住宅の購入を決断しても、住宅ローンの審査に落ちてしまうと、計画は行き詰まってしまいます。それでは、住宅ローンの審査に落ちないためには、どのような点に注意すればいいのでしょうか。
この記事では、住宅ローンの審査でのポイントを解説すると共に、万が一審査に落ちた場合の対処法についても明らかにしていきます。
住宅ローンの審査とは
住宅ローンを借りる場合、金融機関の審査を通過しなければなりません。まずは、住宅ローンの審査で、どのような事項が審査されているのかを押さえていきましょう。
住宅ローンの審査は事前審査と本審査がある
住宅ローンの審査は、事前審査(仮審査)と本審査の2段階で行われます。事前審査では、申込者が基本的な要件を満たしているか否かが審査されます。事前審査を通過することで、一定の融資の目途が立つため、安心して物件の購入の商談を進めることができます。購入したい物件の売買契約を締結したら、その段階で、本審査の申し込みをします。
事前審査は、早い金融機関だと翌日、標準的には3日~4日ほどで結果が出ますが、本審査は、提出する書類も多く、審査も細部にわたって行われるため、審査期間は、標準的には10日~2週間程度、慎重な金融機関だと1カ月ほどを要します。
本審査で提出する書類
事前審査では、状況によっては、源泉徴収票の提出を求められることがありますが、基本的には書類の提出はなく、自己申告によります。
しかし本審査では、自己申告の裏付けとなる各種書類の提出が求められます。必要なのは、次のような書類です。
所得を公的に証明できる書類
- 源泉徴収票
- 給与明細書
- 確定申告書B(控え)
- 住民税決定通知書
- 課税証明書
不動産関連の書類
- 売買契約書(工事請求契約書など)
- 重要事項説明書
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
- 明細地図
- 建築確認通知書
- 土地公図
- 土地の図面
- 分譲案内のパンフレットや価格表
本人確認ができる書類
- 住民票
- 印鑑証明書
- 運転免許証、パスポート、マイナンバーカード、住民基本台帳カードのいずれか
- 健康保険証
事前審査では、本審査で提出する書類と齟齬が生じないように申告することが重要です。
住宅ローンでは何が審査対象になるのか
国土交通省の「令和2年度民間住宅ローンの実態調査」によると、90%以上の金融機関が、次の項目を審査対象としていると答えています。
( )内は、調査対象としていると回答した金融機関の比率です。
- 借入時年齢(97.8%)
- 完済時年齢(99.1%)
- 年収(95.7%)
- 返済負担率(92.1%)
- 勤続年数(95.3%)
- 担保評価(98.2%)
- 金融機関の営業エリア(91.0%)
- 健康状態(98.2%)
- 連帯保証(95.1%)
この他、雇用形態(76.4%)やカードローン等の返済状況(64.2%)が、高い比率で住宅ローンの審査項目とされています。
事前審査に落ちた理由とは
住宅ローンの事前審査で落ちた場合、どのようなことが原因となったのか解説をします。
過去に返済の遅延があった
過去にローンやクレジットカードの引き落としができなかったことがあると、個人信用情報にその履歴が記載されるため、住宅ローンの審査に落ちることがあります。
個人信用情報とは、いわゆる「ブラックリスト」と呼ばれるもので、「銀行系」「カード系」「消費者金融系」の3つ機関が、クレジットカードや奨学金、他のローン契約などの内容を登録しています。過去に支払いで遅延を繰り返したことがある場合や過去5年以内に債務整理をしているといった金融事故歴があると、個人信用情報にその履歴が登録されます。
完済時の年齢が80歳以上である
住宅ローンで、完済時の年齢は特に重要な項目です。多くの金融機関の申込要件で「完済時の年齢は80歳未満」と明記されています。
借入時の年齢が高齢の人や返済期間が長い借入をする場合は、注意すべき事項です。
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転職してからの勤続年数が短い
国土交通省の住宅ローンに関する調査では、95.3%の金融機関が勤続年数を審査対象とすると回答しています。審査基準は次のような内訳です。
- 3年以上……17%
- 2年以上…… 5%
- 1年以上……58%
- その他……20%
少なくとも1年以上の勤続を条件としている金融機関が多いことから、転職をして間もない時期に住宅ローンを申し込むと、勤務年数を理由に審査が通過しない可能性があります。
返済負担率(返済比率)が高い
返済負担率とは「年収に占める年間返済額の割合」です。
