不動産の価格が上昇している昨今、欲しい物件があっても広告に記載されている価格を見て予算オーバーだなと感じる機会は多いのではないでしょうか。
「あと少し安くなれば検討できるんだけど、値引き交渉ってできるの?」と疑問に思われる方も多いかと思います。
この記事では、中古物件の購入を検討されている方に向けて、
- 値引き交渉の可否や現実的な目安となる値引き幅
- 交渉を成功に導くための最適なタイミングや具体的なポイント
- 値引き交渉がしやすい物件の特徴
などを、不動産取引の実務的な視点から詳しく解説します。
価格の仕組みを深く理解し、適切な知識と準備をもって交渉に臨むことで、賢く、納得のいく不動産購入を実現させましょう。
不動産価格の仕組みと相場について
新築物件はデベロッパーが各部屋ごとに価格を決めていくものですが、中古物件はどのように価格を決めているのかをご存知でしょうか。
値引き交渉を有利に進めるためには、まず中古物件の販売価格がどのように決まるのか、そして「その物件の適正な相場とは何か」を理解しておくことが不可欠です。
中古物件の価格の決まり方
中古物件の売出価格は、まず不動産会社が類似物件の過去の取引事例や現在の相場を基に、室内状況等を加味して査定を行い、その金額をもとに売主が最終的な売出価格を決定します。
その際、査定金額より少し高めに設定しておいて交渉の余地を残す、という販売戦略が一般的です。
ただし、売出価格は売主の希望によっても大きく変わってきます。
たとえば、売却を急いでいない売主であれば強気の価格設定をする場合もありますし、逆に住み替えの期限が迫っているようなケースでは二重ローンを避けるため、交渉を受け入れやすい傾向があります。
また、心理的に「購入した金額より高く売りたい」「新生活に向けて資金を確保したい」という基準を設けて、一定以上の金額でなければ売りたくないと考えている方も多いです。
エリア相場と価格の妥当性を見極める
価格交渉を行う前提として、「その物件の販売価格が相場と比べて妥当かどうか」を知る必要があります。
しかし、不動産の価格は立地や築年数、間取り、方角、管理状況など、さまざまな要素が複雑に絡み合って決まるため、不動産のプロでも適正価格を正確に判断するのは難しいのも事実です。
また、ポータルサイトで同じエリア・間取り・築年数の物件を比較することも一つの方法ですが、不動産業者専用のデータベース「レインズ(REINS)」に登録された成約事例のデータを確認することも重要です。
そのため、購入の仲介を依頼する不動産会社の担当者に、類似物件の成約事例や比較物件と照らし合わせて、販売価格の妥当性をチェックしてもらうことが大事になってきます。
自分の希望価格と相場
物件の価格妥当性を確認すると同時に、もう一つ重要なことがあります。
それは、「そもそもご自身の希望条件と、そのエリアの相場価格が大きくかけ離れていないか」を確認することです。
もし希望と相場に大きなギャップがある場合は、
- エリアを少し広げる
- 駅からの距離の許容範囲を広げる
- 築年数の条件を緩める
といった「条件の見直し」や、住宅ローンの借入額などの「予算の再検討」が必要となります。
値引き交渉は検討物件が相場価格なら購入を検討できるが、現状の販売価格がその相場よりオーバー気味の状況で行うものであると心得ておきましょう。
値引き交渉のタイミング
値引き交渉を成功させるためには、そのタイミングが非常に重要です。
焦って早すぎる段階で交渉を切り出すことで、売主が不信感を得てしまって交渉の土台にも立てなくなることもあります。
ここでは、交渉を行うべき最適なタイミングと方法について解説します。
内見前
まだ物件を見ておらず、購入の意思も固まっていない段階での交渉は、売主側から見れば「本気度が低い冷やかし客」と受け取られ、心証を損ねるリスクが高いため、避けるべきでしょう。
内見前の段階では、直接的な値引き交渉をするよりも、価格交渉かどうか、売主の意向を把握している仲介業者に“肌感”を聞いておくのが効果的です。
売主側の仲介業者は、売却理由や販売状況などをある程度把握しているため、交渉余地の 有無についてある程度のヒントを得られます。
ここで注意すべき点として、売主の気持ちは時間とともに変化することもあるため、タイミングの見極めも重要ということです。
例えば、「今は強気だけど、今後売れ残っていれば交渉する」や、「思ったよりも反響が多く、価格交渉をしなくても売れそう」といった心境の変化があります。
販売期間や販売状況、売主の事情を把握して価格交渉可能かどうかを推測しましょう。
申込時
価格交渉をおこなう際に一般的で最も効果的なタイミングは、物件を内見し、購入の意思を固めた上で「購入申込書(買付証明書)」を提出する時です。
