中古住宅は、過去の使用履歴や経年劣化などで、目に見えないリスクを抱えている可能性があります。
そのため、安心して生活するには、購入前に建物の状態をしっかりと把握することが不可欠です。
そこで注目されるのが、「建物状況調査(インスペクション)」と「住宅診断(ホームインスペクション)」という2つの専門的な検査です。
これらの検査は、どちらも中古住宅の品質を評価し、購入判断をサポートするためのものですが、目的、調査範囲、実施者、費用などに違いがあります。
この記事では、中古住宅の購入を検討している方々が、これらの検査について正しく理解し、安心して取引を進められるよう、2種類の検査の違いと使い分けの基準について解説します。
中古住宅の検査は2種類ある
中古住宅の購入を検討する際、しばしば耳にするのが「建物状況調査」と「住宅診断」という2種類の検査です。これらはどちらも中古住宅の状態を把握するために行われます。
調査の詳しい内容は後述しますが、ここでは中古住宅の2種類の検査の概要を紹介します。
①建物状況調査(インスペクション)
建物状況調査は、国土交通省が定めた「既存住宅インスペクション・ガイドライン」に基づく調査です。建物の基本的な状態、特に構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分などの性能を確認します。
調査は、既存住宅状況調査技術者(インスペクター)の資格を持つ専門家が実施します。
②住宅診断(ホームインスペクション)
建物状況調査よりも広範囲にわたる詳細な調査を行います。建物の構造、設備、内装、外構など、多岐にわたる項目をチェックします。
検査を実施するのは、民間の調査会社の住宅診断士(ホームインスペクター)などです。調査内容は、会社や住宅診断士によって異なります。
なぜ中古住宅は検査が重視されるのか
中古住宅の購入は、新築住宅に比べて費用を抑えられるというメリットがある一方で、建物の状態が不明確であるというリスクも伴います。そのため、中古住宅の検査は、購入後のトラブルを未然に防ぎ、安心して生活するために非常に重要な役割があるのです。
専門家による検査を積極的に活用することで、建物の状態をしっかりと把握し、次に挙げるようなリスクを最小限に抑える効果が期待できます。
建物の不具合を発見する
中古住宅は、築年数に応じて建物の劣化が進んでいる可能性があります。また、外壁や屋根のひび割れ、雨漏り、シロアリ被害、給排水管の老朽化など、様々な問題が発生するリスクもあるのです。
これらの問題は、放置すると建物の寿命を縮めるだけでなく、安全性や快適性を損なうことにもつながります。
建物の内部、特に床下や壁の中、屋根裏などは、外見からは状態を把握しにくい部分です。これらの部分に隠れた不具合が存在する可能性があり、購入後に発覚すると、高額な修繕費用がかかることがあります。
耐震性の不安を解消する
地震の多い日本では、耐震性の低い建物は倒壊のリスクが高く、人命に関わる重大な問題を抱えています。古い建物の場合、現在の耐震基準を満たしていない可能性があるため、検査によって、耐震性能を確認します。
計画的なリフォームを実施する
中古住宅を購入後、快適に生活するためには、リフォームや修繕が必要になる場合があります。
検査によって建物の状態を把握することで、必要な工事の内容や費用を事前に把握し、計画的にリフォーム・修繕を進めることができます。
トラブルを防止する
物件を引き渡した後に不具合が見つかった場合、売主の契約不適合責任を問われることがある。
購入後に建物の不具合が発覚した場合、売主との間でトラブルに発展する可能性があります。事前に検査を行うことで、建物の状態を明確にし、トラブルを未然に防ぐことができるのです。
建物状況調査(インスペクション)とは
中古住宅の購入を検討する際の調査として、建物状況調査(インスペクション)があります。建物状況調査とは、国土交通省が定めた「既存住宅インスペクション・ガイドライン」に基づく、既存住宅の基本的な状況を把握するための調査です。
建物状況調査について詳しくみていきましょう。
建物状況調査の目的
建物状況調査は、主に次の2つの事項を目的としています。
- 既存住宅の品質に関する情報の提供……建物の劣化状況や不具合の有無を把握し、購入希望者が安心して取引できる情報を提供します。
- 既存住宅売買の活性化……建物の状態を明確にすることで、中古住宅の流通を促進し、売買を活性化させます。
建物状況調査の内容
建物状況調査は、国土交通省が定めた「既存住宅インスペクション・ガイドライン」に沿って、既存住宅の劣化状況や不具合の有無を調査するためのものです。
この調査では、建物の基本的な性能、特に構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分に焦点を当てます。
調査対象部位は、 基礎、土台、柱、梁、壁、床、屋根などの構造部、および外壁、屋根、開口部などの防水に関する部分が含まれます。
