マイホーム購入において、土地の境界を明確にする「確定測量」は、将来的なトラブルを避ける上で非常に重要な意味があります。
しかし、実際には確定測量が行われていない状態で売買されるケースも少なくありません。
この記事では、確定測量なしで購入する際に潜む具体的なリスク、そして注意すべきポイントを解説します。
確定測量とは
戸建てや土地の購入を検討する際に「確定測量」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。
戸建てや土地を確定測量なしで購入した場合の課題を知るために、まずは確定測量の基本を押さえておきましょう。
土地の境界を明確にする測量
確定測量は、隣接する土地の所有者立ち会いのもと、土地の境界を明確にするための測量です。
単に土地の面積を測るだけでなく、隣地との境界線を具体的に特定し、その位置に境界標(コンクリート杭や金属プレートなど)を設置することを目的としています。
確定測量がなぜ重要なのか
土地の境界は、所有権の範囲を示す非常に重要な情報です。しかし、昔ながらの土地では境界が曖昧な場合や、過去の測量図が不正確な場合があります。
このような曖昧な境界のまま不動産取引を行うと、後々になって隣地所有者との間で境界線の認識のずれが生じ、トラブルに発展する可能性があるのです。
正確な境界が不明な場合、計画が立てづらいうえに、建築基準法に抵触するおそれもあります。
また、境界が曖昧な土地は将来的に売却する際に買い手が見つかりにくく、価格交渉で不利になる可能性があります。
確定測量を行うことで、これらのリスクを未然に防ぎ、安心して不動産を利用・売却できるようになるのです。
確定測量の流れ
確定測量は、一般的に次のような流れで実施されます。
- 土地家屋調査士への依頼……土地家屋調査士は、確定測量の専門家です。
- 資料調査……土地家屋調査士は、法務局に備え付けられた公図や地積測量図、登記簿謄本などの資料を調査します。
- 現況測量……実際に土地を測量し、現況の地形や構造物などを把握します。
- 隣地所有者との境界確認……測量結果に基づき、隣接する土地の所有者と立ち会い、境界線の位置について協議・確認 を行います。
- 隣地所有者との合意……隣地所有者から境界確認書に実印と署名をいただきます。
- 境界標の設置……合意された境界線上に、境界標を設置します。
- 確定測量図の作成……確定した境界線の位置や形状、面積などを記載した確定測量図を作成します。
- 成果品の引き渡し……作成された確定測量図などの成果物が依頼者に引き渡されます。
確定測量は専門家の知識と隣地所有者の協力のもと、慎重に進められる手続きです。
それぞれのステップが、土地の境界を明確にし、将来の安心に繋がる重要な意味を持っています。
確定測量なしで購入する際のリスク
戸建てや土地の購入を検討する際、物件によっては確定測量が行われていない場合があります。
「費用も時間もかかるなら、確定測量なしでもいいかな?」と安易に考えてしまうと、後々大きなトラブルに発展する可能性があるので、注意が必要です。
ここでは、確定測量なしで購入する際に潜む主なリスクについて解説します。
隣地との境界紛争の可能性がある
確定測量がされていない場合、隣の土地との境界線が曖昧なままになっている可能性が高いです。
そのまま購入すると、次のようなことがきっかけとなり、境界に関する認識のずれが表面化し、隣地所有者との間で深刻なトラブルに発展するリスクがあります。
- 塀やフェンスの設置・修繕……新しく塀やフェンスを設置したり、既存のものを修繕したりする際に、境界線の位置について意見が対立する。
- 建物の建て替え・増築……建物を建て替えたり、増築した りする際に、境界線ぎりぎりの工事となり、隣地への影響を巡ってトラブルになる。
- 土地の利用方法の変更……庭の手入れや駐車場整備など、土地の利用方法を変更する際に、隣地との境界線が問題となる。
- 将来的な売却時……将来的に土地を売却する際に、境界が不明確であることが買い手にとって不安要素となり、売買交渉が難航したり、価格が下落したりする可能性がある。
こうした境界紛争は、精神的な負担が大きいだけでなく、解決のために時間や費用がかかることも少なくありません。
土地の面積に関する認識のずれが生じる
