任意売却と競売、それぞれの特徴を理解することは、住宅ローンの返済が困難になった場合に適切な判断をするための第一歩です。
本記事では、任意売却と競売の違いをわかりやすく一覧で紹介し、それぞれのメリット・デメリットについて詳しく解説します。
競売は裁判所主導で進められる手続きである一方、任意売却は債務者自身の意思を反映させながら進めることができる柔軟な方法です。
また、売却価格やプライバシー保護の観点からも違いが明確です。
どちらの方法を選ぶべきか迷っている方は、この記事を参考に、メリットとデメリットを比較し、自分にとって最善の選択を見つけてください。
【一覧】任意売却と競売の違い
まずは任意売却と競売の違いを一覧でご紹介します。違いがわからない方は参考にしてみましょう。
任意売却 | 競売 | |
売却価格 | 市場価格に近い金額 | 市場価格の約70%程度 |
手続きの主体 | 債務者の意思で進められる | 裁判所が主導する |
プライバシー | 周囲に知られにくい | 周囲に知られる可能性が高い |
引越し費用 | 金融機関との交渉次第 | 受け取れない |
退去時期 | 金融機関と相談して決定できる | 柔軟な対応が難しい |
残債務の返済 | 金融機関と相談の上、分割返済が可能 | 一括返済を求められることが多い |
住み続ける可能性 | 交渉次第で住み続けられる | 強制的に立ち退きされる |
任意売却は、債務者(家の所有者)の意思や状況を考慮しながら進められるため、競売に比べて柔軟性が高く、経済的・精神的な負担も軽減されるのが特徴です。
一方、競売は裁判所の手続きに従って強制的に進行し、売却価格が低くなるなどのデメリットがあります。
任意売却の方がデメリットは少ないため、競売にかけられる前に任意売却を選択する方が多い傾向にあります。
任意売却のメリット
任意売却のメリットは以下の5つです。
- 競売より高く売れる可能性が高い
- プライバシーが守られる
- 売却計画が立てやすい
- 競売より信用情報へのダメージが少ない
- 引っ越し費用を捻出できる
それぞれを詳しく解説します。
競売より高く売れる可能性が高い
任意売却とは、家の売却額が住宅ローン残債に満たない場合、金融機関の許可を得て家を売却し、残った債務を後から分割払いするなどして返済すること。
競売では、裁判所が強制的に物件を売却するため、市場価格の6〜8割程度の価格で取引されることが多いです。
一方、任意売却は通常の不動産売買と同様に市場で売却活動をおこなうため、市場価格に近い金額で売却できる可能性があります。
少しでも高く売却したい方は任意売却の方がよいでしょう。
プライバシーが守られる
任意売却では、通常の不動産売買と同様の手続きで進められるため、近隣の人に経済的な問題を知られる可能性が小さいです。
一方、競売になると物件情報が公に公開され、周囲に知られてしまう可能性があります。
売却計画が立てやすい
任意売却は、引き渡し時期や価格の交渉など、自分の意向を反映させやすいのが特徴です。
これにより、新しい生活への準備や引っ越しの計画をスムーズに進められます。
また、競売と比べて高い価格で売却できる可能性が高く、売却後の返済計画も立てやすくなるのも任意売却のメリットです。
競売より信用情報へのダメージが少ない
競売になると強制的に家が売られ、その情報が公にされるため、信用情報に大きなダメージを受けます。
一方、任意売却では、債権者と話し合いながら自分の意思で売却を進められるため、信用情報への傷を最小限に抑えられます。
その結果、将来のローンやクレジットカードの利 用に与える悪影響を最小限に減らせます。
将来を見据えた場合、競売よりも任意売却の方がダメージは少ないといえるでしょう。
引っ越し費用を捻出できる
住宅ローンの返済が難しくなった場合、任意売却を選択すると、債権者(金融機関)との交渉により、売却代金の一部を引っ越し費用として受け取れる可能性があります。
一般的には、10万〜30万円程度が認められることが多いです。
ただし、必ずしも全てのケースで引っ越し費用が認められるわけではなく、債権者との交渉や売却価格によって異なります。
任意売却を検討する際は、専門家と相談し、引っ越し費用の確保についても確認しましょう。
任意売却のデメリット
任意売却のデメリットは以下の3つです。
- 債権者と交渉しなければならない
- 信用情報に影響する
債権者と交渉しなければならない
任意売却は自分の意思だけで売却できません。
住宅ローンの返済が難しくなった場合、債権者(金融機関など)の同意を得たうえで売却できるようになります。
つまり、交渉次第では任意売却に応じてくれず、競売になってしまうケースもあります。
そのため、債権者の考えや立場によって交渉の難易度は変わり、必ずしも希望通りに進むとは限りません。
任意売却を検討している方は、任意売却できるとは限らないことを理解しておきましょう。
信用情報に影響する
任意売却を進めるためには、住宅ローンの返済を3か月以上滞納する必要があります。
この滞納情報は信用情報機関に記録され、いわゆる「ブラックリスト」に載 った状態となります。
