土地の一部分を売却したい場合、「分筆」という手続が必要です。分筆では、どのような形状で土地を分けるのかという検討が非常に重要になります。土地の形状によって、売却価格が大きく異なるからです。
この記事では、土地を分筆して売却する方法を明らかにするとともに、分筆の手続、費用、注意点についても解説していきます。
土地を分筆する方法
「分筆」とは登記上の土地を分ける手続きのことをいいます。
土地の所有者は、登記をすることで権利が主張できます。そのため土地の一部分を売却したいのであれば、その土地を分筆しなければなりません。分筆することで、初めて売却予定土地の所有権移転登記が可能になるのです。
同じように土地を分ける行為として、「分割」というものがありますが、こちらは建築基準法上の敷地として扱う範囲を明確にするものです。分割では土地の所有者が問われることはないので、登記の変更は必要ありません。
ここでは、土地の一部を分筆する方法について解説していきます。
土地家屋調査士に依頼する
土地の分筆は、土地の測量や隣接地所有者との境界確認などが必要になるため、土地家屋調査士に依頼します。
土地家屋調査士は登記申請の代理も行います。不動産の登記簿は、表題部と権利部がありますが、表題部の登記は土地家屋調査士が行い、権利部の登記は司法書士が行います。
土地家屋調査士を探すには
日常生活の中で土地家屋調査士に出会う機会は、あまりないでしょう。
依頼する土地家屋調査士が見つからない場合は、次のような方法があります。
- 司法書士に紹介してもらう
- 仲介を依頼した不動産会社に紹介してもらう
- 都道府県単位で構成されている「○○県土地家屋調査士会」に問い合わせる
分筆の形状に複数の私案がある場合は、先に不動産会社を決定する方法が有効です。分筆の形状や位置によって、土地の価額は大きく異なるからです。
不動産会社は、必ず土地家屋調査士と繫がりがありますから、土地家屋調査士を紹介してもらうこともできます。この場合、分筆の形状決定について、それぞれの専門家の立場から意見を聞ける利点があります。
土地の分筆をするまでの手順
それでは、土地家屋調査士に依頼した後、実際にどのような手順で分筆手続が進められるのか解説していきましょう。
必要書類を入手する
土地家屋調査士が、法務局で次の書類を入手します。
- 公図
- 地積測量図
- 確定測量図(境界確定図)
- 登記事項証明書
確定測量図は隣地との境界を確定させている図面ですが、そもそも存在しないことがあります。確定測量図がない場合は、隣地所有者と境界に関して合意したうえで、書類を作成する必要があります。
境界確定測量をする
確定測量図が存在しない場合は、土地家屋調査士が境界確定測量を行います。
境界確定測量は、過去の測量図などと照合して、境界線を検討することから始めます。実際に境界が決まれば、隣地所有者に境界を確認してもらい、同意を得ます。
同意を得られたら、土地家屋調査士が境界確定測量図を作成します。
分筆案を作成する
依頼者(土地所有者)は、作成された測量図をもとに土地家屋調査士に相談をし、どのように土地を分筆するのかを検討します。
すでに不動産会社と媒介契約を交わしている場合は、どのような形状で分筆をすれば、売却に有利であるのかのアドバイスをもらいます。
そのうえで、分筆案を作成します。
境界標の設置
立会結果に基づき、現地に境界標を設置します。境界標は、劣化しにくい鉄製の境界標などを使用します。
登記申請をする
土地家屋調査士が登記申請書類を作成し、法務局へ提出します。
土地を分筆する際に必要な書類は次のとおりです。
- 登記申請書
- 筆界確認書
- 地積測量図
- 現地案内図
- 委任状(代理人が手続を行う場合)
申請人になれるのは、登記簿上の表題部所有者または所有権の登記名義人です。共有の場合、原則共有者全員からの申請でなければなりません。したがって、分筆登記に反対する所有者が一人でもいると申請することができません。
成果品を受領する
土地家屋調査士から、登記完了証や関連資料を受取ります。土地分筆手続を依頼した日から成果品受領までの期間は、2カ月から3カ月です。ただし、隣接者の同意が得られない場合や役所の立会日がなかなか決まらないといった状況だと、さらに長引きます。
分筆した土地を売却する手順
