不動産を売却しようとするときは、物件の価値を知っておかなければ安く買い叩かれてしまう可能性があります。そこで必要なのが不動産査定ですが、それ以外に不動産の評価額を確認する指標として「不動産鑑定」があります。
この記事では不動産査定と不動産鑑定の違いや、不動産鑑定が必要なのはどんなときなのかを解説します。
不動産鑑定とは
まず、不動産鑑定とはどういった内容の鑑定であるのか、しっかりと確認しておきましょう。
不動産鑑定の意味を知ることで、どんなときに不動産鑑定が必要かの理解が進みます。
国土交通省が定めた鑑定評価基準によって行われる鑑定行為
不動産鑑定とは、「不動産の権利以外の経済的な価値を算出する行為」を指します。
ただし不動産鑑定は、国土交通省が定めた土地や建物の鑑定評価基準に則って行われる鑑定行為であり不動産の売却価格を直接的に算出することではありません。
一方で不動産査定は「不動産会社による物件の売却価格(売り出し価格)を決定する行為」を意味します。
不動産鑑定を行えるのは、国家資格である不動産鑑定士のみ
不動産鑑定士は「資格の取得には2,000時間もの勉強が必要」と言われるほどに難易度が高い国家資格であり、国内でも限られた資格者だけが不動産鑑定を行うことができます。
それだけに、不動産鑑定は非常に重い意味を持ち、鑑定時に算出された数値は様々な場で活用されています。
専門資格者による作業なので費用がかかる
不動産鑑定は専門性が高いため、20万円〜30万円が相場です。
鑑定にかかる費用は高額ですが、不動産鑑定で出された数値は非常に重要な意味を持ちます。
相続税などの計算のために、国や自治体が不動産鑑定士に鑑定を依頼することもあります。
不動産査定とは
では、不動産鑑定に対して不動産査定とはどういった意味を持つ行為なのでしょうか。
また、不動産査定には資格が必要なのでしょうか。
不動産査定は不動産の売却価格(売り出し価格)を決める作業
不動産査定は、個人や法人が不動産を売却に出す際の価格を決めるために行います。
不動産鑑定には国土交通省が定めた客観的な評価基準が存在しますが、不動産査定には定められた基準がありません。
個人や法人の事情などを考慮した上で主観的に価格を決める行為なのです。
もちろん不動産の売却時には一定の市場価格が存在しますが、必ずしも市場価格に従って常に売買されるわけではありません。
売買のタイミングや売主と買主側の都合や交渉次第で価格は変わります。
査定額は「売買価格」あるいは売りに出す際の「売り出し価格」の参考とするために算出されるという性質があるのです。
不動産査定は誰でもできる
価格を出すための査定行為は、有資格者である必要はありません。
不動産会社を運営するには、国家資格である宅地建物取引士の有資格者が会社に一定数以上所属する必要はありますが、査定は必ずしも宅地建物取引士が行うわけではないのです。
不動産物件の価格を査定する方法としては、
- 物件の収益性を見て判断する収益還元法
- 物件を再度取得するために必要な価格を算出する原価法
- 同様の条件を有する物件と比較して相場を算出する取引事例比較法
といったものがあります。
根拠さえあれば、宅建士ではない者が行なっても構わないのです。
査定価格に厳密な根拠や基準はない
不動産の査定価格には、客観性を持った厳密な評価基準がありません。
なぜ、この価格を算出したのか、根拠は算出した者によって異なります。
もちろん、何の根拠もなく価格を算出するわけではありません。
基本的には、近隣の物件の過去の取引事例や、国土交通省が算出した路線価や固定資産税評価額などを元に算出した金額から、土地の形状や建物の築年数を考慮して最終的な査定額が提示されます。
ただし、評価基準に沿って厳密に評価するのではなく、「だいたいこれくらいだろう」といった個人の価値観が入ることも少なくありません。
例えば「住宅ローンの残債が2,000万円ある」という事情の依頼者に対して、「相場はもう少し安い1,800万円だけど、売却をあきらめず媒介契約を結んでもらうために2,100万円の査定額を提示しておこう」といった調整が入るケースもあるのです。
また、最近ではAIによる価格の査定が進んでいますが、直近の取引事例を参考にするものから、地価公示などの参考値を用いるものまで査定ロジックは様々です。
それだけに、不動産会社10社に不動産査定を依頼すれば10通りの評価が出るのです。

営業活動の一環であるため、ほとんどは無料
不動産鑑定は、国家資格の有資格者である不動産鑑定士しか行えず、1回の鑑定にかなりの金額がかかることをお伝えしました。
しかし、不動産会社に依頼する不動産査定では金銭を取られることはまずありません。
なぜなら、不動産査定は不動産会社の営業活動の一環であるから です。
不動産会社にとっての査定は、売却を促すための販促活動の1つであり、費用を請求することはありません。
その代わり誰でも行える側面もあるため、査定の根拠がいい加減で相場とかけ離れた数字が算出されてしまう可能性もあります。
なぜ、不動産鑑定は必要なのか
一般的に不動産を売買する際には「査定」で十分ですが、数十万円もの費用が発生する「不動産鑑定」はどのようなシーンで必要になるのでしょうか。
税金を算出するため
不動産鑑定は、客観的に見て不動産がどれほどの経済的な価値を持つかを算出する行為です。
不動産の取得時には、固定資産税と都市計画税という税金が発生します。