登記簿に記載されている土地の面積は、必ずしも現況と一致するとは限りません。確定測量を行っていない場合、実際に利用できる面積が登記簿上の面積より少なかったり、形状が異なっていたりする可能性があるのです。
測量の結果、有効に利用できる面積が当初の想定よりも小さいことが判明すると、建物を建てられる範囲や庭として使えるスペースが狭くなるなどの支障が生じる恐れがあります。
また、登記簿の地積に基づいて固定資産税などが課税されているため、実際よりも広い面積で計算されていた場合、本来の税額より多く納めていた可能性もあります。
建築計画への影響がある
建物を新築したり建て替えたりする際には、建築基準法などの法規制を遵守する必要があります。
建物の新築や大規模な増改築の際は自治体または指定検査機関による「建築確認申請」で、施工する建物が法律に適合するかを判断します。
建築確認申請における敷地境界は、 必ずしも所有権の境界と一致させる必要はありませんが、敷地境界をどの位置に、どんな方法で明示するかは明らかにしなければいけません。
検査済証の取得
建築確認申請の段階で、自己判断によって境界位置を記載した場合、実際には曖昧な範囲に勝手に敷地境界を明示することになり、大きなトラブルの要因となります。
しかも、工事完了までに建築確認申請書に記載した位置に境界明示ができなければ、検査済証を取得することはできません。
検査済証が取得できないと、建物が正式に「法令に適合して完成した建物」として認められなくなり、さまざまな不利益が生じます。
たとえば、金融機関から住宅ローンの融資を受ける際に審査が通らなくなる可能性があり、将来的な売却や建物の価値にも悪影響を及ぼします。
中古住宅として売却する際にも、買主から「法的に問題がある建物ではないか」と疑念を持たれ、取引がスムーズに進まなくなるおそれがあります。
建築基準法違反のリスク
また、建物完成後に確定測量を行った結果、敷地面積が減少した場合には、建ぺい率・容積率オーバーなどの建築基準法違反になる可能性も出てきます。
そのため、山里にあるような広大で余裕のある土地を除き、確定測量がされていない土地では、新築の設計が非常に困難になることもあるのです。
越境の可能性がある
確定測量を行っていない場合、隣地の建物や塀、樹木などが自分の土地に越境していることに気づかないことがあります。
越境物が判明した場合、その撤去を求められる可能性があり、費用や 労力がかかることになるのです。
また、撤去を求められていない場合でも、越境物が存在することで不動産の利用価値を低下させ、売却時の価格に悪影響を及ぼす恐れもあります。
確定測量なしで購入する際の注意点
確定測量なしの土地を購入する際には、多くのリスクがあります。
それらのリスクを踏まえたうえで、それでも確定測量なしでの購入を検討する場合に、注意すべき点を挙げていきましょう。
公図や地積測量図を徹底的に確認する
確定測量図がない場合は、法務局に備え付けられている公図や地積測量図を入手し、その内容を詳細に確認することが重要です。
公図は、土地のおおよその形状や位置関係を示した図面で、隣接地との関係や道路との接道状況などを把握できます。ただし、公図は精度が低い場合もあるため、あくまで参考資料として扱いましょう。
地積測量図は、過去に測量が行われた際に作成された図面で、土地の形状や面積、隣地との境界などが記載されています。比較的新しいものであればある程度の信頼性はありますが、古いものや精度が低いものも存在します。
図面に記載された測量年月日や測量方法などを確認し、不明点があれば不動産会社に確認してください。
これらの図面を確認する際には、隣接する土地の図面も併せて確認し、整合性や不自然な点がないかをチェックすることが大切です。
現地を自分の目で隅々まで確認する
実際に物件を訪れ、土地の状況を自分の目でしっかりと確認することが大切です。
既存の塀やフェンス、擁壁などが境界を示している可能性がありますが、これらが必ずしも正確な境界線上にあるとは限りません。隣地との間に不自然な隙間や段差がないか、越境しているものがないかを注意深く観察しましょう。
過去に測量が行われている場合、コンクリート杭や金属プレートなどの境界標が設置されていることがあります。
もし境界標らしきものが見当たれば、その位置関係を確認しましょう。ただし、すべての境界標が既存しているとは限らず、設置位置がずれている可能性もあります。
