不動産の名義変更は、手続きを怠っていても日常生活に支障がないことが多く、そのまま放置しているケースも散見されます。しかし、所有者と名義が異なる登記は大きなリスクを抱えています。突然、他人が所有権を主張して、不動産を占有する可能性が否定できないからです。
不動産の所有権を第三者に主張することができるのは、登記以外にはありません。すみやかに登記手続きを進めるために、この記事では、不動産の名義変更の方法と費用について解説していきます。
不動産の名義変更とは?
不動産という大きな資産を守るためには、登記によって所有者であることを主張しなければなりません。まずここでは、不動産の名義変更がどんな状況で必要になるのかを解説をしていきましょう。
そもそも名義変更とは何か
土地や家屋などの不動産の所有者は法務局の登記簿で管理されています。不動産に関する権利は、登記簿に所有者として登記されることで、初めて第三者に主張することができるのです。
名義変更とは、この登記された所有者を変更する手続きのことです。何らかの経緯で所有権を得た際に、すみやかに名義変更をすることで、不要なトラブルを未然に防ぐことができます。
不動産の名義変更はどんなときに必要か?
不動産の名義変更が必要になるのは、「売買」「遺産相続」「生前贈与」「財産分与」の4つのケースです。
1. 売買
不動産の売買によって、所有権を取得した場合、引渡しの当日に名義変更をすることが通例になっています。不動産会社を仲介した売買では、ほとんどの場合、不動産会社が紹介した司法書士が代理で手続きを行います。
2. 遺産相続
所有者が亡くなった場合、不動産の名義を被相続人から相続人に変更します。遺言がないときには、相続人同士の遺産分割協議によって、不動産を引き継ぐ人を決めます。相続登記の名義変更には、法的な期限はありませんが、被相続人が亡くなってから1年以内に手続きを行うことが望ましいでしょう。
3. 生前贈与
生前贈与とは、所有者が存命中に、目的の相手に無償で資産を譲渡することです。相続の場合、遺言がない限り、不動産が誰の所有になるかは判然としませんが、贈与は、確実に目的の相手に譲渡ができるという利点があります。それだけに名義変更は、贈与者が存命中に済ませておくことが重要です。
また、離婚を前提とした贈与であれば、離婚前に名義変更をしておくことがポイントになります。離婚後だと財産分与後の贈与に対して贈与税が課せられるからです。
4. 財産分与
財産分与とは、離婚の際に夫婦で築いた財産を分割することをいいます。本来の自分の財産であることから、贈与税や不動産取得税の対象にはなりません。
財産分与では、名義変更はすみやかに行いましょう。離婚に至った限りは、お互いの信頼関係が崩壊していることを前提に進める必要があります。財産分与は2年で請求の時効が成立します。口約束だけで名義変更を怠っていると、時効後の名義変更が拒絶されることもあり得ます。財産分与による名義変更は、確実に2年以内に済ませておきましょう。
名義変更の手続きは誰が行うの?
登記の名義変更は、準備する資料や作成する文書が多いことから、専門家である司法書士に依頼する方法が一般的です。名義変更に至った経緯や必要書類の多寡で報酬は異なりますが、5万~10万円が、一般的な相場です。
費用を節約したい場合には、自分で手続きをする方法も考えられます。ただし、申請に必要な書類が非常に多く、思いのほか時間と手間を要することになります。したがって、自分で名義変更をするのは、遅滞や不備が生じても他人に迷惑をかけることのない「遺産相続」「生前贈与」「財産分与」のケースに限られます。
「売買」による名義変更は、残金支払い及び引渡しと同時進行で名義変更が行われるのが通例であるため、書類の不足や不備が許される状況ではありません。このため、ほとんどのケースで、買主側の仲介会社が紹介した司法書士に依頼をして手続きを進めます。
不動産の売買で司法書士に依頼する場合、次のような流れになります。
司法書士に依頼する場合の流れ
- 売買契約の成立
- 名義変更の手続きを司法書士に依頼(委任状に記名捺印)……仲介会社や買取会社から紹介されるのが一般的です。
- 司法書士が必要な書類の収集などを行う
- 司法書士の同席により必要書類及び本人意思の確認……多くの場合、買主に住宅ローンを融資した銀行の打ち合わせ室等に関係者が集合します。この場で司法書士が、売主自身の本人確認と法的能力の有無及び売却の意思について確認します。
- 買主による代金の支払い
- 物件の引き渡し
- 司法書士が法務局に登記申請
4~7の流れは、同 日に行われます。これは個人が登記手続きを行う場合も基本的には同じです。しかし、現実的に考えれば、当日物件の引渡しを受ける買主自らが手続きを行うのことは、極めて困難です。売買において、個人が登記手続きをする問題点は、この他にもありますので、詳しくは後述します。
名義変更の手続きはどれくらいの時間がかかる?
