住み替えで新居を購入する際に、現在の住宅ローンを完済することなく、新たに住宅ローンが利用できるダブルローンをご存知でしょうか。ダブルローンは、今の家に住みながら新居の契約ができるので、仮住まいせずに直接引越しができるメリットがあります。
しかし、2つのローンを抱えることになるので、どうしても高額の返済は避けて通れません。
この記事では、安心して住み替えのダブルローンを利用するために、デメリットについての理解を深めながら、注意点や賢明な使い方について解説します。
住み替えのダブルローンとは何か
ダブルローンとは、2つのローンを抱えた状態のことをいいますが、多くの場合、2つの住宅ローンを利用していることを指します。
現在住んでいる家のローンがまだ残っている状態で、そのまま住みながら新居を購入する「買い先行」で住宅ローンを利用すれば、「住み替えのダブルローン」になります。
ここでは、住み替えのダブルローンの特色を紹介していきましょう。
ダブルローンの借入は一定以上の年収が必要
金融機関が住宅ローンの融資を認める基準として、年収に占めるローンの年間返済額の割合である「返済負担率」が用いられます。許容基準は金融機関によってまちまちですが、ひとつの事例として挙げれば、フラット35では、年収が400万円以上で、返済負担率35%以下としています。
たとえば、年収400万円だとすれば、返済負担率35%は140万円です。ボーナス返済なしだと、毎月返済額の上限は約11万円ですから、仮に現在返済している住宅ローンが毎月7万円だとすると、借りられる余地は月4万円で返済できる範囲です。
35年返済が認められ、金利0.5%という低金利のローンを利用できたとしても、月4万円の返済で借りられるのは約1,500万円です。買い替えをして、さらに余裕のある住宅に住むには、明らかに融資額が不足しています。
つまり、ダブルローンで、満足のいく新居を購入するためには、融資金額に見合った一定以上の年収が必要となるのです。
現在返済している銀行の了承がいる
住宅ローンは原則として、本人が現に居住する住宅に対して融資されるものです。ふたつの住宅ローンを 同時に返済するのは、本来の契約に反することになりますから、ダブルローンを利用するには、まず現在住宅ローンを借り入れている金融機関の了承を得る必要があります。
金融機関が了承するのは、ダブルローンが住み替えが完了するまでの一時的な状態であることを納得した場合です。
そのためには、現在住んでいる家を売却した代金で現在の住宅ローンが完済できること、あるいは自己資金を加えて完済できることを明らかにしなければなりません。
住み替えのダブルローンを利用する流れ
住み替えのダブルローンを利用する場合、次のような流れで進めていきます。
- 今の家の売却額を把握する……今の家がいくらで売れそうかを知るために、複数の不動産会社に無料査定を依頼します。
- 今の家の住宅ローンを借りている金融機関へ相談する……ダブルローンの利用について金融機関へ相談します。金融機関の了承を得ることで、後のトラブルを回避することができます。
- 不動産会社を決める……無料査定を依頼した不動産会社の中から依頼先を選び、媒介契約を結びます。査定価格が売却できる価格とは限りませんから、不動産会社は、高額査定を基準にするのではなく、信頼性を重視して選びましょう。
- 不動産会社にダブルローンを利用できる金融機関を紹介してもらう……ダブルローンで融資をしてくれる金融機関は限定的です。不動産会社を経由して依頼した方が、スムーズに進む可能性が高くなります。
- 新居を見つけて買付申し込み……ダブルローンは、単独の住宅ローンよりも審査が厳しくなります。審査を通過しないこともあり得るので、契約に際しては、ローンの審査が通らなければ白紙撤回ができる「ローン特約」を付けておきます。万が一審査が通らなかった場合には、手付金を返却してもらえます。
- 金融機関へ融資申し込み……新居用の住宅ローンを借りる金融機関へ融資申し込みをします。
- 新居の売買契約……新居の売買契約を結びます。まだローンの審査の結果が不明なので、ローン特約を付けておきます。
- 住宅ローン審査合格
- 新居の引き渡し~引越しする……新居と前居のダブルローンの返済が開始します。
- 前居を売却~引渡し
- 前居の住宅ローンを完済……ダブルローンが解消され、新居単独の住宅ローンになります。
前居が売却できれば、ダブルローンが解消されます。つまり、前居をより早く売却することが、返済の軽減に繋がるのです。したがって、売却活動は、新居を探す段階で、並行して進めた方がいいでしょう。
住み替え以外のダブルローンとは
住宅ローンは本人が住む家の購入に充てられる融資です。したがって、住宅ローンのダブルローンといえば、住み替えのダブルローンを指します。
しかし、居住する家とは別のセカンドハウスや、親族が住むための家を購入する際に、セカンドハウスローンや親族居住用住宅ローン、不動産活用ローンといったローン商品も利用可能です。
