不動産を売却すると確定申告する必要がありますが、ある一定の条件下では確定申告しなくてよいケースもあります。
本記事では、不動産売却時の確定申告について、どのようなケースで確定申告が必要で、どのようなケースでは不要になるのか解説するとともに、計算方法や手順、必要書類など詳しくお伝えしていきます。
不動産売却後の確定申告
不動産を売却すると確定申告する必要がありますが、ここではそもそも確定申告とはどういったものなのかや、どのようなときに確定申告する必要があり、またどういったときに確定申告しなくてもよいかなど見ていきたいと思います。
そもそも確定申告とは
確定申告とは1年間の利益や損失を自分で計算し、納税する制度のことで、所得税や住民税、贈与税・相続税などは確定申告する必要があります。
本記事ではこの内、所得税と住民税の確定申告について取り上げます。
所得税や住民税は働いて得られた収入に対して課される税金です。
会社員の方も所得税や住民税を納めていますが、毎年会社が税額を計算し、代わりに納めてくれている(源泉徴収)ため確定申告は不要となっています。
自営業の方や、会社員でも年収が2,000万円以上など所得の高い方は確定申告をする必要があります。
不動産売却で利益が生じると確定申告が必要になる
会社で源泉徴収を受けている方でも、不動産を売却するなどして会社からの給料以外に収入を得た場合には、その額を計算し、利益額に応じて税金を納める必要があります。
例えば、会社から500万円の給料を得ている方が、不動産を売却して1,000万円の収入を得た場合、500万円分については納税しているものの、残りの1,000万円分については納税していないため、その額を計算して納める必要があるのです。
なお、所得税についての確定申告をすると、その申告内容に応じて住民税の額も自動的に課税されます。
不動産を売却しても確定申告が不要になるケースとは
不動産を売却して利益がある場合、その利益額に応じて税金を納める必要がありますが、場合によっては不動産を売却して赤字となることがあります。
この場合、納税する必要はないため確定申告もしなくてよいということになります。
ただし、特例の適用を受けて 課税額が0円になるようなケースでは、確定申告時に特例の適用を受ける旨の書類を提出しなければなりません。
また、売却する不動産がマイホームである場合など、一定の要件を満たした上で損失が生じた場合、損益通算と次年度以降3年間繰越控除できる特例もあります。
例えば、500万円の給与所得のある方が不動産を売却して1,200万円の損失を出した場合、上記特例の適用要件を満たすことで、その年の給与所得500万円と合算して総所得を0円とすることができます。
これにより、給与所得に対して課されていた所得税の還付を受けることができるのです。
また、上記ケースの場合、残った700万円分について、次年度以降3年間に限り控除額を繰り越すことができます。
不動産を売却して損失が出た場合でも、確定申告して上記特例を受けられる場合には必ず確定申告するようにしましょう。
不動産売却の譲渡所得の計算方法
不動産を売却して得られたお金は「(土地・建物の)譲渡所得」として計算する必要があります。
ここでは、この譲渡所得の計算方法について見ていきたいと思います。
課税譲渡所得の計算方法
まず課税譲渡所得を計算します。
課税譲渡所得の計算方法は以下の通りです。
取得費とは売却した不動産を取得したときにかかった経費のことで、例えば2,000万円で購入した不動産を3,000万円で売却するようなケースでは、2,000万円分が取得費となります。
ただし、取得費について建物部分は所有期間中に劣化した分を減価償却費として差し引く必要があります。
また、譲渡費用とは、不動産を売却するのに要した費用のことで、例えば仲介手数料や整地費用、登記費用などがこれに該当します。
最後に土地・建物の譲渡所得にはいくつかの特例が用意されており、それら特例を利用することで特別控除を受けられる場合には、その額を差し引きます。
代表的なのは、マイホームを売却するなど一定の要件を満たすことで受けられる3,000万円特別控除で、この特例の適用を受けることで最後に3,000万円分差し引くことができます。
譲渡所得の税率
課税譲渡所得を計算したら、税率を掛け合わせて納税額を算出します。
(土地・建物の)譲渡所得は給与所得等とは別に所得を計算する分離課税で、その税率は売却した年の1月1日時点における所有期間が5年超か5年以下かで以下のように分かれています。
