空き家は、一般的な居住物件と比べて、放火や災害などのリスクが伴います。
そのため、火災保険へ加入していないと、万が一の際にも補償を受けられず、状況によっては責任問題に発展する恐れもあります。
そこで本記事では、空き家に火災保険をかけるべき理由や具体的な補償内容を詳しく解説します。
空き家における火災保険の加入について
空き家に火災保険をかけるうえで、いくつかの重要事項があります。火災保険に加入する前に理解しておきましょう。
- 空き家だと一般物件の火災保険の加入対象外になるケースが多い
- 企業分野火災保険で加入することになる
空き家だと一般物件の火災保険の加入対象外になるケースが多い
一般的な火災保険は、「住居として使用されること」を前提にしているため、空き家だと一般物件の火災保険の対象外になるケースが多いです。
特に、長期間人が住んでおらず、定期的な管理もされていない場合は、火災や損害のリスクが高まると判断され、契約を断られることがあります。
空き家は放火の標的になりやすいほか、漏電や老朽化による火災リスクもあります。また、水道管の破裂などが発生しても発見が遅れ、被害が拡大する可能性も高まります。
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企業分野火災保険で加入することになる
企業分野火災保険とは、主に法人や事業者向けに提供される火災保険の総称です。個人向けの住宅用火災保険とは異なり、事業用建物や投資用不動産など、企業が所有・管理する建物を対象としています。
前述のとおり、空き家は火災や損害リスクが大きいため、企業向けの火災保険に加入するのが一般的です。例えば、損保ジャパンでは、個人用の火災保険では空き家は対象外とされていますが、企業分野の火災保険であれば加入できるとしています1。
ただし、空き家の状態や管理状況によっては、企業向け火災保険でも加入が難しい場合があるため、保険会社に確認することが重要です。
空き家でも火災保険に加入すべき4つの理由
空き家を所有している場合、火災保険に加入するかどうかは任意です。ただし、火災保険に加入していないと以下のようなリスクが伴います。
- 放火のリスクがあるから
- 近隣への延焼リスクがあるから
- 漏電による火災の可能性があるから
- 自然災害による損害の可能性があるから
リスクを回避するためにも火災保険の加入を検討しましょう。
放火のリスクがあるから
空き家は放火の標的になりやすく、一度火災が発生すると建物の損壊だけでなく、近隣にも被害が及ぶ恐れがあります。特に人の出入りが少ない空き家は、犯罪に巻き込まれるリスクが高まるため、適切な管理と火災保険の加入が必要です。
火災保険に加入すれば、万が一の際の経済的負担を軽減できます。ただし、空き家の管理状況によっては補償が制限される場合があるため、事前に保険の内容を確認しておきましょう。
また、空き家を適切に管理しないと、自治体から「特定空き家」に指定される可能性があります。
特定空き家に指定されると、住宅用地の固定資産税の特例が適用されず、税額が大幅に増える場合もあります。
近隣への延焼リスクがあるから
木造住宅の空き家は火災の被害が拡大しやすく、特に木造住宅が密集する地域では延焼のリスクが高いです。
万が一、空き家から出火し隣家に被害を与えた場合、失火責任法により、所有者が損害賠償責任を問われる可能性があります。(重大な過失・故意でなければ責任は問われません2。)
そのため、空き家でも火災保険に加入し、近隣への被害に備えることが大切です。
漏電による火災の可能性があるから
長期間使用されていない家では、電気配線の劣化や湿気の影響で絶縁体が傷み、漏電やショートが発生しやすくなります。この影響で配線が過熱し、周囲の可燃物に引火して火災につながる恐れがあります。
また、ネズミなどの動物が配線をかじることで被覆が剥がれ、ショートすれば火災の原因となるでしょう。
さらに、空き家は人の目が届きにくく、異常の発見が遅れるため、被害が拡大しやすい傾向があります。こうしたリスクに備えるため、空き家専用の火災保険に加入し、定期的な点検やメンテナンスを行うことが重要です。
自然災害による損害の可能性があるから
