不動産の現金化のために利用できる手段には、大きく分けると不動産会社の仲介による売却と、買取(業者買取、買取再販)の2つがあります。どちらも「家を売る」ことに違いはありませんが、売却活動の進め方や手続きの面で異なる点は多々あります。
この記事では、仲介と買取にはどのような違いがあり、それぞれどんなメリットとデメリットがあるのか、その内容についてお伝えしていきます。
▼仲介と買取の比較表
仲介 | 買取 | |
売れる値段 | 相場価格で売れる可能性がある | 仲介の7~8割程度 |
売却までの期間 | 売り出してから3~6カ月程度 これより長期間かかることもある | 査定から売買契約まで数週間で完了 |
売主の契約不適合責任 | 責任を負う 特約で3カ月などと期間を定めることが多い | 免責とするのが一般的 |
仲介手数料 | かかる | かからない ただし、仲介手数料がかかっても |
売り出しの情報 | 近所の人に知られる | 近所に内緒で売 却できる |
不動産売却における仲介とは
不動産売却における仲介とは、売り先を探す時に情報の拡散や売買契約において不動産会社に間に入ってもらうことです。
不動産会社に買主を探してもらい、成約時に仲介手数料を支払う。
不動産は数千万円する物件が多いので、個人ではそれだけのお金を出して買ってくれる人を探すのは困難です。
そこで、不動産会社に仲介に入ってもらい、所有する物件の売却を店頭、インターネット、雑誌などに掲載および宣伝してもらいます。
不動産会社を通して、家を買いたい人を紹介してもらうのです。
また、不動産の売買では登記や売買契約といった法的な手続きも必須です。
登記は専門知識が必要であり、一般的には司法書士が代行します。
住宅ローンを利用する売買の場合は、宅建士の資格を持った者の記名・押印がある売買契約書が必要です。
仲介手数料を支払ってこれらの手続きに協力してもらい、売買に伴う法的な手続きのサポートが受けられるのも仲介のメリットです。
仲介には3種類の契約がある
不動産会社に物件の仲介に入ってもらうときには、媒介契約を結びます。
媒介契約には、
- 一般媒介契約
- 専任媒介契約
- 専属専任媒介契約
という3つの契約形態があり、売主側と不動産会社側が負担する仕事の範囲がそれぞれ異なります。
一般媒介契約
一般媒介契約は複数社と締結可能な媒介契約で、色々な不動産会社に売却活動を行ってもらえます。
そのため、とにかく、自分の物件を多くの人に知ってもらいたいときに有利です。
また、一般媒介契約では契約期間が特に設定されません。
売主自身が自分で買主を探すこともできます。
売主にとって制約が少なく、自由度が高い契約だと言えます。
一方、不動産会社側から見れば、複数の不動産会社が仲介に入るので、必ずしも自社だけが買主を繋げて仲介手数料を得られるとは限りません。
そのため、競争力の高い(需要がある)物件でなければ広告活動を積極的に行ってもらえず売れ残ってしまうことがあり、そのような物件ではそもそも一般媒介契約を断られることも多いです。
専任媒介契約
専任媒介契約は1社のみに売却を任せます。
ただし、売主が自分自身で買主を探して仲介会社を介さずに売却することは可能です(自己発見取引)。
不動産会社1社しか売却活動が行えないので、情報の拡散という意味では一般媒介契約に劣ります。
一方、不動産会社からすれば自社以外は物件を売れないので、仲介手数料を獲得できる可能性が非常に高くなります。
その結果、売れにくい物件でも不動産会社の頑張り次第で売れることがあるのです。
また、不動産会社は2週間に1回、売却の状況を売主に対して伝える義務があります。
契約期間は最大3カ月と法律で定められており、売主が同意すれば更新可能です。
専属専任媒介契約
専属専任媒介契約は専任媒介契約と同じように、一つの不動産会社しか売却活動を行うことができません。
また、買主が買ってくれそうな人を自分で探してきても、直接売却を行うことができず、必ずその仲介会社を通して契約しなければなりません。
そのため、売主側の制約が大きい契約です。
その代わりに、不動産会社は1週間に一度の頻度で、売却の状況を売主に報告する義務があります。
専任媒介契約と同様、契約期間は最大3カ月です。
媒介契約の使い分け
一般 | 専任 | 専属専任 | |
複数社への依頼 | ○ | × | × |
自己発見取引 | ○ | ○ | × |
契約期間 | 自由に設定 | 3カ月以内 | 3カ月以内 |
レインズへの登録義務 | なし | あり | あり |
業務処理状況の報告 | 任意で行う | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
都市部のマンションなど、買い手が見つかりやすい物件では、一般媒介契約を利用する人が多いです。
