生産緑地とは、都市部の緑地空間を保全するために指定された農地です。
しかし、近年は所有者の高齢化や後継者不足により、生産緑地の売却を検討する人が増えています。
ただし、生産緑地は都市計画で指定されたエリアであるため、通常の農地とは売却方法が大きく異なります。
では、生産緑地はどのようにすれば売却できるのでしょうか。
この記事では、生産緑地の売却方法について解説します。
生産緑地とは
生産緑地とは、都市計画法に基づいて指定された、市街化区域内にある農地のことです。都市の緑地空間の保全、農産物の供給、災害時の防災機能など、様々な役割を担っています。
市街化区域(主に住宅地や商業地として利用することを前提にしたエリア)内にある農地は、営農が制限されるわけではありません。しかし、一般的な農地はいつでも宅地化が可能なため、固定資産税が宅地並に課税されます。
一方、生産緑地に指定された農地には税制面での優遇措置があり、過度な負担なく営農を持続することができるのです。
生産緑地に指定された農地の売却方法を知るために、まず生産緑地の特徴を押えておきましょう。
生産緑地に指定されるための要件
農地が生産緑地として指定を受けるためには、次のような要件があります。
- 市街化区域内にあること……生産緑地は、都市計画法上の市街化区域内に位置している必要があります。
- 原則として500平方メートル以上の一団の農地であること……自治体によっては条例で300平方メートル以上に緩和されている場合があります。
- 土地所有者等の同意があること……生産緑地に指定されるためには、土地所有者や関係者の同意が必要です。
500平方メートル以上の一団の農地は、他人の所有している隣接農地と合わせて要件を満たす場合でも可能です。たとえば200平方メートルの農地であっても、隣接する農地が300平方メートル以上あれば、一団の農地として生産緑地の指定を受けることができます。
ただし、隣接の農地が生産緑地の指定を解除されると、当該農地は要件から外れるため、所有者の意思と関わりなく自動的に指定解除の手続きが進められます。
生産緑地の行為制限
生産緑地は、都市の緑地空間の保全などを目的として指定されるため、建築物の建設や宅地造成などが制限されます。農業以外の目的で建物を建てたり、資材置き場や駐車場としての利用は制限されています。
また、生産緑地は都市計画によって指定されるため、所有者の意思だけで指定を解除することはできません。
固定資産税の減税
市街化区域内にある農地が生産緑地に指定されると、固定資産税が減税されます。
生産緑地に指定された農地は、市街化調整区域内の農地と同様に税負担の調整措置が講じられます。
税額は自治体によって異なりますが、たとえば1,000平方メートルの農地に対して、固定資産税は数千円程度となります。
一方、生産緑地に指定されていない農地の場合、宅地と同じ取り扱いとなるため、1,000平方メートルの農地に対して、数十万円の固定資産税が課せられることがあります。
このように、生産緑地の農地と一般的な農地では、固定資産税に大きな違いがでるのです。
相続税納税猶予制度
生産緑地の指定を受ければ、相続税納税猶予制度を活用することができます。
相続が発生した場合、相続人は被相続人の死亡を知った翌日から10か月以内に相続税を納めなければなりません。相続税が高額になると、納税資金の確保に頭を悩ませる相続人も少なくありません。
特に土地が相続財産の大半を占める場合、納めるべき現金が手元にないことがあります。
しかし、相続税納税猶予制度を利用すれば、生産緑地にかかる相続税額のうち、一定額を超える部分の納税が猶予されるのです。
例えば、1,000平方メートルの生産緑地でも数十万円程度に収えられ、相続税を大幅に軽減できる効果があります。
さらに、この制度を利用して営農していた相続人が亡くなった場合は、猶予された相続税を納める必要がなくなります。
生産緑地の売却が認められるケースとは
生産緑地は、都市の貴重な緑地空間として都市計画に基づき決定され、その保全が優先されています。
生産緑地法によって、農地としての利用が義務付けられており、原則として売却は制限されています。
ただし、一定の条件を満たすことで、例外的に売却が認められることがあります。
30年経過
生産緑地の指定から30年が経過した場合、所有者は市町村長に買い取りの申し出をすることができます。
市町村や農業関係者が買取を希望しない場合、生産緑地の指定は解除され、農地の売却や転用が可能です。
また、30年が経過した時点で、引き続き農地としての保全が必要と判断された場合、「特定生産緑地」として再指定されることがあります。
特定生産緑地とは、生産緑地の機能をさらに維持・継続するために10年間の延長指定を受けた農地のことです。
特定生産緑地に指定された場合も、10年が経過すると再び買取の申し出ができるようになります。
もし買取希望者がいなければ、特定生産緑地の指定も解除され、売却や転用が可能となります。
農業従事者の死亡・病気