一般的に無理のない返済負担率は25%までとされています。年収が500万円の人だと、「500万円×25%=125万円」から、年間125万円が無理なく返済できる範囲となります。
ただし、返済負担率が30%以上でも認めている金融機関は多くあります。国土交通省の調査では、次のような内訳になっています。
- 50%以内…… 0.5%
- 45%以内……20.5%
- 40%以内……16.5%
- 35%以内……16.5%
- 30%以内……7.0%
- 20%以内……2.5%
- その他……36.50%
返済負担率が40%以内でも認めてくれる金融機関はかなりあるので、許容範囲が広いようにも思えます。しかし、ここで気を付けたいのは、「年間返済額」は、住宅ローンの返済のみを対象にしているわけではなく、他のローンの返済額も含まれるということです。
たとえば、自動車を購入したときにローンを利用したのであれば、その返済額も含まれます。あるいは、奨学金、クレジットカードのリボ払い、カードローンなどの返済も含まれるため、住宅ローンの返済額では問題がなかったとしても、これらのローン返済の存在によって、審査に落とされることがあるのです。
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事前審査に落ちた場合の対処法
住宅ローンの事前審査に落ちた場合、あるいは落ちないためには、どのように対処をすれば、審査を通過することができるのか解説していきましょう。
個人情報が原因なら本人開示請求をする
返済の滞納に思い当たる節がない場合や当時の状況を思い出せない場合は、各信用情報機関に本人開示請求をするという方法があります。
1,000円程度の手数料を支払うことで、本人情報をインターネットや郵便で取り寄せることができます。
信用情報機関は次の3団体です。
- 全国銀行個人信用情報機関(JBA)……銀行系
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)……クレジットカード系
- 株式会社日本信用情報機構(JICC)……消費者金融系
たとえば、CICに本人開示請求をすると、月ごとに「A」や「S」といった記号で、「未入金」「一部未入金」などの情報が表示された書類が送付されてきます。
過去に滞納があったとしても、すべての金融機関がNGとするわけではありません。事実を正確に把握し、事前審査申し込みの段階で滞納した理由や経緯を説明するだけでも、ずいぶんと印象が良くなります。
個人情報が原因なら年数を空けて申し込む
各個人信用情報機関のデータは永久保存ではなく、一般的なものは5年が保存期間となっています。保存期間が経過することで、過去の履歴が消去されますから、ある程度年数が経てば、審査を通過する可能性があります。
個人情報が原因で事前審査に通らない場合は、ある程度年数を空けて、改めて申し込むのも有効な方法のひとつです。
年齢が原因なら親子リレーローンを利用する
完済時年齢が申込要件に引っ掛かってしまう場合は、「親子リレーローン」を利用する方法があります。
親子リレーローンは、親子2世代にわたって住宅ローンを返済していく方法で、返済期間の途中までは親が返済し、そのあとは子が返済を引き継ぐことができます。子の完済時年齢が審査対象になるので、親の完済時年齢が80歳以上でも、審査に通る可能性が高くなります。
ただし、利用できる金融機関は限定されています。また、利用に際しては、次のような条件があります。
- 現在同居中もしくは将来的に同居することを予定している親子であること
- 借入時の年齢が20歳〜70歳で、子の最終返済時年齢が80歳未満であること
- 返済を引き継げる子は1人まで
- 親もしくは子のいずれかが団体信用生命保険に加入すること
- 親子双方が安定した収入を得ていること
これらの条件から、親の一方的な思い込みだけでなく、子世帯の理解があって初めて利用できるローンであることが分かります。
勤続年数が原因ならフラット35を利用する
勤続年数が短いことが原因で審査に落ちたのであれば、勤続年数の要件がないネット銀行系であれば、審査に通る可能性が高くなります。
また「新生銀行住宅ローン」のように、勤続年数に関わらず申込みを受け付けている金融機関もあります。
物件が利用条件に適合するのであれば、フラット35を利用する方法もあります。申込み条件に勤続年数の制限がありませんから、転職して間もない人でも利用できます。
また、勤務経験が長くても、個人事業主だと収入が不安定だとされて、住宅ローンの審査に落ちることがあります。その場合も、職業が審査に影響しないフラット35が利用できます。
返済負担率が原因なら他のローンを完済する
