遺言による財産の譲渡には複数の形式がありますが、中でも「清算型遺贈」は、遺産の換価処分や金銭給付を伴うため、遺言執行者には特に慎重な対応が求められます。
とくに不動産の売却を伴う場合には、相続人や受遺者との関係、税務処理、登記手続きなど、さまざまな注意点があるのです。
この記事では、清算型遺贈において遺言執行者が不動産を売却する際の具体的な流れと、注意点を解説します。
清算型遺贈とは
「清算型遺贈」とは、遺言によって財産を譲り受ける受遺者に対し、金銭など一定の価額を給付することを目的として、遺産の中から支払う形式の遺贈をいいます。
通常の「特定遺贈」は、「〇〇の土地」や「A銀行の預金」など特定の財産をそのまま受遺者に引き渡します。
一方、「清算型遺贈」では、遺産全体を対象にして金銭を支払う義務が発生し、その原資として不動産などの遺産を売却(換価)して用いる点が特徴です。
たとえば、遺言書に「Aに1000万円を遺贈する」と書かれていた場合、相続財産に現金が十分にないときは、遺言執行者が不動産を売却して現金を作り、その1000万円を支払うことになります。
つまり、「遺言で指定された金額を支払うこと」が目的であり、そのための手段として不動産などの換価が行われるのです。
このような清算型遺贈の本質的な特徴は、受遺者が特定の遺産を取得するのではなく、「遺産から一定額を取得する権利」を持つことにあります。
そのため、遺産の内容や構成によっては、遺言執行者に財産の管理や売却などの広範な権限が求められ、相続人との利害調整や税務申告、登記手続きなども発生します。
遺言執行者の選任方法
遺言の内容を実現するためには、法的な権限と責任をもつ「遺言執行者」の存在が重要になってきます。
清算型遺贈のように、遺産を売却して現金を用意し、それを 受遺者に支払うといった業務を適切に遂行するためには、遺言執行者の選任方法を理解しておくことが不可欠です。
遺言で指定するのが原則
遺言執行者は、遺言書の中で遺言者自身があらかじめ指定するのが原則です。たとえば、「本遺言の執行者として〇〇を指名する」といった明示的な記載があれば、その人物が遺言執行者として法的地位を得ることになります(民法第1006条)。
誰を指定するかについては、未成年者と破産者を除けば、親族・友人・専門家(弁護士、司法書士)など、任意の人物を選ぶことができます。
清算型遺贈では登記や換価、税務申告など高度な手続きが伴うため、専門職を指定しておくことが望ましいでしょう。
指定がない場合は家庭裁判所に申立て
遺言書に遺言執行者の記載がない場合や、指定された人物が就任を辞退したり、死亡・欠格(未成年・破産等)により就任できない場合には、家庭裁判所に「遺言執行者選任の申立て」を行う必要があります。
申立ては、遺言の執行によって法律上の利害(利益・不利益)を受ける可能性のある相続人や受遺者などの利害関係者が行い、裁判所が適任者を審査・選任します(民法第1010条)。
申立ての際には、被相続人の戸籍謄本や遺言書(検認済)、相続関係図、申立理由書、候補者の略歴などの提出が必要です。
家庭裁判所の審判により選任が決定すると、その人物は正式に遺言執行者としての権限をもって職務を開始できます。
選任後の手続き
遺言執行者が就任すると、法的に遺産の管理・処分に関する権限を取得します(民法第1012条)。