可能であれば、隣地の所有者に過去の境界に関する認識や資料がないか尋ねてみるのも有効です。
ただし、隣地所有者が正確な情報を把握しているとは限らないため、あくまで参考程度に留めておきましょう。
不動産会社に詳細な説明を求める
不動産会社には、確定測量が行われていない理由や、過去の測量図の有無、境界に関する経緯などを詳しく確認しておきましょう。
費用を抑えるためであったのか、あるいは過去に何らかの事情があったのかなど、確定測量が行われていない理由を確認することで、リスクの度合いを推測できる場合があります。
また、過去に作成された測量図が存在する場合は、その図面を入手し、信頼性について不 動産会社の見解を聞いておくと安心です。加えて、隣地との間で過去に境界に関する話し合いがあったかどうかも確認しておきましょう。
もし、境界について隣地所有者と合意した覚書などの書類が存在する場合は、その内容を事前に確認しておくことが望ましいです。
ただし、これらの書類には法的な効力が必ずしも保証されているわけではない点にも留意しておきましょう。
契約書の内容を慎重に確認する
売買契約書には、土地の面積や境界に関する取り決めが記載されていることがあります。
登記簿に記載された面積に基づいて売買する「公簿売買」の場合、実際の面積と異なる可能性があることを理解しておきましょう。
一方、「実測売買」であれば、改めて測量を行い、その結果に基づいて売買代金を調整することが可能です。
また、契約書に境界に関する特約が記載されている場合は、その内容をしっかりと確認する必要があります。
たとえば、「境界は現況を優先とする」「将来的に境界紛争が生じた場合は買主の責任とする」といった、不利な条件が含まれている可能性もあるので、注意が必要です。
▼関連記事:境界非明示特約を付けて不動産の売買をする際の注意点を解説します
確定測量に備える
確定測量が行われていない土地は、リスクが高く、将来的な不安要素となる可能性があります。
そのため、やむを得ず確定測量のない土地を購入した場合は、できる限り早い段階で確定測量を実施することが望ましいといえます。
このような理由から、土地の購入に際しては、確定測量に必要な費用をあらかじめ確保しておくことが重要です。
確定測量にかかる費用は、土地の形状や面積、隣接地の所有者などによって大きく異なりますが、一般的な目安としては30万円~80万円程度かかることが多いです。
少なくとも、公図や地積測量図、登記簿謄本などの資料調査や現地確認に約10万円程度、また、実際に測量機器を用いて土地の形状や境界を測量する作業には、20万円程度の費用がかかることもあります。
専門家に相談する
不安な点がある場合は、土地家屋調査士や弁護士などの専門家へ相談することを検討しましょう。
土地家屋調査士は境界に関する専門家であり、測量や境界に関する具体的なアドバイスを受けることができます。
また、弁護士に相談すれば、境界紛争のリスクや売買契約書の内容について、法的な観点からの助言を受けることが可能です。
▼関連記事:確定測量図は何に使う?測量図の種類や取得方法・費用を解説
まとめ
確定測量を行わずに不動産を購入することは、初期費用や時間を抑えられる反面、将来的に隣地との境界紛争や土地面積の認識のずれ、建築計画への影響、越境物の問題など、様々なリスクを抱える可能性があります。
これらのリスクは、平穏な生活を脅かすだけでなく、資産価値の低下にもつながりかねません。
もし確定測量が行われていない物件の購入を検討する場合は、リスクを十分に理解し、次の点に留意して慎重な判断をしてください。
- 公図や地積測量図を詳細に確認し、現地の状況を自分の目でしっかりと確認する。
- 不動産会社に確定測量が行われていない理由や、過去の境界に関する情報を詳しく確認する。
- 売買契約書の内容を隅々まで確認し、境界に関する特約に注意する。
- 将来の確定測量実施に向けて資金を確保しておく。
- 少しでも不安を感じる場合は、土地家屋調査士や弁護士などの専門家に相談することを検討する。
確定測量の有無は、その後の利用や売却に大きな影響を及ぼす可能性があります。そのためにも、購入前に売主に確定測量の実施を依頼することが、交渉の大きなポイントとなります。
それでも実施が困難な場合には、可能な限りの情報を収集し、リスクを最小限に抑えるための対策を講じることが重要です。