離婚時に住宅ローン残債がある場合、離婚後も返済を続けるか売却して完済するかになります。
返済を続けることを選択しても、離婚後の経済状況の変化で返済が厳しくなるケースは少なくありません。
この場合、最終的には家が競売になる恐れがあります。
一方、売却を検討する場合でもオーバーローンでは売却できない可能性があるので注意が必要です。
この記事では、離婚後の住宅ローンの取り扱いや、競売や任意売却の流れ、払えない時の対処法などを詳しく解説します。
離婚後に住宅ローンはどうなる?
離婚時に住宅ローン残債がある場合の対応は、主に以下の3つの選択肢から検討することになります。
- 借りた人が払い続ける
- 住む人が住宅ローンを引き継ぐ
- 家を売却して住宅ローンを完済する
それぞれ見ていきましょう。
借りた人が払い続ける
離婚時には、婚姻後の財産を公平に分ける財産分与を行いますが、住宅ローン残債は対象となりません。
たとえば、住宅ローン残債が2,000万円あるからといって1,000万円ずつ負担するということにはならないのです。
住宅ローン残債については名義人が全額返済の負担を負うため、離婚後も借りた人がそのまま返済を続けることになります。
借りた人が離婚後も家に住み続けるなら、住む人が返済するので問題はないでしょう。
一方、借りた人が家を出るケースでは、事前に金融機関への相談が必要です。
住宅ローンは自分が住むための家の購入資金として融資されており、家から出ていくことで契約違反になる恐れがあります。
金融機関によっては、家から出ていったことが判明すると一括返済が請求されるケースもあるので、事前に離婚後の支払いについて金融機関と相談することが大切です。
また、住宅ローンを支払う側が家を出ると、家に住む方には以下のようなリスクが生じます。
- 住宅ローンの支払いが滞り競売にかけられる
- 勝手に売却される
家に住まない方が延滞するといつの間にか競売にかけられ、家から出ていかないといけない事態になる恐れがあるでしょう。
家は所有者であれば自由に売却できるので、住んでいる人の合意なしで勝手に売却されるリスクもあります。
住まない方が住宅ローンの返済を続けるとリスクが生じやすいので、離婚後の住宅ローンの支払いや家の取扱いについてはしっかりと話し合い、公正証書にしておくことが重要です。
可能であれば、住む方に名義を変更しておくほうがよいでしょう。
住む人が住宅ローンを引き継ぐ
住宅ローンの名義人が家を出る場合、住む人が住宅ローンを引き継ぐ方法もあります。
住む人が住宅ローンを引き継げば、滞納による競売や売却されるといったリスクの回避が可能です。
この場合、金融機関に相談して住宅ローンの名義を変更するか、借り換えで今のローンを完済し新たに住む人でローンを組むという方法が検討できます。
ただし、どちらの方法も住む人に金融機関の審査に通るだけの収入などが必要です。
審査に通らなければ引き継げないので注意しましょう。
▼関連記事:離婚後、ローンが残った持ち家に妻が住み続ける方法は?
家を売却して住宅ローンを完済する
離婚に伴い家を売却してしまえば住宅ローンを完済でき、その後のトラブルを避けられます。
住宅ローン完済後に残った売却金は夫婦で分配でき、新生活の資金にできるでしょう。
離婚で家を売却する場合、離婚成立後がおすすめです。
離婚成立後であれば財産分与の対象となり非課税で売却金を按分できますが、離婚前に売却金を案分すると贈与税が課税される恐れがあります 。
ただ、離婚後は連絡を取りたくないなど状況によっては離婚前の売却でもよいでしょう。
どのタイミングで売却するかは、事前にしっかり話し合っておくことが大切です。
なお、住宅ローン残債がある家は、アンダーローンかオーバーローンかでも売却できるかが変わってきます。
アンダーローンとオーバーローンについては、以下で詳しく解説するので参考にしてください。
家を売却するときに確認しておきたいアンダーローンとオーバーローン
離婚に関わらず、住宅ローン残債がある家を売却するには、住宅ローンの完済が必須です。
住宅ローンを組むと金融機関によって抵当権(不動産を担保として金融機関が設定する権利)が設定され、抵当権付きでは基本的に売却できません。
抵当権を外すには、住宅ローンを完済して抵当権抹消登記を行う必要があるのです。
一般的には売却金で住宅ローンを完済しますが、完済できるかはアンダーローンかオーバーローンかで変わってきます。
アンダーローンとは?
