平均寿命が延び、定年後のセカンドライフは、どんどん長くなる傾向にあります。一方で、収入は年金頼りとなるため、維持費の支払いに不安を持つ人も少なくないようです。
この記事では、老後のマンション維持費のコストを明らかにするとともに、万が一、支払えなくなったときの対処法について解説します。
老後の収入は
総務省の「家計調査結果からセカンドライフを生活設計1」によると、給与による生活を辞めて年金暮らしを始めた後の平均家計収入は、1世帯当たり1か月21万1千円で、そのうち可処分所得は17万8千円となっています。
可処分所得とは、収入のうち、税金や社会保険料などを除いた所得で、自由に使える手取り収入のことをいいます。
一方で、消費支出は25万8千円であり、可処分所得を8万円上回っています。つまり、1カ月当たり8万円の赤字であることを意味します。この赤字分は預貯金や個人年金の受取りなどの、それまでに蓄えた金融資産の取り崩しで賄われるのが一般的です。
月8万円の赤字は、1年で96万円であり、20年で1,920万円になります。2019年に大きな論議を呼んだ、いわゆる「老後資金2,000万円問題」は、あながち根拠がないわけではありません。
同調査では、支出のうち住居費は14,342円(月)ですから、マンションの維持費が、この金額を超えるようであれば。さらに赤字の金額は大きくなります。
マンションの維持費とは
マンションの維持費は、そこで暮らす限りはけっして 欠かすことのできない費用のことです。主に次のような費用が維持費とされています。
- 火災保険料
- 管理費
- 修繕積立金
- 固定資産税と都市計画税
- 駐車場代・駐輪場代(車を保有する場合のみ)
それぞれどれくらいの費用が必要になるのか、項目ごとに詳しく探っていきましょう。
火災保険料
マンションの火災のリスクは、木造住宅と比べて低いものの、皆無ではありません。また火災だけでなく、水漏れを起こして他人の部屋に損害を与えてしまった場合に備えて、火災保険の特約で「個人賠償責任保険」の契約をしておくと安心です。
火災保険料は月払いではなく、年単位で支払うのが一般的です。保証償内容にもよりますが、1年で3,000~4,000円程度です。
管理費
管理費は、共用部分を管理し、維持・修繕するための費用です。たとえば、次のような事柄に使われます
- 常駐する管理員の人件費
- 管理組合の運営に要する費用
- マンションを清掃・管理・保全する費用
- 共用部分(廊下、駐車場、エレベーターなど)の電気代や水道料金
- 共用部分の電球を交換する費用
- ゴミを処分する費用
- エレベーターや貯水槽などの保守点検費用
- 共用部分の火災保険やその他の損害保険の保険料
国土交通省の「令和5年度マンション総合調査」によると、管理費の総額の平均は17,103円となっています2。この費用は、総戸数規模が小さくなるほど高額になる傾向があります。
気をつけたいのは、販売を促進する都合上、新築分譲時には管理費が低めに設定されていることが多い点です。このタイプのマンションでは、管理費は10年後から20年後には値上がりすることを想定しておいた方がいいでしょう。
また経年によりマンションの劣化が進むので、築年数が古いマンションは修繕に必要な金額がますます膨らんでいきます。
さらに、住人の高齢化や空室化が進むと、管理費や修繕積立金の徴収額が減ってしまうため、これらの支払額が値上がりする可能性もあります。
修繕積立金
修繕積立金とは、マンションを大規模に修繕するための費用です。
前述の調査によると、2023年のマンション1戸あたりの修繕積立金平均額は、13,378円となっています。
大規模修繕で使うので、一度の発注で何百万円単位の費用を要します。そのため、毎月修繕積立金という名目で徴収し、必要な時までお金を積み立てておくのです。
修繕積立金は、10〜15年ごとに行われる次のような大規模修繕工事に使われます
- 床防水工事
- 屋根防水改修工事
- 外壁塗装工事
- 鉄部。建具・金物塗装工事
- 共用部内装工事
- 排水設備工事
- 敷地内駐車場や駐輪場の補修、増設
- 給排水管の取り替え工事
- 受水槽の取り替え工事
- 台風、地震など自然災害による損傷の修繕
- 集合ポストの取り換え
- バリアフリー工事