固定資産税と都市計画税は固定資産税評価額を基にして税額が決まりますが、固定資産税評価額を算出するための土地の価値の鑑定は、不動産鑑定士が行っています。
不動産鑑定士は国の依頼で不動産の実地調査などを行い、道路や人口の状況、建物の状況などを細かくチェックします。
そして、路線価や公示地価など、不動産の価値を表す基準値を算出します。
不動産の現状を把握したり税額を決定したりする際に、国土交通省は不動産鑑定士に依頼するのです。
担保価値を算出するため
専門職である不動産鑑定士が算出した数値は、非常に高い信ぴょう性を持ちます。
そのため、融資の際に金融機関に提出する担保の価値を算出する時に利用されます。
不動産鑑定士が下した結論には大変な重みと信用があり、大企業でも全幅の信頼を置くのです。
金融機関や公的機関、第三者への不動産の価値を示す根拠になる
不動産鑑定によって算出された評価額は、個人間のお金の貸し借りの際に担保する不動産の評価基準としても活用されます。
もし、あなたが不動産を担保に融資を受ける時、金融機関に資産としての担保の健全性を証明したい場合は、不動 産鑑定士に担保の鑑定を依頼すると良いでしょう。
一方で不動産査定は有資格者によるものではなく、さらに担当者によって価格が異なるため、評価の基準として利用されることはありません。
特殊な不動産の価格を算出するときにも使われる
一方で、不動産査定の手法に近い鑑定の事案として、不動産鑑定士は特殊な不動産の価格を算出することもあります。
不動産査定で不動産の価格を算出する時は、過去の取引事例を参考に価格を算出するのが普通です。
似たような条件を持つ不動産がどれだけの価格で売れたかを見て、売り出しの価格を決めるのです。
逆を言えば、過去に類似の不動産の取引事例がなければ、なかなか価格が決まらないことがあります。
例えば、山中の広大な土地、墓地を更地にした土地などの特殊な背景を持つ不動産では、取引事例がなかなか見つからないため、適切な価格を算出すること自体が難しい場合には、不動産鑑定額が取引上の価格に利用されることがあります。
不動産鑑定は土地の場所や形状、広さによって明確な評価の基準が存在します。
それだけに、不動産の価値を客観的に見い出すことができるのです。
特殊な土地であっても、鑑定評価基準に照らし合わせれば、売買時の参考となる鑑定額が導き出されるのです。
不動産鑑定と査定の価格は違うのか
そもそも不動産の「鑑定」と「査定」は性質の違うものであることは説明しましたが、算出した価格に大きな違いはあるのでしょうか。
鑑定価格は基準があるため、相場で上下しない
不動産査定は直近の取引事例などを参考にするため、市場価格に近い値段を算出することも可能です。
その代わりに個人と法人、買主と売主といった立場上の違いにより、価格がまるで違うことがあります。
同じ土地を、誰しもが同じ査定額を出すわけではありません。
それでも、似たような価格帯に落ち着くことが多いのですが、不動産査定では数千万円の不動産で数百万円前後のばらつきが出るのも珍しくないです。
しかし、不動産鑑定士による鑑定価格は、国土交通省の明確な評価基準をもとに算出されます。
どの不動産鑑定士に査定を依頼しても、鑑定額に違いが出ることはありません。
不動産市場での取引価格ではなく、その時点の国土交通省の評価基準によって価格が決まるからです。
査定価格は相場によって変化する
不動産の査定価格は、その時々の状況によって常に変化します。
1カ月前に査定した価格が翌月になっても同じ価格であるとは限らないのです。
そして、不動産査定額の根拠や基準になるのは、不動産鑑定士が算出する公示地価や路線価です。
公示地価とは、毎年3月頃に国土交通省が発表する国内の地域ごとの不動産価格です。
路線価も、毎年7月に国土交通省が発表します。
つまり不動産鑑定と不動産査定の関係としては、まず は不動産鑑定が先行します。
不動産鑑定士が出した鑑定額を基準に、不動産会社が不動産査定を随時行うものと覚えておきましょう。
不動産の実際の売買では鑑定額は参考にされ、査定額が重視される
不動産の価値を明確にする公の基準値として、世に広く支持される不動産鑑定額ですが、個人が不動産売買を行う際は、不動産鑑定額はあくまでも参考値に過ぎません。
実際の売買時に利用されるのは、不動産査定額です。
不動産鑑定額は様々な立場の人間が用いる公の物差しですが、不動産査定額は特定の個人だけしか利用できません。
不動産鑑定額は評価基準に照らし合わせて理論値を出すことに特化した、客観的かつ事務的に算出されたものです。
一方で不動産査定では、売主が今売りたがっている不動産であるのか、それとも時間をかけて売りたい不動産であるのかなど、売主の事情によって随時に価格を変更することがあります。
不動産会社の中には、査定時にむやみに高い査定額を付け、自分たちの会社と専任媒介契約を結ばせようとする所もあります。
そのため、不動産の売買を前に査定額を確認する際は、複数の会社に不動産の査定を申し込みましょう。
そして、きちんとした査定の下で責任をもって売却を手伝ってくれる不動産会社を選ぶようにしましょう。
まとめ
不動産鑑定とは、不動産鑑定士が行う国が定めた基準に行う、公的に利用される数字。
不動産査定は不動産売買の現場によって、市場の動きを見ながら随時更新される数字という違いがあります。
それぞれの数字がどういった意味を持ち、自分に必要なのはどちらなのをしっかりと知っておきましょう。
そして適切な場でそれぞれの数字を見て判断できるようにしておきましょう。