不動産の名義変更をする方法として、生前に選択できるのが、譲渡と贈与です。それでは、親から子に不動産を引き継ぐ場合、どちらの方法を選択すればいいのでしょうか。いずれのケースも税金が発生しますが、経済状況や家族構成などによって、選択すべき方法は異なってきます。
この記事では、譲渡と贈与の違いを明らかにするとともに、手続き上の注意点や関連する税金について解説をします。
不動産を渡す(名義変更する)方法は大きく分けて3つ
不動産を他者に渡す方法は、大きく分けて「譲渡」「贈与」「相続」の3種類に分けられます。それぞれの特色を挙げると、次の通りです。
- 譲渡……売買や交換のように何らかの対価を受け取って不動産の権利を譲り渡すこと
- 贈与……無償で不動産の権利を譲り渡すこと
- 相続……亡くなった人の不動産の権利を特定の人が引き継ぐこと
不動産の名義変更は、法務局に必要書類を提出して手続きを進めますが、無条件に受理されることはありません。必ず、不動産移転の「原因」とそれを裏付ける資料が必要です。また原因に基づく、税金対策も必須です。
不動産の譲渡をするにあたって、どの方法を選択すればいいのか。その手掛かりをつかむために、それぞれの方法の違いを比較してみましょう。
「譲渡」と「贈与」の違い
贈与とは、親族や第三者に不動産を無償で譲り渡すことをいいます。法律上では、贈与は、無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって効力を生じます(民法549条)。この場合の意思表示と承諾は、書面に限らず口頭でも可能です。
一方、譲渡は対価を受け取って不動産を譲り渡すことをいいます。つまり、譲渡と贈与は対価の有無に大きな違いがあるのです。
不動産会社を仲介して不動産を売却する場合などが譲渡にあたります。親子間であっても譲渡は可能ですが、有償で売買をしたことを示すために、一般の売買と同様に売買契約書を締結するとともに、銀行の振込履歴などにより、金銭が動いた痕跡を残すことが求められます。
「相続」と「贈与」の違い
相続とは、ある人が亡くなったときに、その財産を特定の人が引き継ぐことをいいます。さらに相続の方法によって、「法で定められた配分による相続(法定相続)」「遺言による相続」「遺産分割協議による相続」の3種類に分類できます。
一方、贈与は、生前に本人の意思で特定の人に無償で譲ることをいいます。つまり、相続と贈与は、財産の譲り渡しが所有者の死後なのか生前なのかに違いがあるということです。また、贈与は確実に意中の人に不動産を渡せるのに対して、相続の場合、遺言を残さない限り、不動産が誰のものになるかは、判然としません。
不動産を「譲渡」するときのポイント
不動産における譲渡とは、売却や交換のように何らかの対価を受け取って土地や建物の権利を譲り渡すことをいいます。たとえ親子であっても、対価が支払われれば売買とみなされます。ここでは不動産を譲渡する際の注意点について見ていきましょう。
注意点:「所得税」と「住民税」を支払う必要がある
所有している土地や建物を売却して得た利益を譲渡所得といいます。譲渡所得には、一般的に「譲渡所得税」と呼ばれる所得税や住民税がかかります。
「所得税」と「住民税」の計算方法
不動産の譲渡所得にかかる所得税と住民税の税額は、次の計算式で課税の対象になる譲渡所得金額を求め、所有期間に応じた税率を乗じて計算します。
「収入金額」は売却金額、「取得費」は購入したときの金額とそのと きの諸費用の合計、「譲渡費用」は売ったときの諸費用です。
税率は、「長期譲渡所得」になるか、「短期譲渡所得」になるかによって異なります。
土地や建物を売った年の1月1日現在で、その土地や建物の所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」に、5年以下の場合は「短期譲渡所得」に分類されます。それぞれの税率は次のとおりです。
区分 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
長期譲渡所得 | 15% | 5% |
短期譲渡所得 | 30% | 9% |
投機的な不動産の売買を抑制するために、短期譲渡所得の税率が高く設定されています。
不動産を「贈与」するときのポイント
不動産における贈与とは、無償で土地や建物の権利を譲り渡すことをいいます。不動産の名義人が存命の間に不動産を親族や第三者に贈る「生前贈与」の方法が一般的です。
また遺言により法定相続人以外の第三者へ不動産を贈与する「遺贈」という方法が用いられることもあります。ここでは、不動産を贈与する際の注意点について解説します。
注意点①贈与税を納める必要がある
不動産は一定の価値があるため、贈与があれば基本的に贈与税が発生します。このため、環境や状況によっては、不動産の贈与に向いていない人もいます。