自己破産を検討している場合、少しでも高く不動産を売却し債務を減らそうと考えるのが一般的です。不動産を売却すると多額の売却益が見込めるため、売却方法を工夫することで自己破産に関する経済的負担を軽減できる可能性が高まります。
自己破産にあたって不動産の売却をする場合、売却方法ごとの注意点やメリットを把握しておく必要があります。そこで今回は、自己破産を前提とした不動産売却について解説します。
まずは自己破産に伴う不動産売却のタイミングを知ろう
自己破産に伴う不動産売却には、3つのパターンがあります。
【自己破産後】不動産売却は2パターンに分かれる
自己破産に伴って不動産売却を行う場合、自己破産後と自己破産前のどちらかのタイミングで売却します。
まずは、自己破産後に売却するパターンについて紹介していきます。
①裁判所が選任した破産管財人が不動産の売却を行うケース
破産者が自己破産をする場合、不動産などの高額資産を所有していると「管財事件」として扱われます。
管財事件とは、一定以上の財産を所有している場合の破産手続きで、破産者は予納金を納めて破産手続きを依頼します。
管財事件として扱われるケースには、高額な財産を所有しているほかに、「不公平な弁済」や「財産隠し」の可能性がある場合が該当します。
管財事件になると、裁判所が選任した破産管財人が資産状況を調査し売却。売却益を債権者に配当することで可能な限りの債務履行を目指します。
破産管財人は基本的に弁護士が選任され、免責判断の調査によって自己破産の妥当性を調査し、財産の売却や債権者に配当する権限が与えられます。
破産手続きを開始するための申し立てが行われると、裁判所の決定によって破産手続きがスタートします。
破産手続が始まると破産者の所有していた不動産は「破産財団」に帰属。
破産管財人は、破産財団が保有する資金を利用して債権者への配当を行うため、可能な限り高値で不動産を売却します。
多くの不動産には金融機関などが抵当権などの担保を設定しているため、売却が決まれば売却額の中から一定額を支払い、担保権を抹消します。
そして、残った売却益を債権者に配当していき、債務を履行していきます。
全ての資産を売却して破産手続きが終了し、裁判所から免責許可決定が確定した段階で、これまでの債務が全て免除されます。
②破産管財人の選定がなされず、自分自身で売却を行うケース
個人による自己破産の場合、所有する資産の内容によっては管財事件として取り扱われない場合があります。
破産法では「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認める」と裁判所が判断した場合には、破産手続きの開始と同時に破産手続きが終結する「同時廃止事件」として扱われます。
管財事件のように破産管財人が破産財団を立ち上げ、不動産の売却などを行う必要がないため、比較的短期間で終結するのが特徴です。
個人の破産手続きは同時廃止事件が一般的で、裁判所が破産者の免責を許可す るかどうかを審査する「免責審尋」によって免責が許可されると、破産の開始と同時に破産手続きが終結します。
免責審尋の内容は裁判官によって異なりますが、一般的には破産に至った原因や現在の生活状況、今後の生活再建の見通しを質問されることが多いようです。
同時廃止事件の場合、不動産などの高額資産を所有していないことが要件の一つに挙げられますが、不動産を所有していても同時廃止事件として扱われる場合があります。
それは「オーバーローンの不動産」を所有している場合です。
オーバーローンとは、ローンの残高に対して不動産を売却した場合の売却益が低く、不動産の売却益をすべて不動産に対して抵当権を設定している抵当権者が回収する場合です。
破産法では抵当権は「別除権1」として扱われるため、抵当権を設定していない債権者にとっては存在していないも同様に扱われます。
抵当権者は抵当権を実行することで競売にかけ、債権を回収できるため、破産管財人を立てずとも、自分自身で売却が可能です。
【自己破産前】不動産売却は自分自身で行う
自己破産前であれば財産の処分を自由に行えるため、自分自身で不動産を売却することが可能です。
オーバーローン状態ではない不動産を所有していると、基本的には破産管財人によって不動産を売却して売却益が債権者に支払われます。
不動産を所有し、破産申し立てをする場合は予納金が発生しますが、予納金の金額は数十万円単位になり経済的負担が大きいことから、予め不動産を売却して管財事件に持ち込まないようにすることが可能です。
しかし、事前の売却は「財産隠し」に該当すると判断されてしまうと「免責不許可事由」に該当し、借金などの負債が免除されなくなるため注意が必要です。
最悪の場合には詐欺罪が適用されてしまう可能性もあるため、専門家に相談の上で対策するようにしましょう。
免責不許可事由は破産法第252条の「免責許可の決定の要件等」に規定されており
- 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと
- 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと
- 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと
