家の権利証は、非常に大事な書類として誰もが認識しています。ところが厳重に保管したとしても誤って紛失してしまう可能性もあるでしょう。家の権利証がどうしても見つからなかったら、家の売却はできないのでしょうか。この記事では、家の権利証を紛失した場合の売却方法について、その手順と注意点を解説していきます。
権利証って何?
家の権利証は、非常に重要な書類として、金庫や収納庫に大事に保管されている人が多いでしょう。
そもそも権利証とは、どのような意味を持つ書類なのでしょうか。
権利証は本人確認のために用いる
権利証は、法律用語ではなく、一般的な用語としての呼称です。
正式には「登記済証」と呼ばれます。さらに不動産登記法改正に伴い平成17年3月7日以降は「登記識別情報」として交付されています。
新旧いずれの「権利証」も、家の売買においては、所持者が登記名義人であることを証明するとともに、売却の意思を示す書類としての役割があります。
昔の権利証(登記済証)の概要
不動産登記法が明治32年に施行されて以来、不動産の情報が記載された和紙に、法務局が「登記済」という朱印と登記した年月日と受付番号を押した様式が権利証として交付されてきました。
古い時代だと、書類に威厳を持たせるために、司法書士事務所が毛筆で表紙や外装を設えたものが多くありました。
現在の権利証(登記識別情報)の概要
出所:高知県司法書士会
現在の権利証である登記識別情報は、A4サイズの緑色の用紙に土地あるいは建物の概要が記載され、下部に目隠しシールが貼られた様式になっています。
この目隠しシールの下には、登記識別情報が12桁のアラビア数字と記号で書かれています。
これは登記名義人となった申請人ごとに定められるものです。
たとえば土地1筆、建物1棟を夫婦の共有名義で登記した場合は、合計で4種類の登記識別情報が通知されます。
個人を特定する大事なデータですから、他人に知られないよう保管しておく必要があります。
この目隠しシールは、いったん剥がすと再び接着することができないので管理に注意が必要です。
また平成27年以降は、目隠しシールではなく、用紙が袋とじされた様式に順次変更されています。
売却による所有権移転登記には権利証が必須
家の売買契約が成立すると、司法書士から売主に対して、決済当日に「権利証」を用意するよう告げられます。
権利証で売主の本人確認及び売却の意思確認を行うのです。
なお所有権移転登記では、権利証の他にも以下の書類が必要になります。
- 権利証
- 実印
- 印鑑証明書
- 固定資産税評価証明書
- 住民票
- 免許証などの本人を確認する証明書
相続では権利証は不要
権利証は所有権移転登記の際の本人確認や売却の意思を示すものとして活用されます。
しかし、相続による所有権移転登記は、所有者の意思とは関わりなく行われる手続きであるため、権利証を必要としません。
相続においては、遺産分割協議書によって相続人たちの意思を確認することになります。
権利証は再発行できない
権利証は、紛失しても再発行はできません。
このため、紛失しないように大事に保管しておく必要があります。
ただし、詳しくは後述しますが、権利証がなくても代替措置によって家の売却は可能です。
権利証が他人に渡ったらどのようなリスクがあるのか
家の権利証は、古い世代の人ほど重要書類として認識している傾向があります。
そのため、金庫や桐のタンスなどに大事に保管している人は大勢います。
重要な書類であることは間違いありませんから、厳重な保管は励行すべきことです。
ただし、必要以上に管理を厳しくすることはありません。
年配の人の中には、権利証は家の権利を主張するための金科玉条のように考えている人がいます。
権利証が人手に渡ったら、家を乗っ取られるのではないかと不安に思う人は少なくないのです。
しかし、結論から言えば、権利証が人手に渡っても家を乗っ取られる可能性はほとんどないといえます。
根拠は次の2点です。
権利証だけでは所有権移転登記ができない
所有権移転登記には、権利証の他に実印と印鑑証明書が必要になります。
現在のシステムでは、印鑑証明書の偽造は、ほぼ不可能ですから、実印を手元に保有している限り、家の所有権移転登記が行われることはありません。
司法書士が必ず本人確認をする
所有権移転登記は、買主側の司法書記が手続きを行うのが一般的です。
司法書士は職務上、不動産所有者に対して本人確認と売却の意思を確認します。
もし、この際に疑わしい挙動があれば、所有権移転手続きは行われません。
また近年は、犯罪収益移転防止法が施行されたことから、不動産売却に係る本人確認は、さらに厳密に行われるようになりました。
これらの点から、権利証が人手に渡ったとしても、家を勝手に売却されるリスクは、ほとんどないと言えるのです。
権利証を紛失した場合の家の売却方法は?
