「相続土地国庫帰属制度」は、不要な土地を国に引き取ってもらえる制度として注目を集めています。
相続などで取得した土地の管理や処分に困っている人にとって、有効な選択肢となり得るでしょう。
ただし、誰もが簡単に土地を手放せるわけではありません。制度には一定の要件や手続きが定められており、利用には十分な準備と理解が必要です。
この記事では、「相続土地国庫帰属制度」を利用するための主な条件と、申請の流れ、注意すべきポイントについて解説していきます。
相続土地国庫帰属制度とは
近年、全国的に増加している所有者不明土地や管理されない空き地は、公共事業の遅延や景観の悪化など、様々な問題を引き起こしています。
特に、相続後に利用されず放置された土地がその多くを占めており、その解決策のひとつとして、2023年4月に創設されたのが「相続土地国庫帰属制度」です。
この制度は、相続や遺贈により取得した不要な土地を、一定の条件を満たせば国に引き取ってもらえるようにしたものです。
土地問題に悩む相続人の「最後の手段」
長年使用していない山林、接道のない宅地、収益性のない農地といった、いわゆる「負の遺産」は相続人にとって重荷となります。地方移住や家庭菜園ブームの一方で、「手放したくても手放せない土地」を抱えたままの人も多いのが現実です。
「相続土地国庫帰属制度」は、そうした人たちにとっての最後の手段であり、将来世代に不要な土地を残さないための選択肢でもあります。
この制度の創設により、「相続したくない」「相続してしまったが困っている」という人々が、法的な手続きによって土地の所有から解放される道が開かれたのです。
「所有の義務」からの出口
日本では、土地を所有すると、その管理責任や税負担(固定資産税など)が自動的に発生します。たとえ山林や農地であっても、草刈りや境界の管理、災害時の責任など、所有者としての義務は免れません。
この制度は、そうした「所有者の義務を果たすのが難しい」ケースにおいて、一定の審査を経たうえで「土地を手放す=国に帰属させる」ことを可能にする仕組みです。
つま り、個人が土地の所有権を放棄できる初めての法的ルートといえます。
対象となる土地と取得方法が限定されている
ただし、どんな土地でも国が引き取ってくれるわけではありません。制度の対象となる土地にはいくつかの要件があります。
まず重要なのは、対象となる土地が「相続または遺贈によって取得したもの」に限られるという点です。つまり、土地を売買や贈与で取得した場合は、この制度は利用できません。
また、引き渡せるのは「国が管理可能」と判断した土地に限られます。後述しますが、建物がある土地、崖地、通路、水路など、管理上の支障が大きい土地は制度の対象外です。
なお、相続放棄などと違い、相続土地国庫帰属制度には「相続してから〇年以内に手続きを行わなければならない」などの規定はないため、10年以上前に相続した土地でも申請可能です。
参考:法務省|相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件
制度の利用件数と初期の傾向
「相続土地国庫帰属制度」は施行から日が浅いながらも、全国で確実に関心が高まっています。
法務省によると、制度が開始された2023年4月から2025年4月末までの約2年間で、全国の法務局に約3,700件の申請が寄せられました。
そのうち、正式に「国庫帰属」が認められたのは42%程度にとどまり、残りの多くは「土地の状態が不適格」「書類不備」「申請取り下げ」などにより、却下もしくは審査未了となっています。
特に受理されやすいのは、地方の山林や耕作放棄地で、明確な単独所有かつ境界紛争がない土地です。一方、都市部の住宅地や商業地は、建物の残存や通行権の問題が多いため審査が厳しく、却下されるケースが目立ちます。
たとえ通行権が正式に設定されていなくても、周囲の住民が慣習的にその土地を利用している場合は、現地調査で「第三者の使用実態」が確認されれば、国による引き取りは困難と判断されます。
相続土地国庫帰属制度では、「他人が利用している土地」は原則として引き取りの対象になりません。
つまり、「見た目は空き地でも、誰かがそこを通って日常生活を送っている」ような土地は、国が引き取ると第三者の生活を妨げるリスクがあるため、受け入れが困難なのです。
この制度は、単に「要件を満たしていれば通る」ものではなく、現地調査や書類準備を含む確実な手続きと、現実的な期待値の設定が不可欠であることが、初年度の動向からも明らかになっています。
引き取り可能な土地の条件
相続土地国庫帰属制度を利用するうえで、最も重要かつ最初に確認すべきことは、その土地自体が制度の対象となるかどうかです。
制度は「不要な土地であれば何でも国が引き取ってくれる」というものではなく、土地の性質や状態によって申請そのものが受理されないケースもあります。
ここでは、引き取りが可能な土地の条件について解説していきましょう。