マイホームの購入は、人生の中でもとりわけ大きなイベントのひとつ。共働きの夫婦であれば、住宅ローンの選択肢にも幅があります。
例えば「ペアローン」であれば、夫婦それぞれがローンを組むことできるため、通常の住宅ローンよりもメリットがあります。
しかし、育休・産休中にペアローンを組む際には、収入の減少や審査への影響など、特有の問題が生じる点に注意が必要です。
当記事では、育休・産休中でもペアローンの審査に通るのか、またローン契約後に休業で収入が減少した場合の対策について詳しく解説します。
住宅ローンの基本的な組み方
住宅ローンを組む際、夫婦で借入れを行う方法として主に次の4つがあります。
- 単独ローン
- ペアローン
- 収入合算(連帯債務型)
- 収入合算(連帯保証型)
住宅ローンの組み方を理解することで、自分たちにピッタリな方法が見つかるはずです。
以下では、基本となる住宅ローンの組み方について詳しく解説します。
単独ローン
単独ローンは、夫婦のうち一方のみが債務者となって住宅ローンを借入れる方法です。
住宅ローンを組むといった場合、最も広く利用されている方法といえるでしょう。
単独ローンでの借入可能額は、申込者の収入や信用力などをもとに決定されます。もう一方の配偶者はローン契約に直接関係がありません。
単独ローンには、以下のようなメリット・デメリットがあります。
単独ローンのメリット
- 債務者が一人なので手続きが比較的簡単で、諸費用も抑えられる
- 返済義務は債務者のみが負うため、責任の所在が明確
- 出産や育児などで配偶者の収入が減少しても、返済計画に影響を受けにくい
- 離婚後の手続きでトラブルに発展することが少ない
単独ローンのデメリット
- 申込者の収入のみで審査されるため、高額な借り入れが難しい
- 住宅ローン減税の適用が1人だけなので、控除額が限られる
単独ローンに向いている人
- 高収入で単独でも借入額が確保できる人
- 配偶者の収入が不安定、または将来的に減少する可能性がある人
- 簡単な手続きを重視し、責任の所在を明確にしたい人
ペアローン
ペアローンは、1つの物件に対して夫と妻がそれぞれローン契約を結び、お互いに相手の保証人になる方法をいいます。
例えば、4,000万円の物件を購入する場合、夫が2,000万円、妻が2,000万円と言った具合に、個別に2本のローンを組むことになります。
ペアローンのメリット
- 借入可能額が増えて希望の物件を購入しやすくなる
- 双方が債務者となるため、各自が住宅ローン控除を受けられる
- 夫婦揃って団体信用生命保険(団信)に加入できる
ペアローンのデメリット
- ローン契約が2本になるため、手続きが複雑化するうえに諸費用が増える
- 夫婦が個別に団体信用生命保険(団信)に加入する条件を満たす必要がある
- 一方に万が一の事が起きた場合、残された方のローンが残る
- 離婚する際にトラブルに発展するリスクがある
ペアローンに向いている人
- 共働きで安定した収入がある人
- 購入価格が高い物件を購入したい人
- 住宅ローン控除の節税効果を最大限に活用したい人
収入合算(連帯債務型)
収入合算(連帯債務型)は、夫婦が共同で住宅ローンを借入れて、双方が同等の返済義務を負う方法です。
一見するとペアローンと同じ方法に思えますが、1つの物件に対して1本のローンを組み、それを夫婦で返済していく点が異なります。
例えば、4,000万円の物件を購入する場合、夫が主たる債務者、妻が従たる債務者となり、夫婦の収入を合算してローンを共同で返済します。
収入合算(連帯債務型)のメリット
- 夫婦の収入を合算するため借入可能額の増額が期待できる
- 夫婦ともに住宅ローン控除を受けられる
- 手続きにかかる諸費用が一人分で済む
- 金融機関によっては双方が団体信用生命保険(団信)に加入できる
収入合算(連帯債務型)のデメリット
- 双方に返済義務があるため、一方の収入が減少すると家計に影響を及ぼす
- 団体信用生命保険(団信)の加入は主債務者のみが一般的なため、従たる債務者に万が一が起きた場合、補償されない可能性がある
- ペアローン同様、離婚した場合にトラブルに発展する可能性が高い
収入合算(連帯債務型)に向いている人
- 双方ともに安定した収入がある人
- 借入可能額を増やしたい人
- 夫婦で協力して住宅ローンを返済したい人
- 住宅ローン控除の節税効果を活かしたい人
収入合算(連帯保証型)
収入合算(連帯保証型)は、収入合算(連帯債務型)と基本的には同じ仕組みです。
住宅ローンを借入れるのは夫婦のどちらか一方で、もう一方は連帯保証人になります。
例えば、4,000万円の物件を購入する場合、夫が主たる債務者となり、妻は連帯保証人になります。妻に返済義務が生じるのは、夫が返済不能に陥った場合のみです。
収入合算(連帯保証型)のメリット
- 夫婦の収入を合算して審査を行うため、単独ローンよりも高額の借入が可能
- ローン契約は1本のみで済むため、手続きや諸費用がペアローンに比べて抑えられる
収入合算(連帯保証型)のデメリット
- 住宅ローン控除は主たる債務者のみに適用され、連帯保証人は控除を受けられない
- 主たる債務者が返済不能になった場合、連帯保証人が全額返済の責任を負う
- 離婚後も連帯保証人としての返済義務が生じる
収入合算(連帯保証型)に向いている人
- 夫婦のうちどちらかの収入が安定している人
- 配偶者の収入を合算して理想の物件を購入したい人
- 連帯保証人として主たる債務者をサポートできる人
- 手続きのしやすさを重視して諸費用を抑えたい人
育休・産休はペアローンの審査は通る?
