マンション売却後に契約不適合責任を問われると、損害賠償請求や契約解除などのリスクがあります。
契約不適合責任を問われないためには、責任を問われるケースや範囲についての理解が欠かせません。
この記事では、マンションの契約不適合責任について、問われる事例や追及されないための対策など分かりやすく解説します。
マンション売却後に契約不適合責任を問われる事例
まずは、どのようなケースで契約不適合責任が問われるのかを事例で見ていきましょう。
マンションで代表的な契約不適合責任を問われるケースとしては以下のようなものが挙げられます。
- マンションの経年劣化による雨漏り
- 不同沈下による建物の傾き
- 消防法違反の指摘があった
それぞれ見ていきましょう。
マンションの経年劣化による雨漏り
まずはマンションの経年劣化による雨漏りです。
まず、マンションの雨漏りを知っていたのにも関わらず、そのことを契約書に記載せずにマンションを売却した場合、後から契約不適合責任を追及されます。
また、売主が雨漏りを知らなかった場合でも、売却後に契約不適合責任を追及される可能性があります。
買主は売主に雨漏りの修繕を請求でき、さらに雨漏りによって汚損した家具家電代などの損害賠償請求も考えられるでしょう。
不同沈下による建物の傾き
不同沈下とは、地盤の一部がゆがみ、建物が不揃いに沈下する現象です。
建物の一部が沈下することによって建物に傾きが生じ、ドアが開閉しにくくなったり、亀裂・倒壊といった建物の異常や傾きによる健康被害などが生じたりするリスクがあります。
ちなみに、地盤沈下でも同様に建物が沈下しますが、この場合は建物が均等に沈下するので傾きが発生しないことが多いです。
不同沈下は、地盤の強度不足や基礎の不良・躯体の重さ・地震などが原因で起こります。
購入時点ですでに建物に傾きが生じており、それを買主に告げていないなら契約不適合責任を問うことが可能です。
マンションの傾きを売主が補修するのは難しいことから、代金の減額や契約解除が請求されると考えられます。
なお、購入後に発生した不同沈下による傾きは、地震が原因となるケースもあるので責任を問うのは難しいでしょう。
消防法違反の指摘があった
消防法では、所有者は管理者に対して決められた消防用設備の設置や維持管理・点検などを定めており、違反すると是正命令や罰則などの処罰の対象となりえます。
消防用設備の不備などで消防法違反の指摘があるマンションは、法律的瑕疵のある物件です。
法律的瑕疵とは、建築基準法や消防法などの法律に違反している不動産の不具合を指し、告知義務があります。
そのため、瑕疵について契約書に記載がなければ契約不適合責任を問われる恐れがあるのです。
このケースで契約不適合責任を問われると、必要な消防設備設置の請求などが求められると考えられます。
そもそも契約不適合責任とは?
