住宅を購入するために、親子や夫婦でローンの支払が行える「ペアローン」を検討している人も多いのではないでしょうか?
ペアローンは返済を分け合えることから、1人の負担が軽くなる印象があります。しかし、実際には「ペアローンはやめとけ」などの声も多く見受けられるのです。
そこで当記事では、ペアローンとはどんな住宅ローンなのか、ペアローンに似ているローン商品はあるのか、「ペアローンはやめておけ」と言われる理由について解説します。
ペアローンの基本的な仕組み
ペアローンとは、購入したい物件に対して、複数人がそれぞれ独立した住宅ローンを借り入れる方法です。
夫婦でペアローンを借り入れる場合は、互いに連帯保証人となるのが特徴です。
ただし、原則としてローンを借りる人全員が「団体信用生命保険(団信)」に加入しなければいけません。
団信は、ローンの借主が死亡または高度障害に陥った場合に、ローン残高を全額保障する保険です。
夫婦でペアローンを組む場合は、ふたりとも団信に加入できる条件を整えておく必要があります。
ペアローンと収入合算の違い
ペアローンに似ているローンの組み方に「収入合算」があります。
収入合算には、「連帯債務型」と「連帯保証型」の2種類が用意されています。
連帯債務型
連帯債務型は、複数人のうち一人が「主債務者」となり、他の人が「連帯債務者」として同じ住宅ローンを共有する方法です。
連帯債務者は、主債務者と同じように返済の義務が生じます。
ペアローンとは異なり、団信への加入は基本的に主債務者のみです。
しかし、金融機関によっては連帯債務者も加入を求められる可能性があるため、あらかじめ確認する必要があります。
連帯保証型
連帯保証型は、1人が「債務者」として住宅ローンを借り入れ、他の人が「連帯保証人」として保証する方法です。
連帯保証人は、債務者が返済できなくなった場合に、代わりに返済義務を負います。
この仕組みでは、基本的に債務者のみが団信への加入を求められ、連帯保証人は加入する必要がありません。
そのため、連帯保証人の手続きはシンプルです。
また、保証人の信用力次第で、住宅ローンの審査に有利になる場合もあります。
ただし、連帯保証人側には税制優遇がなく、債務者が返済不能になった場合には大きな経済的負担が発生する可能性がある点に注意が必要です。
▼関連記事:住宅ローンの「ペアローン」と「収入合算」の違いと選び方を解説します
「ペアローンはやめとけ」と言われる理由
ペアローンは夫婦や親子で住宅ローンを借りる際に便利な仕組みですが、「やめたほうがいい」と言われることもあります。その理由を以下で解説します。
理由1:安易に離婚することができなくなる
ペアローンでは、夫婦や親子がそれぞれ独立した住宅ローンを借り入れ、互いに連帯保証人となります。
一見すると、2人で協力してローンを返済できるため、負担が軽減されるように感じられるでしょう。
しかし、夫婦が協力して返済する仕組みのため、一方の収入のみでは返済が難しくなり、離婚や別居の選択肢が制約される場合があります。
そのため、離婚する場合は住宅をどちらが引き継ぐのか、あるいは売却するのかを決める必要があるのです。
ローンの残債額によっては売却額で賄えない「オーバーローン」の状態になることがあり、財産分与で揉めることも珍しくありません。
片方が債務を引き継いで家を引き取った場合、もう一方のローン残債について連帯保証人としての責任が続くため、トラブルに発展することがあります。
理由2:収入が減ると立て直しが困難になる
ペアローンは、夫婦や親子がそれぞれ別々に住宅ローン契約を結ぶ仕組みです。
そのため、どちらか一方の収入が途絶えた場合でも、もう一方の返済義務はそのまま残るというリスクがあります。
例えば、夫婦でペアローンを組んでいる場合、夫が病気や怪我、失業などで収入を失うと、妻にその分の返済負担がのしかかることになります。
さらに、リストラや不景気の影響などで夫婦の収入が同時に減ってしまうと、家計そのものが破綻するリスクもあります。
通常の団体信用生命保険(団信)に加入していても、保険が適用されるのは契約者本人のローン部分のみです。たとえば夫が亡くなった場合、夫のローンは保険で完済されますが、妻のローンはそのまま残ります。
金融機関によっては「連生団信(れんせいだんしん)」という、夫婦のどちらかが死亡または高度障害になった場合に、両方のローンが完済される保険を利用できる場合もあります。
これは夫婦が別々にローンを組むjペアローンではなく、2人で1本のローンを組む「収入合算+連帯債務型」の住宅ローンで選べるケースが多く、万一のときに残された家族の負担を軽くできるメリットがあります。
ただし、連生団信は通常の団信よりも保険料(=金利の上乗せ)が高くなるため、加入するかどうかは費用と安心のバランスを考えて選ぶ必要があります。
▼関連記事:「連生団信」とは?
