隣人トラブルのある家を売却する際には、告知義務があります。
雨漏りのように目に見える不具合ではないから告知義務がないと思って売却すると、損害賠償請求されかねません。
しかし、隣人トラブルのすべてに告知義務があるわけではないため、告知すべき範囲や違反した場合にどのような措置が求められるかを理解しておくことが大切です。
隣人トラブルで告知義務はどこまで適用される?
不動産の売買契約において、売主は買主に対して、取引に関わる重要な事実を説明する責任を負います。
「不具合があるのを知っていたら購入しなかった」といった買主の購入判断を大きく左右する情報は告知義務があります。
隣人トラブルも買主にとっては購入に大きく関わるので、告知義務があるのです。
しかし、隣人トラブルにもさまざまなケースや程度があり、そのすべてが告知義務の対象ではありません。
ここでは、隣人トラブルで告知義務が適用されるケース・適用されないケースについてみていきましょう。
適用されるケース
購入判断に大きく影響する隣人トラブルは告知義務があります。
代表的な告知義務のある隣人トラブルとしては以下のようなものが挙げられるでしょう。
- 隣人がクレーマー
- 境界線で隣人と揉めている
- 生活に支障が出るような騒音トラブルがある
- 隣人のゴミの処理が不適切(ゴミ屋敷である)
- 駐車場・駐輪場トラブルがある
- (マンションの場合)隣人がルールを守らない
- 近隣に反社会的勢力の事務所がある
隣人が迷惑行為を行う・境界線などを巡ってトラブルになっているといった隣人トラブルは告知義務があります。
また、隣人トラブルとは少し異なりますが、近隣に反社会的勢力に組織や嫌悪施設がある場合も告知義務があるので注意しましょう。
適用されないケース
一方、以下のようなケースは告知義務がないとされています。
- 過去にトラブルが解決されており再発の恐れがない
- トラブルが解決してから長期間経過している
- 境界線について正式な手続きでトラブルが解決している
- 生活音程度の軽微な騒音トラブル
生活に支障のない程度の隣人トラブルやすでに解決し、再発の恐れがないケースでは告知義務がないといえるでしょう。
しかし、隣人トラブルの告知義務は明確な基準がありません。
騒音にしても人によってとらえ方が異なるため、売主にとっては支障がなくても買主には大きなストレスとなる恐れもあるでしょう。
過去に解決した場合でも、まだ同じ隣人がいる以上、再発リスクもゼロではないものです。
隣人トラブルの告知義務は判断が難しいため、自分だけでの判断はおすすめできません。
「このくらいなら」と考えるのではなく「必要ないかもしれないけどとりあえず」と考え、まずは状況を正直に不動産会社に相談しましょう。
告知義務違反するとどうなる?
「隣人トラブルがあると売れないから隠して売ろう」という考えはダメです。
告知義務のある隣人トラブルを伝えずに売却すると告知義務違反となり、売主の大きな負担がかかる恐れがあります。
契約不適合責任を追及される
契約不適合責任とは、契約とは異なる目的物を引き渡した際に売主に問われる責任です。
不動産の場合は、シロアリ被害や雨漏りなど告知義務のある瑕疵を告知せずに売却した際に契約不適合責任が問われます。
隣人トラブルも告知義務がある瑕疵のため、告知せずに売却すると契約不適合責任が問われ、買主から以下のような請求を受けるリスクがあるのです。
- 追完請求:不具合を補修し契約内容に適合させる
- 代金減額請求:不具合の程度に応じた代金の減額請求
- 損害賠償請求:買主に生じた損害の請求
- 契約解除:解約を解除し代金を全額返還
隣人トラブルでは、雨漏りのように建物の修復ができないため代金減額請求されることになるでしょう。
そのうえで損害賠償請求を受けるリスクもあります。
また、代金減額請求に応じない・隣人トラブルで住むことが難しいとなると契約解除される可能性もあるのです。
なお、契約不適合責任が問われるのは、告知せず契約書に記載もない不具合が生じたときです。
事前に告知し契約書にもその旨を記載しておけば「買主はトラブルを認識した上で契約した」ことが明らかになるため、契約不適合責任を問われることはありません。