契約不適合責任は、不動産を売却するうえで売主にとって重要なものです。
ここでは、契約不適合責任の基本を押さえておきましょう。
契約不適合責任とは
契約不適合責任とは、契約とは異なる数や種類・品質のものを引き渡した際に売主の問われる責任です。
簡単に言えば「買ったものが約束したものと違う」という事態で、買主を救済するための制度になります。
不動産の場合、数や種類が異なることはないので、品質が異なるケースで追及されます。
契約不適合責任の範囲
「本来持っている性質や品質が損なわれている状態」を瑕疵といい、不動産において「品質が異なる物件」とは「瑕疵がある物件」ということになります。
瑕疵は、以下の4種類に分かれます。
瑕疵の種類 | 概要 |
物理的瑕疵 | 建物や土地にある物理的な問題 |
法律的瑕疵 | 建築基準法・都市計画法・消防法など法律違反があるまたは、法的に制限がある問題 |
心理的瑕疵 | 他殺や自殺があったなど構造的には問題がなくても住むのに嫌悪感や抵抗感を抱く問題 |
環境的瑕疵 | 不動産に問題はなくても不動産の周辺環境に問題がある状態 |
物理的瑕疵
物理的瑕疵とは、シロアリ被害や雨漏り・土壌汚染など建物や土地に物理的な不具合がある状態です。
法律的瑕疵
法律的瑕疵は、不動産に関する各種法律に違反していたり、法的な制限がかかっている状態を指します。
心理的瑕疵
心理的瑕疵とは、自殺や他殺など人の死のあった物件、いわゆる事故物件が該当します。
また、墓地やゴミ処理など嫌悪施設が近隣にある・近所トラブルが発生しているといった環境の不具合が環境的瑕疵です。
瑕疵に関する告知義務
これらの瑕疵は告知義務があり、買主に告知せずに売却すると契約不適合責任を問われます。
ただし、これらの瑕疵があっても買主に告知し契約書にも明記していれば、契約不適合責任は問われないのです。
なお、不具合の内容や程度によっても告知義務は分かれるため、「これくらいは」と勝手に判断せずに不動産会社への相談をおすすめします。
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契約不適合責任の期間
契約不適合責任を問えるのは、民法の規定上「契約不適合責任の存在を知ったときから1年以内」です。
ただし、買主か不具合を知ってから5年以内または引き渡し時から10年以内に権利を行使しないと請求権は時効より消滅します。
なお、契約不適合責任を追及できる期間は、売主・買主の合意により短く設 定したり免責したりが可能です。
引き渡し時から3ヵ月程度の特約を設けているケースが多いでしょう。
ただし、売主が不具合を故意に伝えなかった場合は、特約で免責条件を設けていたとしても無効となります。
契約不適合責任と瑕疵担保責任の違い
瑕疵担保責任とは、目的物に瑕疵があった際に売主に問われる責任で、旧民法に規定されていた考え方です。
瑕疵担保責任の内容を見直し改正されたのが2020年4月からスタートした契約不適合責任になります。
瑕疵担保責任では隠れた瑕疵が対象となるのに対し、契約不適合責任では隠れているかに関わらず契約書に適合しているかが争点という違いがあります。
また、契約不適合責任は瑕疵担保責任よりも、買主の追求できる権利が拡充されており、より買主保護の側面が強くなっているのです。
契約不適合責任で買主から売主に請求できること
契約不適合責任が認められると、買主は売主に対し以下の4つの請求が可能です。
- 追完請求
- 代金減額請求
- 催告解除・無催告解除
- 損害賠償請求
それぞれ見ていきましょう。
追完請求
追完請求とは、契約に適合していない部分を適合するように求める権利です。
たとえば、雨漏りなら雨漏り部分の修繕、シロアリ被害ならシロアリ除去や腐食部分の修繕などを売主に請求できます。
代金減額請求
追完請求に応じてくれない場合、不適合相当分の代金の値引きを求める代金減額請求が可能です。
また、心理的瑕疵のようにそもそも修繕などの追完ができないケースでも代金減額請求ができます。
催告解除・無催告解除
追完請求に応じない場合、買主は契約の解除も可能です。
契約解除の方法には、催告解除と無催告解除の2つがあります。
- 催告解除:追完請求に応じない場合に買主が催告して解除する方法
- 無催告解除:追完の見込みがない・契約の目的を達せない場合で催告なしに解除する方法
ただし、不具合の程度が社会通念に照らして軽微であると解除は認められません。
損害賠償請求
不具合が生じたことで買主が被った被害についての損害賠償請求も可能です。
たとえば、雨漏りなら家具家電や設備の腐食被害に対する損害賠償請求ができます。