その結果、新たなローンの申請やクレジットカードの発行が難しくなる可能性が高いです。
さらに、信用情報に傷がつくと、任意売却後に賃貸物件を借りる際の保証会社の審査に影響を及ぼす場合もあるでしょう。
任意売却を検討する際は、これらの信用情報への影響を十分に考慮したうえで売却するかどうか判断することを推奨します。
ただし、任意売却の場合は滞納のみが記録される一方で、競売は滞納に加えて「強制執行」や「競売手続き開始」のような法的な記録が信用情報に残り、競売物件の情報も公開されるため、プライバシー面のリスクも考えられるでしょう。
競売のメリット
競売のメリットは以下の3つです。
- 資金を早急に調達できる
- 手続きが少ない
- 市場調査の必要がない
資金を早急に調達できる
通常の不動産売却では、買い手探しや価格交渉に時間がかかります。
任意売却も基本的には通常の不動産売却と同じ手順で進めるため、早くても3カ月程度の期間を要してしまいます。
一方、競売では裁判所が物件を査定し、入札期間内に最高額を提示した買い手に売却されるため、売主は迅速に資金を手に入れられるのです。
ただし、競売は強制的な手続きであり、売却価格が市場価格より低くなるケースが多いです。
手続きが少ない
通常の不動産売却では、不動産会社との契約や買い手との交渉、内覧対応など多くの手間がかかります。
その点、競売ではこれらの作業を裁判所が代行するため、売主自身が積極的に動く必要がありません。
そのため、売却に関する負担が軽減されます。
市場調査の必要がない
通常の不動産売却は、適切な価格設定や買い手探しのために市場調査が欠かせません。
しかし、競売では裁判所が手続きを主導し、物件の評価や売却を進めてくれます。
そのため、売主自身が市場の動向を調べたり価格交渉をおこなったりする手間が省けます。
特に不動産売却を経験したことの無い方にとって、複雑な市場分析や販売活動を避けられるのは大きなメリットでしょう。
競売のデメリット
競売のデメリットは以下の5つです。
- 任意売却より安い金額になる
- 買主を選べない
- 強制的に立ち退かなければならない
- 個人情報が知られる
- 社会的信用を失う
任意売却より安い金額になる
競売で自宅を売却すると、任意売却よりも大幅に安く売れてしまう可能性が高いです。
一般的に、競売価格は市場価格の6〜8割程度になります。
一方、任意売却であれば、市場価格に近い金額で売却できる可能性が高くなります。
買主を選べない
通常の不動産売買では、売主は購入希望者の中から信頼できる相手を選び、スムーズに取引を進められます。
しかし、競売では入札で最高額を提示した人が自動的に買主となるため、売主の意向や希望を反映できません。
その結果、買主の資金力や購入意図が不明なまま取引が進行し、手続きの遅延やトラブルが発生するリスクが高まります。
買主を自分で選びたいのであれば任意売却の方がよいでしょう。
強制的に立ち退かなければならない
競売にかけられると強制的に立ち退かなければなりません。
そのため、突然の退去に備えて新たな住まいを早急に見つける必要があります。
さらに、競売後の立ち退きには厳格なスケジュールが設定されており、短期間での引越しを強いられるケースもあります。
次の住まいが確保できていなければ、最悪ホームレス状態になる場合もあるので十分に気を付けましょう。
個人情報が知られる
個人情報が知られるリスクがあるのも大きなデメリットです。
競売手続きでは、裁判所が物件情報を公開し、入札者が詳細を確認できるようにします。
この過程で住所・外観・室内写真が公開されるため、知人や近隣住民に経済的な問題が知られるケースも少なくありません。
その結果、プライバシーの侵害や社会的な信用の低下につながることも考えられます。
競売情報はインターネット上で閲覧可能なため、情報拡散のリスクが高い点に注意しましょう。
社会的信用を失う
競売は、債務の返済が滞った結果としておこなわれるため、周囲から「経済的に困難な状況にある」と見なされる可能性が高いです。
競売により、売主の社会的評価が低下し、今後の生活や仕事に支障をきたす恐れがあることを理解しておきましょう。
任意売却か競売を選ぶ際の判断基準
任意売却と競売のメリットとデメリットを解説しましたが、「自分はどちらを選ぶべきなんだろう」と悩んでいる方もいるでしょう。
そんな方に向けて、任意売却と競売を選ぶ判断基準を解説します。
それぞれに向いているケースを参考に、売却方法を選んでみましょう。
任意売却を選ぶべきケース
以下のケースに該当する場合は任意売却を選ぶべきです。
- できるだけ高く売りたい場合
- 債権者との交渉の余地がある場合
- 自己破産を避けつつ、新たな生活基盤を整えたい場合
それぞれを詳しく解説します。
できるだけ高く売りたい場合
任意売却は相場に近い価格で売却できるため、競売よりも高く売れる傾向があります。
また、競売と異なり、通常の不動産売却に近い形で売却を進めるため、売主の意向や希望に沿った売却も可能です。
債権者との交渉の余地がある場合
任意売却では、債権者と話し合いながら自宅を市場価格に近い値段で売ることができます。
これにより、売却後に残る借金を減らせるだけでなく、引っ越しの時期や費用についても柔軟に対応できます。