名義変更は、必要書類の収集に時間を要します。特に相続による名義変更では、被相続人の出生から死亡時に至るまでの間の一連の戸籍をすべて揃える必要があります。被相続人の除籍謄本が遠方にある場合や、何度も転籍をしている場合には、すべてを揃えるのに1カ月以上要することも少なくありません。
除籍謄本や戸籍謄本は郵送による取得が可能ですが、平日でないと役所に問い合わせができないこともあり、仕事を抱える個人がこうした作業を行うのは大きな負担になります。また、一つひとつ過去の戸籍を遡っていくため、すべてを揃えるまでに手間と日数を要します。
司法書士の場合、平日の作業が行えるのは当然のことですが、さらに「職務上請求書」によって、戸籍等を入手することができるので、こうした書類の収集が2週間程度で完了します。
個人で行ったときにどんなトラブルが起きうるのか?
売買で買主自らが個人で名義変更手続きを行うというのは、ほぼ想定できません。その理由としては次のような問題が挙げられます。
- 名義変更には、登記済権利証が必要だが、残金支払いを受ける前に買主に直接渡すことに抵抗がある
- 売主の住所変更が行われていない場合、売主が事前に住所変 更手続きを済ませておく必要がある
- 売主が残金支払いで住宅ローンを完済する場合、同時に抵当権抹消手続きが必要なため、手続きの不備は許されない状況である
- 売主の残金支払いと引渡しが同時進行で行われる中、さらに登記も同時進行で進めるのは困難である
何より、本来利害が対立する関係でありながら、売主が一方的に買主を信頼して、すべてを委ねるということはあり得ません。しかも、残金支払いと引渡し、名義変更は同時進行ですから、この状況で登記の経験のない買主個人が不備なく手続きを進めることは、ほぼ不可能といっていいでしょう。
買主の支払いが完了する前に、登記済権利証などの重要書類を他人に預けられるのは、相手が司法書士だからという理由に他なりません。つまり利害関係のあるケースでは、法にのっとり公平に業務を遂行できる司法書士に名義変更を依頼する方法が最も適切だということです。
また相続による名義変更でも、手続きがスムーズに進められない場合、内容が不透明だとして身内とトラブルに発展することがあります。
こうした手続きは、当事者が進めると、たとえ適正に対処していたとしても、他者から不審な目で見られることになりかねません。しかも専門的な知識を要するために、書類の不足や書き込み事項の不備で、二度手間、三度手間となり、当初の想定以上に時間を要することがあります。
必要な書類や手続きの費用は?
名義変更に必要な書類と手続きの費用について解説していきましょう。
手続きに必要な書類
名義変更に必要な書類は名義変更の目的によって異なります。また書類によっては、司法書士に依頼した場合であっても、個人で取得する必要がある資料もあります。
不動産売買
対象者 | 必要書類 |
---|---|
売主 | ■当該不動産の登記済権利証(登記識別情報通知) ■印鑑証明書(発行後3カ月以内のもの) |
買主 | ■住民票 |
その他 | ■固定資産税評価証明書(名義変更をする年度のもの) ■売買契約書(売買契約のあったことが分かる書類) |
登記済権利証と印鑑証明書は本人が用意をします。
遺産相続
対象者 | 必要書類 |
---|---|
被相続人 | ■戸籍謄本(出生から死亡までの連続したもの)⇒※注1 ■住民票の除票または戸籍の附票(登記簿上の住所及び本籍地の記載があるもの) |
相続人 | ■戸籍謄本(法定相続人全員のもの) ■住民票(変更後の名義人の もの) |
その他 | ■固定資産評価証明書(名義変更をする年度のもの) ■相続関係説明図(提出した戸籍謄本等を還付してもらうため) |
状況によっては、印鑑証明書が必要な場合があります。その際は、本人が用意をします。
※注1)戸籍謄本は、被相続人の出生から死亡までの間のすべての戸籍謄本が必要になります。このため、過去の戸籍が既に除籍になっていれば、除籍謄本を提出します。また法律改正によって現在使用されていない戸籍がある場合は、改正原戸籍を提出します。
生前贈与
対象者 | 必要書類 |
---|---|
贈与者 | ■当該不動産の登記済権利証(登記識別情報通知) ■印鑑証明書(発行後3カ月以内のもの) |
受贈者 | ■住民票 |
その他 | ■固定資産評価証明書(名義変更する年度のもの) ■贈与契約書、贈与証書など贈与のあったことが分かる書類 |
登記済権利証と印鑑証明書は本人が用意をします。
財産分与
対象者 | 必要書類 |
---|---|
元の名義人 | ■当該不動産の登記済権利証(登記識別情報通知) ■印鑑証明書(発行後3カ月以内のもの) |
