不動産の売却時に「専任または専属専任媒介契約で当社にお任せいただける場合は、仲介手数料を割引または無料で対応します」といった申し出が不動産会社から行われる場合があります。
仲介手数料は100万円以上の金額になることもあるため、割引のサービスは非常に魅力的です。
しかし、支払う手数料額が減って手取りが増える可能性がある反面、もし「囲い込み」等が行われてしまうと売却が長期化するリスクもある点に注意してください。
3つの媒介契約の違い
仲介を依頼する不動産会社と結ぶ「媒介契約」には一般・専任・専属専任の3つの形態があります。
一般媒介 | 専任媒介 | 専属専任媒介 | |
複数社への依頼 | ○ | × | × |
自己発見取引 | ○ | ○ | × |
有効期間 | 当事者間で自由に決定できる | 3カ月以内 | 3カ月以内 |
指定流通機構 | 任意 | 7日以内に登録 | 5日以内に登録 |
業務処理状況の報告 | 任意 | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
複数社に依頼できるのは「一般」のみで、専任または専属専任媒介契約の場合は、1社としか契約することができません。
不動産会社としては、専任もしくは専属専任媒介契約で仲介を任せてもらえれば、他の会社で決まってしまって手数料を受け取れないリスクが無くなるため「できれば一般ではなく、専任か専属専任で契約してもらいたい」というのが本音です。
専任と専属専任の大きな違いは「自己発見取引」
専任媒介契約と専属専任媒介契約は、どちらも1社とのみ締結する契約ですが、「自己発見取引」が可能かどうかが一番の違いです。
「自己発見取引」は、自分で見つけた買主と売買契約を結ぶことを指 します。
つまり、仲介会社無しで契約できるのが専任、自分で見つけた相手でも必ず仲介会社を通して契約しなければいけないのが専属専任媒介契約です。
実際のところは「仲介会社無しで売買契約を結ぶ場合、住宅ローンが利用できない(金融機関の許可が下りない)」ため
- 現金一括決済で取引できる知人・親戚と取引する
- 自社で買取する不動産会社と取引する
上記いずれかのパターンが想定される場合は、専属専任ではなく専任媒介契約を結ぶのが良いでしょう。
専任・専属専任媒介契約で手数料が割引される理由
「専任・専属専任媒介契約であれば手数料を割引します」というオファーは、都心部や地方都市などの比較的栄えた地域で「売れやすい物件」を対象に不動産会社から提案されることが多いです。
不動産会社としても販売に時間がかかる物件よりも、売れ行きの物件の方が自社の顧客に紹介しやすく、広告コストも抑えられます。
「手数料率で多少損をしたとしても、売れやすい物件であれば割引して取り扱う価値がある」と言えるでしょう。
「自己発見取引」の可能性が無ければ、専任と専属専任に大きな違いは無い
専任・専属専任媒介契約で物件を預かることができれば、少なくとも3カ月間は仲介会社を変更できません。
しかし、前述の自己発見取引に該当する取引の可能性が無く
- 専任であれば仲介手数料を最大20%割引
- 専属専任であれば仲介手数料を最大50%割引
といったように、専任と専属専任で手数料の割引率が異なる場合は、専属専 任で任せる方がお得だと言えます。
囲い込みをされると売却が長期化するリスクがある
専任や専属専任媒介契約で囲い込みが発生した場合、不動産の売却が長期化する可能性があります。
囲い込みとは、不動産会社が他社の顧客に物件情報を積極的に提供せず、自社で買主を見つけようとする行為を指します。
この行為は、媒介契約を締結した不動産会社が仲介手数料の両手取得(売主・買主両方から手数料を得ること)を目的として行われる場合が多いです。
囲い込みの問題点
囲い込みによって、不動産会社は手数料を多く獲得できるチャンスが生まれる一方で、売主の利益は損なわれてしまいます。
売却期間が延びる
買主の範囲が狭まることで、希望条件に合う買主が現れるまで時間がかかり、売却が長引くリスクがあります。
