農地は、食料の安定供給という重要な役割を担うため、宅地や駐車場など農地以外の用途に転用することは法律で厳しく制限されています。
しかし、相続や様々な事情で農地を手に入れたものの、自身では耕作せず、転用もできない場合、その土地をどのように扱えばよいのでしょうか?
この記事では、農地転用が難しい土地の処分方法や活用方法について解説します。
なぜ農地転用は難しいのか
農地は、国民の食料供給の基盤であり、その保全と有効利用は「農地法」という法律によって厳格に定められています。この農地法により、農地の安易な転用は制限されており、原則として許可制となっています。
ここでは、農地転用が難しい背景と実情を押えていきましょう。
農地法の目的
農地法は、「耕作者の地位の安定と農業生産力の増進を図り、もって国民に対する食料の安定供給に資すること」を目的としています(第1条)。
この目的を達成するために、農地法では「農地の権利移動・転用の制限」「耕作者による農地の利用」「農業生産組織の育成」を基本原則としています。
これらの原則に基づき、農地の転用に対しては厳しい規制が設けられているのです。
農地転用の許可制度
農地を農地以外の用途(宅地、駐車場、資材置場など)に転用する場合、原則として都道府県知事(指定都市にあっては市長)の許可が必要です(農地法第4条、第5条)。この許可制度が、農地転用を難しくしている最大の要因と言えます。
許可の際には、以下の要件が総合的に審査されます。
- 立地基準……農業振興地域整備計画において、農用地区域は将来にわたって農業のために利用されるべき土地と位置づけられており、原則として農地の転用は許可されません。
- 周辺農地への影響……転用によって周辺の農業経営に悪影響を及ぼす可能性がないか(日照阻害、用水路の妨害、病害虫の発生など)。地域全体の農業生産に支障をきたすような転用は認められません。
- 土地改良施設の機能への支障……転用によって土地改良施設(ため池、用水路、排水路など)の機能に支障を及ぼす可能性がないか。地域の農業インフラへの影響も考慮されます。
また申請者も、転用の必要性・確実性や資力・信用といった要件が問われます。
これらの厳しい審査基準をクリアする必要があるため、安易な農地転用は認められにくいのです。
農地転用違反に対する罰則
無許可で農地を転用したり、許可を得た目的と異なる利用をした場合、農地法に基づき厳しい罰則が科せられます(第64条~69条)。
無許可転用された農地に対しては、元の農地の状態に戻すよう命じられることがあり(原状回復命令)、この命令に従わなかった場合には、さらに重い罰則が科される可能性もあります。
個人であれば3年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人であれば1億円以下の罰金が科され、悪質なケースでは、逮捕や起訴に至る場合もあるのです。
こうした罰則規定は、農地の適正な管理と無秩序な転用を防ぐための重要な法的抑止力となっています。
農地転用が認められるケース
原則として厳しい規制がある農地転用ですが、農地法や関連法令において、一定の条件を満たす場合には許可されることがあります。主なケースは次のとおりです。
- 周辺の状況変化によるやむを得ない場合……周辺の市街化が進み、農地としての利用が困難になっていると認められる場合です。
- 公共性の高い事業に必要な場合……道路、河川、学校、病院、庁舎、社会福祉施設など、国や地方公共団体、その他公共性の高い事業者が行う事業に必要な場合です。
- 農業者のための施設を設置する場合……農業者が、自己の農業経営に必要な農機具格納庫、堆肥舎、育苗施設などを自己の農地に建設する場合です。
- 小規模な自己用住宅を建設する場合……農業者が、自己またはその親族の居住用の住宅を、自己の所有する農地に建設する場合です。
- 農村地域の活性化に資する場合……地域住民の生活に必要な店舗、医療施設、文化施設などを整備する場合で、農村地域の振興に寄与すると認められる場合です。
市街化区域内の農地
市街化区域内の農地は、原則として対象農地のある市区町村の農業委員会に届出をすることで転用が可能となります。