隣人トラブルの告知義務違反に関する判例
隣人トラブルの告知義務違反が認められた判例に以下のようなケースがあります。
【子ども嫌いの隣人が嫌がらせをする事実を告知しなかったとして代金減額が認められたケース】1
買主は幼い子ども3人を含む5人家族。購入後の引っ越しの下見の際に隣人から嫌がらせをうけ警察を呼ぶ事態になり入居を断念。売主にも幼い子どもが2人おり売却した物件を購入した後に隣人から嫌がらせを受けていたことが判明しています。
また、契約の際には「過去にうるさく言われたが今は特に問題ない」と説明している点も、説明不足と認定されています。不動産会社も物件報告書に「騒音などで隣人から苦情がある」とは記載されていましたが、売主の説明以上のことを伝えていなかった点は説明義務違反と判断されているのです。
なお、このケースでは売主が2年半生活していたことから住めないわけではないと判断され、契約解除ではなく不動産価値の減価分のみを認めています。
隣人トラブルが告知義務違反になると裁判沙汰にまで発展し、高額な損賠賠償請求を受けるリスクがあります。
隣人トラブルのある物件はとにかく早く手放したいと考える方もいるでしょう。
しかし、黙って売るのではなく告知義務をしっかりと果たす必要がある点は覚えておくことが大切です。
隣人トラブルがある場合の相談先は?
隣人トラブルのある不動産は売りにくくなるので、トラブルを解決してから売却するほうがよいでしょう。
直接伝えるとトラブルが大きくなる可能性がある
基本的に、トラブルの相手と直接対峙するのはおすすめできません。
また、騒音があるから壁を叩くといったやり返す行為も避けましょう。
直接の注意ややり返し はお互い感情的になり、冷静な解決が難しくなります。
さらに、相手から逆恨みされ、事態がより深刻になる恐れもあるので注意が必要です。
隣人トラブルを解決する際には、第三者を間に挟むようにしましょう。
マンションの場合はまずは管理会社に相談するのがおすすめ
マンションでの隣人トラブルなら、まずは管理会社に相談し対応してもらうようにしましょう。
管理会社が間に入ることで隣人も話を聞き入れてくれる可能性があります。
相談する際には、トラブルの具体的な内容のメモや録音データといった証拠の準備も大切です。
ただし、管理会社に相談したからといって必ず解決できるわけではありません。
様子を見るといって管理会社が動いてくれないケースや、隣人がトラブルを認めないケースなどもあり、解決できないことも多いのです。
嫌がらせを受けている場合は警察や自治体・弁護士に相談しよう
管理会社では解決できない場合や戸建てのトラブルであれば、警察・自治体・弁護士へ相談するとよいでしょう。
嫌がらせの内容が不法行為に該当すれば警察が対処してくれる可能性があります。
いきなり警察に相談してよいか迷う場合は、#9110の相談ホットラインを活用すると解決へのアドバイスや専門家の紹介を受けられるでしょう。
自治体の生活課でも相談を受け付けています。
ゴミ出しルールの違反や騒音などは、自治体が介入して解決できるケースもあります。
法的手続きや訴訟も視野に入れ弁護士に相談するのも一つの手です。
しかし、弁護士へ の依頼には費用がかかるため、無料相談などを活用し解決が可能か確認するようにしましょう。
隣人トラブルのある不動産の売却方法
隣人トラブルのある不動産は売却して手放したいという方もいるでしょう。
とはいえ、隣人トラブルがあると売却しにくくなるので、売却方法についても慎重な検討が必要です。
ここでは、隣人トラブルのある不動産の2つの売却方法を解説します。
告知義務なしの内容であれば通常の方法で売却する
告知義務のない隣人トラブルであれば通常の仲介での売却が適しています。
仲介の売却とは、不動産会社が間に入る一般的な売却方法です。
市場価格で売却できるので高値での売却も期待できます。
ただし、告知義務がないとはいえ隣人トラブルのある物件は避けられやすくなります。
立地が良いなど好条件の物件であれば買い手も付きやすいですが、立地が悪い・築年数が古いなどでは売却に時間がかかる恐れがあるでしょう。