などが挙げられ、財産隠しは「属すべき財産の隠匿」に該当するとみなされる可能性があります。
財産隠しでないことを証明するためには、破産管財人が売却を行なった場合と同等程度の金額が配当原資として用意されており、なおかつ破産管財人が売却を行なった場合の金額を不動産鑑定や査定書などで証明しなければなりません。
自分自身での不動産売却は破産申し立てから2年程度遡って調査されるため、この時期に不動産売却をする場合にはしっかりと対策して売却を進めていきましょう。
自己破産前に不動産を売却するメリット4つ
自己破産前に不動産を売却するのは、財産隠しに該当するリスクがありますが、それ以上のメリットがあります。
①不動産売却費用を売却額に含めることができる
不動産売却にあたっては仲介手数料や測量費用、抹消登記費用や印紙代などの費用を含めて売却できるため、自己負担を軽減して不動産を売ることができます。
②破産後の売却よりも高く売却できるケースが多い
自己破産前に不動産を売却する場合、競売ではないため市場価格で不動産を売却することが可能です。
競売とは、債務履行ができない場合に債権者の申し立てで裁判所が不動産を売却し、その金額を債務履行に充当する制度です。
一般的には競売は不動産会社の参加が多いため市場価格よりも低い価格で入札される傾向にあります。
任意売却の場合は一般の購入者向けに販売することができるので、普通に仲介で売り出すのと同じく、市場価格で売れる可能性があるのがメリットです。
③自己破産の申し立てで必要になる費用の足しになる
自己破産では弁護士費用や手続き費用が掛かるため、不動産の売却によって必要な費用を捻出することが可能です。
売却金額によっては弁護士費用などだけでなく、新居に引っ越すための費用を捻出できる可能性もあります。
引越しのための費用が認められるかは債権者との交渉次第ですが、一般的に10万~20万円を手元に残すことができます。
競売の場合は決められた日までに立ち退くことを強制されるだけで資金の援助などがないため、任意売却の方がメリットが大きいといえるでしょう。
▼関連記事:任意売却後の債務整理の方法
④自己破産後にお金が残る
不動産を売却することで、自己破産後の生活の立て直しに必要な資金を用意してから自己破産手続きを進めることができます。
民事執行法第131条では「差押禁止動産」が設定されており、差し押さえの対象外となる動産が設定されています。
これは、破産者といえども最低限の生活再建に必要な動産の保有が認められているからです。
差押禁止動産には
- 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具や1ヶ月分の食料と燃料
- 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
- 仕事をするための道具や工具、器具など
- 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
- 仏像、位牌はいその他礼拝又は祭祀しに直接供するため欠くことができない物
- 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
- その他、消防器具や帳簿、義手義足など
が指定されており、金銭は「標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」と定められています。
具体的には2カ月で66万円が必要生計費として認められています。
加えて、差し押さえの対象外となる自由財産は破産法第34条で「民事執行法第131条第3号に規定する額に2分の3を乗じた額の金銭」と定められており、66万円に2分の3を乗じた99万円が認められています。
つまり、自己破産後の生活の立て直しは99万円までであれば必要であると認められ、配当されず手元に残すことが可能です。
再スタートを切るときにこの金額を用意しておくと、生活再建がスムーズになります。
自己破産前の不動産売却は「ローン返済の有無」が鍵になる
自己破産前の不動産売却はローン返済の有無によって対応方法が変わります。
ローンを完済していれば「通常の不動産売却」
不動産を購入する際に利用したローンを完済していれば、抵当権などが設定されていないため、売却前に金融機関への相談なども必要ありません。
ローンを完済している場合は、不動産会社と媒介契約を結び、販売活動を行う通常の不動産売却の流れです。
媒介契約を結んだ後は、市場価格などを参考に売り出し価格を決定します。
売出価格が決まれば、媒介契約をしている不動産会社がホームページや広告などで集客を行い、購入希望者が現れたら、実際に建物を見て回る内覧を行い、売却交渉に移ります。
買主との間で条件がまとまれば、購入金額や引き渡し日などを決定し、契約書を作成します。
契約書を取り交わし、不動産の引き渡しと売買代金の入金が完了すれば不動産売却は完了です。
このとき、自己破産に関する特別な手続き等は必要ないものの、売却益を債務履行や自己破産に関連する事柄に使用しなければ、免責調査によって免責許可が認められない可能性があるため注意が必要です。
ローン返済が終わっていない場合は「任意売却」
ローン返済が終わっていない場合は「任意売却」によって不動産を売却します。