これは、市街化を促進すべき区域においては、農地としての保全よりも土地の有効活用が優先されるという考え方に基づいています。届出には、転用計画の概要や土地の状況などを記載した書類が必要です。
ただし、市街化区域内の農地であっても、「生産緑地地区」に指定されている場合は行為が制限され、原則として転用はできません。
生産緑地地区は、良好な都市環境の形成に役立つ農地として保全されるべき土地とされています。なお、生産緑地地区からの解除は、一定の要件を満たす必要があります。
農地転用できない土地の処分方法
農地転用が難しく、自身で耕作する予定もない場合、その農地をどのように処分すればよいのでしょうか。
ここでは、農地転用が難しい土地を手放したい場合に検討すべき処分方法について解説します。
農地のまま売却する
最も一般的で、農地法上の手続きもスムーズに進めやすいのが、農地のまま他の農業従事者や農業法人に売却する方法です。
買い手が農業従事者であるため、農地法の権利移転許可(農地法第3条)が得やすいというメリットがあります。
また、買い手が農業利用を継続する場合、土地に適用されていた固定資産税の軽減措置や相続税の納税猶予といった優遇措置がそのまま維持される可能性もあります。
そのため、農業経営を拡大したい方や、新たに農業を始めたいという意欲のある担い手を見つけることが重要です。
一方で、宅地などに比べて、農地の売却価格は安くなります。また、農地の買い手は農業従事者などに限られるため、売却までに時間がかかることも少なくありません。
特に、条件の悪い農地や小規模な農地は、買い手が見つかりにくい傾向があります。
買い手を探すには、地元の農業協同組合(JA)に相談するのが有効です。地域の農業従事者とのネットワークを活用して、買い手を探してくれる可能性があります。JAの営農指導員や組合員に、情報提供を依頼してみるとよいでしょう。
また、農地の取り扱いに慣れた不動産業者に仲介を依頼するのも有力な手段です。さらに、インターネット上の農地専門マッチングサービスや、自治体の農業関連部署のウェブサイトなども活用してみましょう。
▼農地マッチングサービスの例:ニナタバ
相続放棄をする
相続によって農地を取得することで、管理の手間や固定資産税の負担が生じるのを避けたいのであれば、相続放棄という選択肢を検討することも可能です。
しかし、相続放棄をすると、農地だけでなく、預貯金や他の不動産など、すべての相続財産を放棄することになります。そのため、他の財産の状況を 十分に確認したうえで、慎重に判断することが大切です。
特に、他に価値のある財産が含まれている場合は、相続放棄が本当に適切かどうか、専門家と相談したうえで判断するのが望ましいでしょう。
相続放棄を選択する際には、相続が発生したことを知った日から3カ月以内に、家庭裁判所で手続きを済ませる必要があります。この期限を過ぎると、原則として相続を承認したとみなされるので、注意が必要です。
▼関連記事:農地を相続したらどうする?
寄付をする
自治体や農業関連団体などへ農地を寄付するという選択肢もあります。ただし、すべての団体が農地の寄付を受け付けているわけではありません。寄付を受け付けるかどうかは、団体の運営方針や農地の状態によって異なります。
寄付が成立すれば、以降の固定資産税を支払う必要がなくなります。しかし、受け入れ側には利用目的や条件があるため、希望する団体に必ずしも寄付できるとは限りません。
そのため、事前に寄付の意図や活用方法について、団体側と協議することが大切です。
寄付を決断する際は、まず寄付を受け付けているかどうか、受け入れに際してどのような条件があるかなどを確認しましょう。さらに、手続きに必要な書類や流れについて、寄付先の指示に従う必要があります。
また、寄付によって所得税の控除などの税制上の優遇措置を受けられる可能性もあるので、あわせて確認しておきましょう。
農地転用できない土地の活用方法
農地転用が難しい場合でも、その土地を有効活用する方法はいくつか存在します。
ここでは、農地のまま活用する方法について解説します。
自身で耕作する
小規模でも家庭菜園として活用したり、本格的に農業に挑戦したりするのも一つの方法です。
