不動産を売買・賃貸すると、仲介手数料が発生します。
仲介手数料は基本的に上限額で請求されるため、上限の計算方法を押さえておくことが大切です。
また、上限額は2024年7月1日に改正されているので、あわせて理解しておくようにしましょう。
この記事では、不動産の仲介手数料の上限や、計算方法、法改正などについてを分かりやすく解説します。
不動産の仲介手数料には上限がある
不動産の仲介手数料とは、仲介で不動産を売買・仲介した際に不動産会社に支払う成功報酬です。
売主・買主、貸主・借主いずれも、媒介契約を結んでいる不動産会社に支払う必要があります。
仲介手数料は、成功報酬のため売買契約や賃貸契約が成立した際にのみ支払い、成約前に支払う必要はありません。
また、不動産会社はいくらでも請求できるわけではなく、法律によってルールが設けられています。
ここでは、売買の仲介手数料の上限について押さえていきましょう。
不動産の仲介手数料の上限
不動産取引について定めた宅地建物取引業法では、仲介手数料について以下のように定めています。
(報酬)第四十六条
宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は
国土交通大臣の定めるところによる。
2宅地建物取引業者は、前項の額をこえて報酬を受けてはならない。
つまり、媒介の手数料(仲介手数料)には上限額のルールが設けられているということです。
売買での上限額は、以下の方法で求められます。
売買金額 | 計算式 |
200万円以下の部分 | 売買金額×5%+消費税 |
200万円超400万円以下の部分 | 売買金額×4%+消費税 |
400万円超の部分 | 売買金額×3%+消費税 |
仲介手数料を算出する際には、売買金額を上記の価格区分に分けて計算し合算します。
例えば、売買金額2,000万円の場合の仲介手数料は以下の通りです。
売買金額 | 手数料 |
200万円以下の部分 | 200万円×5%=10万円 |
200万円超400万円以下の部分 | 200万円×4%=8万円 |
400万円超の部分 | 1,600万円×3%=48万円 |
合計 | 10万円+8万円+48万円=66万円(税抜) |
仲介手数料は消費税の対象となるため、算出した額に消費税がプラスされます。
上記の例では、66万円(税込72.6万円/10%)が仲介手数料の上限額です。
不動産の仲介手数料の速算式
上記の計算方法は売買金額を区分ごとに計算するため、少し複雑になります。
そのため、仲介手数料の計算方法には、簡単に算出できる「速算式」を用いることも可能です。
速算式での計算方法は以下のようになります。
売買金額 | 計算式 |
200万円以下 | 売買金額×5%+消費税 |
200万円超400万円以下 | 売買金額×4%+2万円+消費税 |
400万円超 | 売買金額×3%+6万円+消費税 |
速算式では、売買金額を区分に分けて合算する必要はなく、売買金額に応じた計算方法を利用するだけで算出できます。
例えば、売買金額が2,000万円の場合は、以下の通りです。
仲介手数料上限:2,000万円×3%+6万円=66万円+消費税
このように、売買金額2,000万円で先ほど計算した額と一致するのが分かります。
ただし、仲介手数料は2024年7月1日の法改正により、売買金額800万円以下の取引に対し一律で30万円(税抜)と、上限を超えた額を請求することが可能です。
この法改正に伴う上限の変更については、以下で詳しく解説します。
法改正による仲介手数料上限変更
仲介手数料の上限は、過去2018年と2024年の2回、法改正による変更がされています。
ここでは、それぞれの改正内容をみていきましょう。
2018年1月1日より400万円以下の物件の仲介手数料が18万円+消費税に変更
従来、400万円以下の取引の場合、仲介手数料の上限は以下の通りです。
売買金額 | 計算式 |
200万円以下の部分 | 売買金額×5%+消費税 |
200万円超400万円以下の部分 | 売買金額×4%+消費税 |
例えば、売買金額300万円なら、200万円×5%+100万円×4%=14万円(税抜)が上限となります。
しかし、この改正により400万円以下の取引の場合、上限を超えた18万円(税抜)を請求することが可能になりました。
仲介手数料の上限額が変更された背景
これは、日本の空き家問題解消が大きな目的です。
