「木造住宅は築20年を超えると建物の価値はほとんどなくなる」という話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
- 税務上の法定耐用年数が22年であること
- 住宅ローン控除の適用条件に築20年以内という築年数の壁があったこと
主に上記2つの要因で、築20年を超える戸建て住宅の建物部分は評価がつきにくい事情がありました。
しかし、直近の税制改正や建築資材のコスト高騰、住宅の品質向上などにより、従来の常識も変化しつつあります。
エリアや住宅の品質によっては、築20年超えの戸建て住宅も、高値で売却できる可能性が十分あると言えるでしょう。
本記事では、築20年を超える戸建て住宅の売却について、最新の市場動向や売却成功のポイントを詳しく解説します。
新築価格高騰で高まる中古住宅ニーズ
日本の住宅取引に占める中古住宅割合は諸外国に比べ低く、新築志向が強いと言われます。
しかし近年、新築価格の高騰を背景に中古住宅が見直されています。
建築資材費の高騰や人件費上昇などで新築住宅の価格が上がり、さらに地価も全国的に上昇しているため、特に都市部では多くの人が手頃な住まいを見つけにくくなっています。
その影響で、比較的価格を抑えられる中古住宅の需要が高まっており、立地重視の購入者にとって有力な選択肢になりつつあるのです。
中古戸建て購入者の増加傾向
住宅金融支援機構(フラット35)の調査では2021年度に中古住宅購入者の割合が調査開始以来最高の24.7%を記録した以降、2023年度には27.4%まで上昇しています1。
2019年度までは10%未満だった中古戸建ての選択者比率が、2023年度には15.3%まで上昇している。 引用:住宅金融支援機構|フラット35利用者調査(2023年度)
また、全体的に「中古の戸建て住宅」を選択する方の割合も増加傾向にあります。
中古住宅は価格の手頃さやコストパフォーマンスの良さ、既存の住環境が整ったエリアにある立地の良さなどが魅力とされ、さらに購入後にリノベーションで自分好みの住まいにできる柔軟さも支持される理由です。
こうした流れを受け、都市部の中古一戸建て市場でも、価格上昇と成約件数の増加が見られます。
アフターコロナの中古戸建て市場
特にコロナ禍以降は「戸建て志向」も高まり、一時的に郊外も含め中古戸建ての成約数が伸びました。
ただし、2022年以降は中古戸建て在庫が増えて、供給過多になりつつあるエリアも出てきています。
今後は新築・中古を問わず高値傾向が続く中で、中古住宅市場は「割安感」と「実需に見合った適正価格」のバランスが重要になるでしょう。
築古物件でもローンは組みやすくなった?
築年数の古い中古住宅はローンが組みにくい――これは以前から知られた課題でした。
木造住宅の場合、税法上の法定耐用年数22年を過ぎると建物価値は帳簿上0円と見なされ、多くの銀行は築22年超の物件では土地評価額を上限に融資額を制限、あるいは長期ローンを組めないよう返済期間を短く設定するケースが一般的でした。
つまり、築20年超の家は買い手が住宅ローンを利用しづらく、ほとんどが「古家付きの土地」として売買される傾向にあったのです2。
税制改正と融資判断
しかし近年、この融資条件も少しずつ緩和される傾向があります。
金融機関によっては法定耐用年数を超える築古物件でも、35年など長期の住宅ローンを設定できる場合が出てきました。
特に、住宅金融支援機構の「フラット35」など公的ローン商品では、築年数より耐震基準適合の可否を重視しており、新耐震基準(1981年施行)に適合する物件であれば築後40年以上経過していても最長35年ローンの利用が可能です3。
また、旧耐震の物件でも所定の耐震適合証明を取得すれば融資対象になります。
旧耐震基準と新耐震基準では、耐震性能に比較的大きな差があり、大規模な地震が発生した際の被害状況にも顕著な差が見られる。
このように、耐震性が確保されていれば築古物件でもローンが通りやすくなってきているのが昨今の動向です。
好立地なら築古でも高値が付くケースが増えている
加えて、都市部の好立地にある中古一戸建てであれば土地部分の資産価値が高いため、築古でも融資評価が出やすい傾向があります。
金融機関は物件評価で建物より土地の担保価値を重視するため、駅近や都心部の古家付き土地なら買主がローンを組みやすい状況になりました。
以上のような融資判断の変化により、売主にとっては築20年超の家でも「ローンが組めないから売れない」「更地にしないと買手が見つかりにくい」というリスクは低下し、買主層の拡大が期待できる状況です。
住宅ローン減税の適用条件が拡大
中古住宅購入者にとって朗報なのが、住宅ローン減税(住宅ローン控除)の適用条件が緩和されたことです。