育休・産休中であっても、ペアローンの審査を受けることは可能です。
しかし、金融機関によって審査基準や対応が異なるため、確実に審査に通るとは限りません。
以下では、育休・産休中に金融機関では収入をどのように審査するのか、ペアローンの審査に通りづらくなる理由について詳しく解説します。
育休・産休中の収入はどう審査される?
ペアローンを組む際、金融機関では申込者に返済能力があるかを重視します。
しかし、育休や産休中は、通常と同じような収入は見込めません。
それでは、育休や産休中にペアローンを組むことはできないのかと言うと、そうではありません。このようなケースの場合は、以下のポイントをもとに評価されるのが一般的です。
1. 休暇取得前の収入を基準とする場合
多くの金融機関では、申込者が育休や産休に入る前の収入を基準として審査します。
育休や産休を取得する前の年の源泉徴収票をもとに評価されます。ただし、休暇を取得する時期によっては古い年度の源泉徴収票が対象になるため、実際の収入より低く見積もられる可能性があります。
直近3ヶ月分の収入状況をもとに、年間の収入を出す方法です。正確な評価ができる反面、明細書を紛失している場合は再取得が必要となるため手間がかかります。
2. 復職後の収入を基準とする場合
ペアローンを申込時にすでに復職している場合、金融機関は復職後 の収入を基に審査を行う場合があります。
復職後にフルタイム勤務へ戻る場合は、通常の給与をもとに年収が評価されます。
一方、復職直後に時短勤務をしている場合は、フルタイム勤務よりも収入が減るため、想定より低い金額で評価されることがあります。
ペアローンの審査が難しくなる理由
育休・産休中のペアローン審査が難しくなる主な理由は以下の通りです。
育休・産休中は収入が減少するから
ペアローンを組む際に、金融機関は申込者に安定した収入や継続的に返済ができる能力があるかを重視します。
そのため、収入が減少する育休・産休中は返済能力も低下するという理由から、どうしても審査が厳しくなりがちです。
夫婦のどちらか一方、もしくは双方が育休や産休を取る場合、事業主を通して「育児休業給付金」の申請をすることがあるでしょう。
休業開始から180日目までは賃金日額の67%、181日目以降は50%が支給される育児休業給付金は、育休や産休中の貴重な収入源となります。
しかし、金融機関の多くは育児休業給付金を安定した収入源とは見なさない傾向にあります。
また、通常の給与と比較すると育児休業給付金は少ないため、金融機関は返済能力を不安視して審査が厳しくなる傾向があります。
育休・産休明けに復職できるとは限らない
金融機関は、申込者が育休や産休明けに復職できるかで貸し付けるかを判断します。
育休や産休で収入が一時的に落ちたとしても、その後で復職して年収が元の状態に戻るのであれば、ペアローンの審査にさほど影響はありません 。
しかし、本人に復職の意思があったとしても、状況によっては難しい場合があります。
例えば、
- 保育園や幼稚園が決まらない
- 産後に体調を崩してしまった
- 職場が復職を認めない
- 仕事と育児の両立が難しい
- 会社が業績悪化し人員整理が行われた
こういった理由から、予定通りに復職が出来ない可能性は十分にあります。
復職が難しくなると、金融機関では継続して返済が困難と判断されるでしょう。
また、育休・産休後に復職意思がない場合も、住宅ローンを組むことはできないので注意して下さい。
団体信用生命保険(団信)に加入できない可能性がある
ペアローンの審査では、夫婦ともに団体信用生命保険(団信)への加入が求められます。
団信とは、住宅ローンを契約した人が死亡したり高度障害になった場合に、残りのローンを保険金で支払う保険をいいます。
団信に加入しておくことで、遺された家族が自宅を手放すことをせずに済むなど、負担を軽くすることができます。
ただし、健康状態によっては団信に加入できないこともあります。
産後は体調が変化しやすく、合併症のリスクも高まります。
例えば、妊娠高血圧症候群や産後うつなどの健康リスクがある場合、保険会社が団信への加入を断ることもあります。
団信に加入できないと、住宅ローンの審査自体が通らないことがあるため、注意が必要です。
育休・産休中で収入が減っても審査を通るための対策
育休・産休中は収入が一時的に減少するため、ペアローンの審査が通常より厳しくなることがあります。
しかし、事前にしっかりと準備を整え、審査で重要視される次のような対策をすることで、審査を通過する可能性を高めることができます。
- 無理なく返済できる借入額を設定する
- 休暇前の収入実績をしっかりと提示する
- 復職後の雇用証明や収入見込みを金融機関に提示する