ここまでの解説で、家の売却に際しては、権利証は必須の書類であり、しかも紛失しても再発行をしてもらえないことが分かりました。
それでは、実際に家を売却する際に、権利証が紛失していることが判明したら、どのように手続きを進めればいいのでしょうか。
ここでは権利証を紛失した場合の対応策について解説していきます。
事前通知制度を活用する
不動産登記法では、所有者が登記識別情報(権利証)を提供することができない場合の措置として、次のように定めています。
第23条第1項 登記官は、申請人が前条に規定する申請をする場合において、同条ただし書の規定により登記識別情報を提供することができないときは、法務省令で定める方法により、同条に規定する登記義務者に対し、当該申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると思料するときは法務省令で定める期間内に法務省令で定めるところによりその旨の申出をすべき旨を通知しなければならない。この場合において、登記官は、当該期間内にあっては、当該申出がない限り、当該申請に係る登記をすることができない。
これに基づき、登記官は所有者に対して本人確認の通知を発送します。
これに対して返信があれば本人確認をしたものとして取り扱うという制度です。
司法書士に本人確認をしてもらう
不動産登記法では、上述の第23条第1項の他に、次の条文があります。
第23条第4項 第一項の規定は、同項に規定する場合において、次の各号のいずれかに掲げるときは、適用 しない。
第1号 当該申請が登記の申請の代理を業とすることができる代理人によってされた場合であって、登記官が当該代理人から法務省令で定めるところにより当該申請人が第一項の登記義務者であることを確認するために必要な情報の提供を受け、かつ、その内容を相当と認めるとき。
これは登記手続きの代理人、つまり司法書士に本人確認をしてもらうという方法です。
公証人に認証してもらう
上述の条文の各号のひとつに、次のような条文があります。
第2号 当該申請に係る申請情報を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録について、公証人から当該申請人が第一項の登記義務者であることを確認するために必要な認証がされ、かつ、登記官がその内容を相当と認めるとき。
これにより、公証人が認証をすることで本人確認ができ、権利証がなくても所有権移転登記が可能になります。
権利証を紛失した際の手続きの手順と注意点とは
権利証を紛失した状態で所有権移転登記をするには、3つの方法があることを説明してきました。
しかし、現実に手続きを行う際に、注意を要する事項があります。
手続きの手順を通してみていきましょう。
事前通知は不安要素がある
早い段階で権利証を紛失したことが判明していても、登記を行う予定がない段階で事前通知をしてもらうことはできません。
したがって、売買契約が成立して、所有権移転登記の申請をした後に登記官から本人確認の通知が発送されることになります。
このため、最終的に登記が完了するには、2週間~1カ月ほどかかります。
この場合、買主は既に購入資金を全額支払っています。
しかし条文には、「登記官は、当該期間内にあっては、当該申出がない限り、当該申請に係る登記をすることができない」とありますから、もし売主に悪意があれば、本人確認の申出を拒否して、所有権を移転させないということもあり得るのです。
このようなリスクの高い方法に納得して購入を決める買主は、現実にはほとんどいません。
本人確認ができる司法書士は手続代理人のみ
権利証が紛失しても、司法書士が本人確認を行うことで、所有権移転登記が行えます。
ただし、本人確認が行えるのは、当該所有権移転登記手続を委任された司法書士だけです。
所有権移転登記手続は、買主側の司法書士が行うのが一般的ですが、たとえば費用節約のために、売主側が親しくしている司法書士に本人確認のみを行ってもらっても、手続上無効です。
公証人は手続に手間がかかる
家の購入費の支払いは、安全性や手間を考慮して、買主側の指定した銀行で行うのが一般的です。
権利証を保有していれば、その足で司法書士が法務局に向かって、所有権移転手続きが完了します。
しかし公証人に本人確認の認証をしてもらう場合は、決済後さらに関係者が公証役場に向かう必要があります。
手続きに手間と経費がかかることから、あまり合理的な方法とはいえません。
司法書士に本人確認を依頼するのが最も現実的
家の購入には、大金を支払う必要があることから、住宅ローンを融資してくれる銀行で決済手続きを行うのが一般的です。
この場には、司法書士も同席していますから、権利証を紛失した際の本人確認も当該司法書士に依頼することで解決します。
権利証を紛失した際の代替措置は3つの解決方法がありますが、リスクがなく、かつ移動の必要がない、司法書士に本人確認を依頼する方法が、最も現実的だといえます。
まとめ
家の権利証は、所有権移転登記をする際に、所有者の本人確認と売却の意思を表すものとして提示が求められます。
しかし、権利証を紛失したとしても家の売却は可能です。
不動産登記法では、権利証と同等の効果があるものとして3種類の方法が示されていますが、リスクや手間を考えると買主・売主共に納得のできる方法は司法書士による本人確認です。
ただし、この方法も司法書士に重大な責任を負わせることになりますから、やはり、権利証による本人確認が、最も適切な方法であることは間違いありません。
この機会に、家の売却予定のない方も、自宅の権利証がきちんと保管されているか、ぜひ一度確認してみてください。