新しい名義人 | ■住民票 |
その他 | ■固定資産評価証明書(名義変更する年度のもの) ■離婚協議書、財産分与契約書など財産分与のあったことが分かる書類 ■戸籍謄本(離婚の事実が分かる書類) |
登記済権利証と印鑑証明書は本人が用意をします。
費用はどれくらいかかるのか
名義変更にかかる費用についてみていきましょう。
1.必要書類の取得費用
書類 | 費用 |
---|---|
登記事項証明書 | 600円 |
戸籍謄本 | 450円 |
除籍謄本 | 750円 |
改正原戸籍 | 750円 |
戸籍の附票 | 300円 |
住民票 | 300円 |
不在証明書 | 300円 |
不在籍証明書 | 300円 |
固定資産税評価証明書 | 400円 |
2. 登録免許税
登録免許税は、法務局で不動産名義変更手続き申請をする際に必要になる税金です。名義変更の目的によって税率が異なります。
● 不動産売買
土地の場合:不動産評価額の2%
建物の場合:不動産評価額の0.4%
● 遺産相続
不動産評価額の0.4%
● 生前贈与
不動産評価額の2%
● 財産分与
不動産評価額の2%
3. 司法書士への報酬
司法書士への報酬は、依頼する業務の内容によって異なりますが、5万~10万円が一般的な相場価格です。不動産の売買における名義変更では、慣習から買主側が負担するのが一般的です。
4. 各種税金
不動産の名義変更では、登録免許税以外にも、名義変更の理由別に次のような税金が課せられます。
- 不動産売買……譲渡所得税
- 相続……相続税
- 生前贈与……贈与税・不動産取得税
手続きを行わないとどうなる?名義変更をしないデメリットとは
不動産の登記は、名義変更をしないからといって、日常の生活にただちに支障が出るわけではありません。しかし、いったん大きなトラブルに遭遇すると、名義変更を怠ったデメリットが露呈することになります。なぜ、すみやかな名義変更が必要なのかについて解説をしていきましょう。
所有権を第三者に対して主張することができない
不動産は売買契約を済ませたからといって安心はできません。売主の前の所有者が、詐欺や錯誤を理由に過去の売買契約を無効にしてくる可能性があるからです。正当な所有者であることを主張する者が複数いた場合、登記を先にした者が真の所有者として認められるのが、一般的な法解釈です。
漫然と名義変更を怠っていると、知らぬ間に他人が登記をしていて、所有権を失うという事態にもなりかねません。
また登記済権利証(登記識別情報通知)こそが、所有者の証だと、金庫に大事にしまい込んでいる人がいますが、あくまで名義変更をするのに必要な書類のひとつにすぎません。登記済権利証を所持しているからといって、法的に所有権を主張できるものではありません。登記こそが、所有権を主張できる唯一の証なのです。
引き受けた不動産を売却したり賃貸物件として賃借することができない。
名義変更をしていないと、第三者から真の所有者として認めてもらえないため、不動産を売却したり、賃貸物件として活用することができません。
不動産に抵当権を設定することができない。
不動産の名義変更を怠っていると、抵当権の設定ができないので、住宅ローンを組む際のトラブルの原因にな ります。状況によっては融資そのものが取り消される可能性もあります。
また住宅ローンに関わる名義変更として、入籍前の旧姓で登記をしていた場合に、戸籍上の姓に名義変更をするように、銀行から促されることもあります。
相続人が被相続人になることがある
相続に関わる名義変更では、いつまでも手続きを怠っていると、やがて相続をした本人が亡くなることもあります。この場合、一世代遡って相続問題を解決する必要が生じることになるため、結果的に相続人達に多大な迷惑を掛けることになります。
まとめ
不動産の登記は、名義変更をしないからといって、日常の生活にただちに支障が出るわけではありません。しかし、登記の名義が異なる不動産ほど不安定なものはありません。ある日突然、見知らぬ第三者が所有権を主張してくる事態もあり得るからです。
このため、所有権が移転した際には、できる限りすみやかに名義変更を行う必要があります。売買による名義変更は、仲介をしてくれた不動産会社の紹介による司法書士に依頼するのが一般的です。書類の収集ばかりでなく、売主の意思確認といった専門的な対応が求められることがありますから、一般の人が容易に行える領域ではありません。
また売買以外の所有権移転においても、戸籍謄本等の書類の収集に相当の手間を要することになりますから、現実的に考えれば、やはり個人で手続きを行うことは非常に困難だと言わざるを得ません。つまり不動産の名義変更は、専門家である司法書士に依頼するのが最も適切な方法なのです。