空き家は管理が行き届かないと、台風や大雨などの自然災害で損害を受けやすくなります。
例えば、強風で屋根が飛ばされ たり、大雨で浸水被害を受けたりする場合などです。特に老朽化した建物は、地震や台風の影響を受けやすいため注意が必要です。
火災保険に加入すれば、風災や水災による損害を補償できる場合があります。
火災保険の補償内容
火災保険に加入すると、以下の補償を受けられます。
- 建物や家財の損害補償
- 解体・片付け費用の補償
- 近隣への見舞金の支給
- 風災や水災の補償
- 盗難や破損の補償
それぞれを詳しく解説します。
建物や家財の損害補償
火災保険は、火災や自然災害による建物や家財の損害を補償します。建物に関しては、壁や屋根などの構造部分が補償対象となり、台風や落雷による破損なども補償されます。ただし、水災や盗難などは契約内容によって補償が異なります。
家財の補償は「家財保険」を含めた契約が必要です。家具や家電が火災や風災で損害を受けた場合、建物のみの契約では補償されません。
さらに、火災保険の支払いは「修理費の全額」ではなく、損害額に応じて保険金額の範囲内で支払われます。
解体・片付け費用の補償
火災や台風などで建物や家財が損害を受けた場合、火災保険には「残存物片付け費用」が含まれていることがあります。この費用は、事故による損害に対して保険金が支払われる場合に適用され、焼け残った建物や家財の撤去、清掃、搬出などの費用を補償します。
補償額は支払われる損害保険金の10%が上限とされますが、保険会社ごとに定められた最大金額の範囲内で支給されます。例えば、損害保険金が1,000万円の場合、最大100万円まで補償される可能性があります。
この補償を受けるには、被害状況の写真、修理見積書などの書類を保険会社に提出し、認定を受ける必要があります。
近隣への見舞金の支給
火災保険は、火災による自宅や所有物の損害を補償する保険ですが、原則として隣家への損害を直接補償するものではありません。それでも、「類焼損害補償特約」が付帯されていれば、自宅の火災が原因で隣家に被害を与えた際に、一定額の補償を受けられます。
また、火災による損害賠償責任が発生した場合、「個人賠償責任保険」によって補償されるケースもあります。火災保険の補償範囲は契約内容によって異なるため、契約時に詳細を確認しておきましょう。
風災や水災の補償
火災保険は火災だけでなく、台風や豪雨などによる被害も補償します。特に、風災補償と水災補償は自然災害による損害をカバーする重要な補償内容です。
風災補償は、強風や台風で建物が損傷した場合に適用されます。例えば、台風で屋根が壊れたり、飛来物で窓ガラスが割れたりしたケースが該当します。
ただし、免責金額が設定されている場合があり、小さな損害では保険金が支払われないことがあります。また、経年劣化や老朽化による損傷は補償の対象外です。
水災補償は、豪雨や台風による洪水や土砂崩れなど、水が原因で発生した被害を補償します。例えば、川の氾濫で家が浸水したり土砂が家に流れ込んだりした場合が対象です。
ただし、保険金が支払われるには、「建物の損害額が評価額の30%以上」または「床上浸水・地盤面から45cm以上の浸水」 などの条件を満たす必要があります。
盗難や破損の補償
空き巣被害で窓ガラスが割られた場合、火災保険の「盗難補償」によって修理費が補償される場合があります。ただし、契約内容によっては対象外となるため、事前の確認が必要です。
また、家具の移動中に誤って壁に穴を開けた場合は、火災保険ではなく、破損・汚損補償特約の有無、家財保険・個人賠償責任保険の適用範囲によって異なります。
空き家の火災保険の主な選び方2選
空き家の火災保険の選び方は主に以下の2つがあります。
- 安全性を強めたい:災害や盗難などがセットになった保険を選ぶ
- 保険料を安くしたい:保険を限定的にして安くする
金銭状況や空き家の状況を考慮したうえで、ご自身に合った火災保険へ加入しましょう。
安全性を強めたい:災害や盗難などがセットになった保険を選ぶ
火災や自然災害、盗難などがセットになっている保険の場合、台風による屋根の損傷や空き巣による家財の盗難など、さまざまなリスクに対応できます。