近年の日本は空き家の増加により、倒壊のリスクや治安の悪化、公共事業の妨げなど多くの問題が発生しています。
空き家問題を解消するには、空き家利用の促進や流通が必要です。
とはいえ、空き家になるような家の多くは地方だったり築年数が古かったりと、審査価値が低い家が多い傾向にあります。
不動産会社の金銭的な負担を減らすことで取引の促進化が期待されている
資産価値が低い家を売却しても、不動産会社が得られる仲介手数料は大きくありません。
ましてや、価値が低く買い手がつきにくいことから広告が必要になったり、遠方への調査や交渉が必要だったりと費用がかさみがちです。
不動産会社としても赤字になりやすいことから、積極的に取り扱われない傾向があります。
そのため、仲介手数料の上限を上げることで不動産会社に積極的に取り扱ってもらい、市場への流通を図ろうとしたのです。
2024年7月1日より800万円以下の物件の仲介手数料が30万円+消費税に変更
2018年に上限が見直された仲介手数料ですが、さらなる不動産流通促進のため2024年7月1日より上限がさらに緩和されています。
2018年と2024年での上限額の違いは以下の通りです。
2018年1月1日より | 取引額400万円以下で上限18万円(税抜) 売主のみに請求可能 |
2024年7月1日より | 取引額800万円以下で上限30万円(税抜) 売主・買主に請求可能 |
2024年7月1日から、取引額が800万円以下に拡充され上限も30万円(税抜)に引き上げられています。
また、2018年の改正では18万円+税の割り増し仲介手数料を請求できるのは売主に対してのみでしたが、2024年の改正では売主だけでなく買主への請求も可能になりました。
このように、仲介手数料の上限を緩和することで、より積極的な不動産取引を目指しています。
なお、いずれの改正でも上限を超えた額を請求できるのは、売主・買主の合意を得た場合のみです。
とはいえ、基本的にほとんどの不動産会社からは30万円(税抜)を請求されることになるでしょう。
仲介手数料上限変更のメリット・デメリット
仲介手数料の上限を変更することで、消費者・不動産会社によって以下のようなメリット・デメリットが発生します。
消費者 | 不動産会社 | |
メリット | ・積極的に取引してもらえる | ・報酬額が上がる |
デメリット | ・コストが増える | ・とくになし |
それまで仲介手数料が低い不動産は、不動産会社にとって利益が出ないため、積極的に取り扱ってもらえませんでした。
今回の改正である程度の仲介手数料を得られるようになったため、消費者は価値の低い家でも取り扱ってもらえ、不動産会社は売買すれば利益が出るというメリットが生まれます。
これまでも売買主の合意の元「コンサルティング費」「管理委託費」などの名目で一部の不動産会社が料金を徴収しているケースがあった。宅建業法で仲介手数料の上限額が引き上げられたことにより、料金形態の透明性を保ちつつ、これまで扱われにくかった価格帯の物件取引が促進されることが期待されている。
不動産会社にとっては、利益が上がるだけなので、デメリットはさほど生じないでしょう。
一方、消費者にとって、とくに売主は売買金額が少なくてもある程度の仲介手数料がかかってしまうというデメリットがあるので注意が必要です。
ただし、売主も活用しない家を保有していても税金や管理費などのコストがかかるだけです。
不動産会社に積極的に売却してもらえるなら、仲介手数料を支払ってもトータルのメリットは大きくなるでしょう。
【早見表】不動産の仲介手数料一覧
仲介手数料は速算式でも求められますが、ここではより簡単に確認できるように早見表を用意したので、参考にしてください。
なお、早見表は上限額で計算しています。
売買価格 | 仲介手数料(税込/消費税10%) |
500万円 | 23.1万円または33万円 |
800万円 | 33万円 |
1,000万円 | 39.6万円 |
1,500万円 | 49.5万円 |
2,000万円 | 72.6万円 |
3,000万円 | 105.6万円 |
4,000万円 | 138.6万円 |
5,000万円 | 171.6万円 |
7,000万円 | 237.6万円 |
1億円 | 336.6万円 |
上記の早見表は上限額であるため、不動産会社によってはこれ以下で請求するケースもあります。
あくまで参考として目安にしてください。
不動産会社が仲介手数料を上限以上受け取ることはできる?
