「入居者が住んでいる状態でも、物件は売却できるのだろうか?」
収益物件や賃貸用住宅を所有しているオーナーの中には、こんな疑問を抱く方も少なくありません。
実は、入居者がいる状態の物件は「オーナーチェンジ物件(OC物件)」として売買されています。
居住中のまま所有者だけが変わる取引は珍しいものではなく、投資用不動産市場では一般的な売却方法です。
しかし、賃貸中物件の売却は“通常のマイホーム売却”とは大きく異なります。
- 入居者へ退去を求めることはできるのか
- 売却価格は空室より高くなる? 低くなる?
- 売主の手続きや準備は何が必要なのか
- 借主への通知やトラブルはどう防ぐ?
- サブリース(管理会社の借り上げ)だとどうなる?
こうしたポイントを理解せずに売却を進めると、
値下がり・契約トラブル・売却の長期化が起きることもあります。
本記事では、
- 賃貸中のまま売却できる仕組み
- 賃貸借契約ごとの注意点(普通借家・定期借家)
- 物件タイプ別の売却額の傾向
- 売主が知っておくべき法律・手続き
- 査定時に必要な書類
- 収益物件の価格決定の仕組み(利回り・収益還元法)
- サブリースや連棟式物件(長屋)など条件が特殊な場合の注意点
など、オーナーチェンジ物件の売却で必ず知っておきたい知識を網羅的にまとめています。
結論として、入居者がいる状態でも売却は可能です。
ただし、物件の種類や賃貸契約の内容によっては、売却価格が大きく変わるため、正しい知識を持ったうえで売却活動を進めることが重要です。
売却のために入居者を退去させることはできない
賃貸用の収益物件は「住む目的で購入する住宅」に比べると、「家賃収入や転売による利益を見込む投資家」が購入のターゲットになるため、売買の需要が限られています。
そのため、賃貸中の物件は空室よりも低い値段で取引されるのが一般的です。
リフォーム・リノベーションを施して家賃を高く設定するなどの戦略もありますが、それは入居者がいる最中には実施できません。
入居者がいても物件の売買は自由にできますが、不動産の賃貸契約は借りる側の権利を法律で保護するという考え方が根本にあります。
例外となるのは「定期借家契約で、期限を迎えたとき」です。
普通借家契約と定期借家契約
賃貸物件における借家契約(賃貸借契約)には「普通」「定期」の2種類があります。
- 普通借家契約…期間の定めがない
- 定期借家契約…期間の定めがある
契約期間が2年などと書いてあっても、定期借家契約でない限り、2年が経過しても契約が終了するものではありません。
借家契約の種別は賃貸借契約書で確認できますので、もし賃貸借契約を読んで「定期借家」という文字がなければ普通借家契約です。
ファミリー向けの間取りの物件は、入居者がいると売却額が下がる
ファミリー向けの戸建て住宅などは、一般的に賃貸中の物件のほうが査定額が低くなりがちです(約1割程度値下がりすることが多い)。
しかし前述の通り、「空室の方が高く売れるから」と言っても、貸主であるオーナーの都合で退去してもらうことはできません。
定期借家契約であれば、期限を迎えれば退去してもらえますが、退去してもらうためには期限が到来する半年前までに借主に「まもなく期限ですので退去の準備をしてください」と伝えなくてはいけません。
通知しない場合は、借主が希望すれば通知をした日から半年間は住めることになります。
もちろん、再契約(期限延長)も貸主借主双方が合意をすれば可能です。
単身世帯向けの投資用物件は、入居者がいる方が売却額は上がる傾向にある
なお、ワンルームマンションなど単身世帯向けのオーナーチェンジ物件は、一般的に投資用として購入されることが多く、単身者や学生向けの賃貸需要が高いため、入居者がいる方が収益性が安定していると見なされます。
特に都心部や大学周辺のような賃貸需要の高いエリアでは、すでに入居者がいる場合、すぐに収益を得られるため、空室リスクが低いと評価されて査定額が高くなる傾向があるのです。
賃貸中の長屋の場合は、隣家と同時売却も検討すべき
「長屋」や「テラスハウス」「タウンハウス」などと呼ばれる連棟式の建物を貸し出している場合も、売却は可能です。
連棟式の建物の場合は個別で売るよりも、隣家と合わせて建物・敷地全体を売却する方が購入後に活用しやすくなるため、売れやすくなり、より高値が付く可能性があります。
借主が管理会社(サブリース)の場合
収益物件では、ワンルームマンションを中心に、管理会社が借り上げて入居者に転貸しているケースがあります(サブリース)。
所有者と管理会社の契約内容は様々ですが、実際に入居者が住んでいると、その「住む権利」が一番に保護されます。
売却については、管理会社との契約内容を確認してください。

物件相場が一般的な住宅とは異なる
収益物件は、「利回り」と「値上がりが見込めるか」が1番に重視されるため、居住用の住宅とは相場が異なります。
利回り
居住用の不動産売買では、取引事例法を用いて査定が行われるのが一般的ですが、オーナーチェンジ物件の場合は、その不動産が将来生み出す収益から逆算して査定が行われます(収益還元法)。
現在の賃料収入と管理費などの支出がどのくらいかを算出して、利回りがどのくらいかを計算します。
