不動産の売買では、大きなお金が動くので、何かとトラブルもありそうですね。今度、家を売却しようと思っているので、想定されるトラブルがあれば知っておきたいのですが…。
確かに、ときどきトラブルはあります。深刻な問題に発展してしまうものとしては「重要事項の説明」に関するものがあります。敷地の境界が確定していなかった、隣接する土地に葬儀場や工場、高層マンションが建設された…などです。
どれも買主にとっては重要な問題ですね。あとは、売ることが決まったあとで、契約を解除されてしまうのも、売主としては困りますね。
実際、「契約解除」のトラブルも少なくありません。引き渡しの直前になって解約した場合は、手付金だけをもらいます。ただ、ローンの審査に通らないことが理由で解約した場合は、ローン特約によって手付金は買主に返却されます。
そういう意味でも手付金は大事なんですね。それと…家を売ったあとで「ここが傷んでいるのに聞いていなかった!」と言われるのがちょっと怖いのですが。
住宅の欠陥は「瑕疵」といいますが、売却前に「インスペクション」を受けて状態をチェックしてもらうのも有効ですよ。不動産売買でよくあるトラブルとその対応をチェックしておきましょう!
不動産の売却ではどんなトラブルが発生しているのか
国土交通省が行った宅地建物取引業法施工状況調査(平成29年度)において、売買の「苦情・紛争相談件数」が公表されています。
これによると平成29年度の相談件数は293件となっています。
相談内容の内訳は、次のとおりです。
1位(38.6%):重要事項の説明(不告知を含む)
2位(13.7%):契約の解除(ローン不成立を含む)
3位(7.5%):瑕疵問題(瑕疵補修を含む)
本調査は宅地建物取引業に関する調査であることを鑑みると、「重要事項の説明」に関することがトップになるのは当然だとしても、売主と買主の間に発生する「契約解除」や「瑕疵問題」も少なからずトラブルとなっています。
これらのトラブルはどのようなことが原因となって発生するのか詳しくみていくことにしましょう。
重要事項の説明に関するトラブル
重要事項の説明とは、不動産会社の宅地建物取引士が、不動産の情報について買主に説明するものです。
しかし個人間の取引においては、不動産会社は仲介をする立場であり、ここで説明のなかった事項によって買主が不利益を被れば、最終的には売主が責任を取る立場になります。
それではどのような事柄について説明を欠けばトラブルに発展するのでしょうか。
敷地境界が確定していなかった
不動産の取引において、敷地境界線は最も重要な事項のひとつです。
このため売買に際しては、地積測量図と境界標の位置を照合するのが一般的です。
しかし境界標が抜けていたり、フェンスの内外で境界線の認識が隣家と相違していたりすると、買主が係争に巻き込まれることになります。
隣家の軒先が敷地を越境していた
隣家の軒先が自分の敷地に越境していても、土地の所有権自体は変わりません。そのため、越境部分も含めて売却は可能です。
しかし、他人の建物が占有している部分は、建築確認申請上「有効敷地」に含められないため、想定より小さい規模の建物しか建てられず、買主からクレームになることがあります。
なお、軒先だけでなく、給水管やガス管などのライフラインが越境していることもあります。これらを把握せず、または告知せずに売却すると、売却後に契約不適合責任を問われる恐れがあります。
▼関連記事:土地の境界トラブルでよくある事例と解決策
隣接する土地の用途地域が異なっていた
用途地域は全部で13種類あり、それぞれの地域で建築できる建物の高さや用途が定められている。
重要事項説明では、売却する土地の用途地域は説明しますが、周辺の用途地域まで説明することはあまりありません。
ところが用途地域は、必ずしも隣接地と同じとは限らないのです。
たとえば、売却した土地が第一種低層住居専用地域だったとしても、裏の土地が準住居地域だったということもありえます。
このため静かな住環境を期待して購入したのに、突然家の裏に葬儀場や工場が建設されて期待を裏切られてしまうということにもなりかねません。
▼関連記事:13種類の用途地域の違いは?不動産取引や家を選ぶ際の注意点も解説
目の前に高層マンションが建つ
マンションの売却でよく係争になるのが、眺望の良かったマンションの面前に別のマンションが建てられることです。
埋蔵文化財包蔵地だった
売却物件が埋蔵文化財包蔵地にある場合、重要事項説明書の関係法令一覧で「文化財保護法」にチェックが付けられます。
しかし一般の人には、これだけでどんな規制なのかは理解できません。
埋蔵文化財包蔵地で建築をする場合、着工の60日前まで市町村に届出をします。
これを受けて文化財保護課の職員が、発掘調査が必要と判断すれば、数カ月は工事に着手できないばかりか、事業用の建物だと発掘調査費も土地所有者の負担になってしまいます。
▼関連記事:文化財保護法による規制
契約解除によるトラブル
契約解除は、売主の計画修正を余儀なくされるために、トラブルに発展しがちです。
契約解除は、基本的にはお金で解決することになりますが、中には支払いを請求できない解約もあります。