農作業は適度な運動になり、心身のリフレッシュにもつながります。さらに、地域の方々との交流が生まれることもあり、農家同士の情報交換や農業イベントへの参加などを通じて、新たなコミュニティを築くことも可能です。
ただし、農機具や種苗などの初期費用が必要になるほか、定期的な手入れや管理も欠かせません。作物を育てるための知識や技術を習得する必要もあります。自治体やJAが開催する農業講習会などを活用するとよいでしょう。
また、農業を主な収入源とする場合は、天候や病害虫の影響を受けやすく、収入が不安定になる可能性がある点にも注意が必要です。安定した収入を確保するためには、複数の作物を栽培したり、加工品販売に取り組むといった工夫も検討してみてください。
他の農業従事者に貸し出す
地域の農業者や新規就農希望者に農地を貸し出すことで、賃料収入を得ながら耕作放棄を防ぐことができます。
適格な農業者への賃貸であれば、農地法の許可(農地法第3条)が得やすい傾向にあります。
特に、意欲のある新規就農者は、地域の活性化にもつながるため歓迎されることが多いのです。
農地を貸し出すことで、安定した賃料収入が期待でき、耕作や管理は借主が行うため、所有者の負担も軽減されます。さらに、耕作放棄地の解消にもつながり、地域の景観維持に貢献できるという利点もありま す。地域の農業委員会では、農地の貸し手と借り手をマッチングする制度を設けている場合があります。
また、地域の農業協同組合(JA)や農業委員会を通じて借り手を探すことも有効です。ただし、契約にあたっては、契約期間や賃料、支払い方法、禁止事項、修繕義務などを具体的に明記した賃貸借契約書を作成する必要があります。
契約書の内容は、後々のトラブルを避けるためにも、専門家の助言を受けながら慎重に検討しましょう。
特定の事業と連携した農業を行う
近年では、企業や福祉施設などが農業分野に進出し、地域との連携を模索する動きが見られます。
たとえば、以下のようなケースです。
- 企業との連携……企業に農産物を安定供給したり、企業の従業員向けの体験農園として提供したりする。契約栽培や従業員向けの福利厚生としての活用などが考えられます。
- 福祉施設との連携(福祉農園)……障がい者や高齢者の就労支援やリハビリテーションの場として農地を提供する。地域社会への貢献にもつながる意義のある活用方法です。
- 農家レストランとの連携……生産した農産物を直接レストランに提供する。付加価値を高め、安定的な販路を確保することができます。
- 体験型観光農園……一般の観光客向けに、収穫体験などを提供する。都市部の住民との交流を深め、新たな収入源を確保できます。
このような連携を通じて、従来の農業に加えて新たな収入源を確保できる可能性があります。
一方で、連携先との契約や事業計画の調整には、一定の時間と労力がかかることも想定しておく必要があります。
また、新 しい事業展開にあたっては、関連する法規制の確認も欠かせません。
農業関連のイベントやセミナーに参加することで、異業種の事業者との交流の場が広がります。積極的に情報収集を行い、アンテナを広く張ることが成功への第一歩となるでしょう。
まとめ
農地転用が難しいのは、農地法により、農地の権利移動・転用が制限されていることにあります。農地転用の許可には、立地基準、周辺農地への影響、土地改良施設の機能への支障など、厳しい要件があるのです。
ただし、市街化区域内の農地は、生産緑地を除き、宅地化が優先されており、農業委員会に届出をするだけで農地転用ができます。
農地転用が難しい土地の処分方法として、次のようなことが挙げられます。
- 農地のまま売却する……他の農業従事者や農業法人に売却します。
- 相続放棄をする……農地だけでなく、他の相続財産も放棄することになります。
- 寄付をする……自治体や農業関連団体などに寄付します。
農地転用が難しい土地の活用方法として、次のようなことが挙げられます。
- 自身で耕作する……家庭菜園や本格的な農業に挑戦します。
- 他の農業従事者に貸し出す……地域の農業者や新規就農希望者に貸し出します。
- 特定の事業と連携した農業を行う……企業や福祉施設などと連携して、新たな収入源を確保します。
農地の処分や活用には、農地法などの専門知識が必要不可欠です。農業委員会やJAなどの専門機関に相談し、適切なアドバイスを受けましょう。