マイホームを売ったら、大きなお金が動くことになります。そこで税金がたくさんかかってしまう……なんていうことはありますか?
不動産の売買で利益が出たら税金はかかりますが、マイホームに関しては税負担が減るような特例があるんです。
そうですか。投資用などではなく、住むために購入した家ですし、税負担が軽減されるのは助かります。
譲渡所得がプラスかマイナスか、家の所有期間はどれくらいか、売却だけなのか買換えなのか…。条件によって使える特例は変わってきます。
ちょっと複雑そうですね。自力で理解できるか自信がないのですが…。
大丈夫!この記事では、パターン別に利用できる特例をご紹介します。この機会に知識を身につけ、お得にマイホームを売却してくださいね。
不動産を売却したときの税金の基本
納税額の計算の基本は以下の式です。
譲渡所得の計算
マイホーム売却時の特例は、譲渡所得がプラスかマイナスかで使えるものが違います。
それではプラスかマイナスかはどのように計算するのでしょうか。
- 譲渡所得…売却益または損
- 収入金額…売った金額
- 取得費…買ったときの金額-減価償却費など
- 譲渡費用…仲介手数料や登記費用など、売る際にかかった費用
例:4,000万円で購入したマンションが約10年住んで5,000万円で売却したと仮定
取得費:4,000万-減価償却費1,000万=3,000万
譲渡費用:仲介手数料、登記費用などで 計150万
譲渡所得は5,000万-(3,000万+150万)=1,850万
となります。
減価償却について
減価償却費の計算は、マンション、一戸建てともに土地は分離し、建物部分にのみに適用されます。
構造(鉄筋コンクリートや木造など)と用途(住居と事業用)によって違いますが、おおよそ耐用年数は鉄筋コンクリートの居住用マンションは70年、木造の居住用家屋は33年と決められています。
つまりマンションは70年、木造家屋は33年で価値がなくなるという考え方です。
- 木造:33年
- 軽量鉄骨造:40年
- 鉄筋コンクリート造:70年
建物の構造ごとに上記の耐用年数が定められており、その家に住んだ年数の分だけ定額で償却します。
- 木造:0.031
- 軽量鉄骨造:0.025
- 鉄筋コンクリート造:0.015
なお、経過年数は1年単位で計算し、所有期間が6カ月以上は年数が繰り上げ、6カ月未満は切捨てして計算します。
減価償却費の計算式は、次の通りです。
たとえば木造住宅を5,000万円で購入して、そのうち建物の費用が2,000万円で、その家を15年後に売ったケースでシミュレーションしてみましょう。
2,000万円×0.9×0.031×15年=8,370,000円(減価償却費)
これにより取得費を算出します。
3,000万円(土地)+(2,000万円(建物)-837万円(減価償却費))=4,163万円
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税率の計算
税率は所有期間によって決められています。
- 5年以内(※)…短期譲渡所得 39.63%
- 5年超(※)…長期譲渡所得 20.315%
(税率はともに所得税、復興特別所得税、住民税の合計)
(※)売買した年の1月1日基準となりま す。
このように、5年を境に大きく変わってきます。
これは不動産が投機的に使われてしまうのを抑制するための措置で、所有期間が短い不動産の利益はより高い税率がかけられます。
また、譲渡所得は分離課税なので他の所得と合算しません。
マイホームとは
不動産の売買でプラスやマイナスになったとはいえ自分で住むために売買したので、投資用や利益を上げるのと同じ税負担にならないようにマイホームの場合は税負担が軽くなるようにしてあります。
では、そもそも特例が使えるマイホームに該当するのはどのようなものなのでしょうか。
マイホームの要件
下記のどれかに該当する場合は、マイホームの特例が使えることがあります。
- 実際に自分で住んでいること
- 住まなくなってから3年経つ年の年末まで
- 家を取り壊したときは、1年以内に敷地の売買契約が結ばれている場合
- 単身赴任中の場合は配偶者や家族が住んでいるとき
マイホームを売却した時の特例5つ
マイホームを売却した時の特例は5つあります。譲渡所得がプラスかマイナスか、所有期間・売却のみか買換えかで使えるものが分かれます。
譲渡所得がプラスだったら
①3,000万円の特別控除
さらに10年以上住んでいたら
②軽減税率の特例
買換えの時は
③特定居住用財産の買換え特例
買換えで譲渡所得がマイナス
④居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
住宅ローンが残ってしまった場合
⑤特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