値下げを強いられる可能性がある
囲い込みによって売れない期間が長く続くと「値下げせざるを得ない」状況になってしまうことがあります。
値下げした物件を自社の顧客に割安で紹介したり、専任返しを狙って買取再販業者への売却を促したりといったケースが存在します。
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囲い込みを防ぐための対策
囲い込みをされないためには、以下のような対策が有効です。
複数の不動産会社に相見積もりを依頼する
複数社の査定を比較する際は「査定額」を重点的に見るのではなく、取引事例や周辺物件の販売状況を踏まえた根拠を確認することが重要です。
媒介契約を締結する前に複数の会社に査定を依頼し、それぞれの販売戦略や実績を比較検討しましょう。
一般媒介契約を検討する
囲い込みを防ぐためには、複数の不動産会社に依頼できる一般媒介契約も有効な選択肢です。特に、早期の売却を希望する場合、広範囲での情報公開が期待できます。
指定流通機構への登録状況を確認する
専任媒介契約や専属専任媒介契約では、物件情報を指定流通機構(レインズ)に登録することが義務付けられています。登録内容を売主自身が確認することで、適切な情報公開が行われているかを把握できます。
売却進捗の報告を求める
専任媒介契約では2週間に1回以上、専属専任媒介契約では1週間に1回以上、販売活動の報告が義務付けられています。この報告内容をチェックすることで、囲い込みの可能性を早期に察知できます。
売主の仲介手数料無料は囲い込みのリスクが大きい
一定料率の割引にとどまらず「売主の仲介手数料を無料にします」と謳われている場合、不動産会社は買主から仲介手数料を受け取れなければ、報酬を手にすることができません。
そのため、必然的に囲い込みが行われても仕方ない状況になってしまう点に注意しましょう。
また、手数料の割引率があまりにも大きい場合も、同様のリスクがあると言えます。
手数料率が段階的に下がっていく場合
- 2カ月目 までに契約が決まった場合は20%の割引
- 4カ月目までに契約が決まった場合は30%の割引
- 6カ月目までに契約が決まった場合は40%の割引
といったように、売却の期間が延びると仲介手数料の割引率が大きくなっていくプランで割引をしている不動産会社もあります。
このような形態であれば、売却が長期化することで不動産会社が受け取れる手数料も小さくなるため、売主と利益相反にならない営業が期待できます。
ただし、この場合も一定期間を過ぎて割引率が最大になると、不動産会社側が両手仲介を試みるインセンティブも大きくなるため、囲い込みのリスクが無いわけではありません。
一般媒介契約はデメリットも大きい
囲い込みを防ぐ対策のところで「一般媒介契約」について触れましたが、複数社に依頼できる分、物件の競争力自体が低ければ、どの会社も熱心に扱わず、結果的に売れないリスクが生じてしまいます。
物件の競争力は「人気のエリアにある」「駅から近い」などの要素だけではなく、「購入検討者と商談に至る価格設定であるか」も重要なポイントです。
つまり、相場よりも高すぎる価格設定であれば、一般媒介契約で複数社に依頼したとしても、売れずに売却が長引くリスクは低減できません。
まとめ:仲介会社選びで失敗しないために
物件の条件や売却のスピード感、依頼者のニーズによって、一般媒介契約が向いている場合もあれば、専任媒介契約が適している場合もあります。
仲介手数料の割引オファーがある時点で「ある程度競争力のある物件だ」と推測できますが、最近は仲介会社の売り物件確保の競争も激しくなっており、
- 仲介手数料を割引・無料にする
- 相場より高い金額を提示する
など「一見すると魅力的な内容で売主の気を引く」という行為を目にする機会も増えています。
仲介手数料が節約できるのは確かにメリットが大きいですが、売却が長期化してしまうリスクが生じにくいよう、信頼できる不動産会社を選ぶ視点も重要です。