通過するための準備や対策などを詳しく解説します。
「経営者は住宅ローンに通らない」と言われる理由
会社員であればスムーズに住宅ローンを組めたのに、経営者は住宅ローンを組めなかった。もしくは、組めたとしても希望通りの金額を借りられなかったというケースもあります。
なぜ、経営者と会社員でこのような違いがあるのでしょうか?その理由は、金融機関の設けている審査基準や条件にあります。
以下では、経営者が住宅ローンに通らないと言われる主な理由について解説します。
会社員と違って収入が不安定とみなされがち
意外かもしれませんが、経営者は会社員と比べて収入が不安定とみなされがちです。
住宅ローンを貸す金融機関にとって、最も重要なのは「毎月、確実に返済してくれるか」という点です。
会社員の場合、会社から定期的に給与やボーナスという形で収入を得ています。会社が倒産しない限り、突然収入がゼロになることもないため、返済が滞ることは少ないと判断されます。
それに対して経営者の場合、役員報酬は会社の業績次第になります。会社の業績が悪化するなどして役員報酬が減ったり、場合によってはゼロになることもあるでしょう。
また、設立間もない会社であれば、経営が安定していないと見なされることもあります。
金融機関では、こうした経営者特有の収入が変動する可能性を考慮して、会社員よりも慎重に審査を進める傾向にあります。
これが、経営者 は住宅ローンに通らないと言われる大きな理由の一つです。
審査では実際の所得額が重視される
住宅ローンの審査では、どれくらい稼いでいるかよりも、最終的にいくら所得として申告しているかが重要になります。
経営者の場合、事業の利益をできるだけ抑えて税金を減らす「節税」をしていることも多いでしょう。
例えば、車やパソコンなどの購入費を経費として計上したり、家族への給与を支払ったりといった方法です。
こういった節税は、会社を運営するうえで一般的な方法です。しかし、住宅ローンの審査ではマイナスに働くことがあります。
なぜなら、銀行が重視するのは確定申告書に記載された所得額だからです。
どれだけ売上があっても所得が少なければ、返済できるだけの余裕がないと判断されてしまいます。
また、銀行によっては3年分の平均所得で審査されることもあります。毎年の申告額にバラツキがあると、経営が安定していないとみなされる可能性があるため注意が必要です。
住宅ローンの審査では、節税で所得を減らすことで、審査を厳しくする恐れがあることを覚えておきましょう。
会社の業績や将来性も見られる
経営者の住宅ローンの審査では、本人の収入だけでなく、以下のような会社の経営状況もチェックされます。
- 最近の売上や利益が伸びているか
- 赤字が続いていないか
- 借入金が多すぎないか
こうした情報から、会社が安定しているかどうかを判断されるのです。
また、節税のために経費を多く計上して所得を少なく見せている場合や、利益が毎年ギリギリの 場合、金融機関からは「この人の収入は安定しているのか?」と疑問を持たれてしまうこともあります。
つまり、安定して利益を出している健全な会社なのかを金融機関がしっかり見極めたうえで、「経営者にお金を貸しても大丈夫か?」という判断をしているのです。
住宅ローン審査で見られるポイント
なぜ経営者は住宅ローン審査が厳しいのかが分かったのではないでしょうか。次は、金融機関が具体的にどんなポイントを見ているのかを解説します。
1.直近3年分の決算書と確定申告書
住宅ローンを組む際、会社が安定して利益を出しているか、個人の収入が継続して得られているかを審査します。
そのための判断材料として、多くの金融機関で提出を求めているのが、過去3年分の「決算書」や「確定申告書」です。
場合によっては「収支内訳書」や「損益計算書」といった書類の提出も必要となるため、事前に準備しておくと良いでしょう。
これらの提出書類を参考にして、経営者に収入があり会社の経営も安定しているかが審査されます。
2.毎月の収入と返済負担率
金融機関では、借主が20~30年もの長期間、住宅ローンの返済を毎月継続できるかをしっかりとチェックします。
そこで重要になるのが、毎月の収入と返済負担率です。
返済負担率とは、年収に対してローン返済額がどのくらいの割合を占めるか、という指標です。
返済負担率は以下の式で計算されます。