理由3:手数料や諸費用が増える
住宅ローンを組む際は、金融機関に支払う事務手数料、登記費用、印紙代など、様々な費用が発生します。
夫婦や親子でペアローンを組むと、ローン契約ごとに発生する部分の費用が2倍になる点に留意しましょう。
以下は、単独ローンとペアローンでかかる一般的な諸費用の比較例です。
借入額3,000万円を単独で借りた場合と、ペアローンで1,500万円ずつ借り入れた場合で見ていきます。
費用項目 | 単独借入 3,000万円 | ペアローン 1,500万円×2 |
事務手数料 | 33,000円 | 66,000円 (33,000円×2) |
印紙税 | 20,000円 | 40,000円 (20,000円×2) |
抵当権設定費用 (登録免許税) | 30,000円 (3,000万円 × 0.1%) | 30,000円 (1,500万円×0.1%×2) |
抵当権設定費用 (司法書士報酬) | 50,000円 | 100,000円 |
保証料 | 600,000円 | 600,000円 |
合計 | 733,000円 | 836,000円 |
他にも火災保険料等が初期費用として発生しますが、主な費用でどの程度の差が生じるのかを押さえておきましょう。
ペアローンを利用するメリット
夫婦や親子など複数人で住宅ローンを借りられるペアローンは、どちらかが収入源を失うと返済が難しくなったり、諸々の費用が2倍かかるなど「やめとけ」と言われるデメリットがいくつかあります。
その一方で、ペアローンならではの利点もあります。
以下では、ペアローンを利用するメリットについて詳しく解説します。
単独ローンよりも高額な物件を購入できる
ペアローンでは、夫婦や親子の収入をそれぞれ返済にあてることができるため、単独ローンと比べて高額な物件を購入できる可能性があります。
単独ローンでは、借入額が限られるため、価格に合わせて妥協しなければいけません。
しかし、ペアローンであれば借入額も増えるため、お互いに理想とする物件を購入できる可能性が高くなります。
両者ともに団体信用生命保険(団信)に加入できる
ペアローンでは、借り入れた人全員が団体信用生命保険(団信)に加入することが可能です。
仮に、どちらかが万が一の事態に見舞われても、その人のローン残高が全額免除され、残された家族がもう一方のローンだけを返済すればよい状況になります。
また、収入合算で連帯債務型のローンであれば、「連生団信」への加入も可能です。
通常の団信は加入者のみが対象となりますが、連生団信はどちらかが死亡、もしくは高度障害に陥った場合に、もう片方のローンも保険料で完済してもらうことができます。
それぞれが住宅ローン控除を受けられる
住宅ローン控除とは、住宅ローンを利用して家を購入した場合に、所得税や住民税から一定 額が差し引かれる制度です。
還付されたお金は、ローン返済や生活費に活用できます。
ペアローンでは、親子や夫婦がそれぞれローン契約者となるため、条件を満たせば双方が住宅ローン控除を受けられます。
控除額の上限は個別に計算されるため、夫婦で利用すれば合計で控除額が増えるのも魅力です。
さらに、この控除を活用することで、毎年の税負担が軽減され、特に共働き家庭では長期的な節税効果が期待できます。
これがペアローンの大きなメリットの一つといえるでしょう。
各々で異なる金利プランの住宅ローンが組める
ペアローンでは、一方が固定金利を選択し、もう一方が変動金利を選ぶといった金利プランの組み合わせが可能です。
金利には主に「固定金利」と「変動金利」があります。
固定金利は借入時の金利が返済期間中変わらないため、返済計画が立てやすくなります。
一方の変動金利は、固定金利よりも金利が低めに設定されています。
ただし、市場金利の影響を受けて金利が上昇する恐れもあります。
借り入れから一定期間は固定金利で返済を行い、その後変動金利に移行できるタイプもあります。
例えば、安定した収入を持つ夫が金利の高い固定金利を選び、収入が少ない妻が金利の低い変動金利を選ぶことで、金利上昇のリスクを抑えることができます。
ペアローンを検討する際のチェックポイント
ペアローンを検討する際は、後々のトラブルを避けるためにも、次のポイントをチェックしておきましょう。
- リスクとメリットを正しく理解しているか
- 離婚時の財産分与や持分比率は明確か
- 団体信用生命保険と就業不能保険の内容を把握しているか
- 諸費用・手数料のシミュレーションは済んでいるか
- 専門家に相談する態勢は整っているか
以下で詳しく解説します。
1:リスクとメリットを正しく理解しているか
親子や夫婦で協力して住宅ローンを返済できるペアローンは、双方の負担が軽くなる上に、単独ローンよりも借入額が多く、理想的な物件を購入しやすいといったメリットがあります。
一方で、ペアローンには次のようなデメリットもあります。
- 手数料や団体信用生命保険料(団信)など諸費用が2倍になる
- 一方の借入者が収入を失うと、もう一方の負担が大きくなる
- 離婚時に住宅の所有権や返済義務を巡ってトラブルが起きやすい
これらのメリットとデメリットを正しく理解していないのにペアローンを利用すると、後々トラブルに発展する可能性が考えられるでしょう。
ペアローンを検討する際は、メリットとデメリットを天秤にかけて、自分の状況に合っているかを判断して選ぶことが重要です。
2:離婚時の財産分与や持分比率は明確か?
