中古住宅は、「不安」「汚い」「分からない」といったイメージが強く、なかなか流通が広がりません。「安心R住宅」は、こうしたマイナス面を払拭して、販売を促進することを目的にした制度です。
建物の性能や品質が、一定の基準を満たせば、「安心R住宅」のロゴマークを付けて広告ができるので、売主は早期の売却が期待できます。
この記事では、中古住宅の販売を促進する「安心R住宅」とは、どのような制度なのかを明らかにしたうえで、中古物件の売買時に押さえておきたいポイントを解説します。
安心R住宅とは何か
中古住宅の売買に関して、安心R住宅が注目されています。「R」はReuse(リユース、再利用)、Reform(リフォーム、改装)、Renovation(リノベーション、改修)を意味しています。安心R住宅とは、どのような制度なのか、概要を紹介していきましょう。
中古住宅の流通を促す
総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、日本の中古住宅市場は、全住宅流通量の約14.5%にとどまっています。アメリカやイギリスが、80%以上であることと比べると、中古住宅の流通がいかに低い水準であるかが分かります1。
従前より中古住宅には、「不安」「汚い」「分からない」といったマイナスイメージが定着しており、流通を阻害する大きな要因となっていました。
安心R住宅は、こうしたマイナスイメージを払拭して、中古住宅の販売を促進させるために、国土交通省の告示により発足した制度です(平成29年12月施行)。
任意の制度
安心R住宅は、告示に基づいて運用されていますが、義務化されたものではなく、任意の制度です。この制度に取り組みたいと手を挙げた事業者団体を国が審査して、「特定既存住宅情報提供事業者団体」として登録をします。
登録された事業者団体は、リフォームの基準やロゴマークの使用に関するルールを設定して、団体に属する事業者の指導や監督を行います。
安心R住宅で売却するには
自分の家を安心R住宅として売り出すには、「特定既存住宅情報提供事業者団体」に所属する不動産会社に仲介を依頼し、次のような流れで進めていきます。
国土交通省:「特定既存住宅情報提供事業者団体一覧」- 事業者団体に所属する不動産会社を探し、安心R住宅として売り出したい旨を伝える
- 専属専任媒介契約または専任媒介契約を締結する
- インスペクションやリフォームの手配をする(リフォームは提案書のみでも可)
- 安心R住宅のロゴマークを付して広告を出す
- 買主と売買契約の締結~引渡し
安心R住宅の要件を満たした中古住宅は、広告に「安心R住宅」のロゴマークを付けることができます。
安心R住宅の要件とは
安心R住宅として認められるものは、耐震性があり、インスペクション(建物状況調査等)が実施済で、リフォーム等について情報提供が行われる中古住宅です。具体的にどのような要件を満たさなければならないのか解説をしていきましょう。
耐震性がある
建築基準法の耐震基準は、昭和 56年6月に改正されたため、それ以前に着工された住宅は、現在の耐震基準に適合していない可能性があります。そのため、「現行の建築基準法の耐震基準に適合するもの、またはこれに準ずるものに適合すること」を要件としています。
要件に合うのは、次のいずれかを満たす住宅です。
- 昭和56年6月1日以降に着工したもの
- 昭和56年5月31日以前に着工したもので、耐震診断により安全性が確かめられたもの
インスペクションの実施
中古住宅は、維持管理や経年劣化の状況により物件ごとの品質等にばらつきがあるため、買主が不安を抱く要因となります。
そのため、安心R住宅は、「安心して物件を購入できるように、構造上の不具合および雨漏りが認められず、既存住宅売買瑕疵 保険の検査基準に適合していること」を要件としています。
この要件を満たすために行うのが、保険法人の登録検査事業者等によるインスペクションです。インスペクションに合格するためには、新耐震基準への適合はもちろんのこと、柱や壁、屋根、開口部、外壁なども基礎的な品質を備えている必要があります。

共用部分の適正な管理
中古マンションは、管理組合により適正な管理が行われることが重要です。そのため、安心R住宅では、「管理規約および長期修繕計画があること」を要件としています。
管理規約は、不動産会社に依頼すると開示されます。ただし、管理規約に定めた閲覧のルールの規定があれば、それに 従うことになります。
リフォーム工事の実施もしくは提案
リフォーム工事の実施は、中古住宅の「汚い」イメージを払拭するために非常に重要な要因です。
安心R住宅では、登録事業者団体ごとに「住宅リフォーム工事の実施判断の基準」を定めて、次のいずれかに適合することを要件としています。
- その基準に合ったリフォーム工事が実施されていること
- その基準に合ったリフォーム工事の提案書が付いていること
諸事情でリフォームを実施しない場合は、費用情報を含むリフォーム工事の提案書を付けることで、要件を満たします。
リフォーム工事の提案書は参考情報ですので、リフォーム工事を実施するかどうかは買主の判断しだいです。
情報が開示されている
安心R住宅は、広告をするときに、設計図書、点検記録などの物件選びに役立つ情報の保管状況を記載した書類が作成され、交付されます。
さらに詳細な情報が知りたい場合は、商談時に仲介業者へ依頼すると開示されます。対象となる情報は、次のようなものです。
建築時の情報