従来、住宅ローン減税を受けるには中古の場合「木造など耐火建築物以外は築20年以内」「耐火建築物(RC造マンション等)は築25年以内」という築年数要件があり、これを超える築古住宅は適用外でした。
築年20年を超える木造住宅で減税を受けるには、別途耐震適合証明書等を取得して耐震性を証明する必要があったのです。
2022年度の税制改正
従来の税制において築20年を超える木造住宅で住宅ローン控除を適用するためには、耐震基準適合証明書の取得に費用・手間がかかり、新築志向の強さと相まって古い戸建ての需要は限定的だった。
しかし2022年度の税制改正によってこの築年数制限が大きく変わりました。
1982年以降に建築された新耐震基準適合住宅であれば、築年数に関係なく住宅ローン減税の対象とされたのです。
つまり、新耐震基準を満たす中古住宅であれば築後何年経過していても住宅ローン控除が受けられるようになっています。
この改正により、築30年を超える木造戸建てでも、新耐震基準なら購入者は減税の恩恵を受けられます。
築古物件の売却には追い風
この減税適用条件の緩和がもたらす効果は大きく、売却面でも追い風です。
買主にとって中古でもローン減税が受けられることで「毎年の税負担軽減」という経済メリットが得られるため、築古物件の購入ハードルが下がります。
売主としては、自宅が新耐震基準で建てられていればその点をアピールポイントにできますし、旧耐震でも耐震補強や証明取得で適用可能にする手もあります。
築年数要件の撤廃によって書類手続きの負担が軽減され、中古住宅購入検討者にとっても利用しやすくなりました。
このように制度面の支援が拡充されたことは、都市部の築古住宅市場を活性化させる一因となっています。
地方の中古住宅市場はどう違う?需要低迷と売却の難しさ
都市部とは対照的に、地方における中古住宅の売却 は難しいケースが多いのが実情です。
地方の不動産事情
まず根本的に地方では中古住宅を購入しようという需要自体が低い傾向があります。
地価が安く土地から購入して新築を建てるハードルも低いため、「わざわざ他人の古い家を買う」ニーズは小さいです。
加えて地方は持ち家率が高く、親の代からの持ち家を受け継いで住む人も多いため、新たに中古住宅を探す必要がある買い手が都市部より圧倒的に少ないのです。
不動産会社による収益物件(賃貸用)としての購入需要も期待薄で、結果として地方の古い家は売りたくても買い手がつかない事態が生じがちです。
個人投資家による「地方で築古戸建てを購入後、DIYして賃貸物件として収益化する」という取り組みが一部報道などで見られることもありますが、人口減少が見られる地域での運用はリスクが高く、一般的な傾向とは言えないでしょう。
「負動産」の現状
また地方物件は老朽化が進んでいる場合が多く、設備や外観が大幅に時代遅れというケースも珍しくありません。
いくら価格を安くしても、年数相応の劣化や維持費の負担を嫌って敬遠されることがあります。
人口減少が続く過疎地域や交通の便が悪いエリアでは特に顕著で、需要の極端な低さから売却自体が困難になる例が多いです。
実際、地方では空き家として放置される古家も多く、「負動産」(持っているだけで管理コストがかかる資産)化してしまう問題が社会的にもクローズアップされています。
エリアごとの売却戦略
都市部では需要自体は高いため買い手を見つけやすいものの、その分競合物件との比較で選ばれにくいケースもあります。
首都圏では新築・中古を問わず多くの物件が売りに出ているため、築20年以上の物件だと「他にもっと条件の良い物件があるのでは」と検討から外される可能性があります。
つまり都市部では買い手の目も厳しくなるため、他物件に負けない魅力づくりが必要になります。
総じて、地方は需要不足、都市部は競争激化という形で売却の難しさの質が異なると言えるでしょう。
売却が難しい地方物件では、思い切った価格見直しや地元密着の不動産会社によるきめ細かい仲介などが重要です。
それでも売れない場合は古家を解体して更地として売り出す、専門業者による買取を検討する、といった対策も有効です。
例えば、山形県で営業するリノベース社は、リフォーム 費用を成約まで売主に代わって肩代わりし、一定期間販売しても売れなければ、最終的に自社で買取するサービスを提供しています4。
新築時に購入した築古の家であればローン残債が少ない分、オーバーローンにはなりにくいため、仲介での売却に苦戦した際に備えて買取での出口も見据えておくと良いでしょう。
不動産会社が買取して再販売する際のコストや利益を差し引いた金額で取引されるため、仲介よりも金額が安くなる。
都市部と地方で市場特性が違う点を理解し、自分の物件の立地に応じた戦略を立てるようにしてください。
築古の一戸建てを高く早く売るための3つのポイント
最後に、築20年以上の戸建て住宅を売却する際に押さえておきたい成功のポイントを確認していきましょう。
①リフォームは基本不要だが、印象アップの手入れは有効
