不動産の売却をする際に、つい忘れがちになるのが火災保険の解約です。火災保険は住宅ローンの融資の際に一括で保険料を支払っているため、契約したことすら忘れている人もいるのではないでしょうか。
しかし火災保険は、不動産を売却すればいつでも解約が可能になり、残りの契約期間に応じた金額が返ってくるのです。
この記事では、不動産を売却した際の、火災保険の解約と返金について解説をします。
火災保険の解約の流れ
住宅ローンの融資を受ける条件として、火災保険の加入を求められることがあります。これは、担保にした住宅が火災などで全壊した際の対策です。
したがって住宅の売却の際は、住宅ローンを返済して抵当権を抹消すれば、自由に火災保険を解約することが可能になります。
火災保険の解約のタイミングは、所有権が移転した後、ただちに行うのがベストです。ここでは、解約の手続きをどのように進めればいいのか、その流れをみていきましょう。
質権設定の確認をする
質権設定を伴う火災保険では、保険証券は銀行が保管している。
火災保険の加入は、住宅ローンの融資の際に一括で保険料を納めているので、日常生活でその存在を意識することはほとんどありません。
また金融機関が火災保険に質権設定をしている場合、保険証書は金融機関が保管していますから、年数が経過すると火災保険の契約をしたことすら忘れてしまうことがあります。
さらに近年では、経済情勢の変化から、そもそも火災保険の質権設定を行っていない金融機関も少なくありません。
このため、火災保険の契約があやふやであれば、まず金融機関に火災保険の質権設定の有無について問い合わせをする必要があります。
なお、質権については、後の項で詳しく説明をします。
質権を抹消する
質権が設定されている火災保険を解約するには、まず質権を抹消する手続きが必要になります。
住宅ローンが完済した時点で、質権の抹消を申し出ると、金融機関から「質権消滅承認請求書」が送付されてきます。
これに必要事項を記入して返送すれば、保険証書や質権抹消書類が送付されてきます。
保険会社に電話を入れる
銀行から送られてきた書類で保険会社の連絡先を把握し、電話で解約する旨を伝えます。解約の申し入れをすると、保険会社から解約関係の書類が送付されてきます。
これに必要事項を記載して、金融機関から送付されてきた質権抹消書類を添えて返送することで、解約手続きは完了します。
返金がある
住宅ローンの質権設定で契約する火災保険は、最初の段階で保険金をまとめて支払っているのが一般的です。
このため、契約期間がまだ残っている時点で解約手続きを行なえば、保険会社に書類が到着してから1週間程度で指定の口座に返戻金が振り込まれます。
住宅ローンと火災保険の関係
住宅ローンの融資を受ける条件として、火災保険への加入が求められることがあります。住宅ローンとセットで加入する火災保険とはどのようなものなのか見ていきましょう。
質権設定がある
住宅ローンの融資における質権設定とは、融資金の担保として火災保険の保険金を請求する権利のことです。
金融機関は、住宅ローンの融資に際して、土地と建物に抵当権を設定していますが、建物は火災で焼失すると、返済が滞った場合に差し押さえたり競売にかけたりすることができません。その対策として、火災保険に質権を設定するのです。
このため火災保険の契約期間は、住宅ローン返済期間と同じになります。
火災補償以外の補償はどうなる
火災保険には、火災による家の焼失以外にも自然災害による家の一部損壊に対する補償があるのが一般的です。ただし、質権設定をしているために、保険金の請求権は金融機関にあります。火災で家が全壊した場合は、金融機関が保険金を受け取り、住宅ローンの残債に充てることになります。
しかし、自然災害による家の一部被害補償の保険金まで金融機関が請求するわけではありません。金融機関の同意が得られれば、契約者本人が保険金を請求することができます。
たとえば、暴風による被害で瓦が飛ばされた場合の補償についても、金融機関の同意を得ることで保険金を受け取ることができます。
独自に火災保険の契約をしたらどうなる
質権設定された火災保険は、細かな請求も金融機関の同意が必要だという不自由さがあります。さらに心配なのは、実際に火災が発生したときの対応です。
たとえば、全焼で1,000万円の補償があった場合に、残債が1,500万円だと、家をすべて失ったうえに、まだ金融機関への負債が500万円あるという状態になります。
こうした事態に備えて、独自に火災保険の契約をしたらどうなるでしょうか。結論から言えば、これはまったく無意味です。
火災保険は、各社がそれぞれ全額の補償をするのではなく、複数の会社と契約している場合は、各社が分担をして補償をするので、合計しても単独の場合と同一の補償額になるのです。
質権設定をする金融機関は減っている
かつて住宅ローンの融資を受けると、当然のように火災保険の契約を求められましたが、最近は火災保険に質権設定をする金融機関は少なくなりました。
その原因のひとつが、契約期間の短縮です。かつて火災保険の契約期間は最長で36年でした。これにより、住宅ローンの返済期間との連動が可能だったのです。
ところが2015年10月より最長で10年と改められたために、途中で契約更新をする必要が生じました。
そもそも火災保険の質権設定をするのにも、金融機関の事務作業への負担は、けっして軽いものではありませんでしたが、これに更新手続きが加わると、さらに事務作業が増加します。
また火災保険によって住宅ローンを一括返済してもらうよりも、引き続き返済を続けてもらった方が金融機関にとって利益が大きいとの考えが主流を占めるようになりました。
こうした背景から、質権設定を求めない金融機関が増えてきたのです。
火災保険の保障範囲は広い
火災保険がその名称のとおり、火事で家が燃えてしまったときに補償を受けられる保険であることは、広く認識されているところです。