銀行によって基準が異なることもありますが、一般的には年収に対して30%〜35%以内であることが、審査に通るひとつの目安とされています。
例えば、年収600万円の人が年間で120万円を返済する場合、返済負担率は20%になるため無理なく返済を続けることができるでしょう。
ただし、経営者は会社員と違って、毎月の収入が安定していないと見なされやすい傾向があります。
経営者が住宅ローンを組むには、どれくらい安定した収入があり、それが今後も続くと証明できるかがとても大切になります。
3.自分で用意できるお金と貯金
住宅ローンで借り入れるだけでなく、自分でどれくらいお金を用意できるか(頭金)も審査に大きな影響を与えます。
マイホームを購入する際に、すべて住宅ローンで支払っても問題はありません(フルローン)。ですが、頭金として自分でお金を用意することができれば、審査に通る確率が高まります。
例えば、4,000万円の物件を購入するとします。そのうち1,000万円の頭金を用意できれば、「この人はしっかり貯金できている」「お金の管理ができている」と、金融機関に良い印象を与えることができるでしょう。
頭金は1〜2割を目安に用意しておくと審査の上で有利になることがあり、優遇金利が適用され、金利負担を軽減できるケースもあります。
ただし、急な支出が発生した際に困らないように、すべてを頭金に使って貯金がゼロという状態は避けましょう。
▼関連記事:住宅ローンの頭金はいくら用意すべき?目安額と返済プランを考察
4.ローンやカードの履歴といった信用情報
住宅ローンの審査では「信用情報」も厳しくチェックされます。
信用情報とは、これまでに利用したローンやクレジットカードの契約内容、返済状況、支払いの遅れがなかったかどうかなどを記録したものです。
過去に次のような履歴がある場合、審査に悪い影響を与える可能性があります。
- クレジットカードやローンの支払いを滞納したことがある
- 携帯電話の分割払いを延滞した
- キャッシングやリボ払いの利用が多い
- 借入件数が多く返済額が大きい
- 債務整理のために自己破産をしたことがある
信用情報は、以下の情報機関に登録されています。
- CIC (株式会社シー・アイ・シー)
- JICC (株式会社日本信用情報機構)
- KSC (全国銀行個人信用情報センター)
住宅ローンの審査では、信用情報機関に登録されている信用情報をもとにして審査が行われるのです。
たとえ経営が順調だったとしても、個人の信用情報に傷があると、住宅ローンの審査に通らないケースがあります。
自己破産などで借金を整理した場合、いわゆる「ブラックリストに載る」状態になります(信用情報機関に「事故情報(異動)」として記録される)。
この情報は通常、5年から7年程度記録され、その間は新たに住宅ローンや自動車ローンなどを組むのが難しくなることがあります。
また、債務が消滅しても、しばらくは金融機関から「信用回復していない」と見なされ、ローンの審査に通りにくい状況が続くことがあります。
審査を通りやすくするための準備と対策
会社員と比べて経営者は、収入が安定していないことから審査も慎重になりがちです。しかし、だからといってマイホームの夢を諦める必要はまったくありません。
大切なのは「返済能力があり、会社も安定して経営している」ということを、審査する金融機関にどれだけ分かりやすく伝えられるかにかかっています。
そこで以下では、住宅ローンの審査を少しでもスムーズに進めるために、経営者ができる具体的な準備と対策を詳しくご紹介します。
収入や経営の安定性を見える形で説明する
経営者が住宅ローンを申し込む場合は、以下のような情報があると、経営が安定していることをアピールしやすくなります。
- 毎月一定額の役員報酬を受け取っている
- 3期連続で黒字経営をしている
- 決算書から売上の伸びが分かる
- 売上を出している事業が明確
ただ口で「我が社は安定しています 」と主張するよりも、これらの書類を提出して具体的な数字を示すことで、金融機関の信頼を得やすくなります。
事業内容や収益の出し方をしっかり伝える
金融機関の担当者が会社の事業をよく理解できていないことも、経営者が住宅ローンの審査で不利になりがちな理由のひとつです。