調査は、目視、触診、計測機器などを用いて、劣化や不具合の状況を確認します。
結果はガイドラインに沿った形式で報告書にまとめられ、建物の状態や修繕の必要性などが記載されます。
建物状況調査は、売買取引における情報提供の透明性を高め、取引の安全性を確保するために重要です。
建物状況調査のメリット
建物状況調査を行うことで、購入希望者は次のようなメリットを得られます。
- 建物の状態を把握できる……建物の劣化状況や不具合の有無を把握することで、購入後のリスクを軽減できます。
- 購入判断の材料になる……調査結果を参考に、購入するかどうかを判断できます。
- リフォームや修繕の計画に役立つ……調査結果に基づき、必要なリフォームや修繕の計画を立てることができます。
- 住宅ローン減税や保険利用の可能性……条件を満たせば住宅ローン減税や、既存住宅売買瑕疵保険を利用できる可能性があります。
建物状況調査の注意点
建物 状況調査は、目視や計測による調査であり、建物のすべての不具合を発見できるわけではありません。
また、調査結果は、調査時点における建物の状態を示すものであり、将来の建物の状態を保証するものではない点に注意が必要です。
建物状況調査は、中古住宅の購入を検討する際に、建物の状態を把握するための有効な手段です。調査結果を参考に、安心して中古住宅の購入を検討しましょう。
住宅診断(ホームインスペクション)とは
中古住宅の購入を検討する際の調査として、「住宅診断(ホームインスペクション)」があります。建物状況調査と似た言葉ですが、調査範囲や目的が異なります。
住宅診断とは、建物状況調査よりも広範囲にわたる、より詳細な建物の状態を把握するための調査です。建物状況調査が建物の基本的な性能に焦点を当てるのに対し、住宅診断は、建物の構造、設備、内装、外構など、多岐にわたる項目を詳細にチェックします。
住宅診断について詳しくみていきましょう。
住宅診断の目的
住宅診断の主な目的は、次のとおりです。
- 建物の詳細な状態把握……建物全体の詳細な状態を把握し、潜在的なリスクや修繕の必要性を明らかにします。
- 購入判断の材料……建物の状態に関する詳細な情報を提供することで、購入希望者が適切な判断を下せるように支援します。
- リフォームや修繕計画の策定……診断結果に基づき、将来的なリフォームや修繕の計画を立てるのに役立ちます。
住宅診断の内容
住宅診断の調査内容は、会社や住宅診断士 によって異なりますが、一般的には次のような項目が含まれます。
- 建物全体の詳細な調査……建物状況調査の項目に加え、床下、屋根裏、外壁、内装などの詳細な調査を行います。
- 設備の調査……給排水設備、電気設備、換気設備などの動作状況や劣化状況を調査します。
- 地盤や土壌の調査……建物の傾きや地盤沈下の有無、土壌汚染の可能性などを調査します。
- 内装、外装、外構の詳細な確認……内装の壁や床の状況、外装の劣化具合、塀や庭の状態などもチェックします。
住宅診断のメリット
住宅診断を行うことで、購入希望者は次のようなメリットを得られます。
- 建物の詳細な状態を把握できる……建物全体の詳細な状態を把握することで、購入後のリスクを最小限に抑えられます。
- 購入判断の精度向上……詳細な調査結果に基づき、より正確な購入判断を下すことができます。
- 将来的な修繕費用を把握できる……修繕が必要な箇所や時期を把握することで、将来的な修繕費用を見積もることができます。
住宅診断の注意点
住宅診断は、民間の調査会社が実施します。会社によって調査内容や費用が異なるため、事前に内容と費用を確認するようにしましょう。
住宅診断士の資格は、資格の種類や認定団体によって要件が異なり、建築士以外でも取得可能です。そのため、調査会社を選ぶ際には、実績や信頼性を確認することが重要です。
建物状況調査と同様に、住宅診断でもすべての不具合を発見できるわけではありませんが、中古住宅の購入におけるリスクを軽減し、安心して取引を行うための有効な手段です。
それぞれの検査の違い
中古住宅の購入を検討する際には、「建物状況調査」と「住宅診断」という2種類の検査があり、どちらも建物の状態を把握するために実施されます。
しかし、これらの検査には明確な違いがあり、目的や調査範囲、費用なども異なります。
ここでは、両者の違いについて詳しく見ていきましょう。
目的と法的根拠
建物状況調査は、国土交通省が定める「既存住宅インスペクション・ガイドライン」に基づき、既存住宅の基本的な状況把握を目的とするものです。
また、宅地建物取引業法では、媒介契約の締結時および重要事項説明時に、建物状況調査に関する事項の説明が義務付けられています。
一方で住宅診断は、より広範囲かつ詳細な建物の状態把握を目的としていますが、法的な根拠はなく、調査内容も会社や住宅診断士によって異なります。
実施者と資格
建物状況調査は、既存住宅状況調査技術者(インスペクター)が実施します。