返済負担率は、住宅ローン以外のローンも含んで算出します。住宅ローンのみであれば、審査基準をクリアできるのであれば、他のローンは完済してから、審査を申し込む方法が有効です。
すべての返済が難しい場合は、カードローンやリボ払いといった、高金利のローンから優先的に完済します。高金利の負債を複数抱えていると、多重債務に窮しているような印象があり、返済能力を疑われる可能性があります。
返済負担率が原因なら頭金の割合を増やす
返済負担率を下げるためには、住宅ロ―ンの借入金額を減らす方法が最も有効です。住宅ローンの借入金額を減らすために、頭金の割合を増やすことを検討しましょう。
頭金の割合が高いと、自己資産があるように見えるため、金融機関からの印象もよく、審査結果に良好な影響を及ぼす効果も期待できます。
返済負担率が原因なら購入物件を見直す
返済負担率を下げる有効な対策が講じられない場合は、購入する物件を見直して、価格の安い物件を選択する方法も有効です。
そもそも、返済負担率が高いということは、審査に通ったとしても、返済の負担が過大であることを意味しています。計画に無理があったということであり、将来破綻をきたさないためにも、資産や返済能力に見合った物件を検索するのが、最も堅実な選択です。
返済負担率が原因ならペアローンにする
返済負担率が原因であれば、ペアローンにする方法があります。たとえば、5000万円の住宅ローンの返済率が高いとなった場合は、夫が3,000万円、妻が2,000万円を借りることにします。
ペアローンは、それぞれの年収を基に返済率を算定しますから、共働きであることが絶対条件になります。また、お互いが相手の連帯保証人になることが求められます。
団体信用生命保険は、夫も妻も加入することになります。このため、夫婦共に健康状態が良好でなければ利用できません。万が一、夫が亡くなった場合には、夫の住宅ローンは団体信用生命保険によって返済されますが、残された妻の住宅ローンは、そのまま残ります。
本審査に落ちた理由とは
せっかく事前審査を通過したのに、肝心の本審査で落ちてしまうことがあります。その場合、どのようなことが原因になったのか解説していきましょう。
健康上の問題がある
ほとんどの金融機関で、団体信用生命保険に加入することが求められます。生命保険ですから、健康上の問題がある人は加入できません。
本審査の段階で団体信用保険に加入できないことが判明すると、審査に落ちてしまいます。
担保価値が低い
住宅ローンの返済が不能になった場合の対策として、金融機関は抵当権を設定するので、本審査では、住宅ローンの対象となる物件に関する書類を提出します。
その際に、担保価値が想定よりも低いと算定されると、希望額の融資が認められないことがあります。
また中古住宅において、違法性が高い建築物と判断されると、担保価値がないとして、融資そのものが認められないことがあります。
事前審査の申告内容が現状と異なる
事前審査で申告した内容と本審査で提出した書類の内容が異なると、事前審査で虚偽の申告をしたと見なされ、審査に落ちることになります。
そのため、事前審査以降に変更した事項があれば、本審査申請時に説明を欠かすことはできません。しかし、その場合においても、転職をしたり、年収が下がったような変更であれば、希望額まで借りられないか、最悪の場合、審査に落ちることがあります。
本審査に落ちた場合の対処法
本審査に落ちてしまったら、あるいは本審査に落ちないためには、どのように対処すればいいのか解説をします。
健康上の問題が原因ならワイド団信を利用する
持病があって団体信用生命保険に加入できないのであれば、健康要件が比較的緩やかなワイド団信であれば、加入できる可能性があります。正式名称は「加入条件緩和割増保険料適用特約付団体信用生命保険」といいますが、通称として「ワイド団信」と呼ばれています。
ただし、ワイド団信を取り扱っている金融機関は限定されています。また取り扱っている金融機関ごとに、利用の条件や保障内容が異なります。
なお、ワイド団信を利用すると、金利が通常の住宅ローンよりも0.2%~0.3%程度上乗せされるのが一般的です。
健康上の問題が原因ならフラット35を利用する
フラット35では団体信用生命保険の加入が条件とされておらず任意です。団信に加入しないのであれば、健康状態を問う加入診査も必要ありませんので、本審査に通過することができます。
なお、団信に加入しない場合、フラット35のローン金利から0.2%が差し引かれます。
担保価値が原因なら借入金額を少なくする
契約者が返済不能状態になった場合、担保物件は抵当権を設定している保証会社等によって売却処分されます。そのため、貸付金を回収できるだけの価値があるかを金融機関は見極めます。
