婚姻期間中に家を所有していた場合、離婚後にその持ち家にどちらが住むか、もしくは処分するかの対応に悩む人も少なくないでしょう。
1つの選択肢として、妻が住み続けるという方法がありますが、住宅ローンが残っていると対応が複雑になりがちです。
トラブルなくローンの残った家に妻が住み続けるためには、住み続けるための手続きやメリット・デメリット、リスクなどを理解しておく必要があります。
この記事では、離婚後にローンが残った持ち家に妻が住む3つの方法や、そのメリット・デメリットなどを詳しく解説します。
離婚後にローン残債がある持ち家に妻が住み続ける方法1:夫が住宅ローンの返済を継続する
最もシンプルな方法が、夫がそのまま住宅ローンの返済を続けて妻が住み続ける方法です。
慰謝料として住宅ローンの返済を行うケースも珍しくなく、名義人である夫が住宅ローンを返済し続けるのであれば、妻や子どもは問題なくそのまま住み続けられます。
必要な手続き
夫がそのまま住宅ローンを返済し続ける場合は、改めて手続きすることは何もありません。
離婚前同様に夫が返済を続けるだけです。
ただし、そのまま返済するにしても金融機関に事前に了承を得る必要はあります。
住宅ローンは基本的に契約者が住む家であることが条件のため、夫が家に住まないとなると、基本的に規約違反となります。
規約違反とみなされると、最悪一括返済を求められる可能性があるので注意しましょう。
事前に金融機関に、離婚に伴い夫が出ていくこと、離婚後の返済計画などを相談して了承を得ておくことが大切です。
金融機関に相談することで、規約違反にならない返済方法のアドバイスを受けられる可能性もあります。
メリット
夫が住宅ローンを返済し続けるメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
- 妻の居住費の負担がない
夫が住宅ローンの返済を行うので、妻は居住費の負担なく住み続けられます。
ただし、家を所有し続けると固定資産税が所有者である夫に課税されます。
あらかじめ固定資産税や修繕費など、住宅ローン以外のコストをどちらが支払うかは話し合っておくようにしましょう。
デメリット・注意点
デメリット・注意点としては、以下のことが挙げられます。
- 夫の返済が止まると住居を失う可能性がある
- 所有権は夫のままになる
住宅ローン返済が止まれば、住宅が競売にかけられ妻が追い出される恐れがあります。
離婚後、夫が住まない家の住宅ローンを返済し続けるとは限らず、妻としては住宅ローンの返済がいつ滞るかという不安を抱えたまま住み続けることにもなりかねません。
また、住宅ローンの返済を夫がする以上、家の名義は夫のままです。
将来妻が亡くなっても、夫名義の資産では子どもが相続できないなどの相続トラブルに発展する恐れもあります。
名義人が夫であるため、夫はいつでも自由に家の売却ができるという点も妻の不安につながるでしょう。
離婚後にローン残債がある持ち家に妻が住み続ける方法2:妻に住宅ローンの名義を変更して妻が返済する
住宅ローンの名義を夫から妻に変更し、妻が返済を引き継ぐことで住み続けることが可能です。
家の名義も妻に変更されるので、前述の「夫がローンを支払い続ける場合」のリスクやデメリットも解消しやすくなります。
必要な手続き
住宅ローンの名義を変更するには、金融機関の了承・手続きが必要です。
名義を変更したい旨を金融機関に相談し、必要な書類などを提出し手続きを行いましょう。
ただし、住宅ローンの名義変更は容易ではありません。
そもそも住宅ローンは夫の収入や勤続年数などを審査して融資してもらっているため、妻への変更は認められないケースも少なくないのです。
少なくとも妻にローンを返済し続けられるだけの安定した収入が求められます。
メリット
妻がローンの支払いを引き継いで住むメリットとしては、以下のことが挙げられます。
- 妻は自分名義の家を持つことになるため安心して住みやすい
- 将来子供に資産として残すことができる
妻は自分自身の名義の家に住むため、夫のローン延滞や売却を心配することなく安心して住めるというメリットがあります。
また、妻が亡くなった場合は、子どもや新たな家族で家を相続できるというのもメリットです。
デメリット・注意点
デメリット・注意点としては以下のことが挙げられます。
- 妻にまとまった収入が必要
- 妻の収入のみで返済していく必要がある
- 固定資産税も負担する必要がある
妻がローンの返済や家にかかるランニングコストをすべて負担することになるので、金銭的負担は大きくなります。
名義変更の際には安定した収入があるかが重要になってくるので、変更したくてもできないケースも多いです。
住宅ローンの名義変更が難しい場合は、次に紹介する新しいローンに借り換える方法を検討するとよいでしょう。
離婚後にローン残債がある持ち家に妻が住み続ける方法3:妻名義で新しい住宅ローンに借り換える
妻名義で新たに住宅ローンを組み、そのローンで今のローンを完済し、その後は妻が新しいローンを返済し続ける方法です。