また、告知義務がないかの判断は自分でするのはおすすめできません。
まずは不動産会社に売却とトラブルの内容を相談して、告知が必要かのアドバイスをもらうようにしましょう。
告知義務ありの場合は買取を検討するのがおすすめ
告知義務のある隣人トラブルがある不動産は仲介では買い手は見つかりにくいでしょう。
買主としても隣人トラブルのある物件を進んで購入したいとは思わないものです。
このような物件は買取が適しています。
買取とは、不動産会社に直接売却する方法です。
仲介とは異なり、買取では不動産会社が買主となります。
隣人トラブルのある不動産を買取してもらうメリットは以下のとおりです。
- 短期間で売却できる
- 業者がトラブル解決のノウハウを持っている可能性がある
- 契約不適合責任を免責できる
買取は広告などで買主を探す必要がなく、不動産会社との合意で売却できるので短期間での売却が可能です。
不動産会社は隣人トラブル対応のノウハウを持っていれば、そのままの状態で買取ってくれます。
また、買取では買主がプロの不動産会社ということもあり、契約不適合責任を免責とすることが多いです。
売却後に契約不適合責任を問われるリスクがないので安心して売却できるのも、大きな魅力といえるでしょう。
ただし、契約不適合責任を免責にするかは不動産会社の判断になるため、交渉時にしっかり確認することが大切です。
なお、買取は仲介での売却よりも価格が低くなる点に注意しなければなりません。
不動産会社が買取して再販売する際のコストや利益を差し引いた金額で取引されるため、仲介よりも金額が安くなる。
とはいえ、仲介での売却が難しく隣人トラブルのある状態でいつまでも所有するよりも、価格が下がってもすぐに手放したほうが売主にとってメリットが大きいケースもあるでしょう。
仲介・買取どちらを検討する場合でも、査定時にはできるだけ複数の不動産会社に依頼し比較することが大切です。
イエウリでは、仲介・買取どちらの査定にも対応しており、一度により多くの不動産会社の比較ができます。
まずは査定をうけ、結果を踏まえてどちらの方法で売却するか検討するとよいでしょう。
▼関連記事:隣人のせいで土地が売れない場合の対処方法
隣人トラブルの告知義務に関するよくある質問
最後に、隣人トラブルの告知義務に関するよくある質問をみていきましょう。
隣人のせいで土地が売れない場合はどうすればいい?
まずは、第三者を間に挟んで問題の解決を図ることが大切です。
どうしても解決できない場合は、買取業者に相談するとよいでしょう。
なお、問題の解決ができないからといっても告知せずに売却するのはNGです。
正直に不動産会社に 状況を伝えて適切な売却方法のアドバイスをもらうようにしましょう。
モンスター隣人は告知義務がある?
モンスター隣人とは、常軌を逸し頻繁に迷惑をかけてくる隣人のことをいいます。
典型的な例として騒音問題を起こす・ゴミ出しなどのルールを守らない・クレーマーなどが挙げられます。
隣人がモンスター隣人というケースも基本的には告知義務があります。
告知義務の判断が難しい場合は、不動産会社に相談するようにしましょう。
非常識な隣人の対処法は?
隣人に直接注意すると問題が深刻になる恐れがあります。
管理会社や警察・弁護士・自治体などに相談し第三者を挟んで解決を目指すようにしましょう。
相談する際には、迷惑行為の具体的な内容や発生時間・録音データなどを持っていくとスムーズに相談できます。
まとめ
隣人トラブルには告知義務があり、違反して売却すると契約不適合責任を問われ損害賠償請求や契約解除になるリスクがあります。
ただし、過去のトラブルや軽微なトラブルは告知が必要ないなど告知すべきかの判断は難しいところです。
必要ないと勝手に判断すると告知義務違反になる恐れもあるので、不動産会社に状況を説明して告知についてのアドバイスをもらうようにしましょう。
また、告知義務のある不動産は売却が難しくなるので買取を視野に入れた売却方法の検討が大切です。
複数の不動産会社の査定を比較し、スムーズに手放せる方法を見つけましょう。