格差社会の拡大によって、なかなか収入を得ることができずに、やむなく生活保護を受給する人も少なくありません。万が一生活保護の受給が必要な状況になったとき、心配なのが持ち家の扱いです。もし生活保護を受給したら、持ち家を手放さないといけないのでしょうか。
この記事では、生活保護を受給するための要件と、持ち家に住みながら生活保護を受給できるのか、またどのような状況であれば売却をすることになるのかについて解説します。
生活保護を受給するための要件
生活保護は、憲法第25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を実現するために制定された制度です。
生活保護は、単に生活に困窮しているというだけで受給できるものではありません。他にもいくつかの要件があり、市町村の福祉事務所では、生活保護の受給相談のあった家庭を訪ねて実地調査をしたり預貯金及び不動産について調査をしたりします。
まずは生活保護を受給するためには、どのような要件があるのかを押さえておきましょう。
収入があれば受給できない
憲法が保障する最低限度の生活は、国が定めた最低生活費1が基準になります。収入が最低生活費以上ある人は、生活保護の対象にはなりません。
資産があれば処分をする
資産には不動産の他に預貯金や自動車、貴金属などがあります。まずは、こうした資産を処分することで生活が建て直せるのではないかという検討が行われます。したがって、生活保護の受給に際しては、価値のある資産を処分することが求められます。
ただし、現に最低限の生活を維持するために活用されているのであれば、処分をしなくてもいいという判断が下されることもあります。たとえば持ち家については。生活の維持に活用されていれば、 必ずしも処分の必要はありません。これには、細かな決まりごとがありますので、後の項で詳しく解説をしていきます。
働けるのに働いていない人は受給できない
働ける能力があって、就職できる職場があるにもかかわらず、いつまでも仕事をしない人は生活保護を受給することはできません。働ける能力とは、通常の生活が支障なく行える人のことをいいます。高齢者や病気で働けない人は、この要件の対象外です。
扶養してくれる家族がいれば、そちらが優先
扶養義務者がいる場合は、扶養するように要請が行われ、その扶養費が収入の扱いになります。ただ注意が必要なのは、扶養義務者の扶助は生活保護受給の必須の要件ではないということです。つまり、扶養義務者が援助の要請を断ったことのみを理由にして、生活保護申請を拒否することはできないのです。
持ち家に住みながら生活保護を受給できるのか
基本的には、所有する不動産は生活保護を受給する前提として処分をしなくてはいけません。しかし「生活維持に必要な最低限のもの」であれば、不動産を所有したままで生活保護を受給できることがあります。
ここでは、どのような状況であれば持ち家に住みながら生活保護が受給できるのかについて解説します。
住み続けられる持ち家とは
持ち家は、処分価格が著しく大きくなければ、生活保護を受給しても所有できます。著しく資産価値が大きい物件とは、都心の地価が極端に高いところが該当します。
都心の不動産であれば、売却することで高額の資金を手に入れることができるので、持ち家の所有が許可されないことがあります。しかし、都心以外の土地の一般的な規模の住宅であれば、持ち家に住みながら生活保護を受給することができます。また近年では、エアコンを設置することも認められています。
ただし世帯の人数から考えて極端に部屋数が多い家であれば、部屋を賃貸して賃料を得るように求められます。
所有できない持ち家もある
持ち家の住宅ローンの返済が完了していないと、形の上では、生活保護費から住宅ローンを返済することになるので、所有は認められません。
ただし返済期間が残りわずかであり返済額も少額であれば、所有が認められることがあります。認められる期間や金額については、各地方自治体の判断によるため一概には言えませんが、東京都のように「返済期間は5年程度で、残額が300万円以下程度」を目安としている自治体もあります。
また住宅の大きさと比べて土地が広大な場合は、土地の一部処分を求められることがあります。目安としては、その敷地の指定建べい率や容積率を維持できる範囲の大きさまでが基準となります。それに基づき分割した土地が、ひとつの物件として成り立つ規模であれば、処分対象になります。
不動産を相続したら、生活保護はどうなるか
生活保護の受給中に、親の死去により、不動産を相続することになったらどうなるでしょうか。生活保護法の規定では「資力があれば、支給された生活保護費は返還しなければならない」と定められています。
これにより不動産の価額によっては生活保護の受給に影響がでてきます。状況によっては、全額返還という事態も十分にあり得るのです。
資産価値の高い不動産を相続すると受給できなくなる
資産価値の高い不動産を相続することになると、資産活用の原則によって処分が進められます。生活保護法で、被保護者が保護を必要としなくなったときは、保護の「停止」か「廃止」を決定しなければならないとされているからです。
「停止」とは、当面は生活保護を受けなくても生活ができる資金があるが、短期間で枯渇することが明らかなので、生活ができる期間のみ生活保護を支給しないというものです。資金がなくなった時点で支給を再開します。
「廃止」とは、生活保護の要件から外れるだけの資金を得た場合に行う処置です。完全に生活保護の対象外となり、万が一再び生活に困窮した場合は、改めて生活保護申請をすることになります。
生活保護を受給するための相続放棄は不可
それでは今後も生活保護を受給す るために、相続放棄の手続きをするという選択肢はないのでしょうか。
生活保護法では、生活に困窮する者が、資産、能力などあらゆるもの活用しても、なお生活に困窮している人こそが生活保護の対象になるとしています。このため、相続財産に負債となる要因がなく、確実に大きな資産になるものは、相続を放棄することは許されません。
売却の見込みのない地方の空き家は相続放棄できる
売却の見込みのない空き家であれば、資産価値があると判定されません。しかも、いつまでも売れない空き家は老朽化すれば維持費が発生しますから、むしろ負の財産ともいえます。こうしたマイナス要因のある物件を相続する場合は、相続放棄が認められます。
相続した親の実家に転居したらどうなる
持ち家が老朽化しており、相続した親の実家の方が快適に暮らせる場合に、転居は認められるのでしょうか。
親の実家を売却したと仮定した時、その価値が著しく大きくなければ認められます。
ただし転居後に元の持ち家を売却することになりますが、ここで高額の売却益があれば、これまで受給した生活保護の全額返還や停止、廃止について検討が行われます。
▼関連記事:生活保護受給者が不動産を相続したらどうなる?受給が停止になる条件も解説
まとめ
生活保護は、いろいろと生活手段を模索した後の最後の砦となり得る制度です。持ち家があれば、生活保護を受給できないと諦めるのでなく、持ち家があっても、一般的な住宅の規模のものであれば、生活保護が受給できることを理解したうえで、所轄の福祉事務所に相談をしましょう。
一方で、生活保護に頼るのではなく、持ち家を処分して一定の現金を確保してから再起を図るという選択もあります。持ち家を一刻でも早く現金化したいのであれば、買取専門の不動産会社に買い取ってもらう方法もありますから、一度相談してみてはいかがでしょうか。