不動産を売却して利益が出た場合「譲渡所得」が発生し、税金が発生します。
「譲渡所得って何?」
「短期譲渡所得と長期譲渡所得の違いは?」
「税金を抑える方法はあるの?」
こうした疑問に答えるため、本記事では譲渡所得の基本から、税率の違い、控除特例の活用方法まで詳しく解説します。
所有期間による税率の違いや、計算手順を正しく把握することで、余計な税負担を回避し、賢く売却を進めることができます。
不動産売却を成功させるための第一歩として、譲渡所得のポイントをしっかり押さえましょう!
譲渡所得とは
譲渡所得とは、土地や建物などの資産を売却して得た利益のことです。
具体的には、売却価格から購入時の価格(取得費)と売却にかかった費用(譲渡費用)を差し引いた金額であり、以下のように計算可能です。
例えば、親から相続した不動産を5,000万円で売却したとします。この場合、譲渡所得税を支払わなくて済むためには、取得費と譲渡費用の合計が5,000万円以上である必要があります。
そして、譲渡所得に対してかかる所得税や住民税を譲渡所得税といいます。
短期譲渡所得と長期譲渡所得の違い
譲渡所得には、「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」の2種類があり、それぞれで意味や特徴が異なります。
不動産売却時の税額に大きく影響するポイントなので確認しておきましょう。
不動産の所有期間の違い
まず、不動産の所有期間による違いがあります。
所有期間が5年未満で売却した場合は短期譲渡所得となり、5年以上所有した場合は長期譲渡所得となります。
この所有期間は、売却した年の1月1日時点で判断されるのが特徴です。
例えば、2019年6月に取得した不動産を2024年9月に売却した場合、売却した年の1月1日時点では所有期間が4年7ヶ月となるため、短期譲渡所得が適用されます。
譲渡所得にかかる税率の違い
譲渡所得にかかる税率にも大きな違いがあります。
- 短期譲渡所得:39.63%(所得税30%+住民税9%+復興特別所得税)
- 長期譲渡所得:20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税)
約2倍もの差があり、長期譲渡所得の方が税率が低くなるのが特徴です。
例えば、1,000万円の譲渡所得を得た場合、短期譲渡所得なら約390万円が譲渡所得税となりますが、長期譲渡所得なら約200万円が譲渡所得税となります。
所有している期間だけで、ここまでの税率の差があるため、売却する際は所有期間を見極めることが大切です。
短期譲渡所得と長期譲渡所得の計算手順
短期譲渡所得と長期譲渡所得の計算手順は以下の3ステップです。
- 譲渡所得額を確認する
- 譲渡所得額に税率を掛ける
- 控除特例適用分を差し引く
それぞれの手順を詳しく解説します。
①譲渡所得額を確認する
まずは、譲渡所得額を確認しましょう。譲渡所得額は以下の式で求められます。
例えば、売却価格が5,000万円、取得費が4,000万円、譲渡費用が200万円の場合、譲渡所得額は800万円となります。
この譲渡所得額に基づいて税金が計算されるため、正確に把握することが大切です。
取得費とは
取得費とは、購入時の価格や手数料、設備費など、物件を取得するためにかかった費用のことです。
具体的には、以下のような費用が含まれます。
- 購入代金
- 仲介手数料
- 登記費用
- 設備や改良にかかった費用
- 建築代金
ただし、建物の場合、使用期間に応じて価値が減少するため、減価償却分を差し引いた金額が取得費となります。
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譲渡費用とは
譲渡費用とは、不動産を売るために直接かかった費用のことです。具体的には、以下のような費用が含まれます。
- 仲介手数料
- 印紙税
- 登録免許税
- 立退料
- 建物解体費用
これらは、売却を進める上で直接必要となる費用です。一方、修繕費や固定資産税など、資産の維持や管理にかかる費用は譲渡 費用に含まれません。
②譲渡所得額に税率を掛ける
譲渡所得を求められたら、所有期間に応じた税率を掛けましょう。
前述のとおり、短期譲渡所得は39.63%、長期譲渡所得は20.315%が税率です。例えば、所有期間10年の家を売って譲渡所得3,000万円を得た場合は以下の計算となります。
=6,094,500円
③控除特例適用分を差し引く
譲渡所得税を求めたら、最後に控除特例の適用分を差し引きましょう。
譲渡所得税に適用できる主な特例は以下のとおりです。
- 3,000万円特別控除
- 軽減税率の特例
- マイホームの買い替え特例
これらの特例を活用すれば譲渡所得税を大きく節税できます。
利用できるかどうか事前に確認しておきましょう。
短期譲渡所得と長期譲渡所得に適用できる控除特例
譲渡所得税に適用できる3つの特例控除を見ていきます。
3,000万円特別控除
3,000万円特別控除は、譲渡所得から3,000万円を差し引ける特例です1。
例えば、譲渡所得が3,000万円であれば譲渡所得をゼロにでき、譲渡所得税がかからなくなります。
ただし、利用するには以下の条件を満たす必要があります。(一部)
- 実際に住んでいる
- ほかの特例を受けていない
- 前年、前々年に3,000万円特別控除を受けていない
- 前年、前々年にマイホーム買い替え特例を受けていない
- 親子間や夫婦間での売買でない
- 災害などによってその家に住まなくなってから3年後の12月31日までに売却できている
利用できれば非常に大きく節税できるため、利用できるかどうか事前に確認しておきましょう。
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10年超所有軽減税率の特例
10年超所有軽減税率の特例は、10年を超える期間所有した不動産を売却し、譲渡所得を得た際に利用できる特例です2。