所有期間 | 短期/長期 | 所得税 | 住民税 | 合計 |
5年以下 | 短期譲渡所得 | 15.315% | 5% | 20.315% |
5年超 | 長期譲渡所得 | 30.63% | 9% | 39.63% |
例えば、課税譲渡所得が1,000万円だった場合、短期譲渡所得だと納税額は396.3万円となりますが、長期譲渡所得であれば203.15万円と半分程度に抑えることができます。
不動産売却時に適用を受けられる特例
不動産売却時に適用を受けられる特例としては、以下のようなものがあります。
- 3,000万円特別控除
- 10年超所有軽減税率の特例
- 特定居住用財産の買換え特例
- (損失時)居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
- (損失時)特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
上記は、全て売却する不動産がマイホームであった場合に適用を受けられる特例です。
マイホームの売却以外の特例としては以下のようなものがあります。
特例の適用を受けられれば納税額を大きく減らすことができるため、売却時に特例の適用要件を満たしているかどうかを調べた上で手続きを進めましょう。
確定申告の申告方法
確定申告は以下の手順で進めていきましょう。
- 必要書類を準備する
- 申告用紙に記入する
- 税務署に書類を提出する
それぞれについて詳しく解説します。
確定申告の必要書類を準備する
まず、確定申告の書類は最寄りの税務署で取得するか、国税庁のホームページからダウンロードするようにしましょう3。
e-Taxを利用することで、申告内容を入力した申告用紙を印刷して申告するか、インターネットで直接確定申告(電子申告)することもできます4。
税務署や国税庁のHPで取得するもの
- 確定申告書B様式
- 分離課税用の申告書
- 譲渡所得の内訳書
自分で用意するもの
- 購入時・売却時の不動産売買契約書
- 登記事項証明書
- 仲介手数料などの領収書
- 本人確認書類
- 印鑑
- 口座が分かるもの
- (給与所得のある方)源泉徴収票
- (医療費控除を受ける方)医療費に関する領収書等
申告用紙に記入する
まず、本記事でご紹介した内容を元に譲渡所得税の納税額を計算しましょう。
計算した内容について「譲渡所得の内訳書 」に記入し、計算結果を「分離課税の申告書」に、また給与所得などその他の所得について「確定申告B用紙」に記入します。
なお、e-Taxを利用すると画面案内に従って入力を進めることができるので便利です。
税務署に書類を提出する
申告用紙への記入と必要書類の準備が終わったら、それらの書類を税務署に提出しましょう。
書類の提出方法には以下のようなものがあります。
- 税務署に持参する
- 税務署に郵送する
- 電子申告(e-Tax)する
税務署に持参する
所得税の確定申告期間中(例年2月16日~3月15日※土日を挟む場合には後ろ倒し)に申告書を税務署に持ち込んで確定申告します。
税務署が空いているのは平日の17時までという点に注意が必要です。
書類を提出すると、税務署の職員の方に内容に不備がないか簡単なチェックを受けることができます(申告書の内容をきちんと見てくれるわけではありません)。
申告期間中は税務署が非常に混み合うことが多いので余裕を持って行動するようにしましょう。
税務署に郵送する
申告書類を税務署に郵送することもできます。
平日仕事で抜けられない方や、混雑する税務署に行きたくないという方はこちらの方法を選んでもよいでしょう。
ただし、持参すれば受けられる最低限のチェックを受けることもできないため、不備がないかしっかり確認する必要があります。
できれば、初めての確定申告は持参するか次の電子申告を選ぶことをおすすめします。
電子申告する
e-Taxで作成した書類はそのまま電子申告することもできます。
e-Taxでは画面の案内に従って申告書類を作成していくことができるため、確定申告に慣れていない方でも間違いが少ないため、おすすめです。
ただし、電子申告するにはカードリーダーを用意するか、事前に税務署で確定申告用のIDとパスワードを発行してもらう必要があります。
不動産売却の確定申告で失敗しやすいこと
不動産売却時の確定申告では、以下のようなことに注意しましょう。
- 書類の準備に時間がかかる
- 確定申告の日程調整に失敗する
- 確定申告しなかった場合どうなる?
