相続税における現金と不動産の評価額の違い
不動産を取得することで得られる相続税の節税効果にはさまざまなものがありますが、単に現金で不動産を取得するだけで得られる効果として、現金と不動産との評価額の違いがあります。
具体的には、土地については相続税路線価を用いて、家屋については固定資産税評価額を用いて算出します。
土地:相続税路線価
相続税の算出において、土地の評価額は相続税路線価を用いて計算されます。
例えば、ある道路の相続税路線価が100,000円/㎡で、この道路についた土地の面積が200㎡であれば、100,000円/㎡×200㎡=20,000,000円と計算されます。
相続税路線価は、「国税庁」が「毎年7月1日」に発表するのですが、1年間の間の地価の変動により、納税者間で不公平が生じないように、概ね時価の80%程度を目安に設定することとされています。
これにより、例えば、相続税の節税対策として1億円の土地を購入した場合、その評価額は8,000万円で計算され、2割分の節税効果を得られることとなります。
家屋:固定資産税評価額
一方、不動産のうち家屋の相続税評価額は「固定資産税評価額」を用いて算出します。
固定資産税評価額の更新が3年に1回となっているのは、市町村内にある全ての不動産を評価するのに大変な労力がかかるからであり、3年の間に起こる地価の変動を盛り込んでいません。
このことにより、納税者間で不公平が生じないよう、固定資産税評価額は時価の概ね70%程度を目安に定めることとされています。
つまり、相続税の節税対策として1億円の家屋を取得した場合、その価値は7,000万円程度で計算され、3割分の節税効果を得られることとなります。
土地における倍率方式による評価
路線価は国税庁が定めるものですが、日本全国全ての地域に設定されているわけではありません。
郊外など、路線価の設定されていない地域においては「倍率方式」と呼ばれる方法で土地の評価額が算出されます。
倍率は国税庁の上記ページで確認できますが、1.0倍~1.2倍程度に設定されている場合が多く、固定資産税評価額が時価の70%程度ですから、概ね70~80%程度の評価額、2割~3割程度の節税効果を得られることになります。
相続税の計算方法
相続時の不動産評価額の算出方法が分かったら、相続税の計算方法を確認しましょう。
相続税の計算は、単純に相続税の対象となる資産に対して税率をかけるのとは異なり、いくつかの計算過程が必要となります。
以下、それぞれについて解説していきます。
正味遺産額の把握
まずは土地は相続税路線価、建物は固定資産税評価額にて不動産評価額を把握します。
また、不動産以外に現金や株式などもっている場合は、それらの合計額から借金や葬儀費用などマイナスの資産を差し引いて遺産額を算出します。
例えば、不動産1億円の他、現金2,000万円、株式1,000万円の相続財産があり、一方でマイナスの資産として借金が1,000万円あるのと、葬儀費用として200万円支出した場合には、正味遺産額を以下のように計算します。
正味遺産額の計算例
現金 | 2,000万円 |
不動産 | 1億円 |
株式 | 1,000万円 |
総遺産額 | 1億3,000万円 |
借金 | △1,000万円 |
葬儀費用 | △200万円 |
正味遺産額 | 1億1,800万円 |
基礎控除を差し引いて課税遺 産総額を求める
正味の遺産額を計算したら、相続税の基礎控除を差し引き、課税遺産総額を求めます。
相続税の基礎控除は、「3,000万円+(法定相続人の数×600万円)」となっています。
例えば、妻と子2人が法定相続人の場合、3,000万円+(3人×600万円)=4,800万円が基礎控除額です。
このため、先ほど計算した正味の遺産額から基礎控除額を差し引くと、1億1,800万円-4,800万円=7,000万円が課税遺産総額となります。
基礎控除額の計算における「法定相続人の数」には相続放棄した人も含まれます。
先ほどの例で、妻と子2人のうち1人が相続放棄した場合でも基礎控除額は変わりません。
法定相続分で相続したものとして相続税の総額を計算する
相続税の計算では、実際には分割割合が異なっていたとしても、法定相続分で分割したものとして税金を計算します。
法定相続分で分割する
まずは課税遺産総額をそれぞれの法定相続分で分割します。
妻 | 7,000万円(課税遺産総額)×1/2(法定相続分)=3,500万円 |
長男 | 7,000万円(課税遺産総額)×1/4(法定相続分)=1,750万円 |