土地の分筆が完了すれば、いよいよ土地の売却を進めていきます。分筆した土地をどのような手順で売却をするのか解説をしましょう。
仲介を依頼する不動産会社を探す
不動産会社は、大きく「大手」と「地元密着型」に分類することができます。しかし売主の立場で考えると、ネット広告ができる不動産会社であれば、両者に極端な違いがでることはありません。多くの購入希望者は、気にいった物件を見つけた後で、不動産会社を選ぶ傾向があるからです。
むしろ売却の成否は、営業担当者の能力や相性によって顕著な違いが出てきます。したがって、売却の仲介を依頼する不動産会社を決める際は、複数の不動産会社を回り、営業担当者の資質から判断する方法が有効です。
分筆した土地の売却について、不動産会社に相談をする場合は、次のような書類を用意します。
- 購入時の物件パンフレット
- 登記事項証明書
- 固定資産税等納付通知書
分筆した土地のうち、建物付きの方を売却する場合は、建築確認済証、検査済証、図面などの建物関係の書類も必要になります。
登記済権利証(登記識別情報通知)は、相談時には不要です。不要に持ち歩くと紛失するリスクがあるので、大事に保管しておきましょう。
仲介方法を決めて媒介契約をする
不動産会社を決めたら、その会社と媒介契約を結びます。
分筆した土地の売却の仲介を依頼するために結ぶ媒介契約には、次の3種類があります。
- 専属専任媒介契約
- 専任媒介契約
- 一般媒介契約
専属専任媒介契約は、特定の不動産会社に媒介を依頼する契約です。他の不動産会社に重ねて依頼することはできません。
契約した不動産会社は、媒介契約締結の翌日から5日以内に媒介する不動産情報をレインズに登録する義務があります。レインズとは、宅地建物取引業法に基づき、国土交通大臣の指定を受けた「指定流通機構」で、全国の不動産業者情報がネットワークで結ばれています。
また依頼者に対して1週間に1回以上の頻度で活動状況を報告する義務があります。
専任媒介契約も、同様に特定の不動産会社に媒介を依頼し、他の不動産会社に重ねて依頼することはできません。レインズの登録は、媒介契約締結の翌日から7日以内に行う義務があります。
また不動産会社は、依頼者に対して2週間に1回以上の頻度での活動状況報告をしなければなりません。
一般媒介契約は、複数の不動産会社に重ねて媒介を依頼することができ ます。不動産会社は、レインズの登録義務も、活動状況報告の義務もありません。
一般媒介契約は、不動産会社にとって確実に自社で媒介ができる保証がないので、熱心な売却活動の期待はできません。
不動産会社が売却活動を行う
不動産会社が、分筆した土地の売り出し広告を出し、購入検討者や他社からの問い合わせに応対をします。
売主は不動産会社からの報告を確認することで、状況を確認します。専属専任媒介契約であれば1週間に1回以上、専任媒介契約であれば2週間に1回以上のペースで報告があります。
土地購入希望者と条件交渉
分筆した土地の購入希望者が現れたら、媒介契約を締結した不動産会社が間に入って、条件交渉を行います。
たとえば次のような要望が購入希望者から出されることがあります。
- 価額をもう少し下げてほしい
- 確定測量図と現地を照合したい
- 樹木はすべて伐採してほしい
- 引渡は○月○日にしてほしい
条件交渉がまとまれば、売買契約書を不動産会社が作成します。
売買契約を締結
売買契約は、不動産会社のオフィスに一同が会する方法が一般的です。重要事項説明を受けた後に、売買契約書へ署名・捺印をします。
分筆した土地の売買契約に際して、売主は次の書類等を用意します。
- 実印
- 認印
- 身分証明書
- 印鑑証明書
- 登記済権利証(登記識別情報通知
- 収入印紙
- 固定資産税納付通知書
この段階で、買主は売主に手付金を支払います。手付金の額は、売買代金の10%前後、あるいは100万円程 度です。
また売主と買主は、それぞれの媒介不動産会社に手数料の半金を支払います。
残金決済と引渡
残金決済の場所は、買主が決めます。買主がローンを組んでいる場合は、融資をする金融機関で行われるのが一般的です。
残金決済当日は、土地の所有移転登記手続を行う司法書士が立ち会い、所有権移転登記をするための書類をチェックします。
書類に問題がなければ、買主が残金を売主に支払います。また司法書士に登記費用を支払います。司法書士はただちに登記所へ向かい、所有権移転登記の手続きを行います。後日買主に登記識別情報通知が郵送されます。