なお、損害賠償請求は追完請求・代金減額請求・契約解除とともに請求できます。売主に落ち度がなければ請求できないので注意しましょう。
マン ション売却後に契約不適合責任を追及されないための対策
マンション売却後に契約不適合責任が問われると、売主は大きな負担を強いられるケースが多いです。
そのため、売却時には責任追及されないための対策を押さえておくことが重要です。
契約不適合責任を追及されないための対策として以下の3つが挙げられます。
- 知っていることは全て不動産会社の担当者に伝える
- マンションの不具合は全て契約書に記載する
- 買取で契約不適合責任を免責にしてもらう
それぞれ見ていきましょう。
知っていることは全て不動産会社の担当者に伝える
不具合の告知や契約書の作成は不動産会社が行うため、不具合を正確に伝えていないと契約書に反映されない恐れがあります。
不具合を告知すると不利になると考える方もいますが、告知しない方が後々大きなトラブルになります。
不動産会社にきちんと告知しておけば、不具合があること前提で適切な売却戦略をアドバイスしてくれるでしょう。
また、告知義務について判断が分からない場合も、自分で判断するのはおすすめできません。
自分ではこれくらい大丈夫だろうと思って黙っていると、契約不適合責任を問われかねないからです。
状況を正直に不動産会社に相談して、判断してもらうようにしましょう。
マンションの不具合は全て契約書に記載する
契約不適合責任が問われるのは契約書への記載漏れが原因です。
不動産会社と情報を共有し正確な情報を記載してもらうとともに、作成された契約書の内容は自分でも細かくチェックしましょう。
そもそも不具合を正確に把握することも重要になってきます。
とくに築年数の古いマンションは売主の把握しない不具合が多いことも予測されるので、インスペクションを受けて建物の状態を正確に把握するとよいでしょう。
買取で契約不適合責任を免責にしてもらう
買取とは、不動産会社に直接不動産を購入してもらう売却方法です。
買取は、不動産会社が買主となるため、一般的に契約不適合責任が免責されます。
売主は売却後に責任を問われるリスクを避けられるので、安心して売却を進められるでしょう。
また、買取では不具合のある物件でも短期間での売却が見込める点も魅力です。
買取額は仲介よりも下がりますが、仲介手数料やリフォーム費用が不要であり契約不適合責任のリスクから解放されるので、物件によってはメリットが大きい場合もあるでしょう。
ただし、すべての買取で契約不適合責任が免責になるわけではありません。
不動産会社との買取条件によって異なるので、交渉時には契約不適合責任について確認し契約書のチェックも忘れずに行いましょう。
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マンションの契約不適合責任に関するよくある質問
最後に、マンションの契約不適合責任に関するよくある質問をみてきましょう。
瑕疵担保責任から契約不適合責任に変わって適用期間は変わった?
瑕疵担保責任では瑕疵の存在を知ったときから1年以内に権利の行使が必要です。
一方、契約不適合責任では不適合を知ったときから1年以内に通知すれば、権利の行使はそれ以降でも行えます。
ただし、契約書に記載された期間が優先され、一般的な不動産売買では「引き渡しから3カ月までの間に見つかった不具合に関して、売主は契約不適合責任を負う」と期間を定めるケースが多いです。
責任がいつまでかを契約書でしっかり確認しましょう。
売却後の設備不具合はどこまで契約不適合責任を追及される?
引き渡す設備の有無や不具合を記載した付帯設備表に、有り・故障不具合なしと記載された設備については、契約不適合責任を負います。
一般的に設備の不具合については、引き渡しから1週間以内に通知したものが対象となるケースが多いでしょう。
ただし、契約書に記載される条件次第になってくるので、設備についても付帯設備表と契約書の確認を忘れずに行いましょう。
まとめ
マンションの売却では、契約書に記載のない不具合が生じると売主は契約不適合責任を問われ、損害賠償請求や契約解除されるリスクがあります。
マンションでは、雨漏りや傾き・沈下・設備不良・法律違反などで契約不適合責任を問われやすいので、事前にマンションの状態を正確に把握し契約書に反映することが大切です。
不動産会社に正直に状況を伝え、適切に対処して売却を進められるようにしましょう。
築年数が古く契約不適合責任を問われるリスクが高いなら、買取を選択するのも1つの手です。
仲介・買取いずれにせよ信頼できる不動産会社を選ぶことが重要なので、複数比較し自分にぴったりの不動産会社を選べるようにしてください。