次男 | 7,000万円(課税遺産総額)×1/4(法定相続分)=1,750万円 |
法定相続分に応じた各人の相続税を計算する
次に、法定相続分に応じた各人の相続税額を以下の速算表を用いて計算します。
相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
上記速算表で各人の相続税額を計算すると以下の通りです。
法定相続分に基づいた各人の相続税額
妻 | 3,500万円×20%-200万円=500万円 |
長男 | 1,750万円×15%-50万円=212.5万円 |
次男 | 1,750万円×15%-50万円=212.5万円 |
各人の相続税額を足し合わせて「相続税の総額」を求める
最後に、法定相続分に基づいた各人の相続税額を足し合わせて、相続税の総額を求めます。
計算例の場合、妻500万円+長男212.5万円+次男212.5万円=925万円となります。
なお、相続放棄者がいる場合、相続放棄したとしても「放棄はなかっ たもの」として扱われます。
各人の納税額を計算する
相続税の総額を求めたら、実際の相続財産の配分割合に応じて納税額を計算します。
例えば、妻が40%、子どもがそれぞれ30%だった場合、それぞれの納税額は以下のようになります。
各人の納税額
妻 | 925万円×40%=370万円 |
長男 | 925万円×30%=277.5万円 |
次男 | 925万円×30%=277.5万円 |
このように、相続税の計算では一度相続税の総額を求め、そこから各人の配分割合に応じて納税額を計算する必要があります。
複雑ではありますが、自分で計算することも可能なので、相続を控えている方は一度シミュレーションしてみるとよいでしょう。
なお、この章の最後に法定相続分について簡単に説明しておきたいと思います。
法定相続分とは
法定相続分とは、法律に定められた相続財産を受け取る割合のことです。
法定相続分は、以下のように割合が定められています。
相続人の状況 | 配偶者 | 配偶者以外 | |
– | 配偶者のみの場合 | 全額 | – |
第1順位 | 配偶者と子がいる場合 | 1/2 | 子1/2 |
第2順位 | 配偶者と親がいる場合 | 2/3 | 親1/3 |
第3順位 | 配偶者と兄弟姉妹がいない場合 | 3/4 | 兄弟姉妹1/4 |
法定相続分は、配偶者以外の相続人について、子がいる場合は子(第1順位)が対象になり、子がいない場合で親がいると親(第2順位)が対象に、子も親もいなくて兄弟姉妹もいると兄弟姉妹(第3順位)が対象になるといった仕組みになっています。
また、配偶者以外の相続人については、同順位の相続人が複数いる場合、その人数で法定相続分を分けることになります。
例えば、いくつか具体例を挙げると以下のようになります。
妻と子2人 | 妻1/2 | 子1/2×1/2=1/4ずつ |
妻と両親 | 妻2/3 | 親1/3×1/2=1/6ずつ |
兄弟姉妹4人のみ | – | 兄弟姉妹1/4ずつ |
不動産の相続税を下げる方法
不動産は、現金と比べて評価額を下げることができることをお伝えしましたが、それ以外にいくつかの方法を活用することで、相続税を下げることができます。
それぞれについて、見ていきましょう。
※なお、被相続人の生前に対策できるものを<生前>、死後の対策となるものを<相続後>と表記しています。
<生前>養子縁組するなどして基礎控除額を拡大する
相続税の基礎控除額は、法定相続人の数に応じて以下のように定められている旨をお伝えしました。
このことから、生前に養子縁組するなどして法定相続人の数を増やせば、基礎控除額を大きくすることができます。
ただし、いくつかの注意点があります。
養子を法定相続人の数に含める際の制限
養子を法定相続人の数に含める場合、被相続人(亡くなった方)に実子がいる場合1人まで、実子がいない場合2人までが上限となっています。
実子 | 養子の数の上限 |
あり | 1人まで |
なし | 2人まで |
実子と認められる養子
また、以下のような要件を満たす養子は実子として数えることができます。
- 特別養子縁組で養子となった人
- 配偶者の実子で養子となった人
- 結婚前に配偶者と特別養子縁組を組んだ養子で、結婚後に被相続人(亡くなった方)の養子となった人
なお、養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組があり、以下のように異なります。