修繕積立金の未払いを放置していると、本来集まるはずの資金が得られないため、収支状況が悪化していき、値上げせざるを得ない状況になる可能性があります。
高齢者が多いマンションや、実際に居住していない所有者が多い場合も、将来的に収支状況が悪化する可能性があります。マンションにおいては、管理組合の健全性も維持費に大きく関わってくるのです。
固定資産税と都市計画税
マンションや戸建てを所有している人が必ず納めなくてはいけない税金が、固定資産税と都市計画税です。
これらの税金は、毎年1月1日の時点で建物や土地を所有している人が納税義務者になります。
固定資産税の税額は「固定資産税評価額×1.4%」で算出されます。固定資産税評価額とは、固定資産税を決めるために基準となる評価額のことで、「固定資産評価基準」に基づき、各自治体が3年に1回見直しを行って決める評価額のことです。
マンションの場合、土地は共同所有者で割ったものが所有区分となります。
都市計画税の税額は「固定資産税評価額×上限税率0.3%」で算出します。
課税の対象となるのは、市街化区域内の土地と建物です。市街化区域とは、すでに市街地である区域、または10年以内で優先的に市街化を計画している区域のことです。
市街化区域の内外については、各自治体のホームページで確認できますが、築年数が50年以内で、街中に建てられているのであれば、ほぼ市街化区域内と考えていいでしょう。
たとえば、固定資産税評価額が1千万円の場合、固定資産税と都市計画税の納税額は、1年で170,000円になります。
駐車場代・駐輪場代
免許証返納が視野に入った世代になると、車や二輪車を保有しない世帯も増えてきます。その場合、駐車場代は不要ですから、大きな節約になります。
車を保有するのであれば、駐車場代は概ね毎月5,000円~3万円程度です。また自転車やバイクを停める駐輪場の料金は、1,000円未満が一般的です。
老後のマンションの維持費はいくら
1年間にかかる維持費は、次のような金額になります。
- 火災保険料……3,000円
- 管理費……204,000円(17,000円×12カ月)
- 修繕積立金……156,000円(13,000円×12カ月)
- 固定資産税・都市計画税……170,000円
- 駐車場代……車を保有しない
- 合計……532,000円
1カ月当たり約44,333円の維持費がかかる計算です。
なお、国土交通省の調査結果を見ると管理費・修繕積立金ともに2018年から2023年の間に上昇傾向が見られます。
マンションの維持費を滞納するとどうなる?
マンションの管理費や修繕積立金の滞納は、年々増加する傾向にあります。国土交通省の「令和5年度マンション総合調査結果」によれば、3カ月以上管理費や修繕積立金の滞納をしている人がいるマンションは、全体の29.2%です。
築年数の古いマンションの方が、滞納の割合が高くなる傾向があります。
また、2018年の調査時点での同数値は24.4%でしたので「管理費や修繕積立金を滞納する人が増えている」という傾向がある点は要注意です。
管理費や修繕積立金の支払いを滞納すると、当然そのままで収まることはありません。
どのような問題が起きるのか解説をしていきましょう。
管理会社からの督促がある
マンションの管理費を滞納してしまうと、管理会社からの督促の電話が入ります。引落ができなかったことへの事情の聞き取りと、いつまでに払えるかという確認が目的です。
しかし滞納が2カ月以上になると、しだいに督促が厳 しくなり、電話だけでなく督促状や催告書が配達証明郵便で送られてきます。
理事会や総会で名前が公表される
滞納が続くと、滞納状況が管理会社から管理組合の理事長に報告され、やがてその事実は、理事会で公開されます。
管理組合の理事会の理事は、基本的にはそのマンションの居住者で構成されていますから、マンションの住民にも滞納した事実が伝わってしまいます。
さらに年に1回開催される管理組合の総会において、理事会より管理費や修繕積立金の滞納状況について報告があります。これにより、管理費の滞納の事実は、マンションのほとんどの住民に知れ渡ることになります。
遅延損害金が加算される
