土地区画整理事業は、道路や公園などの公共施設を整備し、土地の区画を整理することで、住みやすい街づくりを推進するものです。
しかし、区画整理事業の対象となった土地である区画整理地の売却には、通常の不動産取引とは異なる複雑さがあります。
この記事では、区画整理地の売却にあたっての最適なタイミングや注意点、さらに整理事業が不動産価格に与える影響について解説します。
区画整理地とは
区画整理は、正式には「土地区画整理事業」と呼ばれます。
これは都市計画法に基づき、道路・公園・河川などの公共施設を整備・改善し、土地の区画を整理して宅地として利用しやすくする事業です。
この事業の対象となった土地のことを「区画整理地」といいます。
区画整理地の売却について知るために、まず区画整理とは何かを押さえておきましょう。
区画整理事業の目的
区画整理事業は具体的に、次のような目的で実施されます。
- 道路の拡幅・整備……狭く入り組んだ道路の拡幅や新たに道路を整備することで、交通の利便性や安全性を向上させます。
- 公園・緑地の整備……生活環境の改善や災害時の避難場所として、公園や緑地を整備します。
- 宅地の整形……不整形な土地を整形し、宅地としての利用価値を高めます。
- 上下水道・ガス管などの整備……生活に必要なライフラインを整備します。
これにより、無秩序に形成された地域が、整然とした町並みにアップデートされることになります。
区画整理事業の流れ
区画整理事業は、次のような流れで進められます。
- 事業計画の決定……自治体などが事業計画を決定します。
- 権利者の合意形成……仮換地の指定などの事業計画について、土地所有者などの権利者から合意を得ます。
- 工事の実施……道路や公園などの公共施設整備、宅地の区画整理などの工事を実施します。
- 換地処分……工事完了後、整理後の土地を権利者に割り当てる換地処分を行います。
区画整理地は、進捗状況に応じて、①~②までの「事業開始前」、③の「事業施行中」、④以降の「事業完了後」の3段階の状態を経ることになります。
区画整理事業の注意点
区画整理事業では、道路や公園などの公共施設用地を確保するために、土地所有者が自身の土地の一部を提供することになります。
その結果、所有する土地の面積が減少する可能性がある点に注意が必要です。
区画整理事業は、区域全体を一気に工事する のではなく、段階的に住まいを仮換地へ移転させながら進行します。そのため、通常数年から十数年にわたる長期の工事になります。
事業施工中は、従前の土地に所有権があり、仮換地に所有権はありません。仮換地においては、「使用収益権」によって家を建てることになります。使用収益権とは、他人が所有する土地を一定の目的のために使用・収益できる権利のことです。
このように、事業施工期間中は、一時的に権利関係が複雑になります。そのため、売却の際には、買主に区画整理事業の内容について理解を深めてもらうことが重要です。
区画整理地の売却について
区画整理地の売却方法は、事業の進捗状況によって異なります。事業開始前、事業施行中、事業完了後の3段階に分けて解説していきましょう。
事業開始前の売却
事業開始前であれは、まだ区画整理の影響が少ないため、通常の土地売買に近い形で取引が可能です。
しかし、将来的に土地の位置や形状、面積が変わる可能性があるため、区画整理事業の施行が決定している場合は、その旨を買主に告知する必要があります。
事業施行中(仮換地指定後)の売却
事業施行前に「仮換地」が指定されます。仮換地とは、施行期間中も従前の宅地の所有者が生活や事業を継続できるよう、代替の土地を提供するものです。
仮換地に所有権はありませんが、効力発生時から最終的な換地処分(区画整理事業の完了時に、それまでの仮換地に正式な所有権を設定するための行政処分のこと)の公告までの期間は、「使用収益権」によって家を建てることが可能です。
なお、仮換地は原則として、事業完了時にそのまま正式に換地されます。
売買契約書の記載内容
売買契約書には、従前地の情報に加えて、仮換地の使用収益権を売買対象とすることが記載されます。
仮換地は、換地処分が行われるまで登記ができないため、買主は仮換地によって所有権を主張することができません。
仮換地証明書
買主が仮換地に住宅ローンを組んで家を建てる場合は、自分がその土地に建築する権利があることを証明するため、「仮換地証明書」を金融機関に提出します。
仮換地証明書は、事業主体である自治体や土地区画整理組合などが発行します。
事業施行中であっても、新しい土地の位置や面積が確定していれば建築は可能です。
買主にとっては建物の計画を立てやすくなりますが、現地は工事中であるため、完成後の土地の状況とは異なる可能性に注意が必要です。
区画整理地の建築制限
また、施行地区内では事業の円滑な進行を妨げる可能性のある建築行為等が制限されています。
そのため、建築物を新築する場合は、建築確認済証とあわせて、土地区画整理法第76条に基づく許可を取得する必要があります。
事業完了後の売却
換地計画に基づき、従前の土地所有者に対して新しい土地(換地)が正式に割り当てられ、その権利が確定します。
あわせて、換地処分による土地の形状や権利関係の変更は、登記簿に反映されます。
これにより、換地処分が完了した土地は、一般的な土地と同じように売買する ことが可能になるのです。
売却のタイミング
区画整理地の売却タイミングは、事業の進捗状況によって大きく左右されます。