マイホームを売却した際にプラスが出たかマイナスが出たか、そして状況に応じても適用される特例が違います。
特例の判定方法
譲渡所得がプラス
原則:①
10年住んだ場合:①と②
買い換えた場合で10年超所有した場合:①と② または ③のどちらか
譲渡所得がマイナス
売却しても住宅ローンが残っている場合:④
買い換えの場合:⑤
どの規定もさらに細かく該当要件があるので詳細を確認してください。
①:譲渡所得がプラスのとき[3,000万円の特別控除]
譲渡所得がプラスになったときは「3,000万円の特別控除」があります。該当する場合は、譲渡所得が3,000万円まではゼロ、それを超えても3,000万円を差し引くことができます。
6,000万-3,500万=2,500万万円≦3,000万円
この場合、利益が出ても課税譲渡所得はゼロになります1。
②:①を使っても課税譲渡所得がプラスで、10年超住んでいるとき[軽減税率の特例]
マイホームを売却するまで住んでいた期間が10年以上の場合は、上の①の3,000万円の特別控除を利用してもまだ譲渡所得が残った際(課税譲渡所得がある場合)に、6,000万円までは軽減税率を適用することができます2。
所得税+住民税の税率
6,000万円以下の部分 14.21%
6,000万円超の部分 20.315% (←長期譲渡所得の原則どおり)
③マイホームを買換えたときに売った不動産で利益が出たとき[特定の居住用財産の買換えの特例]
買換えの場合は、①+②と、この項の③のどちらかを選ぶことができます。
マイホームを売却して譲渡益が出て買い替えた場合は、条件に合えばその譲渡益を繰り延べることができます。
新たに買ったマイホームをその後売却した時に、今回の譲渡益に課税するという課税の先送り制度です。
10年以上所有、売却した金額が1億円まで、建物は50㎡以上かつ土地は500㎡以下、買い換えるまでの期間や住み始めるまでの期間など、適用には制限があります3。
特例適用の際の注意:住宅ローン控除と併用できない
①、①と②、③どれを使った場合でも、売却した年と前後2年ずつの計5年は住宅ローン控除とは併用できません。
住宅ローン控除の恩恵が大きい人は、税理士に相談のもと比較することをおすすめします。
④買い換えて損失が出た場合[居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益 通算及び繰越控除]
買換えを行った場合に、売ったマイホームに損が出た場合は、その損を3年間損益通算することができます。
買換えの期限や買う物件の面積要件などがあります4。
⑤売却して住宅ローンが残っている場合[特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除]
住宅ローンが売却金額を下回ってしまった場合は、その住宅ローンと売却金額との差額を損失として損益通算することができます5。
マイホームを売却して譲渡損失が出た場合の損益通算
マイホームは住むためのものなので、譲渡所得がプラスだった場合はなるべく税金がかからないようにする仕組みがありますが、いざ譲渡所得を計算してみると譲渡所得がマイナスだった場合はどのようになるのでしょうか。
④買換えの場合
⑤住宅ローンが残ってしまった場合
上記2つのパターンありますが、どちらも損失に応じて向こう3年間で損失として計算することができます(損益通算)。
「損が出たから確定申告は不要」ではなく、きちんと確定申告をすれば、給与など他の所得に応じて支払っている税金が還付される仕組みがあるので、自分の場合は該当するか調べてみることをおすすめします。
損益通算の例
給与所得700万のサラリーマン
譲渡損失が1,600万円
1年目 | (年収=給与所得)700万ー譲渡損失1,600万=▲900万 ⇒源泉徴収された約65万円は全額還付されます。 |
2年目 | (年収)700万-900万(←前年に引ききれなかった残り)=▲200万 ⇒源泉徴収された約65万は全額還付されます。 |
3年目 | (年収)700万-200万(←前年に引ききれなかった残り)=500万 ⇒年収700万で計算して源泉徴収されましたが、年収は500万と考えて、差額の税金が還付されます。 |
適用ができない場合(抜粋)
- 合計所得金額が3,000万を超える年
- 親族間売買など
- 本年、前年、前々年に①~⑤の適用をうけていな いこと
※④⑤とも、①②③と違い、住宅ローン控除は併用することが可能です。
特例の詳細は税理士など専門家に確認しましょう
マイホームを売却した際には、投資目的などの不動産売却と違い、優遇措置があります。
どの適用のためにも細かな該当要件や確定申告などの手続きが必要です。
具体的な金額計算や手続きは、税理士など専門家へ相談することをおすすめします。
