住宅ローンを組んでマイホームを購入した場合、住宅ローン控除の適用が検討できます。
住宅ローン控除を利用すると還付金を得られますが、いくら還付されるのか気になる方も多いでしょう。
この記事では、住宅ローン控除の還付金の計算方法や手続きの流れについて、分かりやすく解説します。
住宅ローン控除の還付金とは
還付金とは、所得税などの税金を納めすぎた場合に返還されるお金のことです。
住宅ローン控除では、一定額を所得税と住民税から控除できます。
そのうち所得税については還付を受けることができ、住民税については減税を受けることができます。
そもそも住宅ローン控除とは
住宅ローン控除とは、住宅ローンを利用してマイホームを購入した人の税負担を減らすための国の税制優遇措置の一つです。
詳しい控除額は後ほど解説しますが、住宅ローンの残債に応じて一定額を所得税から控除できます。
さらに、住宅ローン控除は所得税から直接差し引ける税額控除です。
例えば、所得税が20万円で住宅ローン控除の金額が10万円なら、所得税20万円から10万円を直接差し引けます。
そのため、医療費控除などの所得額から差し引く控除(所得控除)とは異なり、より節税効果が大きくなるのです。
サラリーマンなど源泉徴収している場合に還付金を受け取れる
会社から給与をもらう会社員は、基本的に毎月の給与から所得税が天引きされています。
天引き額は給与などからあらかじめ算出した額ですが、昇給や控除などは反映されていません。
一方、実際に支払うべき所得税額は、1月1日~12月31日の所得が確定した後に分かるので、天引き額と差が生じるケースが多いでしょう。
この差の調整 が年末頃に会社で行われる「年末調整」です。
住宅ローン控除を適用する場合、年末調整で税額と支払額の調整が行われ、払い過ぎた分を還付金として受け取れます。
なお、住宅ローン控除は初年度のみ年末調整ではなく確定申告する必要があります。
適用1年目のみは自身で確定申告し、払い過ぎた分を還付金として受け取ることになるので注意しましょう。
2年目以降は年末調整で受け取ることが可能です。
個人事業主など源泉徴収していない場合は納税額を減らすことができる
個人事業主など、毎年確定申告をして所得税を納税している場合は、給与からの天引きで所得税を納めていません。
そのため、確定後の所得税を申告時に納めることになり、この額は住宅ローン控除まで反映されています。
つまり、すでに控除により減額された額で納税するので、還付金はないのです。
住宅ローン控除額の計算方法
ここでは、住宅ローン控除でいくら控除できるのかをみていきましょう。
住宅ローン年末残高により控除額が変わる
住宅ローン控除では、年末の時点での住宅ローン残債に、一定の割合を乗じて控除額を計算します。
住宅ローン控除の控除額=年末時点の住宅ローン残債×控除率
控除率は、住宅を購入した年度によって変わってきますが、2021年度までに購入した人は1%、2022年度以降は0.7%です。
また、住宅ローン控除には控除できる期間と上限額も定められています。
2022年度以降の控除期間は原則13年となり、控除上限は住宅性能・年度・世帯によって以下のよう異なります。
住宅性能 | 限度額 | 控除期間 | ||
2024年入居 | 2025年入居 | |||
新築住宅 買取再販住宅 | 長期優良住宅 低炭素住宅 | 子育て世帯 若者夫婦世帯 →5,000万円その他世帯 →4,500万円 | 4,500万円 | 13年間 |
ZEH水準省エネ住宅 | 子育て世帯 若者夫婦世帯 →4,500万円その他世帯 →3,500万円 | 3,500万円 | ||
省エネ基準適合住宅 | 子育て世帯 若者夫婦世帯 →4,000万円その他世帯 →3,000万円 | 3,000万円 | ||
その他の住宅 | 0円 | – | ||
既存住宅 | 長期優良住宅 低炭素住宅 ZEH水準省エネ住宅 省エネ基準適合住宅 | 3,000万円 | 10年間 | |
その他の住宅 | 2,000万円 |
参考:国税庁「住宅ローン減税の概要について(令和6年度税制改正後)」
例えば、2024年に購入した長期優良住宅で年末時点の住宅ローン残債が4,000万円なら、控除額は「4,000万円×0.7%=28万円」です。
控除額は年末の残債に応じて変化するので、年ごとに変わってきます。
さらに、条件によっても上限額が異なるので、自身の条件に合わせてシミュレーションするようにしましょう。
なお、住宅ローン控除が適用できるのは2025年12月31日までに入居した場合です。
2024年10月時点では2026年以降については確定していませんが、2026年以降も延長の可能性がゼロではないため、動向を注視しておく必要があります。
最初に所得税から控除を受けることができる
住宅ローン控除では、控除額全額を所得税から控除できます。
例えば、控除額が20万円でその年の所得税が25万円なら、25万円-20万円=5万円がその年に納めるべき所得税です。
すでに所得税を25万円納税している場合は、払い過ぎた20万円の還付を受けられます。
所得税から控除しても残りがある場合は住民税から控除できる
控除額が所得税額を上回った場合、控除しきれない分は住民税から控除されます。
例えば、控除額が30万円で所得税が20万円の場合、10万円は住民税から控除できるのです。
ただし、住民税での控除には上限があり、余った分すべてが控除できるわけではありません。