中古住宅の売買では原則として現状のまま(現状有姿)で引き渡すのが一般的で、売却前に大掛かりなリフォームをする必要はありません。
買主側も自分好みに改装したい場合が多く、下手にリフォームすると「内装が好みでない」と敬遠されることもあります。
また高額なリフォーム費用をかけても売却価格に上乗せできるとは限らず、かえって損をするケースも少なくありません。
リフォームすることで「売れやすくなる」効果が生まれる可能性はありますが、かけた費用を売却額に上乗せするのは難しいでしょう。
そのため、基本はリフォームせず現状有姿で売り出すのが得策です。
1981年6月1日より前に建築確認を受けた旧耐震基準の家の場合は、耐震性能が新耐震基準に相当することを証明しなければ住宅ローン審査・ローン控除の適用ともに難しくなります。このことは「中古住宅として購入するか、新築物件を建てるための土地として購入するか」という判断の分かれ目になるため、場合によっては解体してからの方が売れやすい可能性もあるでしょう。
リフォームを実施しない場合も、最低限の修繕やクリーニングは行いましょう。
例えば水回り設備の故障を直し、外壁や室内を清掃・整理しておくことで購入希望者の印象は大きく向上します。
特にキッチン・浴室など水回りや外壁の劣化が目立つと買い手に不安を与え、売却が難航しやすいため、できる範囲で手直ししておくことをおすすめします。
また不要品を処分し室内をすっきり見せる、必要に応じてホームステージング(家具や小物の設置)で生活イメージを演出するなど、「この家で暮らすイメージ」を持ってもらう工夫も効果的です。
②適切な価格設定を行う
売却を成功させるには価格設定が重要なカギです。
売主にとって自宅は思い入れがあるぶん高く評価しがちですが、感情や購入時価格に引きずられて高値を付けすぎるのは禁物です。
市場相場とかけ離れた価格では買い手の興味を惹けず、売れ残って結局値下げ…という悪循環に陥りかねません。
一方で安く出しすぎても手取りが減ってしまうため、周辺の成約事例や現在売り出し中の類似物件の価格を参考に、適正な相場観に基づいて価格を決めることが大切です。
近辺で販売中の物件や、成約した事例を確認するのはもちろん、当該エリアで家探しをする人の予算感も考慮した値段を設定することを推奨します。
不動産会社の査定を複数受けて妥当な価格帯を把握し、多少の交渉余地を見込みつつも、最初から適正価格で市場に出す方が結果的に 早期成約につながるでしょう。
金額そのものの高低ではなく「高く売る方法・戦略があるか」を根拠を持って説明してもらえるかを確認してください。
最近はインターネットで買い手も相場をよく研究しています。
強気すぎる価格設定は避け、市場における競合物件とのバランスを考慮した戦略を立てましょう。
なお、2022年の税制改正により、一定の基準を満たす住宅はローン控除の適用額がアップします。
2009年ごろから普及した長期優良住宅などの高性能住宅は、基準適合を証明することで売れやすさや価格面で有利になるでしょう。
③効果的な宣伝を行う
販売時の広告・宣伝も売れやすさを左右します。
仲介を依頼した不動産会社任せにするだけでなく、自分でも宣伝方法に工夫を凝らすことが重要です。
物件情報の掲載
具体的には、まず主要な不動産ポータルサイト(SUUMOやホームズなど)やレインズ(不動産会社用の物件情報サイト)に物件情報をしっかり掲載してもらいます。
インターネットで価格帯やエリアなどの希望条件を絞り込んで物件を検索する人が大半なので、魅力が伝わる写真や詳しい説明を載せることが欠かせません。
写真は明るい時間帯に撮影し、広角レンズで部屋の広さが伝わるようプロにお願いすると良いでしょう。
自分でできる広告戦略
最近は特に若い世代向けにSNSを活用することで成約に繋がる事例も増えています。
FacebookやInstagram等で物件情報をシェアすれば幅広い層にリーチでき、友人・知人経由で思わぬ買い手に繋がることもあります。
割安な中古住宅を探す若い人向けに、こうした方法も検討してみましょう。
また、信頼できる不動産会社に仲介を依頼することも重要ですが、全てを不動産会社任せにしてはいけません。
住環境や物件のアピールポイントは売主から伝えて広告に掲載してもらい、それが購入判断の1つの基準になるケースもあります。
不動産会社の担当者と二人三脚で取り組む姿勢を心がけましょう。
まとめ
築20年を超えた戸建て住宅の市場価値は、以前と比べて大きく変化しています。
税制改正や融資条件の緩和により、築古住宅でも買い手がつきやすくなっているのが特徴です。
適切な価格設定、メンテナンス、販売戦略を取り入れることで、築20年以上の家でも十分に良い条件で売却できる可能性があります。
これから売却を考えている方は、市場の変化を踏まえた最適な方法を検討してみてください。