郊外の戸建て住宅のように売れにくい物件や、売却を急いでいる場合には、仲介会社に積極的に売却活動を行ってもらうため専任・専属専任媒介契約を利用するのが良いでしょう。
不動産売却における買取とは
不動産会社による仲介ではなく、もう1つの現金化の方法である不動産の買取とは、どのようなものを指すのでしょうか。
不動産会社に直接買い取ってもらう
不動産の売却における買取とは、不動産会社にあなたの所有する不動産を直接買い取ってもらうことを指します。
業者買取の場合、不動産会社が直接購入するため、査定から1カ月以内での売却も可能。
不動産会社に自宅を訪問してもらい、そこで査定を実施。
その後査定額を提示してもらい、買取価格に納得すれば買取が決定するのです。
このとき不動産会社と結ぶ契約は「売買契約」です。
売買契約を結んだ後に不動産会社から現金が振り込まれますので、非常に素早く現金化することができます。
仲介のメリット・デメリット
それでは、不動産の売却において、不動産会社に仲介に入ってもらうことのメリットとデメリットについて細かく見ていきましょう。
自分が思った通りの値段で売ることができる
不動産売却時の価格(売り出し価格)は、自分で値付けできます。
例えば、「住宅ローンの残債が3,000万円あるので、最低でも3,100万円で売りたい」など、個人の事情に合わせて自由に価格を付けることができます。
買取の場合は不動産会社が査定した価格に従うことになるので、自分で価格設定ができません。
ちょっと高めに売りたいときは、最初は売り出し価格を高めにし、その価格でも買ってくれる人をゆっくり探す戦略を取ること可能です。
価格の設定に際して自由度が高いのは、仲介のメリットと言えるでしょう。
売れるまでに時間がかかる
一方デメリットとしては、売れるまでにどうしても時間がかかってしまう点が挙げられるでしょう。
不動産の売却活動では、最初に情報を拡散します。
情報を見て不動産を欲しいと思った人が申込みを行い、それから内覧を行います。
内覧後に気に入れば、購入希望者は手付金を支払い、その後住宅ローンなどを申請し、宅地建物取引士の立会いの上で重要事項説明が行われ、最終的に売買契約を結びます。
そして、住宅ローンの申請が通れば買主から売主の口座に現金が振り込まれ、決済となります。
住宅ローンの審査にかかる時間などを含めれば、どんなに早くても売れるまでに2~3カ月はかかるでしょう。
買ってくれる人がスムーズに見つかることは少ないですから、売り出しから現金化までに半年〜1年以上かかってしまうことも珍しくありません。
そのため、すぐに現金が必要な時は、相場よりも価格を下げて買ってくれる人を見つける必要があります。
また、買いたい人が住宅ローンを借りられず、売却活動が振り出しに戻るということも起こり得ます。
仲介で高めに売るためには、時間がかかってしまうことを理解しておきましょう。
自分が家を売ろうとしていることが周りにわかりやすい
自宅を売却する時は不動産会社の人間が家に来ますし、内覧者も何度も来るので、「あの家は今、売られようとしている」と周囲にわかってしまうことが多いです。
特に気にしない人もいますが、例えば事業を営んでる人は、「あそこは今、家を売ろうとしてるから、会社の状況が悪いのではないか」などと余計に勘繰られてしまうこともあるります。
そういった評判が立つことを避けたい人には、仲介で家を売ることがデメリットになることを知っておきましょう。
買取のメリット・デメリット
では、「早く売れるのが特徴」である買取には仲介と比較すると、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
短期間で現金化できる
不動産買取の最大のメリットは、短期間で現金化できる点です。
仲介と違って複数の人間による査定や内覧の必要がありませんし、査定も1回で終わります。
宣伝のために「売家」などの看板を出す必要もありません。
買取では、買取を依頼した不動産会社が訪問して査定を実施します。
査定価格に納得すれば、そこで売買契約を結べます。
不動産会社は現金を持っていて調達手段も豊富なので、ローンが組めずに購入できないということも起こりにくい点もメリットだと言えるでしょう。
そのため、短ければ2週間ほど、長くても1カ月ほどで現金化が可能なのです。
スムーズに現金化したいときは、買取が大いに役立ってくれます。
契約がシンプルである
不動産の買取では、不動産会社と不動産のプロたちが自分たちの物件を買い取ってくれます。
そのため契約もシンプルで、媒介契約のように契約形態を選ぶ必要がありません。
もちろん、重要事項に関する説明も省略が可能で大抵のことは不動産会社に任せて現金化を行うことができます。
契約不適合責任(瑕疵担保責任)免責で売却できる