アンダーローンとは、住宅ローン残債より売却金が高い状態です。
この場合、売却すれば住宅ローン残債が完済できるので問題なく売却できます。
ただし、ローン残債のある家の売却には仲介手数料や一括返済費用、登録免許税などさまざまな費用がかかります。
また、売却額は査定額より下がるケースが珍しくない点にも注意が必要です。
売却見込額と住宅ローン残債との差額がそれほど大きくないときは、自己資金なども加味して慎重に売却判断するようにしましょう。
不動産会社に売却金で住宅ローン完済を希望していることを伝えて、適切な価格設定などアドバイスをもらうことも大切です。
オーバーローンとは?
オーバーローンとは、住宅ローン残債が売却額を上回る状態です。
オーバーローンでは売却しても住宅ローンを完済できないため、そのままでは売却できません。
とくに、新築で購入して数年で売却すると家の資産価値の減少が大きい反面、住宅ローンの返済がそれほど進んでいないのでオーバーローンになりがちです。
住宅ローン残債の額は、毎年送付されるローン残高証明書や、契約時に交付される返済計画書で確認できます。
また、金融機関の窓口や一部のインターネットバンキングでも確認できるので、まずは現時点の正確な住宅ローン残債をチェックしましょう。
オーバーローンは超過分を自己資金で補填する必要がある
オーバーローンであっても、超過分を補填できれば売却が可能です。
たとえば、住宅ローン残債が2,000万円で売却額が1,800万円の場合、200万円を自己資金や親族に借りるなどの方法で補填して住宅ローンを完済できるなら売却できます。
一方、差額分を補填できないときは売却できません。
この場合は、差額を補填できるようになるまで売却を諦める必要があります。
離婚後に住宅ローンが払えないとどうなる?
離婚後も住宅ローンの支払いを続ける場合では、離婚による経済状況の変化で後々返済が難しくなるケースがあります。
住宅ローンの返済ができなくなると、最終的には競売にかけられ家を手放すことになります。
オーバーローンで超過分を自己資金で用意できないと売却できない
住宅ローンの支払いが難しいとなった場合、一般的には売却して売却金で完済を目指す方法が検討されます。
しかし、先述のとおり家を売却するには売却金で完済できることが条件です。
オーバーローンで自己資金でも補填できないとなると、売却して住宅ローンを解消するという選択肢を選べないので注意しましょう。
住宅ローンの滞納が続くと最終的に競売になる
売却できない場合、住宅ローンの支払いを続ける必要がありますが、支払いが難しい状況なら支払いが滞ることが予測されます。
住宅ローンが滞ると金融機関から督促を受け、応じられず延滞が続くと最終的には競売になります。
競売とは、債務者が支払いできない場合、抵当権を設定した不動産を裁判手続きで強制的に売却し、売却代金で債権を回収する方法をいいます。
競売がスタートすると家の所有者の意思は関係なく売却手続きが進められていき、最終的には落札者のものとなり家から出ていく必要があるのです。
競売は市場価格よりも価格が下がる、売却金で引っ越し費用を捻出できないなどのデメリットも大きくなります。
なお、競売でもローンを完済できないと、競売後にも返済義務は続きます。
競売後の残債が大きいと自己破産を検討する必要も出てくるので、注意しましょう。
金融機関と交渉して任意売却するのがおすすめ
任意売却とは、住宅ローンを完済できない不動産を金融機関の承諾を得て売却する方法です。
任意売却は、金融機関の承諾が必要という点以外は一般的な不動産売却と同じであるため、市場価格での売却が期待できます。
また、競売では認められない売却金での引っ越し費用の捻出が可能など、融通が利きやすいという点もメリットです。
競売よりも柔軟な売却ができることから、競売を避ける方法として利用されています。