ところが火災保険が、火災以外の被害も保障してくれることは知らない人も少なくありません。
たとえば、落雷によって電化製品が壊れた場合や、台風で窓ガラスが割れた場合など、自然災害による被害にも補償してくれるのです。
火災保険がどのような被害を受けたときに補償をしてくれるのかは、押さえておきましょう。
水漏れ被害を補償してくれる
特にマンション住まいの場合に想定しておきたいのが、水漏れによる被害です。上階の水漏れによって、建物や家財が被害を受けた場合や、自宅の水道管の漏れによって建物や家財が被害を受けた場合に、補償を受けることができます。
浸水による被害を補償してくれる
近年、建物の防火性能が向上したことにより、住宅における火災の発生件数は減少しています。反対に火災保険の補償対象として増加しているのが、自然災害による被害への補償です。
火災保険では、浸水によって建物および家財が保険価額の30%以上の被害を受けた場合、保証の対象になります。
また、床上浸水や地盤面から45㎝以上を超える浸水によって建物や家財が被害を受けた場合も、補償の対象になります。
地下室がある住宅では、その階の床面が「地盤面」として扱われます。地下室は、水災による被害を受けやすい反面、火災保険の対象になる確率も高いということになります。
盗難の被害を補償してくれる
火災保険は、盗難の被害にあった際の補償をしてくれます。たとえば、犯罪者が窓ガラスを割って自宅に侵入して現金を盗み出した場合、実際に盗難された金額の他に割られたガラスの補修費も補償してくれます。
また特約を付けることで、壊された物品の片づけ費用や、今後の防犯機能を強化するための防犯カメラ設置にかかった費用についても補償してもらうことができます。
その他にも補償対象はある
この他にも、次のようなケースも火災保険の保障対象になります。
- 落雷……落雷による被害への補償
- 破裂、爆発……ガス漏れによる爆発被害への補償
- 風災、雹災(ひょうさい)、雪災……暴風や雹、雪による被害への補償
不動産売却で火災保険を解約するのはどのタイミングか
住宅ローンの返済中は、質権設定をされた火災保険を勝手に解約することはできません。しかし住宅ローンを完済すれば、いつでも自由に解約することが可能になります。
しかし、住宅ローンを完済したからといって、慌てて火災保険を解約すると、思わぬ損失を被ることがあります。ここでは、火災保険を解約するタイミングについて解説をしていきましょう。
所有権が移転したあとの火災保険は無意味
住宅ローンの完済とマイホームの売却が重なると、これらの手続き関係に忙殺されてしまい、つい火災保険の存在がおざなりになってしまいますが、売却後はできる限り早いうちに解約をしましょう。
たとえば、売却後に買主から瑕疵を指摘されて修繕を求められることがあるので、これに備えて、しばらく火災保険を維持していたとします。ところが実際に瓦の欠損が発見され、それが風害によるものだったとしても、既にこの時点では火災保険の補償をしてもらうことはできません。
つまり所有権が移転された後は補償の対象にはならないので、火災保険を維持していることはまったく無意味なのです。
早すぎる解約もNG
住宅ローンを繰り上げ返済して、新居購入後に売却活動を始めるケースがあります。この場合、多くの人が住宅ローンや買い替えローンを利用します。この際、新しく組んだローンに火災保険の質権設定が行われると、つい2つの物件に火災保険をかけているのがもったいように思えて、前の家の火災保険を解約してしまうことがあります。
たしかに人が住んでおらず、電気、ガス、給水を止めています から、火災のリスクは大幅に低減しています。しかし、火災が発生する可能性はゼロだとはいえません。近隣住宅からの延焼や、心無い人に放火される可能性も絶対にないとはいえません。
ましてや、風雪や集中豪雨による被害は、空き家になったからといって何ら変わりはありません。むしろリアルタイムで対策ができないのですから、リスクは高まるとも言えます。
こうした危険を想定してみると、自分が物件の所有者である限り、火災保険は解約するべきではないのです。
売却前に火災保険による修繕の実施を
自然災害による被害があったとしても、些細なものであれば気が付かないまま過ごしてきたということもあります。しかし、暴風や風雪による被害であれば、火災保険の補償の対象になりますから、売却前に一度念入りに家の調査をして、被害を発見したらすみやかに補修を行いましょう。
意外と気づかないのが、給水管の漏れです。配管のジョイント部分から微量の水漏れが発生することがあります。こうした現象は、外壁の濡れ具合や床下を点検することで発見できることがあります。
給水管の漏れによる被害は、水漏れが微量であっても、長期間にわたって構造材を腐食させている可能性があります。こうした被害も火災保険の補償の対象になりますから、売却前の綿密な点検が重要です。
まとめ
日頃意識することのない火災保険ですが、近年は、住宅の防火性能の向上により、火災被害への補償が減少している一方で、暴風雨や洪水による被害への補償が増加しています。
昨今の気象状況を見ると、自然災害は決して他人事ではない時代になってきています。大切なマイホームを守るためにも、火災保険への加入は、必要不可欠といえるでしょう。
とはいっても、火災保険の保険料もけっして低額ではありませんから、売却後にいつまでも契約を維持しているの無意味です。ただし、解約のタイミングだけは間違えないようにしましょう。
いくら住宅ローンを返済したからといって、火災保険を焦って解約すると、次の所有者が登記されるまでに住宅が被災をして、自費で修理を行うことを余儀なくされる事態になります。
せっかく万が一の災害に備えて契約をした火災保険ですから、法的に自分の所有物である限りは、確実に契約を持続し、所有権の移転後に速やかに解約の手続きを行いましょう。契約期間が残っているうちに解約をすれば、返戻金も期待できます。