審査に通ったものの、担保価値が低いとして、希望の融資額が認められないことがあります。その場合は、頭金の比率をあげて、借入金額を少なくすることになります。
担保価値が原因なら金融機関を変える
担保評価は金融機関によって基準が異なります。それぞれ独自の担保評価基準を持っているので、金融機関を変更することで、担保価値が高くなる可能性があります。もちろん、反対にさらに低くなる可能性もあるので、適正価額の見極めが重要です。
不当に低い評価と思われるときは、金融機関を変える方法が有効です。
担保価値ゼロ評価なら理由を調べる
中古住宅の場合、再建築不可物件や既存不適格物件だと、担保価値ゼロと評価されることがあります。
「再建築不可物件」とは、敷地が建築基準法上の道路に2メートル以上接していない物件をいいます。しかし、実際には再建築が可能であるのに、金融機関の担当者が再建築不可物件と判断することがあります。
たとえば、古くから家が建ち並ぶ家並みにおいて、かつて道路判定が行われたことがないケースでは、地方自治体の建築道路地図に着色されていないために、これをもって「非道路」と判断することがあります。この場合は、担当部署に「道路判定願」を提出することで、正確な判断を得ることができます。
また前面道路が「非道路」として扱われていたとしても、一定の担保性と安全性がある通路であれば、許可を得ることで「接道義務」が免除されることがあります。たとえば神社の参道のように、私有地ではあるが、避難上有効なものとの判断を得られれば、許可を得ることで、この通路に接している家の建て替えが可能になることがあります。
「既存不適格建物」は、かつては適法に建てられたのに、法律や制限が変更されたために、現行の基準に適合しない物件をいいます。たとえば、都市計画で容積率が下げられたことから、現行の指定容積率をオーバーしているケースがあります。
これを金融機関の担当者が違反建築物と判断していることがあります。既存不適格は、増築をしないかぎり、法文上も適法な建築物と解されているので、そのあたりの事情を説明することで、一定の担保性が認められることがあります。
事前審査は正直に申告する
事前審査で申告内容を裏付ける書類提出を求められることは、ほとんどありません。しかし、収入や職業を適当に申告すると、本審査時につじつまが合わなくなり、信用を失うことになります。その結果、審査に落ちることにもなりかねません。
特に年収や経歴は重要な事項ですから、事前審査の時点から必要な書類は用意しておき、正確に申告できるように努めなければなりません。
本審査まで転職しない
事前審査に通った後でも、本審査の時点で、職場や収入が変わると、審査に落ちる可能性が高くなります。
事前審査で申告した内容が変わるような行為は、極力避けた方が無難です。反対にいえば、転職や退職が避けられない状況であれば、住宅の購入を延期させた方が無難です。
まとめ
事前審査に落ちる原因としては次のようなことが挙げられます。
- 過去に返済の遅延があった
- 完済時の年齢が80歳以上である
- 転職してからの勤続年数が短い
- 返済負担率が高い
過去に返済の履歴があれば、個人信用情報機関のリストに履歴が残ります。思い当たる節がない場合は、各機関に本人開示を請求する方法が有効です。自分に関する情報を正確に把握することで、金融機関に理由を説明するといった対策を講じることができます。
完済時の年齢が基準をオーバーする場合は、親子リレーローンを利用する方法が有効です。ただし、将来同居などの条件があり、子ども世帯の理解が必要になります。
転職してからの勤続年数が短い場合、あるいは個人事業主の場合は、職業を条件としていないフラット35を利用する方法があります。
返済率が高いことが原因となっている場合は、借入金額を下げることが最も有効な方法です。
本審査で落ちる原因としては、次のようなことが挙げられます。
- 健康上の問題がある
- 物件の担保価値が低い
- 事前審査の申告内容が現状と異なる
ほとんどの金融機関では、団体信用生命保険への加入が必須の条件になっています。そのため持病があるといった健康上の問題を抱えている人は、審査に落ちることがあります。その場合は、団信への加入を条件としていないフラット35を利用する方法があります。
物件の担保価値が低いことから、審査に落とされた場合、物件に見合った額の融資を申し込むことで審査を通過することがあります。
事前審査は自己申告ですが、だからと言って適当なことを申し出ていれば、本審査で信用のない人物と判定されて審査に落ちることになります。事前審査では、くれぐれも正直な申告に努める必要があります。