固定資産税や都市計画税は、その年の1月1日時点の所有者が納税義務者ですが、日割り計算をして年末までの日数に相当かる金額を買主が売主に現金で支払うことが、商慣習として定着しています。
さらに不動産会社に仲介手数料の残額を支払います。これにより、土地の引渡しが完了します。
土地の分筆に必要な費用
土地を分筆する際には、土地家屋調査士への報酬と登録免許税の費用が必要になります。
測量費
境界が確定している場合は、10万円程度です。
隣接地との境界が確定していない場合、測量や立ち合いで手間がかかるため、費用は30万円~100万円程度になります。
筆界確認書作成費
筆界が確定していない場合、隣地との筆界を確定させる測量を行います。
土地所有者と隣地所有者の両者に合意の署名・押印をしてもらうために筆界確認書の作成を土地家屋調査士にしてもらいます。費用は10万円程度です。
境界確定図作成費
境界が確定していない場合、隣地との境界を確定させる測量を行います。
土地所有者と隣地所有者の両者に合意の署名・押印をしてもらうために境界確認書の作成を土地家屋調査士にしてもらいます。費用は10万円程度です。
登記申請費
分筆の登記の申請を土地家屋調査士にしてもらいます。費用は、5万円程度です。
登記免許税
分筆後の土地ひとつにつき1,000円の費用がかかります。
土地の分筆の注意点
土地の分筆に際しては、注意すべきいくつかの注意点があります。順に解説していきましょう。
土地の形状を整形地にする.
一般的に、土地は正方形や長方形などの整形な形の方が高く売却できます。建物のプランの自由度が高くなるからです。
残す方の土地の使い勝手を優先するために、分筆して売却する方の土地を路地状敷地(旗竿敷地)にすることがあります。しかし、路地状敷地は、使い勝手が悪く、建築上のロスが大きいため、あまり人気がなく、相場よりも価格を下げて売らざるを得ない状況になることがあります。
有利な売却を進めるためには、特別な事情がないかぎり、分筆して売却する土地が整形な形になる方法を模索しましょう。
接道義務に適合する.
建築基準法上の道路に2メートル以上接していない土地は建築ができません。この接道規定に適合していない土地は、利用価値がないため、まず売却できません。
分筆に際しては、分筆後のそれぞれの土地が接道義務を満たしていることをしっかりと確認する必要があります。
残す土地の適法性を堅持する
居住する土地の分筆をする場合、建物が存在しない方の更地を売却することになります。ここで気をつけたいのが、引き続き居住する建物の適合性を堅持するということです。
売却する土地を増やしたいからと、居住する土地を減らし過ぎると、建ぺい率、容積率、北側斜線などの基準に適合しない、違反建築物となる可能性があります。
既存の建物がある場合は、分筆後に容積率・建ぺい率違反にならないように注意しましょう。
意外なことに、このような違反が発生する分筆でも、登記は可能です。分筆手続きには、建築士や行政の建築指導部門がまったく関与しないため、気がつかないまま違反建築物を発生させてしまうこともあり得るのです。
こうした場合、売却した土地に建築確認申請が行われて初めて違反が判明することになります。
もはや適正にするには、建物の一部を解体・除却するしかないといった事態にもなりかねませんから、建物付きの土地を分筆する際には、残す建物の適法性についても慎重な検討が必要です。
境界標は確定測量図と照合する
土地の周囲に境界標があるからといって安心することはできません。従前の測量技術は制度が低いため、境界標が必ずしも隣地所有者と合意した境界線とは限らないからです。
測量図は、一般的に次の種類があります。
- 確定定測量図
- 法務局登録済みの地積測量図
- 現況測量図
このうち、境界を主張できる根拠となるのは、確定測量図のみです。確定測量図だけが、境界線を共有する双方の所有者や役所の立ち合いが完了している測量図だからです。
この確定測量図に示す境界ポイントに存在する境界標のみが有効ですから、分筆に際しては、念のために確定測量図と現地の境界標を照合しておきましょう。
分筆できない土地がある
次のような土地は、分筆をすることができません。
- 接道長さが規定ぎりぎりの土地