住宅を購入する際、多くの方は住宅ローンを利用します。
しかし、十分な資金がある場合「現金一括で買ったほうが得なのでは?」と考える方も少なくありません。
本記事では、現金一括購入と住宅ローン利用を比較し、それぞれのメリット・デメリットや、金額シミュレーション、減税など制度活用のポイントまで解説します。
住宅ローンを利用しないメリット・デメリットの比較表
すまい給付金は2024年7月までで新規申し込みが停止されている。
諸費用は住宅ローンの契約に必要な部分(抵当権の登記等)の比較です。
売買契約書の印紙代等は現金一括決済でも発生します。
ローンなしで家を買う現金一括購入の2つのメリット
住宅ローンを組まずに、現金一括で住宅を購入するメリットには次の2つがあります。
- 住宅ローンの金利負担や登記費用等不要になる
- 値引き交渉しやすくなる
それぞれ見てみましょう。
住宅ローンの金利負担や登記費用等が不要になる
住宅を現金一括で購入する最大のメリットが、住宅ローンの金利負担がなくなることでしょう。
近年はマイナス金利が解除され、金利も上昇傾向にあるものの、住宅ローンの金利は0.6%~1.9%程度(2025年現在の水準)と、他のローン商品と比較すると圧倒的に低金利で利用できます。
しかし、住宅ローンは長期に渡って返済するものであり、低い金利でも総額で見ると負担はかなりの額になります。
住宅ローンは金利以外の諸費用も発生する
さらに、現金一括で購入することで、金利の負担がいらないだけでなく住宅ローンを組む際に発生する手数料なども不要になります。
一般的に住宅ローンを組む場合、諸費用として次のような支払いが発生します。
- 金融機関に支払う融資手数料
- 保証料
- 団体信用生命保険の保険料
- ローン契約書の印紙代
- 火災保険料
- 抵当権設定のための登録免許税と司法書士報酬
住宅ローン保証料と団体信用生命保険の保険料は住宅ローンの金利に上乗せでき、火災保険料はローンの有無にかかわらず必要性は高いものです。
しかし、印紙代や事務的な手数料・登記にかかわる費用はローンを組まなければ発生しません。
たとえば、住宅ローンで3,000万円借り入れた場合、それらの必要の 目安は以下のとおりです。
- 印紙代…2万円
- 融資手数料…5~10万円程度(金融機関による)
- 登記費用…10万円程度(登記を依頼する司法書士による)
現金一括で購入することにより、金利とこれらの諸費用の金額を抑えられます。
購入後は現金で既に支払いが終わっているため、それ以降毎月の支払いが発生しないのも安定して生活ができ経済的にも精神的にもメリットがあるといえるでしょう。
また、住宅ローンを組むとなるとローン審査や必要書類の準備など手間や時間がかかるものです。
現金一括購入することで、これらの時間が大幅に削減でき、短期間で購入できます。

値引き交渉しやすくなる
売主からすれば、現金一括で購入してもらえるというのは、全額を迅速に回収できるため大きな魅力があるものです。
住宅ローンを組んでの購入の場合、住宅ローンの審査に落ちてしまうと売買契約が白紙になってしまうというリスクがあります。
現金一括購入なら確実に取引できる相手ともいえるで しょう。
そのため、現金一括購入を理由に値引き交渉しやすくなる可能性があるのです。
ただし、有利にできるからといって相場を考慮しない極端な値引き要求など、売主の気分を害するような値引き交渉はしない方がよいでしょう。
お互いが気持ちよく売買できるようにマナーを守ることも大事です。
なお、リクルート社の調査1によると、2023年に首都圏でマンションを購入した人の中で、住宅ローンを借り入れず全額キャッシュで支払った人の割合は11.4%という統計が出ています。
ローンなしで家を買う現金一括購入の2つのデメリット
現金一括で住宅を購入するのはメリットが多いものですが、デメリットもあります。
現金一括購入でのデメリットには次の2つがあります。
- 住宅ローン控除を利用できない
- 手元の現金が減ってしまう
それぞれ見てみましょう。
住宅ローン控除を利用できない
住宅ローン控除とは、「住宅借入金等特別控除」といい、マイホームの購入やリフォームなどで一定の基準を満たすと税金の控除が受けられる制度です。
年末時点のローン残高の0.7%に当たる金額を所得税と住民税から控除でき、最大で年間35万円を最長13年に渡って控除できます。