今の住宅ローンよりも低金利のローンに借り換えられれば、返済の負担も軽減できます。
ただし、こちらも妻にローンを組めるだけの収入や勤務形態などが必要になる点には注意しましょう。
必要な手続き
新たに金融機関で妻名義のローンの申し込みを行います。
審査に通れば融資後に今の住宅ローンを完済して、以降は借り換えたローンの返済を行います。
申込む金融機関での審査手続きに合わせて必要書類などを提出し、手続きを進めていきましょう。
同時に、今のローンを組んでいる金融機関に対して、借り換えによる一括返済の相談も必要です。
メリット
妻名義で住宅ローンを借り換えるメリットとしては、以下のことが挙げられます。
- 妻は自分名義の家を持つことになるため安心して住みやすい
- 将来子供に資産として残すことができる
名義変更同様、借り換え後は家の名義が妻になるので家は妻が自由にできます。
安心して生活しやすく、売却や相続なども妻の判断だけで行うことが可能です。
デメリット・注意点
デメリット・注意点としては、以下のことが挙げられます。
- 妻にまとまった収入が必要
- 妻の収入のみで返済していく必要がある
- 固定資産税も負担する必要がある
妻が住宅ローンの審査を受けるので、審査に通るだけの年収など、個人の属性が求められます。
妻がパートや専業 主婦といったケースでは、審査に通りにくいので注意しましょう。
離婚時に住宅ローンの残債がない持ち家に妻が住み続ける方法
住宅ローン残債のない持ち家であれば、ローン残債があるケースよりも比較的シンプルに妻が住み続けることが可能です。
住宅ローン残債のない持ち家に妻が住み続ける方法としては、以下の3つが挙げられます。
- そのまま住み続ける
- 財産分与で持ち家の所有権を妻に変更する
- 妻から夫に代償金を支払うケースもある
それぞれ見ていきましょう。
そのまま住み続ける
夫名義の家であっても、離婚後そのまま妻が住み続けることは可能です。
妻が住み続けることに対して手続きなども必要なく、ローン返済が滞る不安もないでしょう。
この場合、妻は無償で住むことや、家賃を夫に支払うなどの方法が検討できます。
ただし、名義が夫のままでは売却されるリスクが残ったままなので、次に紹介する財産分与などで名義を妻にしておくことをおすすめします。
財産分与で持ち家の所有権を妻に変更する
財産分与とは、婚姻期間に築いた資産を夫と妻で分け合うことです。
基本的には夫と妻で2分の1ずつ平等に分け合うことになります。
家は離婚に伴う財産分与の対象です。
財産分与で妻が家を取得し夫から名義を変更することで、妻はそのまま住み続けられます。
ただし、妻が家を取得することで、現預金など他の財産を取得できない可能性もある点にはしましょう。
妻から夫に代償金を支払う必要があるケースもある
財 産の多くを家が占める場合、妻が財産分与で家を取得することになると、妻から夫に代償金を支払わないといけない可能性があります。
例えば、家の価値が3,000万円で他に現金が1,000万円ある場合を考えてみましょう。
この場合、平等に財産分与するなら、夫・妻がそれぞれ2,000万円ずつの配分です。
しかし、妻が3,000万円の家を取得すると、夫は現預金の1,000万円しか受け取れません。
そこで、妻が1,000万円の代償金を支払うことで、平等に財産分与できるのです。
代償金の一括払いが難しい場合は、慰謝料や養育費で相殺・分割払いにしてもらうという方法もあります。
また、財産分与の配分は両者の合意でも決められるので、そのまま妻が家・夫が現預金で合意できる場合もあります。
ただし、あまりに極端な配分になると贈与税の対象となる恐れもあるので注意しましょう
財産分与の割合について不安がある方は、弁護士などのプロに相談することをおすすめします。
離婚後に妻が持ち家に住み続ける場合の注意点
離婚後に妻が持ち家に住み続ける場合の注意点として、以下の2つが挙げられます。
- 夫名義のままだと母子手当(児童扶養手当)が貰えないケースがある
- 夫名義のままだと住居を失うリスクがある
それぞれ解説します。
夫名義のままだと母子手当(児童扶養手当)が貰えないケースがある
離婚後に母親が子どもの親権をもつ場合、母子手当(児童扶養手当)を検討している人も多いでしょう。
母子手当の支給額は妻の収入などによって異なりますが、妻が夫名義の家に住む場 合、夫から居住費の援助(養育費)があるとみなされ手当てが受けられなかったり、減給される恐れがあります。
住宅ローンの返済が養育費とみなされるかは自治体によっても異なるので、役場に相談してみるとよいでしょう。
夫名義のままだと住居を失うリスクがある
家の名義が夫である以上、家は夫が自由に扱うことができます。
夫が売却しようと思えば住んでいる妻の承諾なしに売却を進められるため、いつの間にか売られていたとなりかねません。
仮に、離婚時に売却しないことを条件としていても、いつ気が変わってしまうかは分からないものです。