契約不適合責任とは、売却した家の引き渡し後に、売買契約書で告知の無かった家の欠陥(瑕疵)が発見された場合、買主は売主に損害賠償を求めることができるというものです。
買取で「契約不適合責任を免責とする」という特約を設けて売買契約を結べば、売却後に補修費用などを請求されるリスクがなくなる。
2020年の民法改正前は「瑕疵担保責任」と呼称されていましたが、現行民法の契約不適合責任では特約などでカバーしなければならない部分が多くなり、売主にとっては不利になったとも言えます。
ただし、買主が宅建業者である「買取」の場合は、売主の契約不適合責任免責として取引されるのが一般的であり、契約後に補償を求められることはありません(重大な瑕疵を隠していた場合は別)。
自分が売ろうとしていることが周囲にバレにくい
不動産の買取は不動産会社が一度訪問するだけなので、何度も人が出入りすることはありません。
ひっそりと家の現金化を進めたい方にとって、買取のメリットは大きいです。
デメリットは相場の7~8割程度でしか売れないこと
買取にもデメリットはあります。
買取価格が一般の相場よりも低くなることです。
不動産会社は、買い取った不動産にリフォームやリノベーションを実施して転売し、利益を出します。
そのため、物件再生のための費用がかかることを想定して、買取時の価格は一般的な不動産相場よりも低い価格を提示します。
そうしないと不動産会社に利益が発生しないので、相場よりも下がってしまうのはやむを得ないでしょう。
自宅を売却するときには、売却価格が住宅ローンの残債を下回っていると抵当権が抹消できず、そもそも売却ができません。
買取価格は市場価格の7〜8割程度の価格になってしまうので、住宅ローンの残債が多い新築・築浅の物件など、買取金額で住宅ローンを完済できない場合は現金を別で用意しなければいけません。
仲介と買取はどっちがオススメ?物件・売却目的別の選び方
では、不動産の売却において仲介と買取はどのように使い分ければ良いのでしょうか。
時間的に制約を受けないときは、仲介
「いつまでに家を売らなければいけない」などの制約がないときは、仲介で売却する方が良いでしょう。
例えば、親から相続してすぐに売る必要のない空き家などに多少高い値段をつけ、時間に余裕があれば買ってくれそうな人をじっくりと探すのも有効な手です。
高く売りたいときは仲介が一番です。
転勤や、新居を購入済みの住み替えやなど、期限が決まっているときは買取
家の売却においては、時間的に制約がかかることもあります。
転勤や購入先行で住み替え先への引っ越しのように、「いつまでに引っ越しをしなければいけない」「いつまでに新居の購入資金を用意しなければいけない」などの事情があれば、速やかな現金化が必要で、そんな時に便利なのが買取です。
仲介の場合はいつまでに売れるのかわかりません。
あっという間に決まることもありますし、だらだらと値段を下げ渋ったためにずっと売れ残ってしまうこともあるのです。
しかし、買取であれば不動産会社に査定を依頼し、すぐに現金化が可能です。
売却活動に期限があるときは、買取を依頼した方がスケジューリングしやすいです。
投資用不動産ならば仲介
投資用不動産を売却する時は仲介が良いでしょう。
投資用不動産であれば自分がその家に住んでいないので、内覧者が多くなっても、「あの人はお金に困っている」などの噂が特段立つこともありません。
不動産会社に内覧対応をしてもらえば、自分が同席する必要もなく、全てを不動産会社に任せられます。
投資用不動産は利益を出すことが重要ですから、できるだけ高い値段で売りたいものです。
「とにかく早く売りたい」という事情が無い場合は、買取よりも仲介を利用すると良いでしょう。
なお、入居者がいる賃貸中の物件をそのまま売却することは可能ですが、空室の状態で売却した方が高く売れるケースが多いです。
したがって、今までの入居者が退去したタイミングで売るのが理想だと言えるでしょう。
自宅を売る場合は買取
一方、自宅を売る場合は仲介だと何度も自宅に内覧者が来ますので、余計なストレスを抱え込むかもしれません。
そういった時は買取を依頼すると良いでしょう。
自宅を売るということは、新しい自宅も必ず用意しなければいけないものです。
つまり、自宅を売却するときはタイムリミットが設けられていることがほとんどです。
そのため、資金計画を立てやすい買取の方が何かと便利でしょう。
まとめ
不動産の売却には仲介と買取の2つの方法があります。
仲介は時間をかけて高く売りたいとき、買取は時間的な制限があって早く売りたいときに利用すると、それぞれのメリットを活かすことができます。
早めに準備をしてできるだけ仲介で高く売るのが理想ですが、売れない場合や、早く売りたい事情がある場合には買取も検討するのが良いでしょう。