この既存住宅状況調査技術者とは、建築士の資格を持つ者が、国土交通省の定める講習を修了し、考査に合格することで取得できる資格です。
一方、住宅診断は、住宅診断士(ホームインスペクター)などが実施します。こちらは民間の資格であり、法律上の根拠がある資格ではありません。
なお、住宅診断士に類似した資格は多く存在しますが、代表的なものとして、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会(JSHI)が認定する「JSHI公認ホームインスペクター(住宅診断士)」が挙げられます。
費用
建物状況調査と住宅診断は、どちらも住宅の状況を把握するための調査ですが、目的や調査内容が異なるため、費用相場にも差があります。
建物状況調査の費用相場は、一般的に5万円~7万円程度です。ただし、建物の規模や構造、調査項目によって変動します。
一方、住宅診断の費用相場は、戸建て住宅の場合で6万円~8万円程度、マンション・アパートの場合で4万円~6万円程度が一般的です。物件の広さや築年数、特別な調査が必要な場合には、追加費用が発生することもあります。
建物状況調査は、構造上の安全性などを中心に調査するのに対し、住宅診断ではより広範囲かつ詳細な調査を実施します。
また、住宅診断では専門的な機器や技術を用いて調査を行う場合があり、診断結果に基づくアドバイスや修繕提案など、包括的なサービスが提供される場合もあります。
こうした調査範囲やサービス内容の違いにより、住宅診断の方が費用が高くなる傾向にあるのです。
それぞれの検査の使い分け方法
中古住宅の購入を検討する際、建物の状態を把握するために「建物状況調査」と「住宅診断」の2種類の検査があることを説明してきました。これらの検査は、目的や調査範囲、費用などが異なるため、適切な使い分けが重要です。
建物状況調査が適しているケース
建物状況調査は次のような場合に適しています。
- 費用を抑えつつ、建物の基本的な状況を把握したい場合
- 売買契約時の重要事項説明や、住宅ローンの利用 、住宅性能保険の加入に必要な場合
- 建物の構造耐力上主要な部分や、雨水の浸入を防止する部分など、基本的な性能に焦点を当てた調査で十分な場合
建物状況調査は、主に売買取引の安全性を高めることを目的としています。そのため、公的機関や金融機関から証明を求められる場合に適しているといえるでしょう。
住宅診断が適しているケース
住宅診断は、次のような場合に適しています。
- 建物の状態をより詳細に把握し、購入判断の材料としたい場合
- リフォーム計画の策定や、将来的な修繕計画を立てたい場合
- 新築物件の引渡し前に、施工状況を確認したい場合
住宅診断は、建物状況調査よりも広範囲かつ詳細に建物の状態を把握することを目的としており、より踏み込んだ検査が必要な場合に適しています。
それぞれの検査の使い分けの基準
建物状況調査と住宅診断は、それぞれ異なる目的と調査範囲を持っています。どちらの検査を選択するかは、購入希望者のニーズや予算、建物の状況によって変わるでしょう。
費用を抑えたい場合は、建物状況調査が基本的な建物の状態を把握するための費用対効果の高い選択肢です。
一方、詳細な情報を得たい場合は、住宅診断がより広範囲かつ詳細な調査を通じて、建物の状態を深く理解することができます。
特に、築年数が古い建物や、大規模な修繕が必要な可能性がある建物の場合、住宅診断は潜在的なリスクを評価し、適切な修繕計画を立てるために非常に有効です。
売買契約時の情報提供や、住宅ローンを利用する際 には、建物状況調査が法的根拠に基づいた調査であり、これらの手続きに必要な情報を提供します。
中古住宅の購入は大きな買い物です。建物の状態を適切に把握し、安心して取引を進めるために、これらの情報を参考にして、ご自身の状況に合った検査を選択してください。
まとめ
中古住宅の購入は、夢のマイホームを手に入れる魅力的な選択肢ですが、同時に、建物の状態に対する不安もつきものです。そこで頼りになるのが、「建物状況調査(インスペクション)」と「住宅診断(ホームインスペクション)」という2つの専門的な検査です。
建物状況調査は、国土交通省のガイドラインに基づき、建物の基本的な性能、特に構造上の安全性や雨漏りのリスクを評価します。売買取引における情報提供の透明性を高め、取引の安全性を確保するために重要です。
住宅診断は、より広範囲にわたる詳細な調査で、建物の構造、設備、内外装、地盤などをチェックします。購入後のリスクを最小限に抑え、安心して生活をスタートするために役立ちます。
どちらの検査を選ぶかは、建物の築年数、状態、購入目的、予算などによって異なります。
築年数が浅く、基本的な状態を把握したい場合は、費用を抑えられる建物状況調査が適しています。
一方、築年数が古い、詳細な状態を把握したい、リフォームや修繕の計画に役立てたい場合は、住宅診断が適しています。
中古住宅の購入は、大きな決断です。これらの情報を参考に、ご自身の状況に合わせて適切な検査を選び、安心して理想の住まいを手に入れましょう。