ペアローンを利用する際は、離婚や関係解消に備えて財産分与や持分比率を明確にしておきましょう。
持分比率は物件を購入する際に支払った資金やローン返済割合を基準に設定されます。
これを明確化することで、住宅の所有権 や売却後の分配割合に関する問題を防げます。
万が一に備えて、購入時に持分比率を登記し、離婚時に住宅をどのように扱うかを事前に話し合っておきましょう。
3:団体信用生命保険と就業不能保険の内容を把握しているか
ペアローンでは、借入れた人それぞれが団体信用生命保険(団信)に加入します。
その際、保障内容が各自で異なる可能性もあるため、事前に双方の内容を確認しておきましょう。
団信に加入することで、一方が死亡または高度障害となった場合、その人のローン残高は団信によって返済されます。
しかし、もう一方のローン残高は保障されません。
団信が適用されない怪我や病気で働けなくなり、収入が減少、もしくは収入源を失う恐れもあるため、万が一の備えとして就業不能保険を検討しましょう。
4:諸費用・手数料のシミュレーションは済んでいるか
ペアローンでは、手数料や諸費用が各ローンごとに発生するため、単独ローンよりも初期費用が増えます。
単独ローンでは微々たる支出であっても、2倍になると大きな負担になってしまいます。
そこで、ペアローンでは具体的にどの部分にどれだけの費用がかかるかを事前に把握しておきましょう。
住宅ローンを借り入れる際は、主に以下のような費用が発生します。
- 事務手数料
- 登記費用
- 印紙代
- 団信保険料(金利に上乗せされるのが一般的)
この他にも費用が発生する可能性は十分にあります。
各費用を事前に試算し、総額を把握しておくことで、予算オーバーを防ぐことができるでしょう。
また、諸費用や金利条件は金融機関によって異なるため、複数の金融機関を比較検討することをおすすめします。
5:専門家に相談する態勢は整っているか
ペアローンに限らずローン商品は多額の資金がかかわります。正しい知識がないままでローンの借り入れや資産運用をすると、後々予期せぬトラブルや負担に繋がる可能性があります。
だからこそ、専門家にアドバイスを求められる環境を整えておきましょう。
- ファイナンシャルプランナー:ローン利用時の返済プラン、金利タイプの設定に関する相談
- 税理士:相続や贈与に伴う税金の対策、不動産売買時の税務手続き
- 不動産会社:購入する物件の適正価格や将来の資産価値、物件選びのアドバイス
- 司法書士:不動産購入時の登記手続きや、ローン契約に関わる法的書類の作成・確認
- 弁護士:離婚や相続、ローンの滞納などでトラブルが発生した場合の法的対応
相談内容を金融機関や不動産会社に伝えることで、それらの分野を得意とする仕業従事者や専門家を紹介してもらえることもあります。
相談のタイミングは、住宅購入を検討し始めた時やローン契約前、生活環境が変わることが確実な時が良いでしょう。
家計状況や希望条件を整理して早めに相談することで、返済計画や税制優遇を最大限に活かすことが可能になります。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回は、「ペアローンはやめとけ」と言われる理由や、ペアローンのメリット・デメリット、後悔しないためのチェックポイントを解説しました。
ペアローンは、夫婦や親子がそれぞれ住宅ローンを組むことで、高額な物件を購入しやすくなります。
しかし、その一方で「ペアローンはやめとけ」といわれる次のようなデメリットも潜んでいます。
- 離婚後に物件の所有権やローン返済を巡る争いが起きやすい
- 一方の収入が途絶えると、もう一方に過度な負担がかかる
- 印紙税や事務手数料などの費用が増える
ペアローンは適切に活用すれば理想の物件を購入することができますが、リスクを理解せず安易に選ぶと後悔する可能性がある点に注意しましょう。
自分たちだけでは判断が難しいと思ったら、専門家のアドバイスを得ながら計画を立て、安心して住宅購入を進めましょう。