※2025年現在の税制では、特定の省エネ基準を満たす住宅を購入した場合、最大13年間に渡って適用可能です。
2024年1月以降に建築確認を受けた新築住宅の場合、省エネ基準を満たす住宅でない場合は住宅ローン減税を受けられません。
住宅ローン控除が適用される条件の一つが、「返済期間が10年以上の住宅ローンを組むこと」となるのです。
13年に渡ってこの住宅ローン控除が適用されると、最大で455万円の還付を受けられます。
控除金額によっては、住宅ローンの金利分が全額戻ってくる可能性もあるでしょう。
ちなみに、住宅ローン控除を適用するためには、初年度は確定申告する必要があります。
しかし、2年目以降は会社員であれば年末調整で控除されるため、手続きの手間もかかりません 。
現金一括購入の場合は住宅ローン控除を利用できないので、控除を利用した場合にどれくらいの金額が戻ってくるのかを計算したうえで検討することをおすすめします。
なお、住宅ローンの比較にはモゲチェック(PR)が便利です。よりお得に借りられる方法や手続きの流れなども分かります。
住宅ローンの新規借り入れ、借り換えを検討している方は、この機会にぜひチェックしてみましょう。
手元の現金が減ってしまう
現金一括購入すると、その分手元の現金が一度に減ってしまうのも大きなデメリットです。
手元資金が一括購入してもその後の生活に差し障らないほどであれば問題はないでしょう。
しかし、購入資金ぎりぎりしかない状態など、収入や貯蓄の状況を考慮せずに購入するのはおすすめできません。
住宅は購入後にも、固定資産税や修繕のための費用がかかります。
また、一括購入後に、転職や病気や怪我・子どもの教育資金など収入の変化や貯蓄から大きく出費しなければならない場合もあるでしょう。
一括購入で貯蓄を使い果し、もしもの備えがなくならないよう、将来のライフプランと貯蓄を考慮して検討することが必要です。
【徹底比較】現金一括と住宅ローンを組んだときのシミュレーション
現金一括での購入か住宅ローンを組んでの購入か悩んだ時は、シミュレーションしてどれくらいの費用がかかるのかを具体的に知ることが大事です。
それぞれにどれくらいの金額がかかるのかが把握できれば、自分にとってどちらが最適なのかが判断できるでしょう。
ここでは、以下の条件で現金一括購入と住宅ローンを組んだ場合をシミュレーションします。
- 新築戸建て住宅購入金額 3,000万円
- 頭金300万円
- 返済期間 35年(固定金利1%)
なお、購入のための諸費用として次の費用がかかるものとします。
現金一括購入 | 住宅ローン | |
仲介手数料 | 約100万円 | 約100万円 |
登記費用・登録免許税・司法書士依頼料 | 約60万円 | 約60万円 |
住宅ローン抵当権設定登記・司法書士依頼料 | – | 約16万円 |
売買契約書印紙代 | 約3万円 | 約3万円 |
住宅ローン事務手数料 | – | 約6万円 |
住宅ローン保証料 | – | 約60万円 |
火災保険料 | 約40万円 | 約40万円 |
団体信用生命保険 | – | 約180万円 |
不動産取得税 | 約70万円 | 約70万円 |
合計 | 273万円 | 535万円 |
現金一括のケース
現金一括で購入した場合は、住宅費用の3,000万円に仲介手数料等の諸費用がかか ります。
現金一括購入でも、仲介手数料や不動産登記の手数料は必要となり、273万円ほどかかるでしょう。
そのため、現金一括購入時の支払総額は次のようになります。
住宅ローンを組んだケース
上記の場合、300万円の頭金があるため、2,700万円の住宅ローンを組みます。
住宅ローンを組んだ場合の諸費用は、一括購入時の諸費用に加え、ローンにかかわる諸費用がプラスされるため、約535万円かかります。
さらに、住宅ローンの金利として、35年で返済した場合の金利の支払として総額約500万円が発生します。
住宅ローンを組んだ場合の支払総額は次のようになります。
住宅ローンを組んだ場合の支払総額は4,035万円となり、現金一括購入時に比べ762万円もの差が出てくるのです。

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現金一括はおすすめなの?現金がある場合におすすめの購入方法
現金で一括購入できるだけの資金があるからといって、現金一括購入すればいいとは限りません。