マンションの管理費を滞納してしまうと、滞納した金額のみで清算することができなくなります。罰則として高額な遅延損害金が加算されるからです。遅延損害金の利率はマンションによって異なりますが、多くのマンションでは、年率14.6%という金利を設定しています。これは、一般的なサラリーマン金融の金利を上回るかなりの高金利です。
法的措置がとられる
マンションの管理費の滞納が長期間続き、悪質と捉えられた場合は、最終的に管理組合から競売を申し立てられます。
裁判所が行う支払督促には法的な強制力があるので、この段階に至ってもなお支払いがなされない場合は、建物区分所有法の規定(第59条1項)に基づき法的措置がとられます。管理組合は総会での決議を経た後に、競売の手続きを進めていき、滞納されている管理費や修繕積立金の回収に向けて動きます。滞納から2~3年以 内に競売の申し立てに至ります。
請求される金額は、滞納管理費等の遅延損害金をはじめ、訴訟・競売に要した費用も含まれ、全額を滞納者へ請求します。
競売とは、債権者(管理組合)が債権(滞納された管理費や修繕積立金)を回収するために、裁判所を通して滞納者の不動産を強制的に売却し、その売却代金で回収する方法です。
ただし、滞納者とはいえ、競売は自宅を強制的に売却するという強硬な手段ですから、単に滞納されたというだけで、ただちに競売を申し立てることはできません。
管理組合が競売を申し立てるための要件は、建物区分所有法に次のように定められています。
- 共同利益背反行為があること
- 区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと
- 他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であること
判例によると、区分所有者が管理費を滞納した場合に、滞納が多額かつ長期にわたるものであれば、1、2の用件に該当するとされているのが趨勢です。この要件を満たしたうえで、他に回収方法がないと認められる事情があれば、競売請求が認められる可能性が高くなります。
時効は事実上ない
マンションの管理費は、5年の時効があります。5年以上滞納して逃げ切れば支払い義務がなくなります。
しかし、時効を成立させるのは、ほとんど不可能だと考えるべきでしょう。時効は次のような方法で中断することができるからです。
- 訴訟や裁判所を通した支払督促を行う
- 差押えや仮差押えをする
- 滞納者に債務の存在を認め させる
まったく機能していない管理組合でないかぎり、理事会や管理会社は、管理費などの滞納が時効で消滅しないように対策を取ってきます。
時効で逃げ切れることは事実上あり得ないと考える方が現実的です。
維持費が支払えなくなった際の対処法
病気や散財などでマンションの維持費が払えなくなったら、どのような方法で対処すればいいのでしょうか。滞納の段階によって、いくつかの対処法があるので解説していきましょう。
管理費滞納の事情を説明する
管理費を滞納した際に、最もやってはいけないことが、督促を無視することです。最優先で、管理会社や理事会へ支払いの意思があることを伝えなければなりません。
謝罪をしたうえで、滞ってしまった事情や今後の返済予定を伝えることで、理解を得る努力をします。具体的に滞納を解消する時期を伝えれば、それまでの期間は猶予してもらえる可能性が高くなります。
可能な範囲で返済をする
管理組合に支払いの意思があることを理解してもらうためには、可能な範囲で実際に支払いをすることが重要です。
支払いが滞ったからといって、そのまま放置するのではなく、金額不足とはいえ実際に支払うことで、管理組合の強硬な姿勢を回避することができます。
遅延損害金の減額・免除を交渉する
遅延損害金は、理事会の判断で減額や免除をしてくれるケースがありますので、交渉をしてみることも大事です。ただし認めてもらえることは、あまりありません。
滞納期間中にしっかりと謝罪をしたうえで、実効性の高い 返済計画を示すことで、遅延損害金の減額や免除を認めてもらえる可能性が見えてくることがあります。
滞納した維持費で優先するのは税金
高齢者の場合、多くの人が住宅ローンを完済しています。そのような状況の中、家計が苦しくどうしても管理費などの支払いができない場合には、税金の支払いを最優先に行いましょう。
将来のマンションの競売や、さらには自己破産を見据えた場合、維持費の中で最後まで消滅しないのが税金だからです。