不動産会社は上限を超えて仲介手数料を請求することはできるのでしょうか。
ここでは、上限超について解説します。
通常は法律で定められた上限を超えてはならない
前述のとおり、仲介手数料の上限は法律で定められており、上限を超えた請求はできません。
また、仲介手数料は成功報酬であると同時にそれまでの業務の必要経費も含まれます。
不動産を売買する際には、広告活動や契約書作成、人件費など多くの費用がかかるものです。
これらの必要経費はすべて仲介手数料に含まれます。
そのため、不動産を売買する際には仲介手数料以外に費用が請求されることは、原則としてありません。
ただし、売主が特別な広告を依頼したり、遠方に出張してもらったなど、通常の範囲を超えた業務を依頼すると、別途費用を請求することが可能です。
とはいえ、上記のようなケースはごく稀といえます。
別途請求できる特別なケースについては後ほど解説するので参考にしてください。
「売買契約前に仲介手数料を請求された」「依頼していないのに仲介手数料以 外の名目で費用を請求された」といったケースは違法な恐れがあるので、安易に支払うのではなく慎重に対応するようにしましょう。
法律を超えて請求された場合の罰則と対処法
上限を超えた仲介手数料を請求した場合、宅地建物取引業法違反として同法82条2号・80条により100万円以下の罰金や1年以下の懲役が科せられる恐れがあります
第八十条第四十七条の規定に違反して同条第二号に掲げる行為をした者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第八十二条次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。
上限を超えて請求された場合は、上限以上については応じる必要はありません。
各都道府県には宅地建物取引業免許についての窓口も設けられているので、不当な請求を受けた場合は相談するとよいでしょう。
特別なサービスを依頼する場合は広告費など受け取り可能
仲介手数料は上限を超えられず、仲介手数料以外の名目で費用を請求することもできません。
しかし、特別なケースに限り仲介手数料の上限を超えた額が請求されるケースがあります。
仲介手数料には、通常の業務の必要経費が含まれます。
一方、通常の業務とみなされない業務については、その費用が別途請求される可能性があるのです。
通常の業務とみなされない費用としては以下のようなものが挙げられます。
- 追加や特別な広告作成を売主が依頼する場合の広告費
- 遠方の物件を売却する際にかかる管理費や交通費
- 遠方の購入希望者との交渉に行ってもらう際の出張費 など
例えば、売主の依頼で新聞の1面に広告を打ってもらうといったケースです。
上記のような別途費用が発生する場合は、売主と不動産会社の話し合いで費用が決まってきます。
別途費用が発生するかどうかは売買契約書に記載されているので、事前にしっかり確認するようにしましょう。
売主と買主から仲介手数料を受け取る「両手仲介」なら6%+12万円+消費税が上限になる
仲介手数料は、売主・買主それぞれから受け取れます。
そのため、不動産会社が売主・買主両方と媒介契約を結んでいる場合は、不動産会社は両方から仲介手数料を受け取れるのです。
この状態を両手仲介といいます。
一方、売主・買主いずれかとして契約していない場合は、片方のみからしか仲介手数料を得られず、これを片手仲介といいます。
両手仲介で受け取れる仲介手数料も、売主・買主それぞれの上限は「売買金額×3%+6万円(税抜)」なので、不動産会社にとっては「売買金額×6%+12万円(税抜)」が受け取れることになります。
ただし、売主から4%、買主から2%とどちらか一方から3%以上得て片方を下げるといったことはできません。
売主・買主の立場からすれば、両手仲介・片手仲介関わらず「売買金額×3%+6万円(税抜)」が上限ということは覚えておきましょう。
賃貸の仲介手数料の上限はいくら?
仲介手数料は、売買だけでなく賃貸でも発 生します。
ただし、上限については売買とは異なってくるのです。
賃貸の仲介手数料の上限について確認していきましょう。
家賃の0.5ヶ月~1ヶ月が相場
賃貸の仲介手数料の上限額は、法律によって以下のルールが設けられています。
- 貸主および借主から受領できる合計額は「1ヵ月分の賃料+消費税」
- 貸主および借主どちらか一方から受領できる額は「1ヶ月分の賃料×0.5+消費税」
ただし、承諾を得ている場合を除く
つまり、賃貸の仲介手数料は大まかに以下のパターンに分かれます。
- 借主・貸主から0.5ヶ月分ずつの合計1ヵ月分
- 借主から1ヵ月分もらい貸主は0円
- 貸主から1ヶ月分もらい借主は0円
借主が1ヶ月分負担するケースが一般的ですが、物件によって負担割合は異なります。
ただし、0.5ヵ月が原則でありそれ以上請求するケースでは承諾が必要となるので、1ヶ月分が当然ではないことは覚えておきましょう。
もちろん、上記は上限額であり上限以下で請求されるケースもあります。
とはいえ、ほとんどの不動産会社では上限ベースで設定しているので、相場は賃料の0.5ヵ月分~1ヶ月分と考えてよいでしょう。
賃貸の仲介手数料の早見表
主な賃料価格帯での0.5ヵ月分と1ヶ月分の仲介手数料は、以下の通りです。
0.5ヶ月分(税込/10%) | 1ヶ月分(税込/10%) | |
5万円 | 2.75万円 | 5.5万円 |
8万円 | 4.4万 円 | 8.8万円 |
10万円 | 5.5万円 | 11万円 |
12万円 | 6.6万円 | 13.2万円 |
15万円 | 8.25万円 | 16.5万円 |
20万円 | 11万円 | 22万円 |
仲介手数料が0.5ヶ月分と1ヶ月分では、賃料が大きくなるほど負担額も大きくなってきます。
初期費用を抑えたい場合は、仲介手数料の設定額も事前にしっかり調べておくようにしましょう。
家賃の1ヶ月分を請求すると違法になるって本当?