ただし、任意売却できる期間は競売の入札開始前日までと期日が決まっています。
住宅ローンが滞ってから競売が開始されるまで、1年から1年半ほど時間がかかりますが、その間に任意売却するとなるとあまり時間はないでしょう。
任意売却するには金融機関との交渉も必要になるので、早い段階で不動産会社に相談し交渉にも同席してもらうなどサポートしてもらうことが大切です。
競売の流れ
競売は住宅ローンが滞ったらすぐに始まるのではなく、手順を踏んで進んでいきます。
ここでは、競売がスタートするまでの流れをみていきましょう。
大まかな流れは以下のとおりです。
- 書面による督促
- 催告書
- 期限の利益の喪失
- 代位弁済
- 競売開始決定通知
1.書面による督促
住宅ローンが支払えないとまずは、電話やハガキなどで督促が行われます。
この段階での督促は比較的軽めであり、応じさえすれば問題はありません。
ただし、優遇金利の適用を受けている場合は対象外となる恐れもあるので注意しましょう。
2.催告書
督促に応じず延滞から3か月から半年ほど過ぎると、催告書が送られてきます。
催告書には、延滞を解消しないと期限の利益が喪失することや法的手続きに移る旨が記載されており、最後通告のようなものです。
通常通り住宅ローンを返済していきたいのであれば、催告書が届く前までには対応しておくことが大切です。
3.期限 の利益の喪失
催告書にも応じず期日になると、期限の利益が喪失します。
期限の利益とは、分割払いする権利です。
期限の利益を喪失すると住宅ローンを分割払いできなくなるので、一括返済が請求されます。
とはいえ、金融機関は毎月の返済が滞る状況で一括返済できるとは考えていないので、すでに競売が視野に入っていると考えると良いでしょう。
4.代位弁済
代位弁済とは、住宅ローン契約時に付けた保証会社が、債務者に代わって金融機関に一括返済することです。
ただ、代位弁済されたからといって債務者の返済義務がなくなるわけではありません。
代位弁済では債権者が金融機関から保証会社に代わるだけであり、代位弁済後に保証会社から一括返済が請求されます。
5.競売開始決定通知
保証会社からの請求に応じられずにいると、保証会社は裁判所に競売を申し立て、受理されると裁判所から競売開始決定通知が届きます。
競売開始決定通知が届くと、その後不動産の現況調査が行われ入札がスタートします。
落札者が決まり代金が支払われると、家の所有権は落札者に移り、退去が必要です。
なお、落札者に所有権が移転した後も退去せずにいると、落札者が申し立てることで強制退去が執行されます。
任意売却の流れ
競売になるとダメージも大きくなるので、任意売却で競売を回避することが大切です。
しかし、任意売却は期日も決まっているので流れを押さえておくようにしましょう。
金融機関と相談しながら売却を進める
任意売却するに は金融機関の承諾が必要です。
そのため、住宅ローンが滞ったら金融機関に任意売却の相談を行いましょう。
ただし、金融機関としては任意売却よりもきちんと返済してもらった方が利益となるので、簡単に応じてくれない可能性があります。
事前に不動産会社の査定を受けて担当者に同席してもらうことで、売却額なども納得してもらいやすくなるでしょう。
基本的な流れは通常の不動産売却と同じ
任意売却の承諾を得たら、不動産売却を進めていきます。
不動産売却の流れ自体は、一般的な不動産売却と同じです。
なお、任意売却では最終的な売却価格を決める際や値下げをする際には、金融機関の承諾が必要になります。
一般的な不動産売却は3ヵ月から半年ほどですが、任意売却は金融機関との交渉も必要になってくる分、時間がかかりやすい点には注意しましょう。
任意売却には期限がある
任意売却を進めれば競売がストップするわけでなく、任意売却と競売は同時に進められていきます。
競売は金融機関側であれば取り下げることができますが、取下げできるのは開札日前日です。