現金がある場合でも、その他の条件を考慮し住宅ローンを組むほうがいい場合などもあるのです。
住宅ローンは個人で利用できるローンの中で一番金利が低い
ここ数十年は、金融緩和政策やマイナス金利導入により低金利状態が続いています。
2024年から徐々に金利上昇の傾向が見えていますが、2025年8月時点では0.6%~1.9%ほどと、まだまだ低金利の水準にあります。
もし住宅を現金で一括購入して貯蓄がなくなるような状態であれば、一括購入よりも住宅ローンを組むことを検討するとよいでしょう。
貯蓄がなくなると、車の買い替えや子どもの教育資金などに回すお金が足りなくなってしまう場合があります。
お金が足りないからといって、教育ローンなどほかのローンを借りてしまうと住宅ローンの金利よりも高い金利を払う可能性があるのです。
別のローンを借りる可能性があるならば、住宅ローンを組んでその分の現金を教育資金などに回す方が良いでしょう。
また、現金一括購入に資金を回すよりも、その金額で資産運用したほうがメリットとなる場合もあります。
支払う金利と資産運用した場合の利回りを考慮して検討するのもよいでしょう。
住宅ローン控除とすまい給付金(終了済み)で実質金利負担ゼロも可能
2024年7月末で住まい給付金の制度は終了しており、新規で申し込むことはできませんが、過去には住宅ローン控除を適用しながらすまい給付金を受け取 ることで、実質的な金利負担ゼロで住宅ローンを利用することも可能でした。
2025年現在、住宅を新規に購入する方は「子育てグリーン住宅支援事業」を利用して給付金を受け取れる可能性があるので、チェックしておきましょう。
団体信用生命保険は実質的な生命保険としても利用可能
団体信用生命保険とは、ローン契約者が万が一死亡や重度障害となった場合、ローンの残債を肩代わりしてくれる保険のことをいいます。
住宅ローンを利用する際には、ほとんどのローンでこの団体信用生命保険の加入が必須となっています。
団体信用生命保険は、住宅ローンの返済に特化しているものではありますが、生命保険と同じく万が一に備えるものです。
住宅ローンの支払い義務がなくなるため、もしものことがあっても家族は住宅ローンの支払いをせずともその家に住み続けられます。
この団体生命信用保険を生命保険がわりに利用することで、生命保険の保険料の削減にもつながる可能性があるのです。
すでに加入している生命保険で、将来の住宅費用のことを考慮した保障内容にしているのであれば、団体信用生命保険の保障内容と重複する項目があります。
加入済みの生命保険と団体信用生命保険の保障内容を比較し、加入済みの生命保険のプラン変更や解約を検討するとよいでしょう。
おすすめは「満額借りて10年後に一括返済」
前述の住宅ローン控除のシミュレーションのとおり、住宅ローン控除を上手に活用することで、実質の負担額は金利負担以上に抑えられるものです。
住宅ローン控除が適用される期間は住宅ローンの返済をし、10年または13年の適用期間が終了後に一括返済することでメリットを最大限に活かせるでしょう。
ただし、住宅ローン控除は制度の見直しにより、低い金利の場合は上限が利息支払い分までになる可能性もあるのでその動向に注目しておく必要があります 。
住宅ローンを利用せずに一括購入すると、住宅ローン控除などのメリットはありませんが、ローン(借金)がないことによる精神的な安心感はあるものです。
住宅ローンを利用するのか現金で一括購入するのか、それぞれのメリット・デメリットを比較し、返済プランなどのシミュレーションをしたうえで検討するようにしましょう。

まとめ
現金一括で住宅を購入すると、金利やローン関連の諸費用がかからず、購入後の毎月の返済も不要になるため、経済的・精神的に大きな安心感があります。
一方で、住宅ローン控除が利用できない、まとまった現金が手元からなくなるといったデメリットもあります。
住宅ローンは金利が低く、控除制度や団体信用生命保険などの付帯メリットもあるため、資金があってもあえてローンを利用したほうが得になるケースもあります。
最適な購入方法を選ぶためには、以下の流れで検討するのがおすすめです。
- ライフプランと必要資金を整理する
- 利用できる制度(住宅ローン控除、補助金など)を確認する
- 現金一括とローン利用、それぞれの支払総額をシミュレーションする
- 複数の金融機関で金利や条件を比較する
メリット・デメリットを比較し、自分や家族の将来設計に合った購入方法を選びましょう。