ふとした瞬間、家の中の壁に細い線が走っているのを見つけてぎょっとした――そんな経験はありませんか。
壁のひび割れは、美観を損なうだけでなく、建物の安全性に関わるサインのこともあります。
この記事では、家の中の壁にできたひび割れの種類や原因、危険度の見分け方、そして実際の補修手順までを解説します。
ひび割れの種類を確認しよう
家の中の壁に現れるひび割れには、実はいくつかの「種類」があります。そして、その種類によって、原因も対処の仕方も大きく異なります。
ただ「壁にひびがある」というだけで済ませておくと、将来問題が発生する可能性があるのです。
まずは、家の中のひび割れの基本的な分類と、それぞれの特徴を確認していきましょう。
表層クラック(ヘアクラック)
家の壁のひび割れには『表面だけの軽度なもの』と『構造まで達する重大なもの』があります。
表層クラックとは、壁の仕上げ材にのみ生じる、非常に細いひび割れのことです。一般的には幅0.2mm未満のことが多く、石こうボードの継ぎ目やクロス(壁紙)のつなぎ目、塗装の表面などに現れます。
よくある原因として次のようなものが挙げられます。
- 乾燥による収縮(石こうやモルタルの乾燥過程での変形)
- 温度・湿度の変化
- 経年劣化
- 施工時の下地処理の不十分さ
これらは、建物の構造に直接影響するものではなく、基本的には放置しても問題のないケースが大半です。
ただし、美観を損なうことがあるため、希望に応じて補修するのがよいでしょう。
【見分け方】
- 直線的・浅くて細い
- 爪先や針金でもなかなか入り込まない
- 壁紙に沿っている、あるいはパテ処理箇所に集中している
構造クラッ ク
構造クラックとは、壁の下地や構造躯体(木材やコンクリート)にまで達している深いひび割れのことです。特に幅0.3mm以上、あるいは深く亀裂が入っているものは注意が必要です。
よくある原因として次のようなものが挙げられます。
- 地震や台風などの外力
- 地盤沈下や不同沈下
- 建物の構造的な欠陥(過荷重や施工ミス)
- 躯体の劣化・老朽化
建物の安全性に直接かかわる可能性があるため、早急な調査と対応が必要です。
放置すると、雨水の侵入による内部腐食や、耐震性の低下といった重大な問題につながることもあります。
【見分け方】
- 幅が0.3mm以上ある
- 斜めに走っている(特に開口部の角に発生する斜め45度のひび)
- 壁だけでなく天井・床・基礎にも続いている
- 同じ位置に再発・延伸する
- クラックの奥が黒く、深く見える
▼関連記事:戸建ての基礎にひび割れを見つけたら…安全性の確認や修繕の方法を解説
その他のひび割れ
上記の2種類以外にも、いくつかの特異なクラックがあります。
地震クラック
- 地震直後に生じるもので、壁紙やクロスの裂け目として現れる
- 壁の構造材に損傷がある場合は、構造クラックと同様の対応が必要
モルタル浮きによるひび
モルタルは、セメントに砂と水を加えて練り混ぜた建築材料で、外壁や内壁の下地・仕上げ材などに使用されています。
- モルタル下地が剥離・浮き上がってできる
- 叩くと空洞音がする箇所がある
- 単なるクラック補修ではなく、浮きの再接着が必要
結露由来のひび(内部劣化)
- 湿気が集まる場所で、内部から膨れたり割れたりする
- 見た目以上に下地が脆弱化しているケースがある
ひび割れを招く原因を知ろう
家の中の壁に現れたひび割れは、単なる経年劣化とは限りません。
住宅という構造物は、さまざまな外的・内的要因によってストレスを受け、それが限界を超えたときに「ひび」という形で表面化します。
ここでは、家の中の壁にひび割れを招く主な原因を5つに分類し、それぞれの特徴と背景を解説します。
乾燥収縮・温湿度変化
