家族向けというイメージが強い住宅ローンですが、独身をエンジョイする人の増加とともに、近年では独身でも住宅ローンを組む人が増えています。結婚よりも持ち家の購入を優先することが、もはや違和感なく受け入れられる時代です。
とはいえ、「審査に合格するだろうか」とか「結婚したらどうなるの」といった、独身だからこその不安や疑問は尽きません。
この記事では、そうした悩みを解消するために、独身で住宅ローンを組む際の審査のポイントと結婚後の注意点について解説します。
住宅ローンの審査ポイントは
住宅ローンは、家族向けというイメージが強いですが、独身だからという理由で住宅ローンの審査が落ちることは基本的にありません。独身で住宅ローンを組むには、どのような条件が必要なのか解説をしていきましょう。
金融機関の審査項目とは
国土交通省の令和2年度「住宅ローンの実態に関する調査」によると、次の項目については、9割以上の金融機関が審査対象としていると答えています。
- 完済時年齢……99.1%
- 健康状態……98.2%
- 担保評価……98.22%
- 借入時年齢……97.88%
- 年収……95.7%
- 勤続年数……95.3%
- 連帯保証……95.1%
ちなみに同調査で「家族構成」を審査項目としているのは、23.7%であり、「性別」を審査項目としているのは17.5%ですから、独身であることや女性であることよりも、年齢や返済能力を重視していることが分かります。
完済時年齢
完済時年齢については、99%以上の金融機関が審査項目として挙げており、極めて重要な要素です。
多くの金融機関は、80歳未満の完済を基準としており、借入時の年齢が高いと、返済期間や融資額が縮小される可能性があります。
年収
住宅ローンの審査において、年収が非常に大きな基準とされています。具体的には、「年収に占める年間返済額の割合」である偏差負担率によって判断されます。これを計算式で表すと次のようになります。
返済負担率=年間返済額÷年収×100
一般的に無理のない返済負担率は25%までとされています。たとえば年収が400万円の人だと、「400万円×25%=100万円」の計算から、年間100万円が無理なく返済できる範囲という目安となります。ただし、返済負担率が30%以上でも認めている金融機関は多くありますから、審査 の合否は金融機関によって異なります。
気をつけたいのは、「年間返済額」は、住宅ローンの返済のみを対象にしているわけではないという点です。もし他にローンを利用していれば、その返済額も含まれます。
自動車を購入したときに利用したローンやクレジットカードのリボ払い、カードローンなどの返済も含まれるため、これらのローン返済の存在によって、審査に落ちてしまうことがあります。奨学金を返済中の人は、これも年間返済額に含まれるので注意が必要です。
勤続年数
独身であることよりも、勤続年数が短いことで住宅ローンの審査に落ちることがあります。多くの金融機関では勤続年数3年以上を基準としています。ただし、1年であっても融資を行っている金融機関もあります。
健康状態
住宅ローンの利用に際しては、団体信用生命保険(団信)への加入が求められます。
団信は、住宅ローンの返済中に死亡したり高度障害状態になったりした場合、保険会社が代わりに残債を金融機関へ返済する保険です。
健康状態が理由で団信に加入ができない場合は、住宅ローンは利用できません。ただし、フラット35については、団信の加入を条件としていません。
担保評価
購入しようとする住宅の金銭的な価値を担保評価と言います。住宅ローンの返済期間中に返済不能になったときには、担保となった土地と家が強制的に競売にかけられ、債務を解消することになります。そのため、住宅ローンの融資額は、住宅の担保価値に見合った金額になります。担保評価が低すぎると、住宅ローンの審査に落とされることもあります。
特に中古住宅の購入で、再建築不可物件や違反建築物の場合、まず審査に通ることはありません。そのため購入に際しては、適法性のチェックが重要です。
独身で住宅ローンを組むときの注意点
独身であっても住宅ローンの利用はできます。しかし、既婚者が住宅ローンを利用する場合とは異なる、独身だからこその注意点がありますので解説していきましょう。
生命保険の加入方法
住宅ローン利用に際しては、団信への加入が義務付けられています。しかし、団信では、利用者の死亡や高度障害のみに対応しているため、その他の病気でローンの返済が不能になっても対応してもらえません。
独身の場合、他の人の支援を受けにくいことが多いため、ガンや脳卒中などにも対応できる「三大疾病特約」や、さらに広範囲の病に対応する「八大疾病特約」を付加しておくと安心です。
保証人が必要なこともある