そのため、任意売却の期限も競売の開札日前日までとなります。開札がスタートすると任意売却は強制的に終了となるので注意しましょう。
任意売却できる期間は、実務的に期限の利益喪失後から競売入札日前日までです。
状況によっても異なりますが、一般的には住宅ローンの滞納が始まってから3か月目から14ヶ月目までの9カ月ほどしか時間がないので注意しましょう。
▼関連記事:離婚で家を任意売却する際の進め方と注意点を解説します
離婚で住宅ローンが払えなくても家に住み続けるための方法
離婚で住宅ローンが払えない状況になっても、早い段階なら対処できる可能性があります。
ここでは、住み続けるために検討できる方法として以下の3つを紹介します。
- リバースモーゲージを検討する
- 自治体の制度を利用する
- 親子間売買する
それぞれ見ていきましょう。
リバースモーゲージを検討する
リバースモーゲージとは、家を担保に資金を借入する方法です。
契約者が生存している間は利息のみを支払い、死亡後に自宅を売却するか、相続人が一括返済する仕組みです。
リバースモーゲージであればまとまった資金を借入できるので、住宅ローンの返済に充てることが可能です。
借入後は毎月利息分のみの返済にできるので、毎月の返済の負担も軽減できます。
ただし、リバースモーゲージは基本的に50歳や60歳以上が対象となる、高齢者向け融資です。
対象年齢になっていないと活用できないので注意しましょう。
対象年齢より若い場合は、リースバックを利用するのも1つの方法です。
リースバックとは、家を売却してその後は賃貸契約を結んで家賃を払いながら家に住み続ける方法です。
ただし、家賃は相場より高くなりやすいので家賃を支払い続けられるかは慎重に検討しましょう。
自治体の制度を利用する
自治体によっては、生活困窮者など住宅ローンの支払いが難しい人に対して貸付や給付金などの支 援を行っている場合があります。
支援の有無や内容は自治体によって異なるので、窓口やホームページなどで確認しましょう。
親子間売買する
親に家を買ってもらえば、住宅ローン返済の負担がなくなり、さらに家賃を支払うなどでその後も家に住み続けることが可能です。
また、親子間で売買すれば将来買い戻すこともしやすくなるでしょう。
ただし、親子間売買は贈与や住宅ローンの不当な借り換えで利用されるケースも多いことから、買う側が住宅ローンを利用する際の金融機関の審査が厳しくなります。
親子間売買では住宅ローンが対象外となる金融機関も多いので、注意しましょう。
さらに、親子間売買は贈与税が課税される恐れがある、売主が譲渡所得の特別控除を適用できないなどのデメリットもあるので、慎重に検討することが大切です。
いずれの方法を選ぶ場合でも、まずは不動産会社に相談して査定を受けることが重要だといえます。
とくに任意売却も視野に入れるなら、早い段階で任意売却の経験豊富な不動産会社に相談することが大切です。
不動産会社を選ぶ際には、できるだけ多くの不動産会社を比較するようにしましょう。
イエウリでは、大手から地域密着型の中小まで数多くの不動産会社の査定を簡単に比較できます。
査定時には不動産会社に個人情報が伝わらないため、査定依頼後に営業電話に悩むこともありません。
住宅ローンの支払いが厳しくなっているなら、できるだけ早い段階で査定を受けてみるとよいでしょう。
まとめ
離婚時に住宅ローン残債があると、離婚後も返済が続くため支払いなどでトラブルになりやすくなります。
離婚後の住宅ローントラブルを避けるためには、離婚時に売却を検討するほうがよいでしょう。
ただし、オーバーローンの家はそのままでは売却できないので、早めに任意売却を視野に入れることをおすすめします。
不動産売却や任意売却を検討する際には、経験豊富で信頼できる不動産会社に相談することが大切です。
できるだけ多くの不動産会社を比較して、自分に合った不動産会社を見つけられるようにしましょう。