建築確認申請書、検査済証など、適法性や認定等に関する書類が提示されます。購入後にリフォームや適切な維持管理等を行う際には、こうした情報が役に立ちます。
特に増築を予定している場合、検査済証がないと、別途、増改築前の建築物の適法性を確認するための調査が必要となることがあります。
また、提示された書類と現地に相違があり、建築基準法上の違反が明白であれば、住宅ローンの審査が通らないことがありますか ら、購入に際しては確認が必須の書類です。
維持保全の状況に係る情報
住宅の品質を維持するためには、点検やメンテナンスなどの維持保全を適切に行うことが重要です。
点検・診断の記録が存在する場合、点検箇所や時期、検査方法、結果、実施者等の詳細について開示を求めることができます。
また、平成21年4月以降に製造・輸入された「特定保守製品」の所有者は、点検期間中にメーカーの点検を受けることが必要とされていますので、点検の実施状況についても確認を求めることができます。
共用部分の管理に係る情報
マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値の確保向上を図るためには、建物等の経年劣化に対して適時適切な修繕工事等を行うことが重要です。そのためには、長期修繕計画に基づき修繕積立金を計画的に積み立てていく必要があります。
共用部分の管理について、管理規約や長期修繕計画だけでなく、長期修繕計画に基づく修繕積立金の積立状況や大規模修繕の実施状況についても、書類の確認を欠かすことはできません。なお、管理規約に閲覧のルールについて定めのある場合は、その規定に従うことになります
中古住宅の売買時に押さえておきたいポイント
安心R住宅の物件や一般の中古住宅を売買する場合、どのような点に注意をすればいいのか、それぞれの物件ごとに解説をしていきましょう。
安心R住宅ではない物件の売却
安心R住宅ではない中古住宅を売却する場合は、安心R住宅で要件とされている事項をなるべく満たす努力が必要になります。
中古住宅がなかなか売れないとされている要因には、「不安」「汚い」「分からない」といった事項が挙げられています。こうしたイメージを払拭することで、早期売却に繋がります。
中古住宅の取引において、安心R住宅が安心して購入できるという認識は徐々に浸透しつつありますから、一般の中古住宅は、どうしても懐疑的な目で見られることになります。インスペクションやリフォームを実施するなどの、買主の不安を解消する努力が必要です。
安心R住宅ではない物件の購入
安心R住宅ではない中古住宅の売買では、開示される情報は限定的になります。またインスペクションについても、仲介者に実施業者をあっせんする義務はありますが、実施自体は義務ではありません。
そのため、法律に適合していない物件や居住に支障のある物件を購入してしまうリスクが高くなります。必要な情報が紛失等を理由に開示されない場合は、購入を見送ることも視野に入れておいた方が安心です。
安心R住宅で物件を売却
耐震性を有する建物であることと、インスペクションが実施された建物であるというのは、買主にとって大きな安心感があります。さらにリフォームで、建物全体が美しい仕上がりになれば、早期の売却が期待できます。
ただし、安心R住宅の基準を満たすために、インスペクションなどの現地調査や書類調査が必要になりますから、一般の売却に比べてコストが高くなる可能性があります。
たとえば、対象の物件が検査済証を取得していなかったら、適合性を証明するために、専門の機関に調査を依頼する必要があります。また適合させるために、建物の改修が必要な場合があります。
物件の品質や状況によっては、思わぬコストが発生することがあるので要注意です。

安心R住宅の物件を購入
安心R住宅の物件は、予め安全に関する基本的要因が点検されているので、安心して購入することができます。ただし、注意が必要なのは、安心R住宅といえども、万全ではないということです。
安心R住宅では、建築基準関連法令等に明らかに違反している中古住宅は対象になりません。しかし、そのことが必ずしも、現行の建築基準関係法令等への適合を保証するものではありません。
たとえば、検査済証を取得している物件で、その後都市計画制限や道路判定等の変更によって、既存不適格になった物件は、違反ではないので、安心R住宅として売り出される可能性があります。
こうした既存不適格の物件だと、基本的に増築や大規模の模様替えなどが認められませんから、想定していたリフォームが実施できないことがあります。最悪の場合、住宅ローンの審査に通らない可能性もあります。
また、将来にわたっての地盤の不同沈下や地震後の液状化について保証するものではないため、地盤、給排水設備の状態やシロアリ対策については、別途専門の調査会社等に相談する必要があります。
まとめ
従前より中古住宅には、「不安」「汚い」「分からない」といったマイナスイメージが定着しており、流通を阻害する大きな要因となっていました。安心R住宅は、こうしたマイナスイメージを払拭して、中古住宅の販売を促進させることを目的としています。
安心R住宅として認められるものは、耐震性があり、インスペクションが実施済で、リフォーム等について情報提供が行われる中古住宅です。安心R住宅の要件を満たして中古住宅は、広告に「安心R住宅」のロゴマークを付けることができます。
安心R住宅として認められた中古住宅は、すでに入念な調査が実施されているので安心して購入することができます。ただし、必ずしも適法であることを証明するものではないため、別途独自の調査を要することがあります。