こうしたローンを利用している状態もダブルローンと呼ぶことがあります。
融資条件は、一般の住宅ローンと大きな違いはありませんが、セカンドハウスローン等は、二軒の家を長く維持していくことになるの で、返済の負担が過大になるという特徴があります。
一方で、住み替え用のダブルローンは、前居が売却できるまでの短期間ですから、同じダブルローンであっても、実態は大きく異なります。
住み替えのダブルローンのメリット
返済の負担が大きく、利用する条件が厳しいダブルローンですが、一方で、いくつかのメリットがありますので紹介していきましょう。
自分の都合に合わせてスムーズに住み替えができる
ダブルローンを利用すると、前居の売却前に新居の引渡しが完了しているので、自分の都合に合わせてスムーズ住み替えができます。
前居のローン完済後に新たに住宅ローンを借り入れる方法だと、引渡しの際に、売却した代金が入金されることになりますから、このタイミングに合わせて新居の引渡しや引越しを実行するのは相当に困難です。
つまり、「売り先行」の場合は、前居から自分の都合に合わせて新居に住み替えることは、ほぼ不可能だといっていいでしょう。
仮住まいの必要がない
前の住宅ローンを完済した後に新居を購入する場合は、既に前居を引渡している状態なので、新居の引き渡しまでの期間は、仮住まいを余儀なくされます。
そのため、前居から仮住まいへ、仮住まいから新居へと、2回の引越しが不可避です。家賃を削減するために、最小限の広さのアパートを借りた場合、家財が収まりきらないことがあるので、トランクルームやレンタル収納スペース、引越し業者の荷物預りサービスなどを利用することになります。
ダブルローンを利用することで、「買い先行」で新居が購入できるので、仮住まいや引越しの費用を削減することが可能です。
空き家の状態で売却できる
売却した資金を元手に新居を購入する場合、売却活動は、居住中に行うのが一般的な方法です。日常の生活空間に内覧者が訪れる状態では、とてもくつろぐことができません。
一方で、買主側も、内覧範囲に限界があるため、購入をためらう要因を増やすことになります。
売却活動は、家財などがない空き家の状態の方が、買主の満足を得やすく、かつ売主に有利な条件で売却できる可能性が高くなります。
ダブルローンの場合、現在の家を空き家にしてから売り出すことが可能なため、早期売却に繋がりやすいでしょう。
住み替えのダブルローンで注意すべきデメリットとは
ダブルローンは、メリットだけでなく、細心の注意を要するデメリットもいくつかあります。ダブルローンの利用に際しては、不利益になる事項を十分に踏まえたうえで利用を選択する必要があります。
審査が厳しい
ダブルローンを利用するためには、住宅ローン審査に通る必要がありますが、単独の住宅ローンよりもさらに審査基準が厳密になります。
年収に対するローンの年間の返済額の割合を「返済負担率」と言いますが、この値が30〜35%以下でなければダブルローンは利用できません。
返済負担率の基準は、金融機関によって異なりますが、たとえば、フラット35の場合は、返済負担率の目安を次のように定めています。
- 年収400万円未満……返済負担率30%以下
- 年収400万円以上……返済負担率35%以下
また、多くの金融機関が、完済する年齢を70〜80歳までとしているので、あまり高齢だと利用することができません。たとえ高収入であっても、定年前後の年齢でダブルローンを組むと返済期間が短くなります。
さらに、過去にローンを滞納した履歴についてもチェックされます。いわゆる「ブラックリスト」と呼ばれる個人信用情報に滞納の履歴や未払いが記録されていれば、ダブルローンの審査を通るのは、かなり難しいでしょう。
返済額の負担が増える
ダブルローンでは、前居が売却できるまでは、2本の住宅ローンの返済が続くことになります。毎月返済額が一気に増えますから、状況によっては、貯蓄を切り崩しながらの返済を余儀なくされることもあります。
もし前居の売却が思いどおりに 進まなければ、家計への負担が重くのしかかってきます。やがて返済が困難になってくると、つい売値よりも早期売却を優先する気持ちになり、想定以上の安値で売却してしまうことがあります。
前居を賃貸に出すことはできない
買い手がなかなか見つからない場合、空き家の有効活用として、賃貸に出すことを考える人もいます。
しかし、住宅ローンは、自己居住用の住宅に対して融資されるものですから、賃貸に出すと契約違反になる可能性があります。最悪の場合、金融機関から、一括返済を求められる事態にもなりかねません。
ただし、突然の転勤や親の介護などのやむを得ない事情がある場合、金融機関の許可を得られることもありますから、賃貸住宅として活用したいのであれば、まずは金融機関へ相談が不可欠です。
前居の住宅ローン控除は適用外になる
住宅ローンを利用して住宅を取得した場合、年末のローン残高に応じて所得税が控除される住宅ローン控除が適用されます。