ここでは契約解除を未然に防ぐ方法を解説します。
買主の一方的な事情による解約
不動産の契約においては、契約時に買主が手付金を支払うことが慣例となっています。
不用意な解約を防止するのが目的ですが、それでも引き渡しの直前になって、解約を申し出る買主は少なくありません。
この場合予め契約書でルールが定められており、買主が手付金を諦めることで解約が成立します。
しかし売主の立場になれば、また一から売却活動を始めないといけないため、手付金には代えられない痛手を被ることになります。
ただし買主によっては、これに応じないで購入そのものを諦める可能性もあります。
買主が住宅ローンの審査に落ちたことによる解約
買主の多くは住宅ローンの融資があることを前提に契約を進めてきます。
ところが、必ずしも銀行の審査に通るとは限らないので、審査に落ちてキャンセルをするという事態は比較的よくあります。
このため住宅ローンを前提とした取引には、契約書に「住宅ローン特約」が付けられ ているのが一般的です。
住宅ローン特約とは、審査に落ちて融資を受けられない場合は、解約ができるという前提の約束事です。
これにより手付金は買主に返却されることになります。
手付金が残らないため、買主の一方的な事情による解約よりもダメージは大きいものになりますが、銀行の判断なので防ぎようがありません。
契約不適合責任によるトラブル
売却後に住宅の不備が発見されてクレームを付けられるというトラブルがあります。
いわゆる契約不適合責任を問われるものです。
個人同士の売買では「契約不適合責任を免責とする特約」をつけて取引することも可能ですが、多くは「引き渡しから3カ月間は売主が責任を負う」と期間を定めて売買契約を結びます。
契約不適合責任を免責にする内容の売買契約であれば、引き渡し後に不具合が見つかっても責任を追及されることはありません。
ところがいくら特約を付けていても、売主が事実を知りながら告げなかった場合は無効となり、損害賠償を求められることになります。
ここではどのような不具合(瑕疵)を告げなかったら契約不適合責任によるトラブルに発展するのかを解説します。
過去に雨漏りがあったのにその事実を告げていなかった
雨漏りが発生すれば屋根の補修をして防水を施します。
しかし長年雨漏りに気づかなかったために小屋組みの構造材が腐食していることがあります。
シロアリの被害や基礎のひび割れを告げていなかった
物件の引き渡し後に売主が契約不適合責任を問われるのは、「売買契約書に記載されていなかった設備の不具合」が見つかった場合です。
もし本当に知らなかったとしても、少し注視すれば気が付くようなシロアリによる被害や基礎のひび割れなどは、契約不適合責任を問われる可能性が高いです。
インスペクションの実施でトラブルを回避しよう
近年、住宅を売却する際にインスペクションを実施する人が増えています。
これは既存住宅状況調査技術者(インスペクター)によって、建物の状況調査をしてもらう制度です。
住宅の目視できる範囲を入念に調査したうえで、調査結果は重要事項説明書に「建物状況調査の結果の概要」として書類添付されます。
これにより、買主から契約不適合責任を追及される可能性を大きく低減させることができます。
心理的瑕疵・環境瑕疵によるトラブル
心理的瑕疵とは、売却した物件内で自殺や殺人が発生したいわゆる事故物件であることを隠していた場合に問われる瑕疵です。
また近所に反社会団体の事務所があったり、隣家の住民が有名なトラブルメーカーであったり、近所に大量のごみを放置している家があったりした場合は「環境瑕疵」に含まれます。
▼関連記事:瑕疵担保責任・契約不適合責任とは?
不動産会社との間に発生するトラブル
トラブルは売主と買主との間に発生するものばかりではありません。
不動産会社との間に発生するトラブルもあります。
不動産会社は全国に数多く存在していることから、会社の体質もさまざまです。
必ずしも良心的な会社ばかりとは限らないため、売却に関するトラブルは後が絶えません。
どのようなトラブルがあるのか紹介していきましょう。
いくら待っても不動産が売れない
不動産会社とのトラブルは、専門家だと過剰に信頼したあまり、説明を鵜呑みにしてしまうことで発生することがあります。
たとえば、せっかく高値で査定してくれた不動産会社と専属専任媒介契約を締結したのに、物件がいっこうに売れないということがあります。
実際に購入希望者が現れないこともありますが、市場相場価格で売却しているのにもかかわらず、問い合わせすらないということであれば、不動産会社が「売り止め」をしている可能性があります。
他の不動産会社から「物件を見学したい」という問い合わせがあるのに「今は商談中です」とか「仮契約を済ませた」などといって、仲介の不動産会社が商談を断っているのです。
これはいわゆる「囲い込み」と呼ばれる悪名高い手法で、やがて不安になった売主の心理に便乗して売却価格を下げて、自らが探し出した買主や買い取り専門業者に売却するものです。
これによって、不動産会社には売主と買主の両方から仲介手数料が手に入りますから、大きな利益となります。