主たる農業従事者が死亡したり、病気等で農業を継続できなくなったりした場合、所有者は市町村長に買い取りの申し出をすることができます。買い取る者がいない場合、指定は解除され、売却や転用が可能になります。
例外的な許可
公園や道路などの公共施設の用地として利用する場合、例外的に売却が許可されることがあります。また、農林漁業の振興・農林漁業の振興に資する事業のために利 用する場合に、許可されることがあります。
- 公共施設としての活用事例:喜多見農業公園(世田谷区)
- 農林漁業の振興に資する事業の活用事例:アグリス成城(世田谷区)
生産緑地を売却するための手続きの流れ
生産緑地の解除要件が整った場合でも、売却には所定の手続きが必要です。売却をするために、どのように手続きをすればいいのか、流れを紹介していきましょう。
買取申し出の申請
市町村の農業委員会に買取申し出の申請をします。申請には、解除要件に該当することを証明する書類が必要です。農業従事者が死亡した場合は、戸籍謄本や除票を提出します。病気などで農業に従事できなくなった場合は、医師の診断書を提出します。
買取希望者の照会
市町村が買取希望者を公募します。まず1カ月間、市町村内の各部署に対して、公共施設用地としての利用について意見を照会します。その後2カ月間、JAなどを通して農業従事者を中心に斡旋します。
しかし、農地の所有者が制限解除後の売却先を決めている場合、売却希望額が高額になることが多いため、実際に農業従事者が買取を申し出ることはほとんどありません。
行為制限の解除
買取希望者が現れない場合には、市町村が生産緑地の行為制限を解除します。これにより、農地を宅地にすることが可能になり、建物を建てることができます。
農地転用の届出
市街化区域内で、 農地以外の目的(住宅用地や駐車場)に転換する「農地転用」をする際は届出をします。
届出期間は特に定められていません。
売買契約の締結
買主と売買契約を締結します。
都市計画の指定解除
生産緑地としての行為制限は解除されていますが、都市計画法上に基づく生産緑地の指定は持続されたままです。
多くの自治体では、指定解除の都市計画決定を1年間分まとめて都道府県の都市計画審議会にはかります。
そのため、行為制限解除から数ヶ月経過した後に都市計画法上の指定が解除されることになります。
生産緑地売却の際の注意点
生産緑地を売却する際に注意すべき点について解説していきましょう。
固定資産税の減免措置が解除される
生産緑地の固定資産税は、減免措置により低い税額でしたが、指定が解除されると宅地並みの税額になります。
ただし、必ずしも制限が解除された翌年の固定資産税に反映されるわけではありません。
固定資産税は1月1日時点の所有者に課せられる税金です。固定資産税の減免措置は、行為制限解除によってすぐに打ち切られるのではなく、都市計画の指定が解除された翌年から宅地並みに戻されます。
そのため、都市計画決定のタイミングによっては、宅地になった翌年も減免措置がそのまま適用されていることもあります。
多くの自治体では、11月頃に開催される都市計画審議会に合わせて生産緑地の指定解除の都市計画決定を諮り、その翌年の固定資産税から宅地並み課税が適用されることが多いです。
相続税の 納税猶予が打ち切られる
相続税の納税猶予は、農業を営んでいた被相続人から農地等を相続した人が、引き続き農業を営む場合に適用されます。
しかし、生産緑地の農地を売却した場合、農業を継続するという要件を満たさなくなるため、相続税の納税猶予は打ち切りとなります。
納税猶予が打ち切りとなった場合、猶予されていた相続税額に加え、猶予期間に応じた利子税(年3.6%)が課税されます。
転用後の建築制限を確認する
生産緑地を売却する際には、その農地が建築基準法の接道要件を満たしているかを確認しておくことが重要です。
農地の場合、幹線道路から非道路(畦道)のみで接続していることがあり、宅地化してもそのままでは家が建てられないことがあります。
そのため、売却先がなかなか見つからなかったり、安く買い叩かれたりすることがあります。
接道要件を満たさない生産緑地を売却する際には、建築士や不動産会社などの専門家と相談し、有利な条件で売却できるよう対策を講じてから進めた方が、損失を抑えられます。
まとめ
生産緑地とは、都市計画法に基づいて指定された、市街化区域内にある農地のことです。
農地が生産緑地として指定を受けるためには、市街化区域内にあることや500平方メートル以上の一団の農地であることが要件になります。
生産緑地に指定されると、そのエリアで建築や造成行為はできません。
また、生産緑地を売却するためには、買取申し出を申請する必要があります。買取申し出ができるのは、指定後30年を経過したものの他に、主たる農業従事者が死亡や病気になったケースです。
買取申し出を申請して3カ月の間、買取希望者が現れなければ、市町村が行為制限の解除をします。
その後は、一般的な不動産と同様に売却することが可能です。
ただし、固定資産税が宅地並みに課税されることや、相続税の納税猶予が打ち切られることについて、心構えが必要です。