その利回りの大小がオーナーチェンジ物件の価値の指標となり、このような査定方法を「収益還元法」と言います。
管理費など、毎月のコストを考慮しない利回りは表面利回り、考慮した場合は実質利回りと呼ばれます。
近年、不動産価格は高騰していますが、賃貸物件の家賃は売買価格ほど上がっていません。
利回りは賃料が元になるので、売買価格が高騰している時期は、居住目的で購入できる物件に比べて価格が低くなることが多いです。
値上がりの可能性
立地によっては、今後人気が高まり、値上がりが期待できるエリアもあります。
短期的には家賃による安定収入があり、中長期的には地価の上昇による売却益も見込めるとなれば、収益用物件としての価値も上がります。
利回りが低くても希少価値が高い場合などもありますので、一概に利回りだけで金額は決まりません。
査定の時に用意するもの
査定では、「登記識別情報通知」など通常の売却資料に加えて、賃貸借契約に関する書類の提出が必須になります。
特にオーナーチェンジ物件の場合、これらの書類で賃貸条件・入居者の状況・管理体制が確認できなければ、購入希望者は検討すら進めることができません。
賃貸借契約書
- 賃料・敷金・契約期間
- 普通借家か定期借家か
- 更新条件
入居者に関する情報
- 家賃滞納の有無
- 過去のトラブル履歴
※マイナス要素は査定額に影響し、通知しなければ告知義務違反になるリスクもある。
管理会社へ委託している場合に必要な書類
- 管理委託契約書(管理会社との契約書)
- 管理料や業務範囲
- 管理会社の変更可否
- 解約できる条件・時期
サブリース契約かどうか(家賃保証の仕組み)
- サブリース契約書(該当する場合)
- サブリース家賃の金額
- 家賃改定条項
- 中途解約の可否
- 保証期間 など
査定でプラスになる可能性がある資料
- 過去の修繕・リフォーム履歴
- 設備交換
- 外壁・屋根修繕
- 室内の原状回復履歴 など
管理状況がわかる資料(あれば)
- 定期清掃の記録
- 点検報告書
- メンテナンス履歴
これらの資料は、査定額だけでなく「買主の安心材料」となり、売却のスムーズさにも影響します。
特に滞納・トラブル・サブリース条件は価格に直結するため、情報を整理しておくことが重要です。
自宅の売却とオーナーチェンジ物件の売却で異なる点
買手が得られる情報が少ない
オーナーチェンジ物件は入居者がいるため、新たな買主が室内を見ることができない場合が多いです。
そのため、物件情報や仕様などを詳細に説明できたほうが売却しやすくなります。
リフォームなどで内装を変更しているときは、その情報も伝えましょう。
ローン清算の準備
売却完了時のローンの清算方法は、普通の物件と変わりません。
事前に金融機関に相談をしておきましょう。
また、売却金額がローン残債に満たない場合は、足りない分を自己資金で補う必要があります。
売買時には仲介手数料やその他の諸費用も発生するため、不動産会社とも確認して手元に残る金額を確認するようにしましょう。
敷金・保証金
敷金と保証金は呼び方が違うだけで、意味合いはほとんど一緒です。
基本的に入居者が預けた敷金・保証金は賃貸契約解約の際に入居者に返さなくてはいけないので、敷金・保証金は次の買主に引き継ぎます。
敷金の所在は必ずクリアにしておくのが、トラブル回避のために重要です。
賃貸管理会社が預かっているケースもあります。
オーナーとしての地位の引継ぎ
賃借人にはオーナーが変わったことを知らせる必要があります。
新規購入者が通知することですが、とくに事前に売却をすることを賃借人に伝える義務はありません。
税金
居住していた物件には、売却によって譲渡益が出ても控除が使えたり、損失が出た場合は繰り越せたりなど の特例(マイホーム売却時の特例、3,000万円控除)がありますが、収益物件には適用されません。
賃料による収入は不動産所得として計上するのが一般的ですが、売却によって節税効果を期待する場合は税理士に相談しましょう。
不動産業者の選び方
住宅を売却する一括査定サイトなどで査定に出しても大きな問題はありませんが、収益物件の売却経験があり、周辺の賃貸物件のニーズにも詳しい業者・担当者に依頼するのが理想です。
利回りが高くなくても、次回の募集の際に家賃の値上げができる物件かもしれませんし、その場合は現在の利回りが低くても売却価格を維持できる可能性があります。
周辺の賃貸物件を取り扱っている業者であれば、その辺りの情報にも期待できます。
また、その地域であまり出てこないような希少物件であれば、相場とは大きく離れた額を査定されることもあるでしょう。
成約事例が少ない場合は、ニーズを的確に予測して売り出し価格を検討する必要があります。
売買のプロや賃貸のプロは多いですが、どちらの相場にも精通している担当者は業界でもそれほど多くはありません。
まとめ
入居者がいる物件を売却する際は必要な手続きが増えますし、居住用の物件と相場が変わってくることもあります。
知っておかなくてはいけない知識も増えるので、もしご自身で不明なところがあればアドバイスがもらえる専門家を探すことが重要になってきます。