任意売却とは、ローン返済が滞った場合や売却額でローン残債を抹消できない不動産を金融機関の合意を得て売却する方法です。
ローンの返済が滞ってしまうと、不動産は裁判所の許可により抵当権を設定している抵当権者(住宅ローンを貸している金融機関など)に差し押さえられてしまいます。
多くの場合、残額を一括返済することは不可能なため、抵当権を行使して不動産を売却して債権の回収に乗り出します(競売になる)。
この場合、金融機関としては差し押さえや競売による売却よりも、任意売却の方が高い価格で不動産が売却可能であり、回収できる金額も多くなるため、債務者の申し出があれば任意売却に同意する傾向にあります。
また、売却代金がローンの残債額よりも少ない場合、抵当権は抹消されないため、任意売却を行うためにはローンを借りている金融機関の合意が必要です。
この場合も、金融機関はより高い金額の債権回収が見込めるため、任意売却に同意する傾向にあります。
任意売却の流れは、一般的な不動産売却と同じで、不動産所有者の経済事情は秘匿されます(競売の場合、官報等で周知されてしまう)。
また、契約日や明け渡し日に関して買主と交渉できることから、引っ越し等のスケジュールが立てやすく、金融機関との交渉によっては引っ越しにあ たっての費用を売却代金の中から負担できるため、金銭的な負担を軽くすることもできます。
任意売却の注意点
任意売却を行う場合は、必ず以下の4つの点について注意しておきましょう。
①債権者(金融機関)に必ず伝えて合意を得てから売却する
任意売却は、借入先の金融機関が合意して初めて成立する売却方法です。
金融機関への返済が最優先となるため、必ず金融機関の合意を得た上で実施しなければなりません。
任意売却を行うためには、他にも以下の要件を満たしている必要があるため、事前に確認しておきましょう。
- 物件が差押えられていない
- 売却期間が確保されている
- 共有者の同意が得られている
- 連帯保証人の同意が得られている
- 一定額以上の管理費・修繕積立金の滞納がないこと
②「財産隠し」に問われないようにする
任意売却を行う場合、後の自己破産の免責調査において「財産隠し」に問われないように注意を払う必要があります。
財産隠しは、財産を不正に処分したり、財産の隠蔽を行ったりした場合に問われるため、財産の処分方法は十分に注意しておきましょう。
任意売却を行う場合は、金融機関の合意の上で、より高く不動産を売却して債務履行を証明できるように対処することが重要です。
また、財産隠しに該当しないことを証明するためには、財産の価値を下げて売却してはいけません。
不動産鑑定や、不動産会社の査定書などを取得し、客観的に適正な売却であることを証明できる資料を用意しておきましょう。
③「詐欺破産罪」に問われないようにする
任意売却において最も注意しなければならないのが、詐欺罪に問われるリスクです。
自己破産に関する詐欺は「詐欺破産罪」といい、債権者を侵害する目的で不正に財産を処分したり、自己破産によって返済を免れたりすることを前提で借金をした場合に適用されます。
詐欺破産罪は破産法第265条で規定されており、以下の4つのいずれかのパターンに該当するとみなされた場合に成立します。
- 債務者の財産(中略)を隠匿し、又は損壊する行為
- 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
- 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
- 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為
詐欺破産罪が成立すると、当然免責許可は下りないため債務をなくすこともできません。
したがって、詐欺罪に問われることのないように慎重に対応する必要があります。
④債権者に対して平等に返済する
基本的には抵当権者を除き、特定の債権者だけを優先して一部返済をするなどはできません。
特定の債権者だけに返済比率が偏る「偏頗弁済(へんぱべんさい)」を行うと、自己破産を行う場合に問題のある破産者だと認識されてしまい、詐欺行為と見なされてしまう可能性があります。
偏頗弁済は破産法第252条3項で
特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと
と規定されています。
偏頗弁済が発覚すると免責不許可事由の原因とされ、破産手続が同時廃止事件ではなく、管財事件として扱われる可能性が高くなるので注意しましょう。
まとめ
自己破産の際に不動産売却を行う場合、破産申し立て前と破産申し立て後では進め方が全く異なります。
破産申立後に不動産売却を行おうと考えても、破産管財人や抵当権者によって競売にかけられる可能性があるため、自由に売却できないリスクがあります。
破産申し立て前であれば自由に売却は可能ですが、財産隠しなどに問われないように十分な注意を払うことが求められます。
自己破産にあたっては少しでも高く不動産を売却することが望ましいため、まずは自分で不動産を売却することを検討するべきです。
自己破産における不動産売却には様々なリスクが潜んでいるため、売却にあたっては専門家に相談した上で、十分な対策を持って進めていきましょう。
参考:e-Gov「破産法」
参考:e-Gov「民事執行法」