もっとも多いのが、乾燥収縮や温湿度変化によるひび割れです。特に築1〜3年以内の住宅に多く見られます。
壁材や下地材(石こうボード、モルタルなど)は、施工後しばらくのあいだ水分を含んだ状態にあります。この水分が時間とともに蒸発し、素材が収縮していく過程で微細なクラック(ヘアクラック)が生じます。
また、住環境の温度差(夏の冷房・冬の暖房)や湿度変化が加わることで、素材に膨張・収縮のストレスが繰り返され、やがて表面に割れが出るのです。
【特徴】
- 表面だけに現れる細いひび(表層クラック)
- クロスや塗装面に沿って走る
- 冬場や梅雨明けなど気候変動期に出やすい
建物の構造には影響しないケースが多いため、経過観察または簡易補修で十分なことがほとんどです。
地震・台風などによる外力
大きな揺れや風圧もまた、壁にひび割れを生じさせる原因となります。
地震によって建物が一時的に傾いたりねじれたりすると、構造材に強い剪断力が加わり、特に開口部(窓や扉)の角部分に斜め方向のクラックが入りやすくなるのです。
また、屋根の重みや風圧で建物がたわんだ場合にも、壁材が応力に耐えきれず割れることがあります。
【特徴】
- 幅が広く深いクラックになることが多い(構造クラック)
- 斜めに走る、あるいは上下に分断するような割れ
- 震災直後や大型台風のあとに現れる
耐震性への影響がある可能性もあり、専門家による診断が必要です。見た目以上に深刻な損傷が隠れているケースもあります。
地盤沈下・不同沈下
建物の土台となる地盤が不均一に沈下すると、その影響は建物全体の構造に及びます。
とくに、地盤の一部が緩んでいたり、支持力が不足していたりする場合には、基礎が不均等に沈む「不同沈下」が発生します。不同沈下が起こると、構造材には引き裂くような応力が加わり、壁や床にクラック(ひび割れ)が生じる原因となります。
とくに築年数が浅いにもかかわらずひび割れが多い場合は、地盤に問題がある可能性が高いため、注意が必要です。
【特徴】
- 同じ位置にひびが再発・進行する
- 外壁・基礎・内壁にまたがって連続する亀裂
- 床の傾きや建具のゆがみ(ドアが閉まりにくい)を伴う
根本原因が地盤にある場合は、補修だけでは解決しません。地 盤調査や沈下修正工事が必要となるケースもあるため、早めの調査が重要です。
材料や施工の不具合
仕上げ工事や構造施工にミスがあった場合も、ひび割れは起こりやすくなります。
次のようなケースでは、施工不良によってひび割れが発生している可能性があります。
- クロスの継ぎ目処理が甘い
- モルタルの混合比率が不適切(乾燥収縮が過大になる)
- ビスの打ち込みが不均一(石こうボードの応力集中)
- 適切な養生期間を設けずに塗装・仕上げした
【特徴】
- 新築またはリフォーム直後に発生
- 壁材の継ぎ目に沿った線状の割れ
- 明らかに同じ場所で繰り返す場合が多い
施工不良の場合、施工会社の保証期間内であれば補修請求が可能です。気づいた時点で写真を撮っておくと、交渉がスムーズになります。
補修の流れ
ひび割れの原因と危険度がわかったら、次に考えるべきは「どう直すか」です。
補修といっても、表面だけを整えればいいケースから、構造の内部まで補強が必要なケースまでさまざまです。
ここでは、ひび割れ補修の基本的な流れを、以下の4ステップで整理して紹介します。
ステップ① 現状を確認し、補修方針を立てる
まずは、どのレベルのひび割れかを見極めることが最優先です。
自分で確認できるポイントは次のとおりです。
- クラックの幅・深さ:0.3mmを超えているかどうか
- 形状:斜め・水平・開口部にかかっているか
- 進行性:日に日に広がっている かどうか
- 複数箇所か、局所的か