特に、空き家は人の出入りが少ないため、被害が発見されにくく、被害が大きくなる可能性があります。そのため、複数のリスクをカバーする保険を選ぶことで安心感が高まるでしょう。
保険料を安くしたい:保険を限定的にして安くする
補償内容を火災・落雷・爆発などの基本補償に限定し、風災や水災、盗難補償を外せば、保険料を安くできます。さらに、家財がない場合は家財補償を外すことで無駄なコストを削減できます。
ただし、沿岸部では台風被害が多く、風災を外すと損害時の自己負担が大きくなるため、地域のリスクを考慮することが重要です。
また、窓ガラスの単独破損などは、風災や盗難による被害がない限り対象外となるため、補償を削る際は慎重に判断しましょう。
空き家の火災保険の費用相場
空き家の火災保険料は、建物の構造や築年数、補償内容によって異なります。特に木造住宅は保険料が高くなる傾向があります。相場は一概には言えませんが、保険会社によって年間数万円程度になるのが一般的です。
ただし、空き家向けの火災保険は一般の住宅用火災保険よりも保険料が高くなる傾向があり、場合によっては1.5倍以上になる場合もあります。また、保険会社によっては、管理状況や防犯対策が不十分な場合、補償範囲が制限されたり引き受け条件が厳しくなったりすることがあります。
そのため、定期的な点検や清掃、防犯対策を行い、適切な管理を心がけることが大切です。
また、保険料や補償内容は保険会社ごとに異なるため、複数の会社から見積もりを取り、比較検討しましょう。
空き家の火災保険に加入する際の注意点4選
空き家の火災保険に加入する際は以下の点に注意しましょう。
- 補償内容の範囲を確認する
- 複数の保険会社と比較する
- 地震保険の適用外に注意する
- 親から空き家を相続した場合は保険会社に連絡する
それぞれを詳しく解説します。
補償内容の範囲を確認する
空き家向けの火災保険に加入する際は、火災だけでなく、風災や水災、盗難などの補償範囲を確認しましょう。空き家 は補償内容が限定されることが多く、特に盗難補償は対象外になることが一般的です。
ほかにも、台風による屋根の損壊や大雨による浸水被害は補償されるケースもありますが、契約内容によって異なります。また、地震による損害は火災保険では補償されず、地震火災も対象外のため、地震保険の加入を検討すると安心です。
複数の保険会社と比較する
保険会社によって補償内容や保険料が異なるため、複数の見積もりを取り、最適なプランを選ぶことが大切です。
例えば、ある保険会社では盗難や破損に対する補償が手厚い一方、別の会社では保険料が割安である場合もあります。
地震保険の適用外に注意する
空き家の火災保険に加入する際、地震による被害は通常、火災保険の補償対象外です。そのため、地震や津波による損害に備えるには、別途地震保険への加入が必要です。
ただし、地震保険は居住用の建物を対象としているため、空き家の場合、加入できないことがあります。特に、今後も使用予定のない空き家、店舗や事務所などの一般物件と見なされる建物は、地震保険の対象外となる可能性が高いです。
親から空き家を相続した場合は保険会社に連絡する
空き家を相続した場合、住居としての使用ではなくなるため、契約内容の変更が必要になる場合があります。
連絡を怠ると、万が一の際に保険金が減額されたり、支払われなかったりする可能性があるため注意が必要です。相続空き家の活用予定がない場合は早めに売却や解体を検討すると、維持費やリスクを抑えられます。
まとめ
空き家における火災保険の加入について解説しました。空き家で火災保険に加入する場合、一般的な火災保険ではなく、企業分野火災保険に加入することになります。
企業分野火災保険は一般的な火災保険よりも高額になるため、複数の保険会社と比較して事前に費用を把握しておくことが大切です。
空き家は居住物件と比べて、放火や風災、盗難などのリスクが大きいため、火災保険への加入が重要です。万が一、保険に加入していない状態で火災の被害に遭ったり、近隣へ損害を与えたりした場合は、多額の出費となる可能性もあります。
空き家は一般的な物件よりも多くのリスクが伴います。空き家を所有している方、もしくは空き家を所有する予定のある方は、ぜひこの記事を参考にして火災保険への加入を検討してみてください。