しかし、住宅ローン控除は現在居住している家のローンに対して適用される制度ですから、前の住宅ローンが住宅ローン控除の適用期間中であっても、新居に引越しをした時点で適用外になります。したがって、ダブルローンであっても、控除を受けられるのは、新居の住宅ローンについてのみとなります。
住み替えのダブルローンで賢明な使い方とは
住み替えのダブルローンでは、返済額の負担が大幅に増えるといったデメリットがあります。一方で、スムーズに新居に引っ越せるといったメリットも大きな魅力があります。 これらの特色を踏まえたうえで、ダブルローンの賢明な使い方について考えていきましょう。
返済額の適正性を検討する
ダブルローンだと返済の負担が増えることは、あえて説明するまでもありません。したがって、ダブルローンを利用するのは、資金が潤沢にあることが前提になります。
買い先行でダブルローンを利用した場合、前居の売却が確定しないままで、2つの住宅ローンの返済が続くことになります。いつまでも家が売れない状態が続くと、ダブルローンの重圧に耐えかねて、想定よりも安く家を売却するという、不本意な結果を招くことにもなりかねません。
ダブルローンは、買主の返済能力いっぱいまで融資をしているのが一般的です。しかし、融資額と返済可能は、イコールではありません。前居の売却時期と売却額について、楽観的な予測に基づきダブルローンに踏み切るのは大変危険です。
しっかりとした裏付けに基づいた予測を立て、たとえ最悪のシナリオに陥っても返済できる目途があるのかを冷静に検証することが重要です。
契約はローン特約付きにする
ダブルローンは、単独の住宅ローンと比べて審査基準が厳しいので、審査が通過できない事態もしっかり想定をしておく必要があります。そのため、購入申込や売買契約書には、ローン特約を付けておいた方が安心です。ローン特約があれば、万が一ローンの審査が通過しなかった場合でも、手付金が返還されます。
住み替えローン(つなぎ融資)も検討する
購入する物件は決まったが、「今住んでいる家の売却額が住宅ローンの残債よりも少ない」、「完済する自己資金がない」という場合には、住み替えローンを利用する方法もあります。
住み替えローンは、売却代金では返し切れないローンの残債分もまとめて借りられるローンです。前居のローン完済と新居の購入に必要な資金、諸費用分も併せて借りられるので、ひとつのローンで、自己資金を充てることなく買い替えが可能になります。
ただし、実態は前居の残債を先送りしているに過ぎませんから、依然として前居分の返済を続けていく状態にあります。そのため、年収などの審査基準が厳しくなります。
幸い借りられたとしても、借入額が大きくなるため、返済への負担は前居の住宅ローンの返済よりも大きいです。
また、住み替えローンは残債を補うローンなので、売却が決まらないと融資限度額が決まりません。そのうえ、前居の抵当権抹消と新居の抵当権設定を同日にするので、売却活動と並行して新居探しを進める必要があります。
そのため、住み替えローンの利用では、売却と購入の仲介を同じ不動産会社にするという方法が合理的です。

「売り先行」も検討する
ダブルローンは、返済の負担が大きくなるといった課題を抱えることになります。前居の売却がなかなか決まらない状況に陥ってしまうと、返済計画が破綻し、新居のローンの返済も難しくなるでしょう。
もし、ダブルローンの返済に一抹の危惧があるのであれば、前居の住宅ローンを完済した後に、新居の住宅ローンを借り受けるように手法を切り替えることで、より安全な住宅ローンの返済が可能になります。
この場合は、おのずと「売り先行」になり、仮住まいや2回の引越を余儀なくされます。
しかし、空き家にすることで有利な売却が期待できることや、あまりスケジュールにこだわることなく新居を選べることを考えれば、今一度、新居の購入方法の選択について検討する価値は十分にあります。
まとめ
ダブルローンとは、一般的には、二つの住宅ローンを利用していることを指します。現在の住んでいる住宅のローンが残っている状態で、新居を探して購入する「買い先行」を選択した場合に、住み替えのダブルローンになります。
住み替えのダブルローンは、返済が見込めるだけの収入がないと利用することはできません。また、取り扱いをしていない金融機関もあるため、不動産会社を通して依頼した方が、融資を受けせれる可能性が高くなります。
また、単独の住宅ローンと比べて審査基準が厳しいので、審査が通過できない事態もしっかり想定をしておく必要があります。そのため、購入申込や売買契約書には、ローン特約を付けておいた方が安心です。ローン特約があれば、万が一ローンの審査が通過しなかった場合でも、手付金が返還されます。
住み替えのダブルローンは、返済の負担が大きいので、返済計画に無理があると判断した場合は、無理をすることなく、現在の家の住宅ローンを完済した後に、新居の住宅ローンを借り入れる方法を選択しましょう。