購入申込書を提出するという行為には法的拘束力はないのですが、買主から売主に対する具体的な購入の意思表示となり、真剣に検討をしていることの証明となります。
また、単に「この物件を買いたいです」という意思表示だけでなく、具体的な購入条件を売主に提示するために使用をします。
「購入希望価格」を記載する欄があり、ここに販売価格よりも低い金額を記載することにより、売主に対して正式に価格交渉の依頼をすることになります。
このとき、ただ希望価格を安く書くだけでなく、
- 相場よりも高い
- 著しい劣化がある部分の補修費用を差し引いて買いたい
など、希望価格の根拠や交渉の理由を添えておくことで、受け入れてもらえる可能性が高まります。
購入後
売買契約が成立した後に、買主の一方的な都合で価格の変更を求めることは原則としてできません。
契約は双方を法的に拘束する重い約束事です。
したがって、「購入後」の交渉はあくまで例外事項となります。
主なケースとしては物件に「契約不適合(雨漏り、シロアリの害、主要構造部の欠陥など、契約時に説明のなかった重大な欠陥)」が発見された場合です。
2020年の民法改正で導入されて文言や内容が変更される以前は「瑕疵担保責任」と呼ばれていました。
この場合、買主は売主に対し、修補請求、代金減額請求(実質的な値引き)、損害賠償請求、契約解除などを主張できる可能性があります。
しかし、これはあくまで契約内容が履行されなかったことに対する権利行使となるため、厳密には値引き交渉ではないことに注意が必要です。
値引き交渉がしやすい物件とは?
全ての物件で同じように値引き交渉が通用するわけではありません。
売主の事情や物件の状況などによって、交渉のしやすい物件とそうでない物件があります。
以下のような特徴のある物件は、比較的値引きが通りやすい傾向があると言えるでしょう。
売主が早期売却しなければならない
売主が住み替えや買い替えを予定している場合や、既に新居を購入している場合など、一定の期限内に売却を完了しないと次の住まいの購入に支障をきたすことがあります。
そういった背景がある物件では「タイムリミットがあるので、少し安くしてでも早く売りたい」という心理が働きやすいため、交渉の余地があります。
また、同じく期限がある転勤や相続、離婚といった事情も、早期現金化の動機となることが多いです。
長期間販売している物件
需要の高い物件は、適正な価格であれば販売開始から1〜2ヶ月以内で売却に至ることが多いです。
もし、物件情報が公開されてからしばらく経過してもまだ売れていない物件は、価格や条件に何らかの理由がある可能性が高く、売主も「このままでは売れないかもしれない」と焦りや不安を感じ始めていることがあります。
また、不動産会社と売主が結ぶ「媒介契約」は通常3ヶ月ごとに更新時期を迎えます。
媒介契約の更新時は、仲介会社が売主に対して価格を下げる提案をするタイミングでもあるため、その時期に合わせて交渉を持ちかけると、売主も価格変更を受け入れやすくなることがあります。
リフォームが必要な物件
内装が古い、水 回りが劣化している、間取りが現代のニーズに合っていないといった物件は、購入後のリフォームが前提となるため、売主も価格に柔軟な姿勢をとることが多いです。
中には、あらかじめリフォーム費用分を見越して、売主側も「交渉される前提」で高めの値段を設定しているケースもあります。
価格交渉の際にはリフォーム見積もりなどを提示することで、スムーズに交渉を進められる可能性が高くなりますので、事前に準備をしておくと良いでしょう。
どのくらい値引きが可能なのか
実際に値引き交渉をする際にどのくらい交渉が可能なのかについて解説します。
提示可能な一般的な価格交渉幅目安
不動産取引における価格交渉の幅は、業界内では「販売価格の3%〜5%程度」とされています。
物件価格が3,000万円であれば90万円〜150万円ほどの値引きが目安となります。
ただし、都内の人気エリアや築浅物件など、競争力の高い物件では2〜3%程度や端数切り(例:3,980万円→3,900万円)が目安になるでしょう。
相場よりも大幅に高く売り出されている物件は、適正価格付近の価格交渉を申し込んだとしても売主に受け入れられないケースが多く、こうした状況を「売主の価格の目線が高すぎる」といった言い方をします。
現実的な価格交渉幅とは
相場より明らかに高い場合に、相場価格に近づける交渉が原則となります。
ただし、人気物件では購入検討者も 多く、値引き交渉自体がリスクとなり、「買い逃し」につながってしまうこともあります。
というのも、あなたが値引き交渉をしている間に満額で購入を希望をする方があらわれた場合、売主はそちらを優先してしまうためです。
仲介業者と相談し、売主の事情や物件の人気度を考慮して現実的な落としどころを探すことが大事です。
現金なら大幅な値引きが可能?