この特例を利用すると、譲渡所得6,000万円以下の部分に対して14.21%、6,000万円を超える部分には20.315%の税率が適用され、税負担を軽減できます。
また、3,000万円特別控除と併用できるため、上手く利用すれば非常に大きく節税できます。ただし、利用するには以下のような条件を満たす必要があり、ここでは一部を紹介します。
- 売却した年の1月1日時点で、売却する家屋と敷地の所有期間がともに10年を超えていること
- 親子や夫婦など特別な関係にある人への売却でないこと
- 住まなくなってから3年を経過する年の12月31日までに売却すること
利用できるかどうか確認しておきましょう。
居住用財産の買換えな どに係る特例
居住用財産の買換えなどに係る特例は、家を買い換えた際に譲渡所得を得た際に利用できる特例です3。
具体的には、買い替え時に発生した譲渡所得税の支払いを将来に繰り延べることができます。
例えば、今の家を売って新しい家に買い換えた結果3,000万円の譲渡所得を得た場合、3,000万円にかかる譲渡所得税を、将来売却する際にまとめて支払うということです。
この特例を活用すれば、何かと費用のかかる買換え時の費用を一時的に安くできます。
ただし、利用するには以下の条件を満たす必要があります(条件の一部を記載)。
- 令和7年12月31日までにマイホームを売ること(これまで同特例の期間は延長されてきましたが、今後もずっと続く保証はない)
- 売却代金が1億円以下である
- 売却した年の前年から翌年までの3年以内に新居を購入し居住する
不動産の買い替えを検討している方は確認しておきましょう。
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短期譲渡所得と長期譲渡所得のシミュレーション
短期譲渡所得と長期譲渡所得のシミュレーションをご紹介します。
具体例を参考に、実際にご自分でもシミュレーションしてみましょう。
短期譲渡所得のケース
まずは短期譲渡所得のケースをご紹介します。
所有期間4年、売却価格5,000万円、取得費1,500万円、譲渡費用500万円でシミュレーションしてみます。
- 譲渡所得を求める:「譲渡所得=5,000万円-(1,500万円+500万円)=3,000万円」
- 控除特例を適用する(3,000万円特別控除):「3,000万-3,000万=0円」
- 譲渡所得税を求める:譲渡所得が0円なので譲渡所得税はかからない
このケースの場合、譲渡所得は3,000万円となりましたが、3,000万円特別控除を適用したことで譲渡所得をゼロにできました。
控除特例を活用できれば大きく節税できるので、利用できるかどうか必ず確認しておきましょう。
長期譲渡所得のケース
次に長期譲渡所得のシミュレーションです。
所有期間7年、売却価格7,000万円、取得費3,000万円、譲渡費用500万円でシミュレーションしてみます。
- 譲渡所得を求める:「譲渡所得=7,000万円-(3,000万円+500万円)=3,500万 円」
- 控除特例を適用する(3,000万円特別控除):「3,500万円-3,000万円=500万円」
- 譲渡所得税を求める:「500万円×20.315%=1,015,750円」
短期譲渡所得と同様に3,000万円特別控除を利用することで譲渡所得を大幅に少なくできます。
また、10年超所有軽減税率の特例を併用すれば、控除しきれなかった500万円もさらに安くできます。
控除特例を利用しないと数百万円の譲渡所得税がかかるケースがあるため、特例を利用できないか必ず確認することが大切です。
短期譲渡所得と長期譲渡所得に関するよくある質問
短期譲渡所得と長期譲渡所得に関するよくある質問をご紹介します。
所得税がかからない譲渡所得は?
不動産を売却しても、以下のケースでは所得税がかからない場合があります。
- 譲渡損失が発生した場合
- 特別控除の適用
- 収用等による特例
売却価格が購入価格や諸費用を下回り、譲渡損失が出た場合、所得税は課されません。また、前述のとおり、控除特例を活用できれば譲渡所得税から控除できるので所得税をかからなくできます。
ほかにも、公共事業のために土地や建物を売却した場合、5,000万円までの控除が受けられることがあります4。
控除特例は併用できるの?
「3,000万円の特別控除」と「10年超所有の軽減税率の特例」は併用可能です。
例えば、所有期間が10年を超える自宅を売却し、譲渡所得が7,000万円の場合、まず3,000万円を控除し、残りの4,000万円に対して軽減税率が適用されます。
その他の特例では併用できないため、どの特例を利用するか慎重に判断しましょう。
譲渡所得税はいつ払うの?
譲渡所得税(所得税と住民税)の支払い時期は、所得税と住民税によって異なります。
所得税は、不動産を売却した翌年の2月16日〜3月15日の間に確定申告にて納税します。
納付方法は、税務署や金融機関の窓口での現金払い、口座振替、クレジットカード払いなどから選べます。
住民税は、確定申告をおこなった年の6月以降に市区町村から納税通知書が送られてきます。通常、6月、8月、10月、翌年1月の4回に分けて納付しますが、一括払いも可能です。
まとめ
短期譲渡所得と長期譲渡所得の意味や違いを解説しました。
短期譲渡所得とは、所有期間5年未満の不動産を売却した際の譲渡所得、長期譲渡所得とは、所有期間5年以上の不動産を売却した際の譲渡所得を指します。
それぞれの税率は、短期譲渡所得39.63%、長期譲渡所得20.315%であり、約2倍もの差があります。
この意味を知らずに不動産を売却すると、想定以上の税金を課される可能性があるため、不動産売却を検討している方は知っておきたい情報です。
不動産売却時は、仲介手数料や引っ越し費用など何かと費用がかかります。特に譲渡所得税は数百万円にも及ぶケースもあるため、譲渡所得税の意味や控除特例の条件などを理解しておくことが大切で す。
不動産売却を控えている方は、ぜひこの記事を参考に譲渡所得に関する知識を深めましょう。