- 健康状態を確認し団信加入をスムーズに進める
以下では、育休・産休中でも審査を通りやすくするための具体的な方法をご紹介します。
1.無理なく返済できる借入額を設定する
金融機関では、返済負担率(年収に占める年間ローン返済額の割合)が適正範囲内に収まるかを重視します。
返済負担率が高すぎると、返済能力に不安があると見なされるので注意が必要です。
返済負担率の目安
- 理想的な返済負担率:20〜25%以内(余裕を持って返済できる範囲)
- 一般的な審査基準:30〜35%以下(金融機関の許容範囲)
- リスクが高い水準:35%以上(審査に通りにくい&生活負担が大きくなる可能性)
育休・産休中の注意点
育休・産休中に育児休業給付金を受給する人も多いと思います。しかし、給付金は一時的な収入なので、金融機関が収入として認めないことがほとんど。
収入が限られた状態で高額な借入を申請すると、将来の返済が難しいと判断されて審査に通らない可能性が高くなります。
ペアローンの審査に通りやすくするために、育休中や復職後の収入を考慮したうえで、無理なく返済できる借入額を設定 しましょう。
2.休暇前の収入をしっかりと提示する
育休・産休中にペアローンの審査に通過するために、収入が十分にあることをアピールして下さい。
なぜなら、金融機関では申込者が無理なく返済を続けられる収入があるかを最も重視しているからです。
具体的には、源泉徴収票や直近数カ月分の給与明細書を用意して提出しましょう。
可能であれば過去1年分の収入状況も提示してください。
これらの書類は、育休・産休前の収入が安定していることを示す証拠となります。
育休・産休で一時的に収入が減少しても、復職すれば元の収入に戻ることをアピールすれば、審査も通過しやすくなります。
3.復職後の雇用証明や収入見込みを金融機関に提示する
金融機関では、育休や産休から復職した後、申込者に返済能力があるかを重要視します。
そこで、収入見込みに関する書類を提出することで、審査を通過する可能性をグッと高めることができるのです。
まず、勤務先から発行される以下の書類を準備しましょう。
- 復職予定証明書
- 雇用条件通知書
これらの書類は、復職後の勤務形態(フルタイムや時短勤務など)や給与見込みを伝えるために必要です。
また、復職予定日が記載された証明書を提出すれば、さらに金融機関からの信頼が得られるでしょう。
特に、一時的に時短勤務で復職する場合は、その収入でも無理なく返済できることを説明する必要があります。
また、時短勤務からフルタイム勤務に戻る予定があるなら、その旨をはっきりと伝えることで審査に通る可能性が高 まります。
4.健康状態を確認し団信の加入をスムーズに進める
ペアローンの審査を通過するには、夫婦ともに団体信用生命保険(団信)への加入が必要です。
ここで注意したいのが、妊娠や出産後の体調変化です。
妊娠や出産後は体調が変わりやすく、妊娠高血圧症候群や産後うつといったリスクが高まることがあります。
これらの健康リスクが原因で体調不良がある場合、団信への加入を断られるかもしれません。
そこで、まずは出産後に健康診断を受けて健康状態を確認しましょう。
健康に問題がなければ、団信への加入もスムーズに進むはずです。
また、産後間もない時期や体調に不安がある場合は、状態が落ち着いてからペアローンを申請する方法も検討しましょう。
一方、育休や産休中にどうしてもローンを組みたいという場合もあるでしょう。
その際は、条件付きで団信に加入できるケースがあるため、保険会社に問い合わせて確認することをおすすめします。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。今回は、育休・産休中でもペアローンの審査に通ることは可能なのかについて解説しました。
育休・産休中であっても、ペアローンに申請することは可能です。しかし、一時的に収入が減少することもあり、場合によっては審査に通らない可能性があります。
育休・産休中にペアローンの審査に通過するかは、休暇に入る前の収入と復職の見込 みがあるかが大きなポイントになります。
そこで、ペアローンを申請する前に、次の準備を整えておきましょう。
- 無理なく返済できる借入額を設定する
- 休暇前の収入実績を提示する
- 復職後の収入見込みを提示する
- 団信加入に向けて健康状態を確認する
これらの準備をしっかりと行うことで、育休・産休中でもペアローンの審査に通過する可能性は高くなります。
ただし、育休・産休中にペアローンの審査に通るかは、申し込んだ金融機関次第です。
少しでも不安があるなら、事前に担当者と相談してから決めることをおすすめします。