住民税の控除の上限は以下のいずれか少ない方です。
- 所得税の住宅ローン控除可能額のうち控除しきれなかった金額
- 所得税の課税所得金額の5% (上限97,500円)
上記の例では、10万円全額は控除できずに上限である97,500円の控除となります。
なお、2014年から2021年12月31日までの入居の場合は、上限が課税所得金額の7% (上限136,500円)となります。
住宅ローン控除で還付金を受け取る手順
住宅ローン控除で還付金を受け取る手順は以下の通りです。
- 初年度:確定申告で申請
- 2年目以降:(会社員など)年末調整で申請/(個人事業主など)確定申告で申請
それぞれ詳しくみていきましょう。
所得税の確定申告で住宅ローン控除の申告をする
住宅ローン控除の初年度は、確定申告での申告が必要です。
必要書類を揃えて申告期間中に税務署に申告するようにしましょう。
住宅ローン控除の申請に必要な書類
初年度の確定申告時に必要な書類は以下の通りです。
- 確定申告書
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 登記事項証明書
- 売買契約書または請負契約書の写し
- 源泉徴収票
- 住宅ローンの年末残高証明書
- 本人確認書類
確定申告書と計算明細書は、税務署窓口や国税庁のホームページで入手できます。
年末残高証明書は年末毎に金融機関から送付されるので、大切に保管しておくようにしましょう。
必要書類は適用する住宅によっても異なるので、事前に確認して漏れのないように用意することが大切です。
確定申告の提出方法
申告方法は「窓口に提出」「郵送」「e-Tax」の3種類から選べます。
書類に不安がある場合は窓口を利用すると簡易的なチェックを受けることが可能です。
ただし、申告時期の窓口は込み合うので、余裕をもって申告するようにしましょう。
e-Taxならパソコンで申告書の作成から申告までできるので、窓口に行く時間が取れない人でも気軽に申告できます。
確定申告に不安がある場合は、自治体の相談コーナーや税理士などに相談するとよいでしょう。
勤務先で年末調整を受けている場合は2年目以降の確定申告は不要
毎年年末調整をしている場合は、2年目以降は年末調整で住宅ローン控除を適用できます。
年末調整で適用する場合は、以下の書類を会社に提出します。
- 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 住宅ローンの年末残高証明書
「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書」は、2年目対象者に税務署から送付される書類です。
2年目の分だけでなく全期間分の書類がまとめて送られてくるため、大切に保管するようにしましょう。
年末調整での適用を忘れた場合、会社の申告期限に間に合う場合 は再度年末調整してもらうか、自分で確定申告することになります。
住宅ローン控除による還付金のシミュレーション
ここでは、以下の条件で住宅ローン控除による還付金をシミュレーションしてみましょう。
- 年収:600万円
- 住宅ローン:5,000万円/金利1%/35年ローン/2024年1月返済スタート
- 住宅性能:省エネ基準適合住宅
- 世帯:子育て世帯
2024年入居の子育て世帯・省エネ基準適合住宅の場合、控除上限額は4,000万円/13年間です。
また、年収600万円の所得税を20万円としてシミュレーションしていきます。
13年間の所得税の還付額は以下の通りです。
年末時点の住宅ローン残高 | 控除額 | 所得税の還付金 | 住民税での控除 | |
1年目 | 48,800,802円 | 28万円 | 20万円 | 8万円 |
2年目 | 47,589,556円 | 28万円 | 20万円 | 8万円 |
3年目 | 46,366,145円 | 28万円 | 20万円 | 8万円 |
4年目 | 45,130,444円 | 28万円 | 20万円 | 8万円 |
5年目 | 43,882,328円 | 28万円 | 20万円 | 8万円 |
6年目 | 42,621,674円 | 28万円 | 20万円 | 8万円 |
7年目 | 41,348,355円 | 28万円 | 20万円 | 8万円 |
8年目 | 40,062,245円 | 28万円 | 20万円 | 8万円 |
9年目 | 38,763,215円 | 27.13万円 | 20万円 | 7.13万円 |
10年目 | 37,451,134円 | 26.21万円 | 20万円 | 6.21万円 |
11年目 | 36,125,873円 | 25.28万円 | 20万円 | 5.28万円 |
12年目 | 34,787,298円 | 24.35万円 | 20万円 | 4.35万円 |
13年目 | 33,435,276円 | 23.4万円 | 20万円 | 3.4万円 |
合計 | – | 350.37万円 | 260万円 | 90.37万円 |
1年目~8年目までは住宅ローン残高が上限の4,000万円を超えるため、控除額は4,000万円×0.7%=28万円となります。
また、全期間で控除額が所得税額を上回るため、所得税で控除しきれない分は住民税から控除されます。
住宅ローン控除の還付金が少な過ぎると感じる理由とは?