それぞれの段階における特徴と注意点を理解し、適切なタイミングを見極めることが重要です。
事業開始前のタイミング
事業施行開始前は、まだ区画整理の影響が少ないため、通常の土地売買に近い形で取引が行えます。
将来的な区画整理による価値向上を見込んで、投資家などが購入する可能性があるため、高値で売却できるケースもあるでしょう。
一方で、将来的には形状や面積ばかりか、土地の位置まで変わる可能性があるため、買主が区画整理事業の内容を理解していないと、売却後のトラブルになる可能性があります。
事業施行中のタイミング
仮換地指定後は、新しい土地の位置や面積が確定するため、区画整理完了後の土地の形状が分かりやすくなり、買主に具体的な土地の位置や形状を説明することができます。
一方で、現地は工事中であるため、建築基準法上は道路扱いであっても、実際には道路の形状が整っていないケースもあります。
このような状況でも建築確認済証は交付されますが、ライフラインの整備が追いついていないこともあり、家が完成してもすぐに生活できない可能性がある点には注意が必要です。
区画整理事業は長期間にわたって行われるため、仮換地の状況によって実際に居住できる時期が異なります。
売却に際しては、買主が家を建てた後、いつから住めることができるかタイミングを見極めることが重要です。
事業完了後のタイミング
事業完了後は換地処分により所有権が確定しているので、売主の都合のいいタイミングで自由に売却することができます。
また、区画整理が完了すると、道路や公園などの公共施設が整備されるため、土地の価値が向上している可能性があります。
整った区画の土地は、買主にとって魅力的に映り、高値での売却が期待できるでしょう。
売却のタイミングと清算金
土地区画整理事業では、従前の土地と換地との間に価値の差が生じた場合、その差額を金銭で調整する「清算金」が発生します。
清算金は、受け取るケースと支払うケースがあり、事業施行中は金額が未確定であるため、売却価格の設定や契約上の特約条項に関して課題が生じることがあります。
一方で、換地処分後の売却であれば、清算金の額が確定しているため、売買価格に反映することが可能です。
一般的には、換地によって土地の価値が向上するため、面積が多少減少しても、権利者が清算金を支払うケースが多く見られます。ただし、まれに換地によって土地の価値が下落した場合には、逆に権利者が清算金を受け取る可能性もあります。
売買契約において清算金の帰属を明記していない場合、原則として清算金は売主に帰属します。ただし、売買契約の特約で、買主に帰属させる、もしくは按分するといった取り決めを行うことも可能です。
換地処分前の段階では、清算金の額が未確定のため、売買契約の中で清算金の取り扱いを明確に定めることが特に重要です。
その場合、清算金を支払う可能性があることを買主にしっかり説明し、合意を得ておく必要があります。
区画整理事業による値段の変動
区画整理事業は、土地の価値を大きく変動させる要因となり得ます。
ここでは、事業の各段階における価格変動の可能性と、その要因について解説します。
事業開始前の価格の変動
区画整理事業の計画が公表されると、将来的な土地の利便性向上への期待から、周辺地価が上昇することがあります。
また、事業による資産価値の上昇を見込んだ投資家が土地を購入し始めることで、価格が変動するケースもあります。
しかし、区画整理事業の計画は変更される可能性もあり、価格の変動には不確実性が伴う点に注意が必要です。
事業施行中の価格変動
仮換地が指定されると、新しい土地の位置や形状が明確になるため、それに伴い地価が変動します。
さらに、道路や公園の整備が進むにつれて利便性への期待が高まり、価格が上昇する傾向があるのです。
また、区画整理事業では換地によって土地の面積が増減することがあり、その際に清算金が発生します。清算金の額によっては、売買価格に影響を及ぼす可能性がある ため、価格設定時には注意が必要です。
事業完了後の価格変動
道路や公園などの公共施設が整備されることで、土地の利便性が向上し、地価が大幅に上昇するケースは少なくありません。
さらに、電線の地中化や歩道の拡幅といった整備により、美しく快適な街並みが形成されることで、土地の魅力が高まり、価格上昇を後押しします。
また、駅までの道路整備によってアクセス時間が短縮されると、駅への利便性が向上し、さらなる地価上昇の要因となります。
このように、区画整理による価格上昇が期待できる一方で、早期に現金化したい場合は、事業開始前や事業施行中の売却を選ぶことも可能です。
しかし、できるだけ高値での売却を目指すのであれば、事業完了後に売却した方が有利になるケースもあります。
まとめ
土地区画整理事業は、地域の住環境や都市機能を飛躍的に向上させる可能性を秘めていますが、その過程は複雑であり、土地所有者にとっては様々な影響を及ぼします。
区画整理地の売却は、事業の進捗状況によって大きく異なり、売却のタイミングを見極めることが重要です。事業開始前は通常の売買に近いものの、将来的な変動リスクを考慮する必要があります。
事業施行中は仮換地の売買となり、権利関係や清算金の扱いに注意が必要です。事業完了後は、土地の価値向上が期待できますが、利用制限などを確認する必要があります。
いずれの段階においても、区画整理地の売却は専門的な知識が不可欠です。不動産会社、司法書士、不動産鑑定士などの専門家と連携し、適切なアドバイスを得ながら慎重に検討を進めましょう。