税金を滞納してしまうと、管理費などの支払いを猶予されている状況にあっても、差し押さえの措置が取られてしまいます。たとえ自己破産したとしても、納税義務は延滞税を加算して持続するのです。
競売になる前に売却を検討する
将来収入の増加や支出の減少が見込めず、滞納が増えていく一方という状況であれば、最終決断として、マンションを売却して滞納を返済する方法を選択することになります。
返済が不可能という結果が目に見えているのであれば、滞納額が増え遅延損害金が膨れ上がる前に、売却をした方が、将来への希望が広がります。
▼関連記事

管理費の滞納は新所有者に引き継がれる
区分所有法では、滞納のある部屋を売却した場合、管理組合はその滞納分を新所有者(購入者)に請求することができるとされています(建物区分所有法7条1項、8条)。
したがって、滞納がある部屋を買った人は、前の所有者が滞納した分を支払わなければなりません。
ただし、これで管理費の滞納が消 滅すると考えるのは間違いです。当然のことながら、好んで滞納を引き受ける買主はいません。実務上は売却代金で滞納した管理費を売却と同時に返済したうえで新所有者に引き渡すことになります。
リースバックで住み続けることが可能に
家を売却しないと管理費の滞納を解消できないが、引き続き同じ家に住み続けたいという思いがあれば、リースバックという手法で実現できる可能性があります。
リースバックとは、家を売却した後に、その家に賃貸として住み続けるという方法です。リースバックを専門に扱う不動産会社や理解のある親族に買い取ってもらうことで、リースバックを活用することができます。
リースバックを活用することで、一度自宅を売却し、その売却代金で滞納した管理費を返済したうえで、買い手から家を賃貸として借ります。これで売却後も引越しをせずにそのまま住み続けることができるのです。
リバースモーゲージの利用
リバースモーゲージは、自宅の評価額の50~80%程度を上限として、資金を借入れすることができる制度です。住宅金融支援機構や社会福祉協議会などの公的機関、民間の金融機関がサービスを提供しています。
借入金を受取る方法は、次のとおりです。
- 一括でまとめて受取る
- 定期的に一定の金額を受取る
- 契約金額の範囲内で必要なタイミングに必要な金額を受取る
土地を担保にして資金を融資してもらい、本人が死亡したときに自宅を売却して返済する仕組みがリバースモーゲージです。
リバースモーゲージは土地付きの戸建てを主な対象にしており、マン ションでは利用できないケースもありましたが、最近は分譲マンションの1室でも利用できる商品が登場しています。
ただし、金融機関が定める条件に合致しない物件では利用できません。
マンションでの利用が認められない場合、マンションをいったん売却して、その現金で戸建てを購入することで、リバースモーゲージを使える可能性があります。
▼関連記事

戸建てに住み替える
維持費は、管理費や修繕積立金がない戸建ての方が、マンションよりも割安になるのが一般的です。そのため、管理費や修繕積立金の支払いが困難になれば、マンションを売却して戸建てを購入することで、滞納を回避することができます。
戸建ての維持費は、修繕費が大きな割合を占めます。そのため、新築やリフォーム済の戸建てを購入することで、維持費を大幅に抑えることができます。
まとめ
老後の消費支出は25万8千円であり、実質的な収入を8万円上回っています。1カ月当たり8万円の赤字は、それまでに蓄えた金融資産の取り崩しで賄うことになります。
マンションの維持費の内訳は、➀火災保険料、②管理費、③修繕積立金、④固定資産税と都市計画税であり、これらの費用を回避することはできません。維持費は、1年間に53万円程度を要します。1カ月当たりに換算すると、約44,333円です。
管理費や修繕積立金を滞納した場合、管理組合からの督促を経て、最終的には裁判所による競売にかけられる可能性があります。最悪の事態を迎えないためにも、理事会などに事情を説明して、支払いの猶予をしてもらうことが重要です。
どうしても支払いが困難な場合は、税金の納付を最優先したうえで、売却を進めね方法も有効です。リースバックを活用することで、賃貸する形で同じ家に住み続けられる可能性もあります。