したがって、債権者と交渉できる状況であれば、任意売却を検討しましょう。
自己破産を避けつつ、新たな生活基盤を整えたい場合
任意売却は、競売に比べて高い価格で家を売れる可能性が高く、売却後の残ったローンについても、無理のない返済計画を立てやすいです。
また、引っ越しの時期を調整でき、費用を確保できる場合もあります。
さらに、プライバシーが守られて精神 的な負担も軽いため、売却後もスムーズに再スタートを送れるでしょう。
競売を選ぶべきケース
以下のケースに該当する場合は競売を選ぶべきです。
- すぐに現金が欲しい場合
- 売却の手間や時間を省きたい場合
- 任意売却の余地がない場合
すぐに現金が欲しい場合
競売は裁判所が強制的に売却を進めるため、売主の手間が少なく、短期間で現金化が可能です。
ただし、競売では売却価格が市場価格より低くなる傾向があり、売主の利益が減少する可能性があります。
そのため、早急に現金化したい場合は競売が適していますが、売却価格やプライバシーの観点から慎重な判断が必要です。
売却の手間や時間を省きたい場合
競売は、裁判所が主導して手続きを進めるため、売主自身がおこなう作業はほとんどありません。
一方、任意売却では、買い手探しや価格交渉など、多くの手続きを自分で進める必要があります。
また、競売は手続きが自動的に進行し、売却までの期間も比較的短いとされています。
任意売却は、買い手を見つけるまでに時間がかかることが多く、売却完了までの期間が長引く可能性があります。
このような違いがあることから、売却の手間や時間を省きたいのであれば競売を選ぶのがおすすめです。
任意売却の余地がない場合
債権者が同意しない場合や、売却までの時間が非常に短い場合は任意売却できないため、競売で売却せざるを得なくなります。
そのため、任意売却できない状況の場合は、競売に備えて次の住まいを探しましょう。
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任意売却と競売の違いに関するよくある質問
任意売却と競売の違いに関するよくある質問をご紹介します。
任意売却できないケースはありますか?
以下のような状況では任意売却が難しい場合があります。
- 金融機関が任意売却を認めない場合
- 連帯保証人や共同名義人の同意が得 られない場合
- ローン借入からの期間が短い場合
- 住宅ローンの残高が多い場合
上記のケースでは任意売却が認められない可能性が高いです。
それでも状況次第では任意売却できるかもしれないため、早めに専門家や金融機関に相談し、適切な対応を検討しましょう。
また、そもそも「住宅ローンの返済が苦しいが、滞納には至っていない」という場合は、任意売却はできません。
返済が難しい場合、まずは返済プランの見直し等を金融機関と相談するようにしてください。
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任意売却で買い手がつかない場合はどうすればいいですか?
買い手がつかない場合は、以下の対処法を試しましょう。
- 売り出し価格を見直す
- 物件の状態を整える
- 内覧を積極的におこなう
- 不動産会社を変更する
任意売却は通常の売却と似ているため、売り出し価格や物件の状態によって買主の需要も変わります。
そのため、相場に見合った価格にしたり、ハウスクリーニングを利用したりなどの対応で状況を改善することが大切です。
また、購入希望者の内覧を積極的におこなったり依頼先の不動産会社を変更したりするのも効果的です。
任意売却で相談したいときは誰に相談すればいいですか?
任意売却を検討する際、まずは任意売却の専門知識と実績を持つ不動産会社に相談しましょう。
任意売却に強い不動産会社であれば、金融機関との交渉についてアドバイスを受けることもできる。
専門知識と経験を活かして物件の査定や売却活動をサポートし、金融機関との交渉も代行してくれます。
次に、住宅ローンを借りている金融機関に相談し、任意売却の許可を得る必要があります。
さらに、法的な手続きや債務整理が必要な場合は、弁護士や司法書士に相談しましょう。
ほかにも、「一般社団法人 全日本任意売却支援協会」などの任意売却専門の企業もあるため、相談することで問題を解決できるかもしれません
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まとめ
任意売却と競売の違いについて解説しました。
任意売却と競売は、売却価格や売却スピード、プライバシーのリスクなどさまざまな点が異なります。
特にプライバシーの面でいうと、任意売却は通常の不動産売却の手順で売却するため、プライバシーが保護されています。
一方で競売は、裁判所が物件情報を公開するため、所有者の名前や住所などが周囲に知られる可能性が高いです。
任意売却と競売にはそれぞれのメリットがありますが、デメリットもよく理解しておかないと思わぬトラブルに発展する可能性もあります。
住宅ローンを払えずに今の家の売却を検討している方は、ぜひこの記事を参考に任意売却か競売を選択して適切に売却しましょう。