「ローンを使わず、現金で買うので値引きしてほしい」と考える方もいますが、現金とローン利用者で売主側が受け取る金額は基本的に変わりません。
そのため、ローン審査に通らず契約が白紙になる「ローン特約解除」によるキャンセルリスクがない点で売主にとって安心材料にはなり得ますが、これを理由に大幅な値引きを期待するのは難しいです。
例外的に、売主都合で資金を急遽調達しなければならない場合においては、ローン手続きがないことで価格交渉が優位にはたらくこともあります。
ただし、そのような事情の場合、不動産業者による買取となることが多いです。
交渉のテクニック
売主には色々な事情や希望があって販売価格を決めているため、それを踏まえ、配慮した上で価格交渉は慎重におこなうべきです。
そこで、交渉に有効な理由づけや交渉方法について解説します。
売主の有利な引き渡し条件
交渉ごとですので、売主に対して引き渡し条件を歩み寄るということが大事です。
たとえば、「早期契約が可能 です」「引き渡し日は売主の都合に合わせます」といった柔軟な対応を提示することで、売主に対して取引に安心感を与えることで値引きに応じてくれるケースがあります。
また、築古物件などで、買主がリスクを理解した上で契約不適合責任や設備保証の免責を受け入れることも、交渉のカードになり得ます。
内見時の印象
値引き交渉も結局は人と人とのコミュニケーションです。
内見時の印象が悪いと、「条件は良くてもこの人には売りたくない」と思われてしまうこともあります。
逆に、好印象を与えることで交渉を有利に進めることができることがあります。
清潔な服装や、丁寧な言葉づかいと誠実な態度を心がけましょう。
中には手土産を持参される方もいらっしゃるのですが、かえって気を遣わせてしまうので、そこまではしなくて良いでしょう。
正当な値引き根拠の提示
売主の事情を考慮した上でおこなうべきですが、相場価格のエビデンスを用意したり、リフォーム金額の見積もりの提示など、価格交渉において根拠をしっかりと準備しておきましょう。
客観的なデータや理由を示して論理的に交渉をしましょう。
具体的には次のような方法となります。
- 仲介業者に依頼して直近の類似物件の成約事例を用意した上で、元に相場価格との比較をする。
- リフォーム費用がどれくらいかかるか見 積もりを提示して比較物件と条件を合わせる。
- 類似物件と比べて劣っている箇所(前面の建物の有無や日当たりなど)を提示する。
まとめ
中古物件取引において、一般的な商慣習として価格交渉は行われています。
ただし、売主の事情や物件の人気によっては相場どおりでの購入が難しいことも多いです。
さらに、近年では特に相場が流動的となっているので、前提としてご自身の希望条件と今の相場価格があっているか確認が必要です。
10%程度値引き可能などとしている記事やサイトもありますが、それらを鵜呑みにすることなく、しっかりと売主との交渉を進めることが大事です。
信頼できる担当者を見つけ、二人三脚で進めることが、賢い値引き交渉と満足のいく不動産購入の鍵となるでしょう。