また、夫が住宅ローンの支払いをストップし、競売で家が強制的に売却されるリスクもあります。
いずれにせよ、夫の名義のまま妻が住み続けるにはリスクを伴うことは理解しておきましょう。
以下では、リスクに対する対処法を解説するので参考にしてください。
離婚後に妻が持ち家に住み続ける場合のリスクへの対処法
妻が住み続ける際に発生するリスクへの対処法としては、次の3つが挙げられます。
- 公正証書を作成する
- 可能であれば妻名義にする
- 妻名義への変更が難しければ家の売却を検討する
それぞれ見ていきましょう。
公正証書を作成する
公正証書とは、法の専門家である公証人に作成してもらう証書です。
離婚の場合は、慰謝料や養育費、財産分与など夫婦で取り決めた内容を文章として作成してもらいます。
公正証書は法的な効力のある書類です。
仮に、夫に住宅ローンの返済を依頼する内容で公正証書を作成すると、夫がローン返済に応じない場合に強制執行などの手続きを行うことができます。
また万が一、裁判沙汰に発展した際にも証拠として有効ですので、検討するとよいでしょう。
住宅ローン残債がある離婚の場合は、以下の内容を公正証書に記しておくことでリスクの低減を期待できます。
- 返済する人
- 返済計画
- 名義に関する取り決め
- 固定資産税や修繕費の支払いについて
- 家を売却・相続する際の取り決め など
ただし、公正証書を作成する際にはそれぞれのケースに合った内容にする必要があるため、弁護士などにも相談しながら作成することをおすすめします。
可能であれば妻名義に変 更する
前述のとおり、夫名義のまま妻が住み続けると勝手に売却されるなどのリスクがあります。
売却されないにしても、いつ夫の気が変わるかという不安のなか生活するのもストレスになるでしょう。
また、名義変更をしていないと離婚後も夫婦で連絡を取らないといけないなど、関係性が続くのでそれがストレスになる場合もあります。
住宅ローンの名義変更や借り換えが可能で、すでにローンを完済しているなど、名義変更ができる状況であれば、名義変更を行うことで、トラブルなく安心して住み続けることが可能です。
妻名義への変更が難しければ家の売却を検討する
名義の変更が難しいなら、売却してしまうのも1つの方法です。
売却して現金化することで、ローンの完済に充てられ、完済後に余った分は財産分与できっちり分けられます。
離婚後も家が残るとトラブルにもなりやすいため、売却してきっちり清算するほうが再スタートも切りやすいでしょう。
なお、住宅ローンが残っている家を売却するには、住宅ローンの完済が必須です。
一般的には売却金での完済になりますが、売却金だけで足りない場合は自己資金や親族からの借り入れなどで完済する必要があります。
離婚後の家の売却は「買取」が適している
また、売却方法には「仲介」と「買取」があり、離婚に伴う売却の場合、短期間で売却できる買取がおすすめです。
買取とは、不動産会社が直接不動産を買取する売却方法を言います。
一般的な売却である仲介は、不動産会社が間に入り広告活動などを行って 買主を探すため、売却までに3ヵ月~半年ほどかかります。
一方、買取なら不動産会社との合意で売却できるので、数日~1ヵ月程での売却が可能です。
しかし、買取は仲介での売却よりも価格が下がる点に注意しなければなりません。
新築・築浅の場合は時間をかけて仲介での販売を検討
新築・築浅の物件は、仲介よりも売却金額が安く買取だとローン残債を大きく下回る金額になるケースが少なくありません。
この場合は、仲介で時間をかけて販売する方が金銭的なデメリットは少なくなります。
ただし、家が売れるまでの間は一緒に住むのか、一方が住むのか、それぞれが別の家を借りるのかなどの協議も必要です。
また、仲介で売却するときは「査定額=売却額」にならない点にも注意してください。
仲介の売却で提示される査定額は、あくまで相場情報を参考にした売却の目安額であるため、そこから値引きしなければ売れないケースもあれば、仲介手数料などの諸費用も考慮した上でローンを完済しなければなりません。
まとめ
離婚後の持ち家に住宅ローン残債がある場合でも、ローンの名義を変える、夫が返済を続けるなどで妻が住む方法はあります。
しかし、名義が夫のままでは住む家を失うリスクがあり、かといって名義を変更しようにも妻の収入が安定しないとローンの名義変更や借り換えが難しい点には注意が必要です。
一方、ローン残債がなければ財産分与で妻が所有権を取得するなど、比較的シンプルに家に住み続けることができます。
離婚に伴う家の処遇は、トラブルに発展しやすい問題です。
また、離婚後にも家が残ることでいつまでも夫婦で連絡を取り合わないといけないケースもあるでしょう。
離婚時には売却して現金できっちり分けた方が、トラブルを防ぎやすくなります。
高値で売却できればローン完済後に余った現金を分けることも可能なので、売却を視野に入れつつ家をどうするか慎重に検討するとよいでしょう。