担当者は必ずしもすべての業種に詳しいわけではありません。特に、目新しい業種の場合、利益の出し方や経営を継続できそうかを判断することは難しくなります。
だからこそ、自分の業種の内容や収益の出し方などを、誰にでもわかるように説明できなければいけません。
自身の会社について説明する際は、以下のように伝えると効果的です。
- どんな商品やサービスを提供しているのか
- 顧客は法人なのか個人なのか
- どのサービスがどのくらい売れているか
- 今後も売り上げを伸ばし続けられるか
経営する会社が利益を生み出し続けられると分かれば、住宅ローンの審査にも通りやすくなります。
担当者に事業について説明する際は、難しい専門用語は避けるようにしましょう。
「誰に、何を、どうやって売って、どうやって利益が出ているのか」を、初めて聞く人でも理解できるように伝えるのがポイントです。
審査前は節税を控えめにして所得を確保する
経営者にとって、節税をするのは当然の工夫といえるでしょう。しかし、住宅ローンの審査では、節税が裏目に出てしまうことがあります。
金融機関で重視しているのは、住宅ローンを貸した後にしっかりと返済が続けられるほどの所得があるかです。
経費を多く計上して所得を減らしていると、実際には経営が順調で収入も多かったとしても、書類上は返済能力が低いと判断されてしまう可能性が高いのです。
住宅の購入を検討し始めたら、節税を控えめにして所得を確保しておきましょう。ただし、素人の判断で進めると後々トラブルに発展する可能性があります。必ず税理士と相談したうえで慎重に進めましょう。
経営者でも審査に通りやすい金融機関を選ぶ
どこの金融機関を選んでも、経営者には同じ対応をされると不安に感じている人もいるのではないでしょうか?
実は、金融機関ごとに住宅ローンの審査基準が異なっています。だからこそ、経営者でも審査に通りやすい金融機関を選ぶのがポイントになります。
地方銀行や信用金庫
地方銀行(地銀)や信用金庫といった地域に根差した金融機関は、地元の企業や経営者の状況をよく理解している傾向があります。
そういった金融機関をメインバンクにしていれば、会社がどれだけ収入を得ているのか、安定した経営を続けられているかを把握しているものです。
住宅ローンを組む時にも、担当者と信頼関係を築きやすく経営者の事情も考慮してもらいやすいため、審査もスムーズに進む可能性があります。
▼関連記事:信用金庫で住宅ローンを借りるメリット・デメリットは?審査は緩い?銀行との違いを解説します
フラット35
フラット35は、住宅金融支援機構と民間の金融機関が提携して提供する住宅ローンです。
最も大きな特徴は、団信の加入が任意であることと、審査では会社の業績 よりも個人の返済能力を重視する傾向がある点です。
民間金融機関のローン商品とは異なり、会社の経営状況よりも経営者本人の所得が安定していれば審査に通る可能性があります。
また、提出書類の中身を細かく見て判断してくれるため、経営者の状況をより深く理解してもらえるでしょう。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。今回は、経営者が住宅ローンを組みづらい理由と対策について解説しました。
経営者は住宅ローンに通らないというウワサは、本当の部分も確かにあります。
会社員であれば、安定した収入が得られているか、継続して返済が可能かを審査するだけなので、住宅ローンは組みやすいといえます。
一方、経営者の場合は、収入の有無だけでなく経営している会社が安定しているかも判断材料となるため、住宅ローンが組みづらくなるのです。
だからこそ、金融機関が経営者の審査で重視するポイントをきちんと理解し、その対策を取っておくことで審査に通る可能性は高くなります。
経営者が住宅ローンの審査を申し込む場合は、次のような準備をしておきましょう。
- 毎月の収入や経営が安定していることを数値で示す
- 事業内容や収益の出し方を誰にでも分かるように説明する
- 節税を控えめにして所得を確保する
- 信用情報に傷をつけないようにする
- 経営者に理解のある金融機関を選ぶ
経営者は住宅ローンを組むまでに、提出する書類も多く手間がかかってしまいます。ですが、経営者だからといって住宅ローンを組めないというわけではありません。
今回ご紹介した準備と対策を参考にして、 夢のマイホームを手に入れてください。