住宅ローンを組む際には、保証会社に申し込みをして加入をします。これによ り、返済ができなくなったときに、保証会社が残債を肩代わりすることになります。保証会社は、担保の住宅を競売にかけて代金を回収するという仕組みになっています。
ただし、保証会社にとっては、実際に競売にかけなければ全額回収できるか否かが分らないため、なるべく競売になる事態は避けたいという思いがあります。
しかし、ローンの利用者が独身の場合、収入が減ったときパートナーによるフォローが期待できないことから、「貸し倒れ」のリスクが高いと判断することがあります。その場合、保証会社が連帯保証人を求めてくることがあります。
独身だからという理由で必ず保証会社が連帯保証人を求めるわけではないので、保証会社の判断によっては不要になることもあります。
保証人を求められたとしても、他の金融機関では不要ということもありますから、事前審査の段階で複数の金融機関に相談しておいた方が安心です。
ローン返済中に結婚したときの注意点とは
住宅ローンを借りたときは独身だとしても、長い返済期間中に結婚をすることは十分にあり得ます。ここでは、住宅ローン返済中に結婚したときの注意点について解説します。
物件の名義変更はできるのか
結婚を機会に所有する不動産を共有にすることがあります。しかし、住宅ローン返済中の物件は、抵当権が設定されているため、勝手に名義変更をすることは許されません。
登記手続においては、名義の変更に際して、抵当権者の承諾書等は必要ないので、承諾がなくても変更手続は行えます。
しかし、住宅ローンの契約書と一体となった抵当権設定契約書には、所有権の譲渡には抵当権者の承諾を得ることが定められています。この契約により、無断で名義変更をすると住宅ローンの一括返済を求められます。
またこの問題とは別に、ローンの名義を従前のままで、マンションの所有権を共有にすると、配偶者への贈与とみなされ、贈与税の対象になります。
ローンを配偶者名義で借り換えできるか
金利が下がったので独身時代のローンを借り換えたいという場合、配偶者の名義で借り換えるのであれば注意が必要です。
借り換え自体は、配偶者の収入が一定以上あれば可能ですが、贈与税への配慮が必要になります。たとえば住宅の名義は妻のままで、借り換えのローンの名義は夫とすれば、住宅は夫から妻への贈与とみなされます。
この事態を回避するためには、借り換えと同時にマンションの所有権も夫に移さなければなりません。
抵当権を設定した物件では、このような複雑な問題が絡むため、実際の手続きでは、名義変更を要する借り換えは、ほとんどの金融機関で審査に通らないか、審査自体を受け付けてもらえません。
結婚による住み替えはできるか
結婚後に配偶者の都合に合わせて、別の物件に住み替えるということがあります。この場合、住宅ローン返済中の物件は、売却か賃貸に出すかという選択肢が想定できます。
売却については、ローンが残っていても売却は可能です。ローンの残債は、売却代金からまとめて支払うことができるからです。オーバーローンで売却代金がローンの残債に満たなかった場合であっても、自己資金で補填することで売却は 可能になります。
一方で賃貸に出すことは、住宅ローン返済中は認められません。住宅ローン契約において、「自分が住むための家を買う資金を融資する」とされているからです。無断で賃貸に出して発覚すると、契約違反で一括返済を求められます。
旧姓からの名義変更について
結婚によって名前が変わった場合、通帳や住宅ローン契約者の名義変更届が必要です。また住宅に抵当権が設定されているため、登記の所有者名義を旧姓から現姓へ速やかに変更する必要があります。
まとめ
住宅ローンの審査において、ほとんどの金融機関が審査項目として挙げているのが、完済時年齢、健康状態、担保評価、年収、勤続年数などです。
家族構成や性別を審査項目としている金融機関は少数派であり、基本的に独身であることや女性であることを理由に住宅ローンの審査に落とされることはありません。
健康に生活をしており、3年以上の勤務実績があり、一定の収入があれば、独身であっても住宅ローンの審査を通る可能性は高いと言えます。
一方で、独身だからこその課題もあります。万が一のとき、経済的な面で周囲に頼る人がいない状況を鑑みれば、ガンや脳卒中などにも対応できる「三大疾病特約」や「八大疾病特約」を付加しておいた方が安心です。
住宅ローンの返済中に結婚をした場合、持ち家の名義変更には細心の注意を払う必要があります。抵当権が設定されているため、金融機関に無断で名義変更をすることはできません。
配偶者の事情で新居に移る場合は、売却をすることになります。売却で得た資金で住宅ローンを返済することで、問題は解決します。売却をせず貸家にすると、住宅ローンの契約違反となり、ただちに一括返済を求められますから注意が必要です。