- 建物の他の部位(外壁・基礎・床)に異常があるか
判断が難しい場合は、住宅の状態をチェックして、劣化や不具合、構造的な問題がないかを調査してくれるインスペクターの資格がある建築士に調査を依頼すると安心です。
また近年では、赤外線カメラやドローンを用いた調査を活用している施工会社もあります。
ステップ② 表層クラックはDIYで補修可能
0.2mm以下のヘアクラックで、構造に影響のないものなら、自分での補修(DIY)も十分可能です。
DIY補修の基本手順は次のとおりです。
- 清掃・脱脂……ブラシや掃除機でひび割れ周辺のホコリやカビを取り除く。
- Vカット処理(必要に応じて)……クラックが目に見える程度の幅(0.2mm以上)の場合、カッターなどでV字に切り開いてシーラー(塗料)を浸透させやすくする。
- シーラー塗布……下地との密着を良くするため、プライマー(下地材)やシーラーを塗る。
- 充填材の注入……固まったあとも、ある程度の柔軟性(可とう性)のある補修パテやアクリル系充填剤を使って隙間を埋める。
- 表面仕上げ……乾燥後にサンドペーパー(紙やすり)で整え、塗装またはクロス補修で見た目を回復。
■使用する主な材料・道具
- クラック補修パテ(市販で1,000円前後)
- プライマー/シーラー
- サンドペーパー、ヘラ、カッター
- 壁用塗料または補修クロス
■所要時間:半日〜1日程度
■費用目安:3,000〜5,000円程度 (道具含む)
ステップ③ 構造クラックは専門業者に依頼
幅0.3mm以上のクラックや、深くまで達している可能性があるもの、あるいは再発を繰り返すひび割れは、構造補修が必要です。この場合は必ず専門業者に相談しましょう。
業者が行う修繕方法の1つに「エポキシ注入」があり、これはひび割れたコンクリートやモルタルの内部に、エポキシ樹脂という強力な接着剤を注入し、内部から接着・補強する方法です。
エポキシ樹脂の注入による修繕の様子。
- 調査・マーキング……ひび割れの範囲を明確にし、注入口(パッカー)を設置する位置を決める。
- 注入口の設置と封鎖処理……パッカーと呼ばれる注入口を取り付け、クラックの周囲を専用パテで密閉。
- 樹脂の注入……低圧ポンプでエポキシ樹脂を注入。充填後に硬化させる。
- 仕上げ処理……パッカーを除去し、表面を整えて塗装やクロス仕上げを行う。
■所要期間:1〜3日程度(規模による)
■費用:10万〜40万円程度が一般的
ステップ④ 再発防止と経過観察
補修したからといって、それで「すべて解決」とは限りません。ひび割れは再発することもあるため、以下のような点に注意して暮らしましょう。
再発防止のためには、次のようなことに配慮します。
- 温湿度管理:加湿器や除湿機を使い、室内を常に40〜60%の湿度に保つ。
- 家具配置の見直し:大きな家具を一か所に集中させない。
- 地震後の点検:揺れのあったあとには必ず室内外のひびを点検する。
補修後、数週間〜数カ月 かけてひびが拡大・再発しないかを観察します。複数箇所に再発するようなら、構造上の問題が潜んでいる可能性があるため、再調査をしてください。
まとめ
家の中の壁のひび割れを見つけたときは、その種類と進行性を見極めることが第一です。細かい表層クラックならDIYでの補修も可能ですが、深い構造クラックの場合は早急な専門家の診断が必要です。
放置すると建物全体の安全性に影響を及ぼすおそれもあります。地盤沈下や構造的な欠陥が関与しているケースでは、補修だけでなく抜本的な対策が求められることも。
安心して暮らすためには、早期の確認と適切な修繕、そして定期的な点検による予防が欠かせません。ひび割れに気づいたら、まずは専門家に相談することをおすすめします。