書類の準備に時間がかかる
確定申告ではさまざまな書類が必要になりますが、その書類を用意するのに時間がかかることが多い点に注意が必要です。
例えば、源泉徴収票を紛失してしまった場合、会社にお願いすれば再発行してもらうことができますが、発行までに数日時間がかかってしまうこともあるでしょう。
また、登記簿謄本を取得するには平日の8時30分~17時15分までの間に法務局に行かなければならず、平日に仕事をしなければならない方はなかなか足を運ぶ時間を取れず取得までに時間がかかってしまうことがあります。
確定申告の期間は1カ月程度ありますが、こうした書類の準備に手間取ってしまうとあっという間に時間が過ぎてしまっていたということはよくあることです。
確定申告の日程調整に失敗する
先述の通り、申告書の提出先である税務署や登記簿謄本の取得先である法務局は平日しか空いておらず、仕事をしながら提出の準備を進めるにはいろいろと日程調整しなければならないこともあるでしょう。
しかし、確定申告期間中はこれらの施設は混み合うのが一般的です。
一方、申告期間中の早い時期であれば、そこまで混んでいないため、日程調整で失敗しないためには早い段階で書類を提出できるよう、余裕のあるスケジュールを組むことが大切です。
確定申告しなかった場合どうなる?
不動産を 売却して利益を得たものの、確定申告するのを忘れていたり、税金を納めるのがいやだからといって故意に確定申告しなかったりするとどうなるのでしょうか?
まず、不動産を売却したことは、登記簿謄本の情報を見ればすぐに分かります。
「確定申告しないでもばれないのでは」という考えは捨てるようにしましょう。
また、確定申告をし忘れた場合には、期限後であっても「期限後申告」として申告することができます。
期限後申告した場合、申告によって納める税金の他、無申告加算税(自ら申告した場合には5%)が課されることになります。
期限内に申告できるように計画的に進めるようにしましょう。
最近になり導入された制度
確定申告では最近になり導入された制度がいくつかあります。
ここでは、その内のいくつかをご紹介します。
電子申告が楽になった
まず、これまで電子申告するには住基カードなどICのついた公的書類と、それを読み取るカードリーダーが必要でした。
このため、「電子申告のためにカードリーダーを買うほどでもない」と考え、断念していた人もいました。
しかし、2018年の確定申告より、事前に税務署に行くことで確定申告用のIDとパスワードを受け取れるようになりました。
一度税務署に足を運ぶ必要がありますが、IDとパスワードを取得してしまえば、その年以降の確定申告はカードリーダー等の設備なしに電子申告できることになりました。
青色申告特別控除額が変わる
個人で事業等行っている方は、一定の要件を満たすことで最大65万円の青色申告特別控除を受けられますが、2020年分より控除額が55万円に減額されます。
しかし、電子申告することで、これまでと同じ65万円分の控除を受けることができます。
青色申告特別控除を受けている方は、これを機会に電子申告することを考えてみるとよいでしょう5。
まとめ
不動産売却時の確定申告についてお伝えしました。
不動産を売却して利益が出ると、確 定申告して税金を納める必要がありますが、損失が出た場合でも損益通算や繰越控除できる特例の適用を受けられる可能性があるため、必ず調べておくようにしましょう。
また、文中でもお伝えしている通り1カ月の確定申告期間はあっという間に過ぎてしまうので、余裕を持って資料の準備等進めることをおすすめします。