住宅ローン控除を受けている人の中には、還付金が少な過ぎると感じる人もいます。
なぜ、還付金が少な過ぎると感じてしまうのでしょうか。
ここでは、還付金が少な過ぎると感じる理由をみていきましょう。
納税した額しか還付されない
住宅ローン控除では、控除できる額のすべてが還付されるわけではありません。
そもそも還付とは納めすぎ た税金を返還することなので、納めていなければ還付は受けられないのです。
例えば、その年の所得税が10万円で控除額が20万円なら、還付を受けられるのは10万円となります。
「20万円の控除があるから20万円還付を受けられる」と考えていると、還付金が少ないと感じてしまうでしょう。
還付を受けられるのは所得税のみ
住宅ローン控除によって所得税が控除額を下回る場合、控除しきれない分は住民税から控除されるため、控除額が無駄になることはありません。
しかし、所得税は還付を受けられる一方、住民税は還付とはならないことに注意しましょう。
所得税は、その年の所得に対する税金をその年に支払います。
給与所得者は給与から天引きされているので、払い過ぎた分が還付となるのです。
一方、住民税はその年の所得に対する税金を翌年支払います。
控除分は翌年支払う税金から差し引かれるため、還付ではなく減税となるのです。
こうした仕組みを知らないでいると、住宅ローン控除による還付金の額が少なくて驚いてしまう方もいるかもしれません。
住宅ローン年末残高は毎年少しずつ減っていく
住宅ローン控除で控除できる額は、年末時点の住宅ローン残高に左右されます。
毎年の住宅ローン残高は、毎月の返済で減っていくため、住宅ローン控除の対象額も少なくなる場合があります。
とくに、繰り上げ返済して一気に残高が減少すると控除額も大きく下がるので、少な過ぎると感じることがあるでしょう。
繰り上げ返済を検討している場合は、住宅ローン控除の期間や控除額と比較して、繰り上げ期間や額を判断することが大切です。
住宅ローン控除の還付金に関するよくある質問
最後に、住宅ローン控除の還付金に関するよくある質問をみていきましょう。
住宅ローン控除で納付額が0円になった場合、定額減税は受けられる?
定額減税とは、デフレ脱却のための一時的な減税措置のことです。
所得金額1,805万円以下(給与収入のみは2,000万円以下)の人で、納税者および配偶者を含めた扶養親族1名につき、所得税3万円、住民税1万円の控除を受けられます。
定額減税は住宅ローン控除後の金額に対して適用されるため、住宅ローン控除で所得が定額減税の控除を下回った場合、所得税から控除することはできません。
ただしその場合、定額減税の控除できなかった額は「調整給付金」として支給されます。
そのため、定額減税が無駄になる・住宅ローン控除額に影響が出るということはありません。
住宅ローン控除の還付金が振り込まれない理由は?
住宅ローン控除の還付金は、確定申告から1~2ヵ月程で指定の口座に入金されます。
ただし、提出した書類に不備があるなど何かしらのトラブルが原因で振り込まれないケースもあります。
書類に不備がある場合、税務署から連絡があるので、修正などに応じるようにしましょう。
また、「国税還付金振込通知書」が届いていないか確認することが大切です。
国税還付金振込通知書は還付が決まった際に送られる書類で、還付額や振込先などが記載されています。
連絡がない、通知も届 いていないという場合は、一度税務署に確認するとよいでしょう。
住宅ローン控除の還付金を確認する方法は?
還付金の額や振込先、処理状況などはe-Taxのマイページから確認できます。
e-Taxホームページから、マイページの「還付・納税関係」にアクセスし、還付金処理状況をチェックしましょう。
ただし、利用できるのはe-Taxの利用者識別番号を持っている人に限られるので、登録が必要です。
e-Taxの利用者識別番号を持っていない場合は、税務署に問い合わせて確認することになります。
まとめ
住宅ローン控除を適用することで、所得税の還付・住民税の減税を受けられます。
控除額は、基本的には「年末時点の住宅ローン残高×0.7%」です。
この額を所得税から控除し、控除しきれない場合は一定額を住民税から控除することができます。
ただし、住宅ローン控除の控除額や入居年や住宅性能などのよっても左右されます。
また、控除額のすべてが還付されるわけではなく、納税した額までしか還付を受けられない点にも注意しましょう。
住宅ローン控除は、長期間所得税・住民税を節税できるお得な制度です。
適用条件や控除額などを理解して、上手に活用できるようにしましょう。