0.5ヶ月分を超える仲介手数料を請求する場合、合意を得る必要があります。
合意のないケースでは違法になる恐れがあるのです。
過去の判例では、1ヶ月分の仲介手数料に対して契約書にその旨は明記されていたものの、契約成立時点での了承がなかったとして違法としているケースがあります。
このケースでは、契約成立時点がいつになるかが争点でした。
1ヶ月分を請求するすべてのケースが違法になるわけではなく、了承の判断は難しいですが、違法になるケースもあるということは覚えておくとよいでしょう。
不動産の仲介手数料に関するよくある質問
最後に不動産の仲介手数料に関するよくある質問をみていきましょう。
仲介手数料の相場はいくら?
売買では上限額、賃貸では家賃の0.5~1ヶ月分が相場です。
法律によって定められているのは上限であり、下限についての規定はありません。
つまり、不動産会社は上限の範囲内であればいくらにでも設定でき、極端な話0円にすることも可能です。
とはいえ、仲介手数料は不動産会社にとっての重要な利益であり、それまでの経費でもあります。
そのため、基本的にはほとんどの不動産会社が上限をベースとして設定しています。
仲介手数料を安くする方法はある?
上限の範囲内であれば自由に設定できるため、交渉によって値下げしてもらうことも可能です。
ただし、基本的には値下げ交渉はおすすめできません。
不動産会社の利益である仲介手数料の値引きをすることで、不動産会社との関係が悪化し、広告費などを削減されかねず、売却にも影響が出る恐れがあります。
仲介手数料を抑えるよりも、満額支払って高値で売ってもらう方が売主にとってはお得になる可能性が高いでしょう。
仮に、少しでも安く抑えたいなら、最初から半額や無料に設定している不動産会社や、期間限定のキャンペーンなどを検討するとよいでしょう。
この場合でも、不動産会社の販売力や信頼性はしっかりと確認することが大切です。
仲介手数料は土地と建物で扱いは変わる?
不動産の種類や法人・個人による仲介手数料の上限の変化はありません。
そのため、土地と建物であっても仲介手数料は紹介した算出方法が上限となります。
ただし、上限の中でいくらに設定するかは不動産会社によって異なるので、その違いは出てくるでしょう。
仲介手数料を支払うタイミングはいつ?
一般的に、仲介手数料を支払うタイミングは以下のいずれかのケースが多いでしょう。
- 売買契約時に半分・決済時に残り半分
- 決済時に全額
仲介手数料を支払うタイミングや支払い方法は、不動産会社によって異なります。
そのため、事前にタイミングや額を確認して用意しておくことが大切です。
なお、売買契約時に全額という支払い方もありますが、あまりおすすめできません。
不動産取引は契約後も、引き渡しまで不動産会社のサポートが必要です。
最終的な支払いは取引が完了してからにする方が、お互いに安心して取引を進められるでしょう。
まとめ
不動産の売買・賃貸では不動産会社に仲介手数料を支払う必要があります。
それぞれの上限額は以下の通りです。
- 売買:(取引800万円超)売却価格×3%+6万円+消費税/800万円以下は一律30万円(税抜)
- 賃貸:貸主・借主それぞれから0.5ヶ月分+消費税の合計1ヶ月分+消費税/承諾を得れば一方のみから1ヶ月分得ることも可能
仲介手数料は上限が定められており、上限以上に請求するのは違法に当たる恐れがあります。
万が一、不動産会社から上限以上に請求されることがあれば、その理由を確認し、必要に応じて、本記事でご紹介した法律の根拠を示すようにするとよいでしょう。