特別養子縁組 | 普通養子縁組 | |
目的 | 子どもの福祉や利益を図るため | 親のため(家存続のため等) |
養親 | 夫婦のいずれかが25歳以上の婚姻している夫婦 | 成人以上/独身可 |
養子の年齢 | 申立て時に6歳未満 | – |
実父母の同意 | 必要 | 親権者の同意が必要 |
養子縁組の理由 | 実父母による教育が困難 子どもの監護が不当 | – |
手続き | 6カ月の試験養育期間と家裁の審判が必要 | 契約により成立 |
離縁 | 養親からの離縁不可 | いつでも可 |
実父母との血縁関係 | 終了する | 存続する |
戸籍 | 実子 | 養子 |
一般的に、「基礎控除額を引き上げる」目的で養子縁組するのであれば、普通養子縁組を選択することになるでしょう。
生命保険金や死亡退職金の非課税限度額も増える
法定相続人の数が増えると、相続税の基礎控除額だけでなく、以下の3項目について節税効果を期待できます。
- 生命保険金の非課税限度額
- 死亡退職金の非課税限度額
- 相続税の総額の計算
生命保険金の非課税限度額は、死亡保険金に相続税がかかる際に設けられるもので、以下の計算式で求められます。
また、死亡退職金についても非課税限度額がありますが、こちらも生命保険金の非課税限度額と同様、以下のように計算されます。
さらに、相続税の計算では、計算過程で相続税の総額を計算しますが、このとき、相続財産を法定相続人のそれぞれの相続分に一度分けて計算します。
基本的に、相続税は相続する額が大きい程税率も高くなるため、法定相続人の数が増えて分ける数が増えれば、それだけ税率が下がる可能性は高くなります。
法定相続人を増やせば、相続税の基礎控除額だけでなく、これら全てについて節税効果を得られるということになります。
<生前>賃貸に出して評価減を受ける
不動産は他人に貸して家賃収入を得ることもできます。
他人に貸した状態の不動産を相続した場合、相続人は新しく賃貸オーナーとなりますが、自分ですぐに住めるわけではありません。
このことから、相続時点で他人に貸していた土地は、そうでない土地と比べて評価減を受けることができます 。
ここでは、話を分かりやすくするため以下の3つに分けてそれぞれの評価額の計算方法を見ていきましょう。
- 自己所有の土地の上に自己所有の家が建っている場合:自用地
- 自己所有の土地を他人に貸し出し、その上に他人の建物が建っている場合:貸宅地
- 自己所有の土地の上に自己所有の建物があり、建物を他人に貸している場合:貸家建付地
自用地
自用地は、自己所有の土地の上に自己所有の家が建っているケースです。
普通のマイホームを相続したと考えるとよいでしょう。
この場合、通常通り不動産の評価を行います。
貸宅地
貸宅地は、自己所有の土地を他人に貸し出し、その上に他人の建物が建っているケースです。
土地を借地していると考えるとよいでしょう。
貸宅地は以下のように計算します。
なお、借地権割合は土地のあるエリアによって異なり、路線価図や倍率表で確認できます。
例えば、土地の評価額が1億円、借地権割合が70%のエリアであれば、貸宅地の評価は以下のようになります。
貸家建付地
貸家建付地は、自己所有の土地の上に自己所有の建物があり、建物を他人に貸しているケースです。
戸建てを他人に貸したり、賃貸アパートや賃貸マンションを所有していたりするケースを考えるとよいでしょう。
貸家建付地は以下のように計算します。
借地権割合はエリアごとに異なる数値が定められていますが、借家権割合は国税庁が公示する財産評価基本通達によって一律30%と定められています。
また、賃貸割合は建物のうちの一部を自己居住用としていたような場合にその分を差し引くものです。
例えば、土地の評価額を1億円、借地権割合を70%、賃貸割合を100%とした場合、以下のように計算できます。
このように、建物を他人に貸している場合、不動産の評価額よりさらに2割程度評価額を減らすことができる計算となりました。
<生前>生前贈与を活用する
相続財産は、原則として、被相続人(亡くなった方)の相続発生時の財産に対して課される税金です。
このため、生前から財産を他人に贈与しておくことで相続財産を減らすことが有効となることがあります。
以下、それぞれを活用した節税対策について見てみましょう。
暦年課税の110万円基礎控除を活用する
贈与税には毎年110万円の基礎控除枠が設けられています。
つまり、1年間につき110万円までであれば贈与しても課税されないで済む